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snsのトレンドで流れてきたワードに今日の私の予定は決まった。

「『推しは推せる時に押せ』…か。よし、やるか」

そうして私は財布とスマホを握り休日スタイルで一人100均へと向かった。

「ナマエさん?何をなさっているのですか?」
「グッズ作りだよ」
「ぐっず?」

団扇にモール、色画用紙とスパンコール。それと万が一失敗した時に備えて既製品を一つ買ってきた。3次元に推しを作ったことが無かったからこういうグッズ系の良さってイマイチ分からなかったし、指示の内容もフォントと併せて正直イタイなぁと軽蔑していた節もあった。だが推しを思って一から制作する団扇は悪くないかもしれない。だってハート作る篭手切くん、絶対に可愛い。推せる。

「篭手切君はいつもステージに立つ日を夢見て自己練習してるでしょう?だからその、私もなにか君の夢の手助けができたらなーって思ったり…ステージに立つ人ってファンサが上手だから!その、ファンサの練習とかどう、かな?い、嫌なら断ってもらっても私は大丈夫だから!」
「いえ!ナマエさんが私の為にぐっず成るものを作って下さるなんてとても嬉しいです。そうだ、なにか私にもお手伝いできることはありますか?見ているだけだと何だか落ち着かなくて」
「じゃあ一緒に作ってみる?」
「はい!是非!!」

スマホを見つめ先達者の知恵を借りながら見様見真似で作ってみる。こういう文字とかってプリンターで出力してから鋏で切るのが一般的なのかもしれないが我が家にプリンターはない。美術3の実力をフルに活かし、仕上げは全て篭手切くんに投げ、2時間の格闘の末にそれらしいものはできた。なかなかにいい出来では?なんか小学校に戻ったみたい。モールとかスパンコールとかでデコって松ぼっくりをクリスマスツリーみたいに飾ったのを思い出したわ。
出来上がった団扇を早速篭手切くんに向けてみる。どっからでもこいや!と歯を食いしばり団扇を向ける私に篭手切くんは団扇に書かれた文字に困惑な顔で小首を傾げた。

「ナマエさん、ういんくとは何ですか?」

う、ウインクを知らないだと!?私よりハートサインのレパートリー多いのに!?
えっと、えーっと。

「片目だけを瞑る事かな。こんな感じ」
「な、なるほど。こうですね?」
「う‪”っ」

いったぁあああ…心臓が、心臓が痛い。これはダメなやつじゃん。可愛すぎて救急車呼ばなきゃいけないやつじゃん。ただでさえあざと可愛い黒子眼鏡男子なのにウインクとか目元の武装あげるアルティマウェポンじゃん。

「ナマエさんっ!?大丈夫ですか!!?」
「顔がいい...」

そのあざと可愛さに心臓を射抜かれ床に蹲った私を篭手切くんは甲斐甲斐しく背中をさすり大丈夫かと心配してくれる。なんて幸せな神ファンサ。これはsnsがざわつくね。
篭手切くんに名前を呼ばれチラと顔をあげれば『ナマエさん笑顔見せて!今日も生きて!』の団扇を握る篭手切くんと目が合った。今日も生きて、か。ふふっ、辛っ。
私の社畜日記A
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