帰還者と今後の課題

シナセンセに連れられて、初めてくノ一に会った。ピンク色の忍び服に身を包む彼女達は可愛いかったが…まあ、うん。キリ達がくノ一は恐ろしいと言っていた鱗片は感じたかな、敵にしたら厄介だろうな、多分。彼女達は俺を受け入れてくれるらしく、皆で俺が新しく生活する部屋に連れて行ってくれた。彼女達曰く、サラさんなら大丈夫と口を揃えて言われたのは非常に嬉しかった。くノ一で何か分からなかったらシナセンセ、シナセンセが居なかったらユキ、トモミ、シゲに聞いてくれと言われた。シゲはシンの恋人なんだそうだ、ほのぼのカップルなんだろうな。見てみたい。
軽いやり取りを終え、任務があるからまた夜に!食堂行きますねー、なんて声を掛けられながら彼女達は元気良く駆け出して行く。そんな姿を見送ってから、俺はシナセンセとガクエンチョウの部屋まで向かった。部屋に近付くに連れ、声が聞こえて来て、俺とシナセンセは顔を見合わせる。


「あれ、来客中か?」
「おかしいわね、誰も来ない筈だけれど…」
「出直す?」
「そうねぇ……許可が下りれば良いのよね?だったら早い方が良いわ、行きましょう」

「はーい、お邪魔しますよ、ガクエンチョウ」


あの部屋が気に入らないんだろうな、シナセンセ。そんなことを思いながら、一応声を掛け、襖をゆっくり開ける。中を覗けば、俺の存在に驚きつつも朗らかに笑うガクエンチョウと嬉しそうに笑うヘムヘム、そして見知らぬ紫色の服に身を包んだ男が居た。4年か、なんて思いながら身構えれば、シナセンセが嬉しそうな声色で浜くん、帰って来てたのね。と声を掛ければ、俺の背中を押した。……あ、自己紹介?


「初めまして、サラ・クローズだ。サラが名前ね、雑用係だ、宜しく」
「貴女が天女様なんですね、初めて見ました!浜守一郎です、宜しくお願いします!」
「浜はとある任務に出て貰っていてなあ、今帰って来たばかりなんじゃ。そんなに身構えなくても大丈夫じゃ、こいつはまだ成り立てだからのう、サラには敵わんよ」
「今、サラに勝てる人は居ないんじゃないかしら?七松くんも返り討ちにしたんでしょう?」
「だって彼奴周り見えてねぇもん、動きが単調過ぎてつまらなかった。センセ達だって疲労さえ溜まってなきゃ強いだろー」
「…話は全部聞きました。何でも異世界から来たとか。大変でしたね」
「…そいつはお互い様だろ。級友には誰が会ったのか?」
「いえ…まだ…」
「そっか。…じゃあさ、タキに会ってやってくんね?タキ、1番疲れてると思うから。医務室に居るよ、起きてるかは分からないけどな」
「え…?!た、滝夜叉丸が、ですか?」

「彼奴は責任感強いみたいだからな、労わってやってくれ」


彼奴は板挟みにされてたんだ。少しくらい、優しい奴が居たって良いだろ?俺の言葉に、ハマは全力で頷き、ガクエンチョウに一礼してから走って行った。…廊下を走るなっていうドイの声が聞こえた気がするが、まあ、気のせいってことで。ちらっとシナセンセに向かって目配せれば、シナセンセは頷く。ヘムヘムが用意してくれたお茶を貰い、頂きますと言ってから口にする。うん、美味い。美味しいよ、と言えばヘムヘムは嬉しそうに一鳴きする。可愛い。


「どうしたんじゃ、改まって。シナ先生も一緒とは珍しいのう」
「あー、まあな、うん。ガクエンチョウ、俺の部屋なんだけどさ、移動したいんだけどダメ?」
「ほう?」
「学園長先生。くノ一練に空き部屋があります。くノ一の子達との顔合わせもすみました、サラは良い子です。あんな阿婆擦れの居た部屋に居させたくないのです」
「そうじゃのう……確かにあの部屋は良くないからのう、生徒にとっても先生にとっても。…宜しい、許可しよう。儂もあの部屋は嫌いじゃからな。くノ一部屋が空いてるとは知らなかったんじゃ、すまんのう」
「大丈夫大丈夫、気にすんなって。あと、もう一個あるんだけど良い?」
「ほう、何じゃ?」
「あの部屋、ぶっ壊して作り直すつもりはない?」
「ーーは?」
「サラ、それじゃあ分からないわよ。学園長先生、サラはあの部屋を一度壊して、違う部屋を新たに作りたいそうなんです、あの部屋があるのは辛いだろう、とサラの提案なんです」
「成程のう。…確かに、あの部屋があると縛り付けられる子も居そうじゃ。許可しよう。業者を頼まんとなあ…」

「いやいや、そんなんに金使ったら勿体ないぜ?俺を使ってくれよ」


此処に置いて貰ってるんだ、これくらいやらせてくれ。俺の言葉に、ガクエンチョウはぱちくりと目を瞬かせる。そんなガクエンチョウの様子に、俺は錬金術で出来ることを軽く説明する。ほう、と楽しそうにしつつも興味深いといった表情に、手応えは掴めたかな、と内心ほくそ笑む。シナセンセは俺の使ってくれ発言が大層気に入らなかったらしく、不満そうな表情を浮かべながら、咎めるように俺の頭を軽く叩いた。痛いってば。


「シナセンセ、痛いって。何すんだよ」
「使ってくれ、なんて言わないで頂戴。貴女は人間よ?」
「いーんだよ、向こうだとこんな扱いだし。上はクズばかりだからなー。良い奴は良い奴だけどな」
「だからって…!!…分かったわ、その考えを一から変えさせるわ。覚悟してね、サラ」
「え」
「あの子達にも協力を得ないとね。皆サラが気に入ったようだし、喜んで参戦してくれるでしょうね」
「は、マジで!?いやいや、困る!ガクエンチョウからも何か言ってくれよ!」
「ほっほっほ。儂も賛成じゃよ、シナ先生。ずっと思っていたがサラは少し自分を卑下し過ぎじゃ、自分を大切にしてやりなさい。今の儂等にはサラが必要なんじゃ。道具扱いなんてする訳ないじゃろう」
「…俺の味方は居ないの?」
「居ないじゃろうな」
「居る訳ないじゃない」

「…遺憾である…!」


温度差っつーのかな、この扱いの差は。軍人はお国の為に死んでこそ、みたいな教育を受けて来た俺にとって、人間らしく生きて良いってのはまさに青天の霹靂って奴だな、うん。人間らしくってか、人間だけどな。でも、軍で生き残るには感情を捨てなきゃ生き残れなかった訳だしな。…俺は、此処で人間らしく過ごして良いのか、難しいな。


「部屋のことなんじゃがな、部屋を壊すのは勿論大賛成じゃ。錬金術とやらを間近で見るチャンスだからのう」
「んあ、ガクエンチョウは錬金術に興味あんの?」
「ない訳がないじゃろう。見せてくれるじゃろ?」
「あー…まあ、減るもんじゃないしな。構わないけど」
「あら、なら私もあの子達にも見せたいから呼んでも良いかしら?」
「ユキ達に?別に良いけど」
「いっそのこと皆で見るのも手じゃな。…あの部屋は忌々しい思い出だらけだからのう、断ち切るチャンスかも知れん」
「……ええ、そうですわね」
「…んじゃ、早く残りの奴等に会わないとな」
「「え?」」

「チャンスなんだろ?」


ニッと笑いながら言えば、ガクエンチョウとシナセンセは心底嬉しそうに何度も何度も力強く頷く。錬金術は見せびらかすもんじゃねぇけど、ヒトの為になるんだから別に良いよな?ロイやリザは良い顔しないだろうな、アルやウィンリィなら喜んでくれそうだけど。エドはーーやってみろ、って言ってくれるかな。


(彼奴はーー俺を理解してくれてたからな)


ロイやリザのように否定から入るのではなく、あ、勿論ロイやリザが心配してるからこそってのは分かってるけどな。アルやウィンリィみたいにサラさんなら大丈夫って言われるのもな…いや、信頼してくれるのは嬉しいんだけどもな。エドはやってみたら良いんじゃね?って楽観的だけど、それでサラの気が済むなら良いじゃねぇか。なんて言ってくれる。そんなエドに俺は何回も救われた。今回も、救ってくれると助かるんだがなあ…ま、こればかりは自分で頑張るしかねぇな。
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