考え方の違いを知る

こへと一緒に食堂に戻れば、5年と2年の全員で厨房に入っていて、おばちゃんはそんな様子を椅子に座りながら眺めていた。おばちゃん、と声を掛ければお帰り!と朗らかに声を掛けられ、俺の隣にいるこへに気付いたおばちゃんは驚いたように目を見開いた後、お帰りなさいと笑顔で告げる。そんなおばちゃんに、こへは少しだけ感極まったような表情を浮かべつつ、ただいま!と声を張る。厨房に居た筈のトキトモが一瞬でこへに抱き付いたのにはびっくりだ。こへもびっくりしているが、嬉しそうだから今は2人きりにしてやるかな。


「おばちゃん、休憩中?」
「そうなのよ。不破くん達が今まで迷惑掛けたからってお昼ご飯作ってくれるらしいのよ、有り難いわあ」
「へえ。そいつは良かった、おばちゃんの負担が減るな。つーことはカワニシ達はフワ達の手伝いか、良い光景だな」
「そうよねえ。…皆が嬉しそうで良かったわ」
「だな。タケヤ、俺も作りたいのがあるからそっち行って良いかー?」
「あ、サラさん!お帰りなさい!勿論大丈夫ですよ!三郎と勘右衛門は向こうに行け、サラさんに害があったら大変だからな」
「寧ろ休んでくれても良いけどね。サラさん、お帰りなさい。何を作るんですか?」
「邪魔するぜ。オムライスを作るつもりだ。犬に懐かれてな」
「犬って…七松先輩ですか?あの人、牢から出ても大丈夫だったんですか?」
「さあな。俺が会った時は既に牢から出てたし、大丈夫なんじゃないか?彼奴はもう大丈夫だからそんなに心配しなくても大丈夫だぞ、イケダ、ノセ。トキトモが心配なのは分かるけどな」
「な、べ、別に心配なんてしてませんよ!」
「…あんなに嬉しそうな四郎兵衛を見たのは久し振りです」

「大好きな先輩に会えたんだから嬉しくねえ筈がねえだろうな。こへ、待ってる間トキトモと話してやれよ!」


俺の言葉に、こへは分かったー!と言いながら自分の腰辺りに戯(じゃ)れ付いてくるトキトモを抱き上げ、自分の膝に乗せる。トキトモは驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに破顔していた。可愛いな、うん。俺の言うことを素直に聞いているこへが信じられない様子のハチヤとオハマをククチが遠避け、興味深そうに俺の手付きを見つめる。毒なんて入れないけどな。
卵を素早く解き、味付けをしてからオムレツを作る。別のフライパンでケチャップライスを作り、オムレツで飯を包むようにすれば…完成だ。


「う、美味そう…!」
「サラさん、本当に料理上手なんですね…七松先輩羨ましい…」
「タケヤとフワ達の飯も期待してるからな。また機会があれば作ってやるよ」
「サラさん、オムライスに字を描かないんですか?」
「字?あー…そこまでする義理はねえな、うん。これからの成長次第ってことかな」
「成長?」
「ああ、俺が鍛え直すからな」
「「「え」」」
「こへー、オムライス出来たぞー。トキトモ、お前は何か作ってないのか?一緒に食って貰おうぜ」
「あ、僕、サラダ作ったんだなあ…七松先輩、食べてくれますか…?」
「ん?四郎兵衛の作ったサラダなら喜んで食うぞ!一緒にオムライス食べような!」
「はいっ!」

「…彼奴に笑顔が戻って良かった」


トキトモは普段から笑顔だったが、無理矢理明るく振る舞ってるような気がしてならなかったんだよな。あれがトキトモの心からの笑顔か、ふにゃふにゃしてて何か和むな。オムライス片手にお盆に茶を4つ載せて持って行けば、いつの間に!?って驚いてる声がする。これくらい容易いだろう?こへの前にオムライスとトキトモ作のサラダが並び、キラキラと目を輝かせる。そんな態度にふ、と笑みを零しながら茶をこへの前に1つ、トキトモとおばちゃんと俺の前に1つずつ置いて、おばちゃんの隣に腰掛ける。食って良いか!!と目で訴えてくるこへに、味わって食えよ、と言って促せば、こへは笑顔で頂きます!と言ってからオムライスを口に含んだ。


「ーー美味い!!」
「俺が作ったんだからとーぜん。おばちゃん、食ってみて貰っても良い?」
「あら、良いのかい?なら頂こうかしら……ふわふわのトロトロね、サラちゃんの料理は美味しいのねぇ、これならお金出したいくらいだわ」
「おばちゃんにそう言って貰えるとは光栄だな。トキトモはこへから分けて貰ってな」
「四郎兵衛、あーん」
「あーん……美味しいです!!卵が溶けちゃいました!!」
「はっは、そうだろそうだろ」
「オムライスは美味いしサラダも美味い!茶は私好みだし、鍛錬頑張れそうだな!!教官、まずは何をするんだ!?」
「あー、夜までに戻ってくれば良いか?」
「そうねえ。お昼は不破くん達に任せるから夜ご飯までに帰って来てくれれば良いわよ」
「了解。まずは走り込みからだな、ちょうど良い場所はないか?」
「裏山があるぞ!」
「んじゃ裏山に行くか。まずは100週な」
「心得た!!…まず?」
「腕立て伏せ、スクワット、100回ずつを2セット。こんぐらいなら鈍った体を鍛え直すのに丁度良いだろ」
「…ひえ…」
「…はっはっは!良いだろう!!楽しみだ!早く鍛錬に…「人の作った飯は味わって食え」…すまん!!」
「…サラちゃん、スパルタねえ」

「こいつには勘を取り戻して貰わねぇと困るんでな、センセ達も休ませてやらねぇと」


そんなにこれ厳しいか?譲歩したんだが。そう言えば、こへ達はひくりと頬を引き攣らせる。…鈍りすぎじゃねぇか?こんくらい造作もないだろ。俺は初っ端から訓練場100周と腕立て伏せとスクワットと上体起こしの100回ずつ5セットだったけど。やっぱり時代が違うと基準も違うのかも知れねぇな、分からねえけど。あー…年齢か?いや、でも俺の時はこへよりずっと年下だったからなあ。んあ?何歳って?8歳くらいからずっと軍に居たよ。何でってそりゃあ…


「親父が大総統だったからじゃね?」
「大総統…!?…サラちゃん、エリートなのねぇ」
「どうだかなあ…俺は女ってことで失脚狙われてたし、邪険にされてたからなぁ…まあ、出る杭は打たれるって奴だな、きっと」
「…失脚狙われるってどんなことされたんです?」
「お、気になるのか?まあ、毒盛られたり強姦されそうになったりリンチされそうになったり重要事項を俺の耳に入らないようにされたり…ああ、派遣先で置いてけぼりもあったな」
「…凄過ぎません…?良く生きてられましたね」
「あー、親父がすぐに気付いてくれたしな。良くしてくれる同期も居たし。置いてけぼりの時は偶々買い物に来てた親父…あー、あれは偶々じゃねぇな、置いてけぼりにされるんじゃないかって気付いてたんだな、だからあんなにタイミング良かったのか」
「ふふ、サラちゃんのお父さんは本当にサラちゃんが大事だったのねぇ。お父さんとしてはサラちゃんには普通の生活をして欲しかったんじゃないかい?」

「…まあ、無理だっただろうけど願ってたんじゃないかな」


あの人は、優しかったから。呷るように茶を流し込む。もう少し熱い方が良かったな。ゆらゆらと波打つ緑色の海を眺めながら昔を思い出す。…俺に何かあるたんびに迅速に対応しては、元凶を叩き潰してくれてたんだよなあ、親父。色んな葛藤があっただろう。それもそうか、親父が俺を引き取るのは反対されてたらしいし。まあ、理由が理由だからなぁ…


(…俺と親父が血が繋がってない、って知ったらどんな顔するんだろうな)


寧ろーー俺の本当の両親や親戚類を皆殺しにした奴が親父だって言ったら、心優しいこいつ等は顔を歪めるんだろうな。本当は俺も殺される筈だったんだ。俺が今も生きて居られるのは、親父の気まぐれと嘘に固められていたかも知れない愛情…俺は、嘘だなんて思っていないけどな。…甘いって言われるが。
少ししんみりした空気になった時、こへはご馳走様!と声を張り上げ、早く鍛錬に行こう!と告げる。…今はこいつを鍛え直すことに専念するか。でも、


「こへ、洗い物は自分でしろ。お前が食べたいと言ったからわざわざ作ったんだぞ」


トキトモがよそってくれた器も洗えよ、と告げればこへは慌てて水道に食器を持って行き、洗い物を始める。…忠犬だな、こんなに素直に言うこと聞くのか。後で聞いてみれば、鍛錬を断られたら困るからな!と言われたが、俺は断るつもりはねぇし…サボったら引きずってでも連れて行く自信があるんだがなあ…ナメられたものだな。
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