料理は得意分野だ

一通りの薬は作り終え、俺含めたカキュウセイの言葉もあって、ニイノセンセは自室でゆっくりすることにしてくれた。これで一安心だな。あのあと、ニイノセンセにきつめに治療されたタイラは憎まれ口を叩いてから部屋を飛び出て行った。そんなタイラの態度が勘に触ったのか、サンタンダが塩を撒いていた、笑顔で。焦りながらも全員で宥めるように全力で止めれば、落ち着いてくれたが、サンタンダは怒らせないようにしよう、と全員で誓いあったのは言うまでもねぇよな。
俺はカワニシに連れられて食堂に向かっている。本当はヨシノセンセの所に行きたかったんだが、食堂の手伝いをして欲しいとドイが伝言しに来たから、カワニシが案内してくれていると言うわけだ。


(……ドイはイナデラの担任なんだな)


ドイが来た瞬間、顔を少し強張らせたイナデラに気付かない筈がない。ツルマチがイナデラを隠すような反応もしていたし、ニイノセンセ達も心配そうな表情をしていたし……何より、ドイがイナデラを見ようとしなかった。気まずいのは分かるが、そいつは違うだろ。ぼそりと言えば、ドイは困ったように笑ってから、部屋を出ていった。……臆病者だな、背中蹴ってやらなきゃいけなくなりそうだ。ガキに気を遣わせるのは大人としてやっちゃいけねぇだろ。んなことも分からねぇのか?


「……サラさん?どうかしましたか?」
「ん?あー、考え事してただけだ」
「……土井先生と乱太郎のことですか?あれはぼく達には関係ないです。……口出し出来ないですから」
「……ん、そうだな。あ、此所が食堂か?」
「はい、そうです。……失礼ですけど、サラさんは料理出来るんですか?」
「まあ、人並みには」
「……へえ……あ、おばちゃん。新しい事務員さん連れてきました」

「……信じてねぇな、このくそガキ……!」


自分で聞いたにも関わらず、冷めたような声色に、思わず拳を握れば、カワニシは逃げるように食堂の中に入って行く。……まあ、自分で言うのもあれだが、俺はガサツな方だから料理下手みたいに思われることが多い。寧ろ、100人中90人が料理下手だと思うだろう。一応一人だった期間が長いし、母から教え込まれてたんだけどなぁ……因みに得意料理は肉料理全般だ。ロイにもヒューズにもエドにもお墨付きを貰ってる。アルはあまり否定しないから最初から除外だ。大総統も俺には甘かったからな……
カワニシの後を追うように中に入れば、食事していたアンドウセンセと目が合い、軽く解釈してからおばちゃんの方に目を向ける。おばちゃんは一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「貴女が新しい事務員さんね?宜しくね」
「サラ・クローズ。気軽に呼んでくれ。因みにサラが名前だ。……何て呼べば良いですか?」
「普通におばちゃんで良いわよ。宜しくね、サラちゃん」
「……ちゃん……」
「……似合わない……」
「……うるせえぞ、カワニシ」
「早速手伝って貰いたいんだけど良いかしら?」
「そのつもりなんで大丈夫です」
「敬語苦手なのよね?普通に話してくれて構わないわよ」

「……助かる。有り難う」


慣れない敬語がたどたどしかったのか、おばちゃんがくすくす笑いながらそう言ってくれたから、言葉に甘えることにする。同じように笑っているカワニシの頭を軽く小突き、隙が出たカワニシの腕を掴み、強引に台所に引き込む。サンタンダが自分とツルマチで何とかなるからと他の人達を追い返したから仕事はない筈。んで、カワニシは真面目ちゃんらしいから宿題は既に終わらせてるだろう。手伝いする暇くらいあるよな?そう聞けば、カワニシはぱちくりと目を瞬かせながら頷く。このやり取りに、おばちゃんは不安そうな顔をしていたのを俺は見逃さない。……ガキには興味ねぇって。


***


トントンと心地よいリズムに合わせて、美味しそうな匂いが辺りに充満する。昼は豆腐定食と肉じゃが定食と焼き魚定食らしい。こいつは美味そうだ。カワニシは焼き魚定食が食べたいらしく、そわそわしながらも手伝いをしている。どうやら、おばちゃんの手伝いを学年ごとにローテーションすることになってるらしく、今回は偶々カワニシの学年だったらしく、カワニシの級友であるイケダとノセとトキトモも途中から合流していた。サンタンダはこれを知ってたから俺を案内させたのかもな……なかなか策士だ。
俺の存在に、イケダとノセは警戒しているが、トキトモは俺に対するカワニシの反応に安心したのかかなりすり寄ってくる。そんなトキトモにカワニシは複雑そうな顔をしていたが、イケダとノセの反応が一番正しいぞ……?


「おばちゃん。豆腐定食は少な目で良いのか?」
「ええ、構わないわよ。くノ一の皆は外で食べるらしいし、此処では1人しか食べる人が居ないからねぇ」
「1人……?」
「5年の久々知兵助先輩なんだなぁ、豆腐が大好きなんです!」
「豆腐小僧と言われてるくらいで……三郎次、お前の方が詳しいだろ?」
「……別に。最近はあまりお見掛けしてない」
「……それに、まだ間者の可能性があるのにそんなに心許して良いのか?」
「……サラさんは、平気だ」
「……お前に言われるとは思ってなかった。有り難うな、カワニシ」

「……ふふ、サラちゃんは他の天女様とは違うわね。手際も良いし、有り難いわ」


正直、おばちゃんが朗らかに笑ってくれてるのが一番有り難い。カワニシ達がそれぞれ野菜を切っている間、おばちゃんの隣で味噌汁を作っていれば、おばちゃんはかつての天女達からの扱いを話してくれた。受付でメニューを聞いて、おばちゃんにそれを伝えて、あとは生徒達とお喋りしていたらしい。それを手伝ってると言えるのか……!おばちゃんがお願いした日には過剰に生徒達に吹聴して、おばちゃんを悪者に仕立てた時もあったらしい。……本当、腹立つアマだな。
苛々してるのが伝わったらしく、おばちゃんは驚いたような反応をしていたが、心の底から安心してくれたみたいだから黙ってかき混ぜておく。……うん、我ながら美味そうだ。


(それに、そんなクズ達と同類だと思われるのは堪えられる気がしねぇ)


天女扱いも、正直虫酸が走るほどだ。嫌で嫌で仕方ない。ガラじゃないってのは勿論だが、何より恋愛には微塵も興味がない。男と喋るよりかは料理とか鍛練していた方が良い。身体能力的にも体力的にも女である以上、男に敵わなくなる時が絶対にある。それでも俺は、今の地位から堕ちる訳にはいかない。上に進まなきゃならねぇ。……ロイが、大総統になるまでは。アイツとリザだけでは少し荷が重いだろう。軽くしてやらねぇと……
……話が逸れたな。とにかく、俺は強くならなきゃならねえ。鍛練場とかねぇかな、聞いてみよう。部屋の模様替えもまだだしなぁ……


「おばちゃん、ガクエンチョウは食堂に来るのか?」
「食堂には来ないわねぇ。誰かが届けに行くのよ」
「それ、俺でも大丈夫か?ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「あら……構わないけど、道は大丈夫?」
「……あー……カワニシ、頼めるか?」
「!はい、しょうがないですからね。早く道を覚えて下さいよ」
「……素直じゃねえな、まあ、有り難うよ」
「……むー……ぼくだって案内くらい……」
「有り難うな、トキトモ。3人抜けたらおばちゃんが大変だろ?味噌汁は大量に作ったけど、他はまだだから手伝ってやってくれ」
「……はーい」
「……いつの間にあんなに……」
「全然気付かなかった……」
「料理は速さが命だからな」

「……結構美味しいですね」


勝手に味見しているカワニシには驚いたが、頬が綻んでいるのを見る限り、どうやら気に入って貰えたみたいだ。取り敢えず、軽く小突く程度で我慢してやるか。カワニシの反応で興味が出たのか、トキトモも味見しに来るので少し小皿に寄せれば、トキトモは破顔しながら美味しいと言ってくれた。……可愛いなこいつ。イケダとノセも興味は示していたが、警戒しているから無理強いはしない。おばちゃんからも合格のサインは貰ったし、食堂でもやっていけそうだ。味噌汁、と言うか汁物は結構得意なんだよな。何かホッとするから。
ガクエンチョウ用の肉じゃが定食が出来たので、俺とカワニシはガクエンチョウの部屋へと向かう。勿論、ヘムヘムの定食もあるぞ、焼き魚定食だ。香ばしい匂いに腹が空くのを我慢しながら、俺とカワニシは足を進めた。


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