信用してくれとは言わねぇよ
書類を片付けてはコマツダから遠ざけるという行動を繰り返していた為か、予想よりも早く終わったらしい。ヨシノセンセにめちゃめちゃ感謝され、ひくりと口元が引き攣る。まあ、コマツダの行動の酷さは分かってはいたが、ヨシノセンセはかなりの被害を被って居たんだろうな……出来る限りヨシノセンセのお願いは聞いてやろう。コマツダは俺を今までの天女と違うことを実感したらしく、犬みたいに俺の傍に来るようになった。お姉さんみたいらしい。まあ、悪い気はしねぇが。
俺は今コマツダと一緒に医務室に向かっていた。ニイノセンセから頼まれていたからだ。本当はヨシノセンセが送ってくれると言っていたが、コマツダに留守番させるのは些か心配らしい。まあ、明日の分まで終わらしたしな、無理もないだろう。
「はい、とーちゃく!サラさん、道は覚えられた?」
「……何回も落とし穴に引っ掛かるお前を引っ張ってたから覚えてる余裕ねぇよ」
「あ……う、ご、ごめんね!僕も気を付けてはいるんだけど……」
「……まあ、パッと見分かりにくいのもあったし、落ちるのはしょうがねぇけど、今度からは気を付けろよ」
「!うんっ」
「本当に分かってるのかよ……」
返事だけは、良いんだよなぁ……これじゃあヨシノセンセが苦労する訳だ。おばちゃんに頼んで厨房借りて、何か甘いものでも作ってやるかな。ドイにも渡してやろう。……面倒だし、教師陣に配ってやるかな。疲れはかなり溜まってるみたいだし、気休めくらいにはなるだろう。ガクエンチョウにもやるか……ヘムヘムは食うのかな、食ってくれるなら嬉しいけど。
コマツダはにこにこ笑いながら、中に声を掛けてから襖を開ける。出迎えてくれたのは萌黄色で、俺を見た瞬間、顔を青ざめたけど俺は気にしないフリをしてニイノセンセに声を掛ける。
「お待たせ、しました」
「ふふ、呼んだのはこっちですから気にしないで下さい。敬語も使わなくて良いですよ」
「……おー、助かる」
「小松田くん、案内有り難うございます。サラさんは用事が終わりましたら事務室に送りますね」
「はい、お願いしますー。サラさん、頑張って下さいねー」
「おー、気を付けて帰れよ」
「はぁい!」
ふにゃりとした笑顔を浮かべ、コマツダは襖を閉じた。俺はニイノセンセの傍に行き、薬の説明を受ける。……あまり違いはねぇみたいだな。これなら俺でも役に立てそうだ。見知った薬草ばかりだと告げると、ニイノセンセは驚いたように目を見開いてから、嬉しそうに笑った。……目元に隈が出来てるな、最近寝れてないんだろう。早めに終わらせてニイノセンセを休ませてやる必要がある。ただ、ニイノセンセは休めと言われて休めるような性格ではないだろう。あくまでも"早めに"終わらせるのが必要となる。
……俺一人でも何とかなるけど、全員で終わらせた方がニイノセンセは安心できるだろうな。
「サラさんには解毒剤を作って貰っても良いですか?取り扱いが難しいのでなかなか頼めなくて……」
「ああ、別に……「に、新野先生!ぼくがやります!」……ああ?」
「三反田くん……気持ちは嬉しいのですが、毒は扱いが難しいのは知っていますよね?貴方にはまだ早いです」
「で、でも……!」
「−−その人に任せて大丈夫なんですか?天女なんですよね?毒を盛ったりするんじゃないですか」
「ちょ、左近!!」
「正直に言った方が良いと思いますよ。三反田先輩も、乱太郎も伏木蔵も信用出来ないと思ってますよね」
青の言葉に、萌黄色と水色の3人は困ったように笑ってから、視線を逸らす。これは−−青の言う通り、ってことだな。ちらりとニイノセンセを見れば、顔を歪めている。……てめえ等を心配してるニイノセンセを悲しませてんじゃねぇよ。沸々と怒りが込み上げてくる。キレても良いが、コイツらも被害者だからなぁ……ジョウキューセイには厳しく出来るが、カキュウセイには少々抵抗がある。……生意気なのは、嫌いじゃねぇしな。
「−−別に信用しろとは言わねぇよ。今までのことは少し聞いてるし、圧倒的に不審者なのは俺だしな」
「「「「!」」」」
「っ、サラさん……!?」
「でも。言葉には気を付けろよ、青。てめぇの発言は俺を信頼してくれたニイノセンセも侮辱する言葉だ」
「……ぁ……!」
「……それに、こいつは本当に扱いが難しい上に猛毒で、1滴でも垂らしたら……こんな風になる」
「「「「「なっ!?」」」」」
「俺は毒に免疫があるから良いけど、てめえ等みたいに体が出来てねぇガキはあの世行きだって有り得ねぇ話じゃねぇ。警戒するのは悪いことじゃねぇが、てめえ等を想ってるセンセの気持ちを踏みにじるのはしちゃいけねぇぞ」
ニイノセンセが俺に渡そうとしていた毒草を近くにあった鎌で少し切れば、1滴だけ俺の手のひらに落ちる。その瞬間、溶けるような焼けるような痛みに襲われるが、リバウンドに比べたらこんなの屁でもない。俺の行動に、萌黄色と水色は固まり、青はさぁっと顔を青ざめる。まあ、まさか俺がこんな対応するとは思わなかったんだろうな。俺もそうするつもりはなかったが、ニイノセンセの気持ちを分からせるにはこれが手っ取り早い。
ニイノセンセは棚から解毒剤を出そうとしたが、俺はそれを止める。ニイノセンセは怒ったような顔をしていたが、俺の手のひらを見た瞬間、目を見開いた。
「……もう、治ってる……?」
「毒に免疫があるって言っただろ。それに、一応医者免許もある。だから、俺に大切な薬を使う必要ないぜ」
「ですが!何であんなに危ないことをするんですか!?」
「あー、毒草を取り扱うのは難しいって分からせるには手っ取り早いだろ?」
「そうだとしても、サラさんが危険を侵す理由にはならないではないですか!」
「これが一番手っ取り早いんだよ。第一、解毒剤はもうあまりねぇんだろ。……一番上が居ないからな、負担は全部ニイノセンセに降ってくる」
「な、にを……」
「新野先生……本当ですか?」
「……三反田くん……」
「危ない劇薬は全部ニイノセンセが一人で調合してる。寝不足になるくらいにな。そんなニイノセンセを困らせるくそガキは……容赦しねぇよ」
寝不足。その言葉に、ニイノセンセは困ったように笑いながら頬を掻く。その反応に真実だと悟ったのか、皆が皆、泣きそうな表情を浮かべる。特に青はバツの悪そうな顔をしながら、俺とニイノセンセの顔を交互に見つめる。……別に、怒ってなんかねぇんだけどな、怖がらせたか?……あまり宥めるのは得意じゃないんだけどな……俺は小さく溜め息を付き、青の方に近付く。青は叩かれると思ったのか、強く目を瞑る。……すっかり怖がられたな、こりゃ……
「……ま、以後気を付ければ良いんだよ。今は自分の出来ることだけすれば良い」
「……ぼく達が、出来ること……」
「取り扱いが難しくない薬草の調合とか、薬草の調達とか。背伸びなんかする必要ねぇんだよ、寧ろするだけ無駄だ」
「……無駄、なんですかー?」
「後始末をするのはニイノセンセだからな、余計な仕事増やしたくないだろ?このままだとぶっ倒れるぞ」
「「「「!」」」」
「……サラさん……」
「……アンタが倒れたらコイツ等は誰を頼れば良いんだ?頑張るのは止めねぇが、自分の限界を越えてまでやろうとするのは馬鹿のやることだ。……これ以上、お互いが傷付くような真似はしない方が良いんじゃねぇのか」
俺の言葉に、ニイノセンセはハッと息を呑む。あまりにも自分が無茶していたことに気付いたんだろう。情けないような、歯痒いような表情をしている。……まあ、ニイノセンセならこれくらい言えば分かって貰えるだろう。見た所、萌黄色達にもちゃんと伝わったみたいだし、安心した。これで分からなかったら拳骨するつもりだった。体に教えれば分かる筈だしな。
ニイノセンセが項垂れていると、水色の2人が涙目でニイノセンセに飛び付く。驚いているニイノセンセを尻目に、水色達はぎゅーっとしがみついている。控え目にしながらも、ニイノセンセの手をしっかり握る青と萌黄色。目の前に広がるほのぼのとした光景に、俺は小さく笑みを零した。
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