これ以上傷付けるな

カワニシの案内により、俺は無事にガクエンチョウの部屋に辿り着いた。俺が来たことに驚いていたが、カワニシが俺に心を許してることにも驚いたらしく、お茶を溢しそうになっていた。驚きすぎだろ……ヘムヘムの頭を撫でてから、それぞれの料理を二人に渡し、部屋の模様替えの許可を貰う。他にも聞きたいことはあったが、カワニシに聞かせたくないから今は模様替えの許可だけで十分だ。俺がまだ言い足りないことにガクエンチョウは気付いていたが、カワニシが居るからだとすぐに察したらしく、朗らかに笑っていた。
再び食堂に向かって足を進めていると、視線を感じる。殺気も少し感じられるが、今は手を出さないつもりらしい。様子見なのか、カワニシが居るからなのか。出来れば後者であって欲しいな……



「サラさん?疲れたんですか?」
「いんや、大丈夫大丈夫。疲れてるように見えるか?」
「いえ……紛らわしいだけです」
「素直じゃねえなぁ……心配してくれて有り難うな」
「サラさんの心配なんてしてません!自惚れないで下さい!」
「……はいはい、悪かったな」
「……ぁ……お、怒りましたか……?」
「さあ、どうだろうな?」
「…………」

「冗談だよ、冗談。怒ってねぇから安心しろ」


俺の表情を不安そうに見つめてくるカワニシに、ついつい意地悪をしてしまう。いやぁ、反応が可愛い過ぎるだろ、11歳だっけか。まだまだ甘えたい盛りだもんなぁ……俺の言葉に、カワニシは怒ったような顔をするが、頭を撫でてやれば少しだけ頬を緩める。可愛いなぁ、猫みたいだ。イケダとノセも猫タイプだよな、多分。コマツダとトキトモは犬タイプかなぁ……あの人懐っこさは異常だろ。トキトモはまだ幼いから良いにしろ、コマツダはニンジャを目指してんだから少しは警戒しろよ……
カワニシをひたすらポンポンしていれば、殺気が一瞬鋭くなる。……カワニシに触るな、ってことか。そいつは約束出来ねぇし、する必要もないよな?


「……サラさん……」
「(気付いちまったか……)大丈夫大丈夫。無理はしねぇよ」
「っ……!怪我、したらすぐに来て下さいね!?」
「はいはい」
「む……ちゃんと分かってます?!今、サラさんに怪我されたら困るんですからね!」
「分かってる分かってる。それに、ヨシノセンセのこともニイノセンセのこともおばちゃんのこともちゃんと考えてるさ。あの3人が倒れたら困るもんなぁ……」

「ーー左近にそれ以上近付くな!!」


はー……そこまで見境なくなってんのか?笑えねぇな。まあ、確実に俺を狙っての攻撃は評価してやるけどな。確かにこの攻撃なら俺が避けたとしてもカワニシには当たらない。……けど、それ以外は評価してやんねぇよ?俺は溜め息を付いてからカワニシを抱き抱え、後ろに飛ぶ。最初から挟み撃ちにするつもりだったのだろう。背後からヒュンッと言う空気を切る音と共に迫る金属を俺は同じ金属の足で相殺し、そいつから距離を取る。勿論、カワニシの目は塞いでる。暴れられたら外すが……可能なら外したくないなぁ……


「っち……今回の天女様は闘い馴れしてやがる……!伊作、気を付けろ!!」
「うん……有り難う、留さん。天女様、左近を離して下さい」
「……断る、と言ったら?」
「……力付くでも」
「はー……そこまで落ちぶれてんのか。天女達も厄介なことをしてくれたもんだ」
「「な……!」」
「お前等にとって、後輩ってなんだ?後輩を不審な奴から守りたいって想うのは別に悪いことじゃねぇが、その後輩を一番傷付けてるのは誰だよ。真実から目を逸らしてんじゃねぇよ」
「……っ……!」
「……てめぇ……!何も知らない癖に……!」

「……サラさん、手を外して下さい……」


か細い声に、やっぱりそうなるよなと思いながら、カワニシを床に降ろし、目を塞いでいた手を外す。カワニシは瞬きを数回繰り返した後、2人の緑を見比べ、悲しそうに顔を歪める。……名前を聞いた時にもしや、とは思っていたが、最初に攻撃をしてきた猫目は保健イインの皆が帰って来て欲しいと願っている保健イインチョウ様のようだ。もう1人はよく分からねぇが、多分同室ってやつなんだろう。同室同士は仲が良いってドイが言ってたからな……
カワニシだけに聞こえるように、行きたいなら行っても良いぞ、と囁けば、カワニシは悲しそうな顔をしたまま、首を横に振った。


「……サラさん、行きましょう」
「左近……!?」
「てめぇ……今度は下級生狙いか!!左近に何をした!!」
「何もしてねぇよ。お前等と一緒にすんな」
「……左近……どうして……?」
「……っ……!」
「……おい、保健イインチョウ。何でお前がそんな目をしてんだ?どうしてだあ?んなもん、自分の胸に聞いたら分かんだろ!」
「……っ!?」
「伊作っ、天女の言葉に耳を傾けるな!!」
「はっきり言ってやろうか。お前にも言えることだしなあ?」
「……何だと……?」

「天女様とやらに現を抜かし、可愛い可愛い守ってやらねぇといけない後輩を傷付けた加害者が、今も健気に待ってる被害者をそんな目で見るなって言ってんだよ」


俺の言葉に、ヒュッと息を呑む緑の2人に対し、限界だったのか俺に顔を押し付けるカワニシをそっと抱き抱え、頭を撫でてやる。少し落ち着いた様子のカワニシに安堵しながら、小さく氷の結界を造る。すぐに気付いたのか、カワニシが驚いたように俺を見詰めてくるが、俺は何も言わずに笑っておく。まあ、言った所で聞こえないだろうけどな。流石にこれ以上黙ってられないんだ、悪いなカワニシ。言い逃げも好きじゃねぇから、はっきり言ってやるよ、全部な。俺はもう一度カワニシの頭を撫でてから、2人に視線を移す。


「……ニイノセンセは倒れるギリギリまで自分を追い込んでるぞ」
「……え……?」
「サンタンダもカワニシもイナデラもツルマチも無理してる。んで……皆がお前の居ない席を悲しそうに見てる。何回もな」
「……っ!」
「お前は……ひょっとして、用具イインチョウか?」
「……何で分か……!知ってんのか……?」
「知らねぇよ、ただの直感。ただ、手に治り掛けてるが豆が見えたからな、そうじゃねぇかなと思っただけだ」
「………………」
「……どう思うかは勝手だが、用具に関しては俺に手伝って欲しいと要請が来ている。これがどういう意味かは……流石に分かるよな?」
「「………………」」

「お前等が今やるべきことは、一体何なんだろうな?」


情けない、合わす顔がないってのはただ逃げてるだけだ。一番辛いのは、守ってる奴等だけだ。俺から言わせれば、天女に魅了された奴等は自業自得だろう。同情はしても良いが、ただ逃げてる奴等には嫌悪しか抱けねぇな……まあ、ここまで言うのは流石に酷だから言わねぇけど。まあ、こいつらはなかなか知恵はありそうだし、後はこいつら次第ってことだな。敵意はなくなってるみたいだし、あとでセンセ達に伝えておくか。
俺はカワニシを抱え直し、2人の横を通り過ぎていく。通り過ぎる際に今度は間違えんなよ、とは言っといたが、何か変わると良いんだが。


(……まあ、あの目なら多分大丈夫だろう)


迷いがありつつも決意した目をしていた。多分、奴等なりの答えがあるんだろう。背中を押してやるつもりはねぇ。後はあいつ等が一本踏み出せば良い。まあ、かなりの勇気が必要になるが、そんくらいのことをしてんだから、しょうがねぇだろ?寧ろ安いもんだろ、今までのことを考えてみれば。まあ、詳しくは知らねぇけど。世の中はギブアンドテイクだぜ?まあ、俺は等価交換だと思ってるけど。キブばかりじゃ生きてけねぇよ。たまには自分からも動かないとな。
少し離れてからカワニシの結果を壊せば、ムスッとしているカワニシと目が合う。俺は失笑してから、カワニシを降ろした。


「……サラさん、善法寺伊作先輩と食満留三郎先輩に何を言ったんですか」
「いやぁ……ちょっとな」
「ちょっとではないですよ!!あまりイジメないで下さいね!?」
「……悪かったな。我慢出来なかったんだよ。けど、何か変わる筈だぜ?それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からねぇけど」
「……え……?」

「ま、楽しみにしてな」


俺はカワニシの頭を軽く撫でてから、スタスタと歩いて行く。カワニシは瞬きを数回繰り返した後、ぱああと顔を明るくさせていた。まだ吉と出るとは決まってないが、先輩達に対する信頼と愛情がそうさせるのだろう。まあ、まだ信じられるなら良いことだ。あとは……ドイも何とかしなきゃな。あいつ等はガキだったから手を出さなかったが、ドイには遠慮なく手を出していこう。俺はそんなことを思いながら、ご機嫌なカワニシを眺めながらただだひたすら笑っていた。


6/10
prev  next
戻る