治療はお早目に

ゴリゴリと言う音と共に、薬草独特の匂いが辺りに充満する。俺は慣れてるから良いが、ガキ達にはツラいんじゃないか、と思って視線を向ければ、真面目に薬草を擦っていて、保健イインカイに所属しているだけあるな、と感心する。ニイノセンセの教え方が上手いのか、イインチョウの教え方が上手いのかは定かではねぇが、多分両方の教え方が上手いんだろうと思う。確信はねぇが、1つ空いてる空間をチラチラ見つめるイナデラとツルマチを見ていれば、何となく察しが付く。……早めにこっちに戻って来てくれると良いんだが。
カワニシとサンタンダは自分の仕事をやりつつ、俺の方を見る。それは別に警戒してる訳じゃなくて、ただ単に手際を見てるだけみたいだ。……ドイの時も思ったが、絆され過ぎじゃねぇか……?


「サラさん、次はこの薬草を……おや?」
「それならもう済ませた。そこに置いてある」
「有り難うございます……手際が良いんですね」
「ニイノセンセを早めに休ませたいだけだ」
「……う……はは、すみません」
「笑い事じゃねぇよ?コイツらを想うなら無理はしねぇことだ。医療関係なら手伝えるしな」
「心強いです」
「サラさんはお医者さんなんですかー?」

「人が居ないときは手伝うが、基本は戦い専門だ。親が医者でな、色々教わった。人の体を熟知してるからこそ、最小限の死者で抑えられる……まあ、俺があまり無駄な殺生はしたくないだけだが」


軍人失格な考えだとは思う。が、やっぱりあまり人を殺すのは好きじゃねぇ。強い奴なら特にな。殺したら、もう2度と戦えねぇだろ?つまりはだ、自分の為なんだよな。親に教えを乞っていた時は純粋に誰かを助けたい、って思ってた。そしてそれは両親や親戚を1度に全て失なった時に強くなった。自分と同じ想いをして欲しくないんだよな……まあ、それは軍に入ったら変わったけどな。戦うのが好きになるのは想定外だった。
俺の言葉に、ニイノセンセ達は朗らかに笑う。どうやらイインチョウも無駄な殺生はしたくないタチらしい。敵でもついつい手を差し伸べては貴重な包帯とかを浪費してしまうそうだ。……ニンジャに向いてないんじゃないか?


(……包帯が貴重ね、後で作ってやるかな)


勿論、錬金術で。さっきからイナデラとツルマチが機械で包帯を作ってはいるが、あれでは多分すぐに足りなくなる。カワニシやサンタンダもニイノセンセの手伝いをしながら包帯を作っているが、これはこれで効率が悪い。どっちかにしなければ効率が上がる筈ないが、両方とも必要なのだから仕方ない。……イインチョウに早く復活してもらう必要があるな。ドイにも少し話してみるか。
あれから他愛のない話をしていれば、ふとタイラの怪我のことを思い出した。来てないだろうけど、一応聞いてみるか。


「ニイノセンセ」
「はい、何でしょう」
「タイラって最近来たか?」
「平……ああ、滝夜叉丸ですか?いえ、私は診てないですが……三反田くん、川西くん、診ましたか?」
「滝夜叉丸先輩を治療した覚えはぼくにはないです……左近は?」
「ぼくもないです……乱太郎と伏木蔵もないよな?」
「はいー、ないですー」
「滝夜叉丸先輩がどうかしたんですか?」
「昨日の夜会ったんだが、指先に小さい傷があった。冷静じゃなければ気付かないくらい小さい傷だったから、治療してるか心配になってな……ニイノセンセ?」

「−−少し、出掛けて来ます」


にっこりと笑みを浮かべたニイノセンセが襖をゆっくり閉めた後、ぞくりとするような寒気を感じた。あれは−−きっと、かなり怒ってる。サンタンダ達の方に視線を移せば、彼等は気にした様子はなく、自分達の作業に集中していた。慣れているんだろうか……普段温厚な人がキレると恐いとは言うが、ニイノセンセはそれに当てはまるんだろう。イインチョウはニイノセンセと考え方が似ているらしいし……コイツらの成長がかなり恐くなってきた。末恐ろしいな……


「サラさん、どうしました?何か分からないことでもありましたか?」
「ん……いいや、大丈夫だ。有り難うな、サンタンダ。カワニシ、それは反対で擦った方がやり易いぞ」
「え?……あ、本当だ。やり易い……有り難う、ございます」
「どう致しまして。イナデラとツルマチは少し手を休めた方が良い、そろそろクる筈だ」
「クるって何がで……っ!?」
「きゅ、急に手が痺れるなんてすっごいスリル〜」
「……遅かったか。ほらほら、手を貸せ」
「「え?」」

「大サービスだ」


にいっと笑ってから、俺はイナデラとツルマチの手を握る。俺は人と比べて体温が低いからか手が常に冷たい。その冷たさに驚いたのか、イナデラとツルマチは肩を跳ねさせたが、心地好いのか頬を緩める。エリシアを思い出させるような反応に、ぐっと胸を締め付けられるような感覚に襲われるが俺はそれをなかったことにして、錬金術を使用する。カチカチ、と言う音と共に、イナデラとツルマチの手を薄い氷が覆う。冷たさはちゃんと加減してあるし、すぐに壊せる強度にもした。これなら大丈夫だろう。
突然のことに、イナデラとツルマチは慌てふためき、サンタンダとカワニシは驚きながらも、これが錬金術……なんて言いながらまじまじと眺めていた。興味津々みてーだし、理論ぐらいは教えても良いかもな。


(まあ、あまり踏み込ませるつもりはねぇから、あくまでも基礎中の基礎になるだろうがな)


教えて良いことと教えちゃいけねぇことは区別出来てるし、触れられたくないことに対しての誤魔化し方は大体は用意してある。……ただ、イナデラやツルマチみたいに純粋でキラキラした目で見つめられると、少し心苦しいから嘘はつかないでおこう。まだまだガキなんだし、多少夢を見させてやるくらいは構わねぇだろ。間違ってたら道を正してやれば良い。まあ、此処はセンセ達がちゃんとしてるから余計なことはするつもりねぇけどな。
そんなことを思っていれば、スパン、と勢いよく襖が開き、紫が目の前に落ちてくる。咄嗟に抱き止めれば、落ちてきたのはタイラだった。


「……ぅ……?」
「あー、びっくりした。大丈夫か、タイラ」
「っ!!わ、私に触るな天女!!私はお前なんかに靡いたりしないぞ!?」
「耳元で怒鳴んな、うるせぇ。ガキには興味ねぇから惑わすつもりもねぇよ。……ニイノセンセ、もう少し穏便には出来なかったのか?」
「いやはや……すみません。私としても穏便に済ませたかったのですが、素直に治療させてくれないので少々手荒な真似を……まあ、投げたのはサラさんが何とかしてくれると思っていましたから」
「……はは、俺が見捨てるってことは想定してないのか?」
「……有り得ないでしょう。貴女は、天女様らしくないくらい……ぼく達を変な目で見たりしないんですから……」

「……有り難うな、カワニシ」


小さい声ではあったが、たどたどしい言葉に、不意に嬉しさが込み上げてくる。思わず小さな頭を撫でれば、多少肩を跳ねさせたが、受け入れてくれた。……結構嬉しいな、これ。それにしても、天女はどれだけ下心丸出しだったんだか。トラウマになってんじゃねーか。センセ達の気持ちも分かる気がする。そりゃあ殺したくもなるわな、俺なら絶対に殺る。跡形もないくらいにぐちゃぐちゃにする。存在すら、なかったことにしてやる。それくらいしても、気が済むなんてことはないだろうけどな。
そんなことを考えていれば、チクリと痛みが走り、俺はタイラの腕を掴み、畳みに押し付けた。


「ぐ……っ!?」
「お前、何考えてんの?俺の近くにカワニシ居るの見えてねぇのか?当たったらどうしてくれんだよ」
「っ……私ほど優秀なら標的以外に当てたりしないっ!今度は下級生が狙いか……!私の大事な後輩に手出しはさせない!」
「おーおー、ご立派ご立派。気持ちは分からなくもねぇが、そう言うのは後輩の目の前ですることか?」
「……っ……!」
「わー!?サラさん、血が出てます!治療しますから滝夜叉丸先輩を離して下さいっ!」
「サラさん、早くこっちに!」
「……滝夜叉丸先輩、サラさんに何をするんですか……!」
「落ち着いて下さい、伏木蔵くん。……滝夜叉丸くんの治療は私がしますので、皆さんで止血してあげてくださいね」

「「「「はい!」」」」


別に俺は大丈夫なんだけどな……そう呟けば、笑顔のサンタンダにさっきタイラに切りつけられた腕を思いきり掴まれ、思わず声が漏れる。そんな俺を心配しつつも、カワニシが薬を塗り、イナデラとツルマチで包帯を巻くというテキパキした連携プレーに、思わず溜め息が零れる。こいつはなかなか凄いな……ニイノセンセとイインチョウの教育の賜物だろう。サンタンダは相変わらずいい笑顔をしているから、後で何か作って機嫌を直して貰うかな……
タイラは自分が守りたかった後輩達に大切にされている俺が気に入らないらしく、ずっと睨んできたが、ニイノセンセにきつめに治療されているらしく、涙目になっていた。……ニイノセンセ、大人気ねぇ……保健イインカイは怒らせちゃいけねぇと思い知らされた初めての手伝いだった。



  
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