天覧聖杯戦争 3

リンボと蘆屋道満が別人であるという事実に未だ引っ掛かりは拭えないが、頭と首が繋がったまま頼道から言質はとれた。天覧聖杯戦争を止める為には源氏の総意か天覧武者の総意を取らなければならない。が、源氏の総意は命が幾つあっても足りないと判断した私達は天覧武者の総意を取る方向性で真夜中の怪異について調べることに決めたのであった。

「どこまで繋がってんだぁこりゃ?」
「立香さん足元気をつけてください。ここは滑りやすいみたいです」
「マスター、手を」
「ありがとね」

街で聞いた近頃噂の鋼の怪。子の刻、見上げるほどに大柄なる怪異が夜な夜な街をさまよい歩いているそうだ。街の人々は大江山の鬼やら土蜘蛛といった怪異の仕業じゃないかと疑っているが、被害者がでてない事実を聞くに恐らく天覧武者が関わっていると考えてもいいだろう。時刻は夜中、噂は最近街に広まった。天覧聖杯戦争の匂いがプンプンするじゃありませんか。
鋼の怪は稲荷神社近辺で目撃されたと聞き真夜中に稲荷神社境内近くで張り込んでいると偶然段蔵さんが天然自然の洞窟への入口を見つけた。稲荷神社近辺で出現した鋼の怪と稲荷神社境内近くで発見した洞窟への入口、これは洞窟を調査するしかない、てか怪しすぎるでしょ。まるで探してくださいと言わんばかりの大穴を前に私は腕を捲りしいざ行かん!と右腕を上げる。すると皆大きく頷くと金時、仮名さん、私、段蔵さんの順に洞窟へ繋がるぬかるんだ道を壁伝いに下った。できることなら昼間に捜索したかったと3歩先も見えない緩やかな坂を灯りを落とさぬよう握りしめ、滑るように下っていくと少し開けた空間で金時が足を止めた。

「ハッ、コイツはなかなか!疎い俺でも肌にビリビリと感じやがるぜ!」
「は。まさしく。段蔵の感覚器も同様に感じておりまする。さして深くはありませぬが、この洞窟…魔力濃度高き霊脈の直上にて!」

霊脈の上…ってことは魔力を出しやすいってことか。いつもならここでマシュの盾を使ってサーヴァント召喚しているところだが、段蔵さんの言う通り、今は天覧聖杯戦争の真っ只中。魔力源を確保したと言っても過言ではない地の利の発見に喜び半分、天覧武者と術者との遭遇率が格段に跳ね上がったことに警戒すべきだ。
右の甲が熱い。令呪が反応しているのか。もし今1画消費されていたら霊脈を使い回復できただろう。ちょっと惜しいことをしてしまったなぁ〜。

「都の地下にこんな場所があるなんて知りませんでした。この妖気を使えば護摩を焚いて地上への怪異の被害が減るかもしれませんね」
「なるほど。ときに仮名殿。昨夜戦闘にて術を行使していたように段蔵お見受け致しました。もしや仮名殿は陰陽道の手解きを受けておいでで?」

あ!それ私も気になってた。平安時代で五芒星ってことは陰陽師か晴明の関係者って事だよね。段蔵さんに素性に触れる質問をされ仮名さんは図星だと言わんばかりにえっ!?と上擦った声を上げた。それから少し返答を渋るように唇を噛みチラッと金時に視線をやると、仮名さんはフッと息を吐くように口元を緩めた。

「実は幼い頃に少々手解きを。ですが私には才がなく、どれほど研鑽を積んでも、姉には遠く及びませんでしたが」

姉は才能に溢れた人で私の憧れだったと語る仮名さんはまるで自分の事のように頬を綻ばせお姉さんのことを褒めていた。双子では無いけれど顔立ちは瓜二つだったそうで、愛嬌もあり芸にも秀でた方だったらしい。生きていたらきっと引く手数多だったと少しずつ悲しみを帯びていく声音に段蔵さんは慌てて口を押え深々と頭を下げた。

「す、すみませぬ!立ち入ったことを聞いてしまいました」
「いえいえ。私が勝手に感傷に浸るようなことを言い出しただけですから段蔵さんが謝る必要はありませんよ。それにこうして軽〜く思い出した方が姉も喜びます」

姉は寂しがり屋でしたから。
私はちっとも気にしていませんよとケロッとした様子で仮名さんは段蔵さんの背中を叩きするりと腰から剣を抜いた。何事かと前方を照らせば蒸気を排出する機械人形…あれ、なんか見覚えるって言うかヘルタースケルターでは!?

「鋼の怪!へええ、コイツがそうか!」
「硬そうですね」

平安時代の武者は血の気が多いな!
この時代に生きる人は機械を見た事はないはず。ちょっとは未知の物体に怖がるかと思いきや颯爽と武器を構え好戦的な目で獲物の数を数えるあたり彼らが敵じゃなくて本当に良かったと安堵した。もし彼らがいなかったら私は今頃段蔵ちゃんの背中でみっともなく震えて死を待っていただろう。

「マスター指示を」
「わかった!!」

段蔵ちゃん曰くあれは幻と言うよりも分身に近いらしい。ということは術者はチャールズ・バベッジで確定か。あとは天覧武者が誰か分かれば穏便に話し合いの方向で…と思ったけど。

「おらぁっ!!」
「よいしょっ!!」

これ話し合いの余地あるのだろうか。というかあの人達本当に生身の人間なんだよね?
猛々しい掛け声で斧を振り回しヘルタースケルターを次々とスクラップにしていく黄金の武者とその後ろで立ち上がる掛け声と同じ声音で鈍器のように刀を振り回す鞘の武人に目眩がした。2人の気持ちの良い戦いぶりに焚き付けられたのか段蔵さんもアレに混ざりたいと私の服を掴み小さく揺らしている。うん、まぁヘルタースケルターもやる気だし段蔵さんも好きに戦っていいけどさ、

「ここには脳筋しかいないのかね」

きっとマシュが隣にいたらあわわわ!!と共に慌てふためいてくれるだろう。ああ、地獄絵図。極めつけは魔力で充ちた空間で気分が高揚しているのだろう。ついでに怪異もサクッと片付けますか!的な雰囲気で湯水のように魔力を使い始めた3名の武者に私は宝具はダメだよと釘を刺した。洞窟壊したら流石にまずいでしょ。平安京陥没なんてシャレにならないからね!?

「大将…」
「立香さん…」
「マスター」

いや、だからダメだって!!!