novel top
どこか遠く。手の届かない先で時の歯車が乱れる音を心で聴いた。

「…?どうしたの。なにか居た?」
「え、あ。いえ…なんでも。すみません足を止めてしまいましたね。行きましょう」

ベレスさん

***

きっと違う未来があったんじゃないかって、たらればを想像せずには心が弱い私のような人間はこんな世の中を正気で渡り歩くなど到底無理な話だ。
戦争が始まって2年が過ぎた。殺伐とした日々に慣れきってしまったせいか常に鼻の奥では死臭と消炎の匂いがこびりつき寝ても覚めても誰かに首を絞められているような気分だ。何度洗っても手についた血が落ちず、戦功ばかりが積み上がっていく。金を貰って命を奪う。きっと私はろくな死に方をしないだろうなと己の未来を憂いながら今日も気乗りしない仕事を淡々とこなし命を踏んで今日を生きている。戦争が始まってから私は有無を言わせず帝国のとある教会に預けられた。預けられたというか、置いていかれたというか。けれど教会に置いていかれて僅か5日で戦火が教会に降りかかり、私は司教と修道士を守るために初めて人を殺めた。そして気持ちの整理もつかぬまま報せを聞いたジェラルト傭兵団が迎えに来て、そこからはベレスさんの横で仕事をこなしている。もう2年だ。2年が経った。2年あれば嫌でも人は変わらざるを得ない。大切な人を守るために覚えた武芸で名も罪も知らぬ兵を切り捨てていく。この先に待つ未来に平和など有り得るのだろうか。戦闘中、久方ぶりに冷たい雨が降った。野営地に戻る際、ぬかるんだ道にできた水溜まりに映る女の顔は灰色だった。
どうやって笑っていたのか変わってしまった私にはもう思い出せない。
風花雪月無双想像@
prevUnext