境遇が似てる存在
それぞれ鍛錬を終え、フワとタケヤはタキを探しに、サンタンダは宿題を友人とやるのだとそれぞれ行動して行った。俺はそんなアイツ等を見送った後、散歩することにする。なかなか広いが、迷ったとしても多分すぐに知ってる道に着けるだろう。…知ってる道、少ないが。まあ、多分何とかなるだろう。暇なんだ、分かってくれ。…俺は誰に言ってるんだろう。髪をくしゃりと掻き乱した後、俺は本能の赴くままに歩き出した。…この考えがあの出会いを引き起こすとは知らずにーー……
***
「…迷った…」
案の定、俺は迷った。溜め息を付き、俺は近くの建物に背中を預ける。…少し疲れたな、歩き過ぎたか。自然が豊富な場所は無人島くらいしか知らないからな…ついつい散策してしまった。その結果が今の状況な訳だが。我ながら呆れるな…この好奇心は何処から来てるのやら。
この匂いは…火薬か。なかなか興味深いが、今は止めておこう。知ってる道を探さなきゃいけないしな。次は何処の道にしようかと辺りを見渡したら、不意に水色が見えた。
(水色…1年生か。イナデラとツルマチ、どちらの友人だろうな。3組あるみたいだし、2人と違うかも知れないけど)
因みにい組とは組とろ組があるらしい。いろは、か。分かりやすくて良いな。あの水色が何処の組なのかは知らないが、人が居るのは有り難い。道を教えて貰おう。…素直に教えてくれると良いんだが。俺は警戒されないようにゆっくり近付き、少しだけ距離を置いて立ち止まる。…近過ぎるとびっくりされるだろうからな。
「…なあ、ちょっと良いか?」
「…っ!?」
「わー、待て待て!危害は加えねぇから!道を聞きたいだけだ!!」
「……天女様、迷ったんすか?先輩達は…?」
「んなもん知らねぇよ。興味ないし。なぁ、食堂に行きたいんだがどうしたら行ける?」
「…天女様、今まで何処に居たんすか?」
「(無視かよ…)修練場だけど」
「…だったら何で煙硝蔵の近くまで来てるんすか。逆方向ですよ?」
「マジか」
思わず素で聞けば、水色はこくりと頷く。…俺、方向音痴だったのか…?聞けば修練場からエンショーグラまではどうやっても辿り着けないらしい。罠ばかりがある道を通らなきゃいけないみたいなんだが……罠なんてあったか?思わず呟けば、どうやって来たのかと問われたから適当と答えれば、水色は呆れたような表情を浮かべた。…解せぬ。
水色はセッツノキリマルと言うらしい。イナデラと同じクラスなんだそうだ。笑うと八重歯が可愛い。言いにくい名前だなぁ、と思わず呟けばキリとかでも良いって言われたから有り難く言葉に甘えさせて貰おう。
「キリは何処のイインカイなんだ?」
「俺は図書ですよー、他の委員会と比べたら暇そうなんで図書にしたんすけど、なかなか仕事が多くて」
「おいおい、そんなこと言ったらフワが泣くぞー」
「不破先輩を知ってるんすか!?」
「さっき会って来た。多分、次からイインカイ出ると思うぞ」
「……良かった……」
「あとはタケヤとゼンポウジとケマかな。あの3人も近い内にイインカイ出るんじゃねぇかな」
「本当ですか!!虎若と三治郎と乱太郎としんべヱと喜三太が喜びます!」
ぱあっと顔を明るくし、本当に嬉しそうに笑うキリに思わず笑みが零れる。友達が大好きなんだな、とか優しいんだな、とか在り来たりな感想しか出て来ない自分の語彙力を呪いたくなるが、気にしないようにしておこう。…でもまあ、少しくらいは勉強した方が良かった気もしなくもない。無鉄砲に突っ込んで怒られたからな…
「サラさんは本当に天女様らしくないっすね〜色仕掛けとかしないんすか?」
「ガキに色仕掛けしてどうすんだよ…それに、俺は女として不良品だしな」
「不良品って…そんなこと言ったら親が泣きますよ」
「いーんだよ、親は既に死んでる。んで、やっちゃいけないって口酸っぱく言ってた奴にも手を出した親不孝者だ」
「…え…?」
「…それに、不良品なのは確かだ。俺はーーガキが、産めない」
内臓の一部も、持ってかれた。絶対に孕まないってことはないが、奇跡が起きないと有り得ないことだと医者に言われた。そりゃもう、何人の医者にもだ。俺としては、女は子供を産んで、家庭を築き上げるのが女の幸せであり仕事だと思ってる。母さんがそうだったように。…でも、俺はそれが出来ない。否、出来ない身体に自分がしたんだ。許されるべきじゃないさ。
暫くの間、沈黙が流れる。流石にガキには重かったか…俺も何で話したんだろうな。適当に話を逸らそうとキリの方を見て……慌てた。
「ちょっ…キリ!?どうして泣いてんだよ!」
「…おれ…」
「悪かった。聞きたくないよな、こんな話。何か違う話でも…何が良い!?」
「…違うんすよ…おれ…」
「(ああ…これは聞いて欲しいパターンだな…)…うん、何だ?」
「…おれも、親…居ないんです…っ!」
小さな体からの必死な叫びに、俺は言葉を失う。…この世界は平和ではない。戦も結構あるとは聞いていたが……まさかキリまで犠牲者とは。俺みたいに仕組まれてた訳ではないよな…?そうではないと信じたいんだが…
今のキリはドイに世話になってるらしいと聞いて…俺は確信した。ドイが傷付け、未だに引きずっているのはーーキリのことなんだと。
「…そうか、辛かったな」
「……まさか、 サラさんも親を失ってるなんて思わなかったです」
「そいつはお互い様だろ。まさかキリもとは思わなかった。こんなに小さい体で大変だったなーよしよし」
「うわっ…子供扱いしないで下さいよーっ!」
「俺から言わせれば子供だっての。ドイが羨ましいなー」
「…そう、ですか?」
「俺なら幸せだけどな。こんな可愛い子が側に居てくれんなら」
「……おれ、このまま側に居ても良いんすかね……土井先生の幸せ、奪ってないかな…」
「…さあな、俺はドイじゃないから分からん。でも、キリを大切だと思ってるから今悩んでるんじゃねぇかな」
「……ぅ……」
「お前が自分を責めるのは御門違いだ。こういうのは大人の仕事だよ。…ガキはガキらしくハシャいでれば良いんだ」
「…はは…何すか、それー」
涙を浮かべながらも笑ってくれるキリに、安堵する。正直、完璧に吹っ切れた訳ではないだろう。…以前、何人目かの天女に言われたそうだ。キリが居るからドイが結婚出来ないのだと。そんなの、全てが間違ってる。他にも天女は言葉巧みにキリに迫って来たらしい。今まで辛かったね、これからは私が居るから大丈夫よ、とか言ってたらしいが……吐き気がする。そっちは知ってるかも知らねぇが、こっちは知らないんだぞ。何で知らない奴に大丈夫とか言われなきゃいけないんだ。気持ち悪い。…それに、同情なんてされたくねぇ、何も知らない奴に分かりっこねぇんだから。
「そうですよね!思えば皆が皆、土井先生に好かれたいからおれに近付いて来たのかも…」
「はあ?ドイも罪な男だな……アイツってモテんの?」
「さぁ……格好良い方だとは思いますけど、贔屓してないとは言えないですし……サラさんから見たらどうですか?」
「んー…好みではねぇな。アイツもだろうけど」
「…おれ、サラさんだったらお母さんになってくれても良いです」
「…はは、そいつは有り難うな。多分ないけど」
俺の言葉に、キリは少し拗ねたような顔をする。可愛いなあ……正直、ガキが産めない俺個人としては有り難いとは思う。キリは可愛いし、境遇が似てるからか贔屓目に見るかも知らねぇ。ドイも嫌いではないけど……そういう目で見れるかと問われれば……今は無理かな。これからは分からねぇけど、多分ない。俺の中では、ヒューズを越える男なんて存在しないからな。
「…むー…おれ、土井先生には可愛いお嫁さんを貰って欲しいんですよ!」
「はい、ダウト。俺は可愛いくないから論外だな」
「サラさんは可愛いです!」
「はいはい、有り難うな」
「冗談じゃないですよ!?」
「分かってるって」
「分かってないじゃないじゃないですかー!あ、土井先生がダメならおれならどうですか?ピチピチっすよ!」
「お前が大人になったら俺は何歳だよ…」
「えーっと…おれが18になったら32ですかね…?おれはアリですよ!」
「俺が無しだわ。お前は若いんだから同い年にしとけ」
「…ちぇー…」
正直、キリの気持ちは嬉しいが、俺はこの世界に居座る気はねえ。俺を慕ってくれてる奴等には悪いが、俺は帰らなきゃならねぇ。ロイが、リザが、待ってる。エドとアルは俺が異世界に居るの知ってんのかなー、知ってたらアルは心配してくれそうだが、エドはしないだろうな。寧ろ羨ましがられそうだ。異世界とか、そういう未知なること好きだしな。…流石にこれをキリに言うつもりはないが。キリは可愛いらしく俺にアピールしてくるが、俺は笑いながら受け流す。
…俺に、人を幸せにすることも幸せになることも許されちゃいけないんだよ。ごめんな、キリ。気持ちだけ貰っておくからな。
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