委員長の復活

あれからは少し大変だった。どうやら今までの疲れがドッと出たらしく、高熱がタキを蝕んでいた。不幸中の幸いか、俺は氷が使えるので、冷やしてやったり薬を与えたりしていた。飯は話を聞いたのかカワニシがお粥を作ってくれたので、それをゆっくり食わせた。所詮はあーんと言うやつだ。タキは抵抗したが、無理矢理押し込むぞと脅したら食べてくれた。素直なのは良いことだな。
その後、寝れないというタキの話し相手をしたら、いつの間にか寝て居たらしい。ちらりとタキを見れば、すうすうと可愛いらしい寝息を立てていて、俺はくすりと笑みを零した。


「熱は……うん、大分落ち着いたな。今は何時だ…?真っ暗だな…」
「ーーおはようございます、よく眠れましたか?今は寅二刻ですよ」
「…こいつは驚いた。どうしたんだ、ゼンポウジ」
「…僕は僕の仕事をしてるだけですよ。遅くなりましたけど」
「…戻って来ただけでも嬉しいんじゃねぇかな。因みに寅二刻っつーのは何時なんだ?」
「そうだと嬉しいんですけどね。ああ…えっと、夜中の3時半、で合ってますかね?」
「ああ、それなら分かる。…結構寝てたか?」

「僕が来た時には既に寝てましたよ。時間帯にすると…ええと、5時間くらいですかね?」


5時間。それは結構寝ていたな……そんなことを思いながら、ゼンポウジの方に行こうとすれば、妙に体が重いように感じて目を向ければ、タキが俺の服の裾を掴んでいた。不安だったのか熱に浮かされてたのかは分からないが、なかなか可愛いことをするな。ゼンポウジが微笑ましそうに笑っていたのはこれが理由か。ぽんぽんと頭を撫でれば、タキは嬉しそうに口元を緩める。…可愛いなぁ…


「ゼンポウジは寝なくて良いのか?」
「…僕は今まで休んでましたから。その分働きたいんです。ちゃんと新野先生の許可は取ってますよ。無理もしません」
「…ニイノセンセ、喜んでただろ」
「…はい。新野先生だけじゃなく、乱太郎も伏木蔵も左近も数馬も…喜んでくれました」
「当たり前だろ。ずっと待ってたんだからな」

「…僕は、幸せ者ですね」


噛み締めるように呟いたゼンポウジに、俺は力強く頷く。ゼンポウジだけではない、他の奴等も幸せ者だと思う。酷い言葉を浴びせられたり、手を振り払われても帰りを待ってる人が居る。自分達の穴を寝る間も惜しんで埋める為に走り回るセンセ達が居る。これは決して当たり前ではない。…それが、長年築き上げた絆なんだろう。信頼関係って言った方がしっくり来るかもな。


「…あ、クローズさんは小平太に会ったんですよね?」
「サラで良い。いや、知らねぇよ?」
「え?あ、あー…七松小平太ですよ。滝夜叉丸に怪我をさせ、貴女が力で捩じ伏せた彼です」
「…暴君サマ?」
「そうですそうです。怪我とかしてませんか?小平太は無駄に力が強いので…心配していたんです」
「あれくらいなら怪我なんてしねぇよ。力は確かに強かったが、あれくらいのレベルならわんさか居る世界で育ってるからな」
「小平太同等の力の持ち主ですか…想像出来ないですね。小平太は6年の中でも1位2位を争う武闘派なんですよ。留さんと文次郎も武闘派なんですけどね」
「武闘派ねぇ…ゼンポウジは?」

「僕は……調合の方が得意ですね」


俺の問い掛けに、ゼンポウジは困ったように笑いながら水が入った桶で手拭いを濡らし、タキの額に乗せる。心地良いのか、気持ち良さげに口元を緩めるタキを、ゼンポウジは慈愛に満ちた表情で眺めていた。ゼンポウジは…どことなく聖母って感じがするな。全員に平等に接しそうだ。だからこそ、慕われているのだろうな…


「ゼンポウジ」
「はい?」
「俺が帰って新しい天女が来ても、これからは魅力されるんじゃねぇぞ。懲りただろ、大事な人を傷付けるのは」
「!…ええ。もう魅力なんかされませんよ。大切な人達を傷付けるのは絶対にもうしたくないですから」
「ん。約束な、ゼンポウジ。今度また惑わされたりしたら、異世界だろうが何だろうが頭を叩きに舞い戻って来るからな」
「はは……それは気を付けないといけませんね。サラさんならやり兼ねないです」

「俺は嘘は言わねぇ主義だ。有言実行するから覚悟しときな」


にいっと笑みを浮かべながら言えば、ゼンポウジは悪い顔をしていると言いながらくすくす笑う。そんなに悪い顔してるか…?よく分からないが、ゼンポウジが楽しそうだから別に良いかな。ガキはガキらしく笑っていれば良いんだ。成長したら笑いたくなくても笑わなきゃいけない時や笑えなくなる時が来る。だから、その前までは何も考えずに笑ってろ。子供は宝だからな。ガキは何も考えなくて良いんだ。まあ、15歳ってのはなかなか難しい年頃だけどな。


「…あの、女性にこんなことを聞くのは失礼かも知れないですけど…」
「ん?何だよ、言ってみな」
「あ、有り難うございます…!…ええと…単刀直入に言いますけど…今、お付き合いされてる方は居ますか…?」
「何だ、そんなことか。居ねぇよ」
「そう、ですか……自己紹介の時も思ったのですが、この世界であまり歳を言わない方が良いですよ。その、何というか……からかう人も、中には居ますので」
「からかう?」
「はい……この世界では嫁ぐのが早いので……その、行き遅れと、言う人も、居ますので…」
「……忠告有り難うよ、肝に免じておく」

「と、特に!鉢屋三郎には気を付けて下さい!」


ハチヤサブロウ。叫ぶように言われた名前に、俺は瞬きを繰り返す。まだ会ったことはない、筈だよな。詳しく聞いてみれば、ハチヤは変装の名人らしく、誰もハチヤの本当の姿を見たことがないらしい。普段はフワの容姿で居るらしく、ソウニンと呼ばれて居るそうだ。フワも厄介そうな奴に目を付けられてるな、可哀想に。思わず同情する。詳しく聞けば聞くほど面倒臭そうな奴だ。あまり会いたくはねぇな……


「ゼンポウジ。良い機会だから他に危険人物、と言うか注意しなきゃいけない奴が居たら教えてくれないか」
「あ、はい。勿論構いませんよ。そうですね……6年だと潮江文次郎と立花仙蔵ですかね。長次は多分大丈夫かな…小平太は多分もう大丈夫だとは思いますけど、念の為気を付けて下さい」
「容姿とかも教えて貰って良いか?」
「ええと……仙蔵は髪が長いです。サラサラのストレートで、女顔、してるので多分すぐに分かります。文次郎は隈が凄いです。後、彼は特に天女への恨みが凄いので…見かけたらすぐに攻撃をして来るかも知れません」
「…シオエの特徴がやけに少ないな?」

「……まあ、文次郎も仙蔵も分かりやすいので大丈夫だと思いますよ。たまに鉢屋が変装してたりもするので安心は出来ないですけどね」


困ったように笑うゼンポウジに対し、俺はハチヤについて考えていた。どちらにせよ、そいつには早めに会っといた方が良いだろう。気配なり癖なり把握しておかないと、面倒なことになりそうだからな……フワやタケヤに変装しているなら話は別だが、知らない人に変装してると本人だと勘違いしそうだ。まあ、勘違いしても逆恨みさえして来なければ問題もないんだが、この状況だとそれさえも分からないからな……俺は小さく溜息を付き、髪を乱暴に掻き乱した。ああ、本当に面倒臭いことになりそうだ。
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