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「ねぇ、逃げるなら逃げるって先に行ってくれない。あと何処に逃げるのかも。体力が有り余ってるのはよく分かったから君を捕まえるために大修道院を歩き回らされる僕の身にもなってよ」
『…逃げられてるって自覚はあったんですね。あと何度も言いますが私のことはほっといてください。そも貴方が知りたい秘密なんて持ってませんし、紋章なんて平民出の私が持っているわけないでしょう?』
「それは調べて見なきゃ分からないよ。だって君平民出だからって検査を頑なに受けないんだってハンネマン先生が」
『検査を受けてないのは何も私だけでは…』
「それだけじゃない。君の名簿を先生の部屋からはいし…特別に見させてもらったんだけど、家族構成、出身地、出生日…首を捻るような記載ばかりだったよ。まるでフォドラを知らずに生きてきたような…』
『(今拝借って聞こえたような)でっ、出鱈目なことばかり言わないでください!なんなんですか貴方、貴族だからって何言っても許されると思ってるのなら大間違いですから』
「じゃあ何故僕から逃げるの。ちょっと君の血か髪の毛が欲しいだけなのにそんなに抵抗されたらなにか隠しているとしか思えないんだけど。そうだなぁ〜たとえば…平民出の君が紋章持ちであるとか。でも平民出の紋章持ちってだけでそんなに抵抗するものなのかな?現に傭兵上がりの先生も君と同じ境遇でありながらそれ程抵抗もせず血もくれた。そうなると君のその嫌がりよう、僕が想定する秘密のさらに一段階特別な存在じゃないかって思うんだ。貴族との間にできた愛人の子供とか。でもその場合紋章を持って生まれた君が先生のような特殊環境を抜いて平民のまま暮らしているわけがないんだよね。あっ、そういえば先生がこの前君が魔法を放った時一瞬紋章特有の光が見えたって」
『なっ、そんなはずは!だってあの日の訓練はベレト先生はマリアンヌさんにつきっきりで…』
「やっぱり、僕の推測通りだ」
『だっ、騙したのね!?』
「騙したなんて人聞きの悪い。そっちがうっかり喋ったんでしょ?さっ、紋章持ちの事実も話したところだし、この際全部の秘密を僕にうちあけてよ。大丈夫、僕は口が固い方だから」
『それ以上近づかないでリンハルト=フォン=ヘヴリング。はぁ…私が紋章を持っていたとしても貴方には関係のないことです』
「関係のあるなしは僕が決めることだ。君が決めることじゃない。それにもし僕が君の紋章を調べ新たな発見ができればこれからの紋章学に新たな視点や発見を与え未来の財産になる。そうなるとこれは僕と君だけの問題じゃないんだよナマエ」
『まったく、研究者って人はなんでこんなにも人の気持ちが分からないものか…これ以上貴方と話すことはありません。失礼します』
「分かった、今日のところは諦めるよ。でもその代わりに一つだけ教えて欲しいことがあるんだけど」
『紋章のこと以外なら構いません』
「君随分と昔の歴史が好きなんだね。それもスレンに関わる歴史は特に。これって君の紋章か生まれに関係があったりする?」
『異文化が好きなだけです。気は済みましたか?それではこれで』
「はぐらかされた…まぁいいや。彼女がただの紋章持ちではない事実を手に入れることが出来ただけでも大きな収穫だ。ふわぁあ〜走り回って疲れた事だし一休みしてからまた探しに行こうかな」

『(警戒はしていたがまさか失言してしまうとは。あの人どこから出てくるか分からないしこれまで以上に気をつけないと一歩間違えたら私を辿って“お父様”の存在が見つかってしまう。それだけは何としてでも秘匿にしておかなければ。とりあえず人前で本を読むのを暫く控えて紋章が発動しないよう細心の注意をはらいながら撃ち出血しないように目の前の敵に集中しなきゃ。私が“大紋章持ち”であることを決して誰の目にも映らないように)』

リンハルトに絡まれるマクイルの大紋章持ちの女の子。マクイルに命を助けられ何百年も風を呼ぶ者の元で生き続けていたが、人であるならば人の世を知ることも大切であると諭され士官学校に入学。しかしストーカーの如く付きまとってくるリンハルトに故郷へ帰りたいと日々嘆いている。何の紋章かはバレないが大紋章持ちであることは近いうちにバレる模様。
紋章持ちと聞いたんだけど
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