暴君と呼ばれる者
仲直りをしたは組とドイは、完璧に復活したドイに宿題のことを話題に出され、ショウ以外はやってなかったらしく、ドイの雷が落ちる。皆は文句を言いながら俺の部屋を出て行ったが、その顔は心底嬉しそうだったから問題はもうないだろう。ドイは逃げないか監視する為だとか言って追い掛けたが、あれは多分一緒に居たいだけだろう。恋しくなったんだろうな。
ショウは後を追わなかったから聞いてみれば、ドイに全て任せると言っていた。…今まで苦労してたんだろうな。
「ショウの負担も減ると良いな」
「…どうでしょうね。ぼく達は組はアホのは組で有名ですから」
「それ、自分で言ってて悲しくならないか…?」
「…もう慣れました」
「…そっか。お疲れさん」
「…あ、有り難うございます…」
ぽんぽんと頭を撫でれば、ショウは照れ臭そうに笑う。視線を彷徨わせている姿は本当に可愛いらしい。ショウみたいな出来た子供は色々溜め込んでたりするから、ちょくちょく聞いてやれるような関係になれれば良いな。きっと今まで大変だっただろうからな…
ショウと他愛のない話をしていれば、ドカンッ!と凄い音が聞こえて来た。そんなに遠くない。
「何だ、敵襲か!?」
「分かりませんけど、あれは…6年生の長屋からだと思います」
「…ショウ、冷静だな…?」
「良く言われます。…行かないんですか?」
「…何か調子狂うな…行くよ、案内してくれ」
結構凄い音だったのにも関わらず、飄々としているショウに思わず苦笑いが零れる。は組は実習に慣れてるとは聞いていたが、この反応は予想外過ぎる。まだ10歳だよな…?冷静過ぎるだろ、流石に。そんなことを思いつつも、案内してくれるショウの後を追い掛けて行った。
***
音のした方に行けば、並んだ部屋の中の1つから煙が上がっていた。どうやらこの部屋から聞こえて来たみたいだな…ショウに聞けば、此処は暴君で有名な人の部屋でもあるらしく、犯人は多分そいつだろう。ただ、天女の毒牙に掛かってからは気味が悪いほどに静かだったらしく、何故こんなことになっているのかと首を傾げているショウを尻目に、こっそりと部屋を覗き込んで……俺は声を漏らす。
「…タキ…?」
「…う…っ、サラさん…?」
「どうしたんだ、酷い怪我じゃないか…!待ってろ、今治療してやるから…!」
「…だめ、です…早く、逃げて下さい…!」
「はあ?!そんなこと出来る訳…「サラさん、逃げて下さい!」ショウ…?うおっ!」
「ん?お前が新しい天女様か?」
焦ったような声のショウに気を取られた瞬間、ヒュンッと言う音と共に拳が降ってくる。咄嗟に俺はタキを抱き寄せ、結界を張りながら後ろに飛ぶ。ショウも途中で抱き抱え、離れた場所でショウだけを降ろす。ショウは状況が読めないのか困惑していたが、タキの姿を見て、顔色を変えた。
「滝夜叉丸先輩…!?」
「ショウ、誰か呼んで来てくれないか。出来ればセンセ達が良い」
「は、はい…分かりました!」
「……サラさん、お願いですから逃げて下さい…っ」
「…お前は黙ってろ。よぉ、暴君サマ。何でタキにこんなことしてるんだ?」
「何だ、私を知っているのか?滝夜叉丸が言ったんだ。私が勝ったら体育委員に出てくれとな。そうだろう、滝夜叉丸」
「……っ……」
「馬鹿な奴だ。私にお前が勝てる訳がないだろう」
「…何でイインカイに出ない?お前はイインチョウじゃないのか」
「出る意味がないから、ではダメか?」
俺の問いに、にっこりと笑顔で言ったこいつに、怒りが沸く。こいつの言葉に、タキはショックを受けたのか、悲しそうに顔を歪める。…これ以上、タキに何かを聞かせるのは毒だな。俺はそう判断し、タキを守る為に厚めの結界を錬成する。タキは驚き、何か言いたげな顔をしていたが、無視させて貰おう。悪いな、タキ。
「選手交替だ、クソガキ。俺がお前の目を醒まさせてやるよ」
「お、天女様は闘えるのか?私が勝ったら何をしてくれるんだ?ヤらせてくれるのか?」
「万が一にも有り得ねぇけど…そうだな、俺が負けたら捧げてやるよ」
「それはやる気が出て来たな!今更なしだとか言わないだろう?」
「お前のやる気は嫌な予感しかしないな…まあ、俺が負けるのは有り得ないけど撤回の方が有り得ないから安心しな。女に二言はねぇよ」
俺の言葉に、暴君はにやりと狂気を孕んだ笑みを浮かべながら拳を降ろしてくる。それを躱せば、今度は足払いをして来たので、俺はジャンプして躱し、暴君の腹目掛けて拳を振り降ろす。武器は使わねぇ、錬金術も使わねぇ。こいつには武術だけで十分だ。身のこなしも力も15歳にしてはある方だが……お前みたいなレベル、わんさか居るんだよ向こうにはな。
「ぐっ…!はは、なかなかやるな天女様!」
「まだまだ本気出してないぜ?何だ、口程にもないんだな」
「!…私だってまだ本気じゃない!」
「だったら早く本気出せよ。退屈過ぎて…欠伸が出るぜ」
「はは、そう来なくては面白くないな、天女様!!」
「強がってんじゃねぇよ、クソガキ」
回し蹴りをして来る暴君の足を掴み、放り投げる。当然、途中で体勢を立て直してこっちに向かって来るので、タイミングを合わせて回り蹴りを食らわしてやる。よし、手応えありだ。一発くらいなら食らってやっても良いけど、こいつが調子に乗らないとも限らないからな…完膚なきまでに叩きのめさなければいけないだろう。
再び向かって来た暴君の攻撃を回避し、背後に回り込んでから腕を掴み、背負い投げを食らわした後、暴君に乗っかり首に手を掛ける。
「…っ…!?」
「俺の勝ち。続けても良いけど、結果は変わらないぜ?」
「…くそ…!」
「お前が真面目に鍛錬してたらもう少しはマシだったかもな、弱過ぎるよお前」
「…………」
「自分が情けないのかも知れねぇけど、苛々を後輩にぶつけるのは御門違いだろ。後悔に人を巻き込むんじゃねぇよ、クソガキ」
こいつが心底イインカイに出たくない訳ではないってことは拳を交えていたら分かることだ。こいつは自分への怒りをコントロール出来なくなって、周りに当たっていただけだろう。抑えが効かないんだろうな。だから暴君って呼ばれるんだよ。
名前を呼ばれて振り向けば、ショウがニイノセンセとヤマダセンセを連れてやって来る。俺は暴君の上から降り、首根っこを掴む。ぐえ、と声が漏れたが気にしない。
「ヤマダセンセ。こいつ、牢屋とかで頭冷やさせた方が良いと思うよ」
「サラさんの気持ちは分かるが、首根っこを掴むのはやり過ぎだ…離してやりなさい」
「大丈夫だろ、こいつなら。あ、ニイノセンセ。タキならこっち。一応手当はしたけど、診て貰っても良いか?」
「ええ、勿論です」
「サラさん、食堂に行ったら新野先生と山田先生がお茶を飲んでいらしたので連れて来ました!お怪我はありませんか?」
「有り難うな、ショウ。怪我なんてしてねぇよ」
「…完敗だ。悔しいが妙に晴れ晴れしい。何だか不思議な気分だ!」
首根っこを掴まれたまま、愉快そうに笑う暴君にイラっときて、少し力を強めればぐえと声を漏らしたので、ヤマダセンセに全力で止められた。解せぬ。とことんやった方が良いとは思うが、ショウにもやり過ぎだと窘められたから控えておこう。俺の感覚が可笑しいのか…?
あの後、ヤマダセンセが暴君を連れて行き、俺は部屋を錬金術で完璧に直した後、ニイノセンセとショウと一緒にタキを連れて医務室に向かった。医務室の奥にある襖を開くと布団が2組敷かれており、俺はその内の1つにタキを寝かせた。
「一通りの治療は終わりました。後は安静にしていれば大丈夫でしょう」
「有り難うな、ニイノセンセ。ゆっくり休んでくれとか言ったのに仕事させてすまない」
「いえいえ、ゆっくり出来ましたから大丈夫ですよ」
「滝夜叉丸先輩、安静にしてないと金吾呼びますからね」
「…う…」
「時友先輩の方が良いですか?」
「分かった分かった!ちゃんと大人しくしている!」
ショウの言葉に、タキは焦りながら布団を被る。キンゴとトキトモ?と聞けば、ニイノセンセが同じ体育イインなんだと教えてくれた。タキは後輩にかなり甘いらしく、キンゴとトキトモに泣かれるのがかなり困るらしい。成程…これは良いことを聞いた。タキが無理しそうな時は2人の名前を出すかな、幸い顔見知りだしな。
俺はタキの看病を買って出て、ニイノセンセとショウには自室に戻って貰った。タキは大丈夫だとか言っていたが、やはり心配だからな。話し相手も欲しいだろうしな。そんなことを考えながら、なんだかんだ言っているタキの言葉を無視していた。
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