一先ず、和解

食堂に戻れば既に終わっていたらしく、俺はカワニシとトキトモに誘われるがままに昼食を取る。イケダとノセは少し心を開いてくれたみたいだが、まだまだ時間が掛かりそうだ。別に構わねぇけど。俺が出掛けている時にヨシノセンセが、仕事はもう終わったからゆっくり休んでくれと伝言しに来たそうだ。んー、仕事は終わったし、用具からも要請が来てないからやることないな。部屋の模様替えでもするか、許可は得たし。何色にしようかな……元の俺の部屋に近い感じにするかな。センスは悪くないと思うし、今のままよりはずっと良い。
名残惜しそうにしてくれるカワニシとトキトモの頭を撫で、イケダとノセの頭を軽くポンとして、おばちゃんに挨拶をしてから俺は部屋へと向かう。


(ついでに包帯も作るかな……夕食の時にでもニイノセンセに渡せば平気だろ)


休養を薦めはしたが、食事くらいには顔を出すはず。食事すら眼中なく熟睡してたら……保健室にこっそり置いてくかな。寧ろ、こっそり置いてくか。ニイノセンセに直接渡さなくても良いよな、多分。余計に気を遣わせそうだし。そんなことを考えながら、俺はパンっと手を合わし、錬金術を発動させる。女の子らしいピンクの部屋から、青系の部屋へと変わる。あー、やっぱりこっちの方が落ち着く。氷の錬金術を扱うからか、青系統の色が好みなんだよな……まあ、許可が下りて良かった。
部屋全体を見渡した後、俺は屋根裏へと目線を移す。気付かれないとでも思ってるのかねぇ?


「そんな所に居ないで降りて来いよ。茶くらい出すぞ」
「……っ……」
「お、素直だな感心感心。んで、何の用だ?」


タイラ。そう呼べば、タイラは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、俺が差し出した座布団にちょこんと座る。おー、何か可愛いらしいな。見た目が整ってるからか、何処と無く気品を感じる。女泣かせの顔立ちしてるよな……本当に。女止めたくなるくらいだ。俺は既に女を捨ててるけどな。軍には必要ないし。俺が差し出したお茶を、タイラはじっと見つめる。毒なんか入れてないんだがなぁ……


「毒味でもした方が良いか?入れてねぇけど」
「……!……貴女は毒が効かないのでしょう。貴女が毒味をしても意味がありません」
「あー……まあ、そうだな」
「……それに、私は貴女が毒を入れたとは思っていません」
「……へえ?」
「……数々の無礼、申し訳ありません。許して貰えるなんておこがましいことを思ってはいませんがーー謝罪が、したくて」
「謝罪、ねぇ……屋根裏に居たのは何でだ?謝罪がしたいなら襖の前に居ても良いだろ」

「……あの、その……癖、でして……すみません……」



視線が落ち着かない。所々言い淀んだりするのは、心に迷いがあるのか、慣れていないのか。……まあ、多分後者だよな、タイラみたいな性格だと謝るとかあまりしなさそうだし。……それにしても、一体どんな風のふきまわしなんだか。流石にびっくりだ。あんなに敵対心剥き出しだったのにも関わらず、今では借りてきた猫のように丸くなっている。一生懸命に言葉を選びながら紡いでいるタイラには好感が持てる。まあ、最初から怒ってなんかいないけどな。寧ろ、タイラの行動は間違ってないと思ってるし。状況が状況だからな、無理もない。ましてやタイラは仕事が多かったからな……


(上級生や同い年への説得兼下級生の心のケア……大変だっただろうな)


何回、心のない言葉に傷付けられて来たのだろう。何回、後輩達の涙を見てきたのだろう。自分も泣きたかった筈なのに、後輩達に心配させまいと強がっているタイプだよな、タイラみたいな性格だと。タイラ自身も相当キてる筈だ。憧れていた先輩達や共に学んできた級友への失望。聞いても聞いても止まない後輩達の悲しい声。ーー何故か一回も魅了されない自分自身。そんなタイラに、厳しくなんか出来ない。
必死に言葉を選んでいるタイラの頭を軽く撫でてやれば、タイラは驚いたように顔を上げる。そんなタイラに、俺はにっこりと笑みを浮かべる。


「最初から怒っちゃいねぇよ、タイラの反応は正しいからな」
「……でも、貴女は関係ないじゃないですか……そんな貴女に、私は怪我をさせてしまった……!」
「もう治ったし、怪我なんて日常茶飯事だ。気にすんな」
「貴女は女性ですよ!?」
「分かってるってば。……タイラ、お疲れ様」
「はあ!?」
「もう、1人で抱え込まなくても良いんだぞ。お前が信頼してくれるなら、力になってやる」
「……え……?」
「タイラタキヤシャマル。……今までツラかったろ。肩の荷、少し降ろせ。手伝ってやるから」

「……っ……!!」


俺の言葉に、タイラは瞬きを繰り返した後、音もなくタイラの綺麗な目から一筋の涙が流れる。焦ったように涙を拭うタイラの背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めてやる。抱き締めれば、耳まで真っ赤になったタイラに抗議をされるが、知ったこっちゃねぇな。背中をぽんぽんすれば、タイラは小さく俺の服の裾を掴む。よしよし、良い子だ。とっくに限界だったのだろう。涙が止めどなく出てくるみたいなので、こうすれば誰にも見えないからって囁きながら胸元に押し付けてやれば、タイラはぎゅっと抱き着いてきた。素直だな、可愛い。
一体どのくらい経ったのだろう、落ち着いたのか気恥ずかしそうにしているタイラの頭を撫でれば、もっと女性としての自覚を持ってくれとか言われた。泣いてた時は可愛いかったのになぁ……


「……そういや、どうして信用してくれたんだ?」
「気付かれていたとは思いますが……善法寺先輩と食満先輩との会話を聞いていたんです」
「……誰だ?」
「名前を知らなかったんですか!?左近から聞いていないんですか?」
「カワニシ……?ああ、保健イインチョウと用具イインチョウか」
「……何でそれは知ってるんですか……最初に攻撃したのが善法寺伊作先輩で、次に攻撃したのが食満留三郎先輩です。覚えて下さいね」
「攻撃してきた順番まで分かるんだな。割って入って来ても良かったんだぜ?」
「……部屋から出てきてたあの2人をもう一度説得しようとしたんです。貴女の方が早かったですけど……」
「……成程なぁ……諦めないんだな」

「何回でもやりますよ。可能性がない訳ではありませんし……それに、成績優秀な私に不可能はないのです!」


キリッとしたタイラに思わず笑みが零れる。あー、本当に可愛い奴だ。憎めないよなぁ……当然、タイラは笑うなとか分かってるのかとか口五月蝿く言って来るが、はいはいと適当に言っていれば、拗ねたような表情をする。……本当に可愛いなぁ。整っている顔が羨ましい。美容方法とかあんのかな、ロイに教えてやるかな。肌荒れて来てたし。リザにもシェスカにもウィンリイにもメイにも教えてやろう。まずは俺が聞かなきゃダメだけど、タイラなら教えてくれるだろうな。


「タイラ、俺は貴女って名前じゃねぇんだ。知ってるよな?」
「……ええ、知ってます。貴女の言い方、もう少し何とかなりませんか?異国の方には発音しにくいのも分かりますけど……」
「あー、やっぱり変か。難しいなぁ……短ければ良いんだがなぁ……」
「……滝、で良いです。その方が呼びやすいでしょう。美しくない言い方よりはマシです」
「美しくなくて悪かったなー、タキ」
「…………悪くないですよ、サラさん」

「おう、有り難うな」


にっと笑いながら手を差し出せば、タキはぽかんと間抜け顔を披露する。そんなタキにくすくす笑いながら握手、と言えばタキは慌てたように両手出してきたから、両手で握手する。やりにくいな。タキもそう思ったのか、複雑そうな表情をしていたが、自分が両手を出したから何も言えないのか歯痒そうな表情を浮かべている。何か癒された。認めて貰えたし、距離も少しずつでも詰めていけたら良いな。少しでも、タキの心を癒してあげれるくらいに。きっと誰よりもキツいはずだからな……
思い出したかのようにお茶を飲んだが、冷めていたから文句を言われた上に、淹れ方がなってないとか言われたから、思わず殴ったのは……まあ、不可抗力だな、うん。
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