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生まれ変わったら神様になりたい。
人と神様は恋をすることさえご法度だから、生まれ変わったら私は神様になって豊前江に恋をするの。結果はどうでもいい。ただ私は彼を恋い慕うことを周りに許されたいだけなんだ。
私が産まれる前は人が付喪神様に恋をすることだけは公に許されていたとお母さんに聞いた。でも惚れた腫れたが多く望まぬ神隠しや呪詛はたまた歴史修正主義者に与する審神者が増えたから禁止されたんだって。いいなぁ昔は。もっと早く生まれたかった。

「よっ、嬢ちゃん。久しいな」
「豊前?どうしてここに?」
「アンタの母君様の名を受けて伝言を伝えにな。にしても、20世紀ってのはいつ来ても面白ぇ場所だな!美味いもんも多いわ、かっけぇ乗りもんがそこらじゅう走ってるわ、見ていて飽きんってのはこの事っちゃな」

顔がいいと何着ても似合うって本当だったんだ。現代服に身を包んだ神様に席を譲ると彼は悪ぃなと言いながら公園のベンチに座った。不思議だ。豊前がベンチに座った途端公園が撮影現場みたいに周囲の視線を集め始めている。背もたれに両腕を広げる姿なんて彼以上に様になる人はいないに違いない。

「一人か?」
「今はね。あと少ししたら友達が来るの」
「ふーん。男か?」
「...まぁ、そうだね」
「でぇとってやつか!」
「違うよ。文化祭って催事があってその買い出し」

待ち合わせてる人は彼女持ちだ。手を出されても困るしこちらから手を出す気もない。だって私は小さい頃から豊前一筋の可哀想な子でこの先まともな恋なんてできないだろうし。

「嬢ちゃんは別嬪やけんなぁ。男もほっておかんやろ?」
「どうかなぁ。でも私もう好きな人いるから興味無い人に好かれても困るだけだよ」
「誰なんだ?その好きな人っつーのは」
「秘密。でもね、その人は私と住む世界も価値観も全然違うから恋をしても勝ち目ないの」

もし彼が悪い人なら神隠しとか遊びの関係とかも期待できたかもしれないが豊前は大人びた外見の割に中身は小学生みたいな人だ。尚更この感情を持っているだけで苦しくなる。さぁこの話はおしまいだと立ち上がり豊前とお別れしようとした。けれど豊前の一言で私は足を止めた。

「好きな奴と同じ土俵ってやつに立てないならさ、嬢ちゃんと同じ土俵に引きずっちまえばいい話じゃねぇの?」
「え?」
「人の恋ってやつが俺にはよくわかんねーけどさ。正攻法で手に入らねぇーなら無理やり奪っちまえばいいっつー話じゃねぇの?」

吃驚した。吃驚したわ。まさか豊前がそんな危ない発想をするなんて。吃驚した。

「ぶ、豊前ってたまに怖いこと言うよね。そういう突飛な考え神様らしいなーって思うけど。同じ土俵か...豊前的に言うと神隠し的な感じ?でも私人間だからそんなことできないよ」
「じゃあ神様になっちまえばいい」
「は...」
「俺は物分りのいい付喪神だからさ。欲しいもんが手元にあればそれでいーんだよ」

それに一回やって見たかったんだよなぁ〜神隠しってやつ。
そう言って夏風のような爽やかな笑みを浮かべ足を組み直した豊前が私はすごく胸がドキドキして、ほんの少しだけ恐ろしく感じた。
隠しちまおうか
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