返すつもりはないですよ
特訓が終わり、ちゃんと時間前には戻って来たんだが、今度は 1年は組の子達が食事当番だったらしく、俺は必要なさそうだ、狭そうだし。キンゴは俺の隣に居るこへに気付き、驚いたような顔をして近付いてきたが、振り払われたことが記憶にあるらしく、手を伸ばそうとしては引っ込めたりを繰り返している。こへも顔向けが出来ないらしく、目線を合わせようとしないので、俺は小さく溜息を付いてから、こへの尻に軽めに蹴りを入れたつもりだったんだが…力加減を間違えたらしい。ドスッて聞こえた。…わざとじゃないって、生足の方だから許せって。俺に痛いぞ!と主張してくるこへに呆気に取られていたらしいキンゴはぱちくりと目を瞬かせた後、帰って来てくれたんだ…と呟く。それが聞こえたこへはピシリと固まったが、嬉しさが勝ったらしくキンゴを抱き締めていた。いやあ、良かった良かった。離れた場所で傍観していたドイセンセとヤマダセンセも嬉しそうだ。本当に良かった。
「あ、サラさーん!!今日は出掛けてたんすか?部屋行っても居ないからびっくりしたんすよー!」
「よう、キリ。ごめんなー、ガクエンチョウと話をしたりとかこへと鍛錬したりとかで部屋にあまり居なかったんだよ」
「…七松先輩と鍛錬?も気になるんすけど…学園長に話って…?」
「俺の部屋の移動。くノ一の方に一室使ってない部屋があるらしくてな、天女の部屋に居させるのは気分が悪いからってシナセンセが言ってくれたんだよ」
「くノ一教室ってマジっすか!?えー、じゃあ滅多に遊びに行けないっすねー…残念…」
「んー、まあ、ちょっとの間だけだろうけどなあ。あの天女の部屋、キツい匂いが染み付いてるからぶっ壊そうと思って、許可も貰ってあるぞー」
「「は!?」」
「学園長先生は何を考えているんだか…サラくん、女の子なんだからあまりそんな口調はやめなさい」
「う、…盗み聞きは良くないだろ、ヤマダセンセ。まあ、あの部屋は色んな思い出があるだろうし、ない方が吹っ切れるんじゃね?ってことで一度破壊して作り直すことになったんだよ」
「作り直す?用具委員会が作るのはかなり大変だと思うんだが…業者を呼ぶにしても日にちが掛かるだろう」
「ドイもんなこと言うのかよ…俺が作り直すんだよ、錬金術で」
ランが気を利かして淹れてくれたお茶を貰い、持って来てくれたランの頭を撫でれば嬉しそうに笑うランは本当に可愛いと思う。一口飲んで美味いよ、と言えば心底嬉しそうに破顔するランに癒されつつ、ふぅ、と一息付けば、キラキラと目を輝かしているキリの姿があり、俺はひくりと頬を引き攣らせる。や、何でそんなにキラキラしてんだ…?キリ…?と名前を呼べば、相変わらずキラキラと目を輝かしているキリは口を開く。
「おれも見たい!!」
「あー…?…錬金術のことだよな、?」
「勿論っすよ!!えー、学園長先生と山本シナ先生は見るんすよね?2人だけ狡いっすよー!!」
「こら、きり丸!!あまりサラを困らせるな!!」
「え、あ、わ、私も錬金術見てみたいです…!!川西左近先輩を守った結界とか、私と伏木蔵を冷やしてくれた氷とか泥だらけになった洋服を直してくれた以外にもあるんですね!!」
「乱太郎、少し落ち着きなさい。すまないな、サラくん」
「いーよ、別に。…まあ、心配しなくてもちゃんと見れるんじゃねぇかな、多分。ガクエンチョウは全員であの部屋の最期を見届けるのもアリだろうって言ってたし」
「本当っすか!?」
「やった…!嬉しいです!!」
「学園長先生はまた勝手に決めて…!!山本先生も関わっているのかも知れないが、私達に何の相談もないのは困る…!」
「まあまあ、半助。サラくんに負担はないのかい?部屋を作るのはなかなかに大変だと思うんだが」
「負担なんかねーよ、疲れたりもしない。俺は体力ある方だし、心配には及ばないさ。それに、俺から願ったんだ。キリ達にあんな顔させる部屋なんて要らねえだろって。ーー俺を使…「ーーまだそんなことを言っているの?」げ、シナセンセ!?」
「げ、とは何かしら。サラ、貴女は私の話をちゃんと聞いていたの?」
「う、や、だってさ、錬金術は人の為に使うのが基本とされてっから…!」
「だとしても…「ま、まあまあ山本先生!少し落ち着かれてはどうです?サラくんも反省してるようですし」…山田先生…私はサラに感謝していますし、妹のように感じてますわ。そんな子がーー自分を物のように扱っているのを黙って見てろと仰るので?」
「…実際に物なんだけどなぁ…」
代わりなんて、いくらでもいる。俺は女だし、いつかは男に勝てなくなるだろう。身体能力的な意味で女が男に抗えなくなるのは決まりきっている。だからこそ、鍛錬すれば凌駕できる今をーー大切に、死ぬ気でやるしかない。朽ちてしまえば、それは俺の限界だったってだけな話だ。国の為に命を捧げるーーそれが選んだ道であり、国家錬金術師の宿命。国が要らないと判断すればーー残された道は死のみ。これがモノ扱いじゃないと言えば、何がモノ扱いになるんだろうな?
「また貴女って子は…!!その考えを叩き直すって言ったでしょう。此処に居る間はそんなこと言わせないわ…!」
「言わせないって言われてもなあ。ずっとそんな世界に生きて来たし、多分無理だぞ」
「やってみないと分からないでしょう?学園長先生とくノ一の子達は私と同意見だと言っていたしーー気を付けてね?」
「っ…、センセが脅しかよ…こっわいなあ」
「あら、脅しじゃなくて忠告よ?」
「どうだか……って、キリ!?何で涙目なんだよ!うわー、ランまで?!どうした?何が嫌だった?」
「……分からないのかい?本当に?」
「サラくん、私達もシナ先生と同意見なんだよ。君を慕ってる立場からしてーー君を失いたくないし、君が自分を追い詰めているのが非常に悲しい」
「…んなこと言われてもなあ…」
「分かっているよ、ずっとそんな教育を受けて来たんだろう。必死に自分の居場所を守ろうと努力していたんだろう。感情を押し殺してたんだろう。…もう、自分を追い詰めるのはやめてやってくれないかい?サラくん、君は自分に優しくするべきだよ。きり丸や乱太郎と接するように」
「…自分に、優しく…」
「ふえ、サラさん、そんな悲しいこと言わないで下さい…!!サラさんのお陰で善法寺伊作先輩が帰って来てくれたんです…!私っ、まだお礼とか全然出来てないですー!!」
「…ラン…」
「サラさん、サラさんはおれと待遇似てるとか言ってましたけど、全然似てないじゃないっすか。サラさんの方がずーっと辛いじゃないっすか!!ねえ、ずっと此処に居て下さいよ。帰んないで下さい。おれ、サラさんのこと大好きなんすから!!」
「…ごめんな、キリ。置いて来た奴が居るんだ。私はーー彼奴を見捨てることは出来ないし、しちゃいけないんだ」
私まで居なくなったらーーロイはどうなってしまうんだろう。まあ、リザやエド達が居るから案外やっていけるかも知れないが、ヒューズの死を、実は密かに憧れていた親父が敵だったことも、受け入れられていないし、吹っ切れてもいないんだ。…まあ、それは俺にも言えることなんだが。だからこそ、私は彼奴を見捨てる訳にはいかない。…互いの気持ちが分かるのは、互いしか居ないと思っているから、な。
「ーーだったら、そいつもこっちに連れてくれば良いんじゃないか?」
「え」
「な、七松先輩!?何を言っているんですか!!」
「私はそんなに変なことを言っているか、金吾。教官の知り合いなら強いのだろう?だったら2人でこっちに住めば良いじゃないか。何の問題がある?教官が強いのは私が知っているし、忍術学園にこのまま就職すれば良い!オムライスは美味いしな!私も教官のような強い奴を易々と返すつもりはないからな!」
「流石七松くんね、貴方の言う通りだわ!!それに、サラは子供が好きよね?こんなに慕われてるのに振り払える?」
「「「サラさーん!!」」」
「ぎゃ、ユキ達もラン達もくっ付くな!!おばちゃんの手伝いはどうした!ショウ、お前は真面目だろう!手伝いをしろ、手伝いを!」
「これが一番の最善策ですから諦めて下さい」
「私のことは気にしなくて良いわよ、サラちゃんがずっと居てくれるなら有り難いわあ」
「っ、ドイ!ヤマダセンセ!」
「悪いが私もサラをこのまま返すつもりはないからな。きり丸と仲直りさせてくれた礼を返さなくてはな」
「まあ、サラくんの意思は尊重したいがーー諦めてくれ」
「んな…!?「サラさん」…何だよ、キリ」
「へへっ、一気に子沢山っすね?」
「!?…勘弁してくれよ」
向こうと比べて、こっちを楽しいと思ってる俺が居るのには気付いてる。…こへ、意外と策士なのか?バカなのかと思っていたがーー少し警戒した方が良かったかも知れない。まあ、もう遅いのは分かりきってるが。シナセンセに魅入られた時点で遅かったんだろうな、きっと。んなことを考えながらきゃあきゃあ言いながら引っ付いてくるラン達を引き離していたら、夕飯を食べに来た2年生と5年生が居て、びっくりしていたが話をシナセンセから聞いて、嬉しそうに破顔した2年生とフワとタケヤが可愛い過ぎて辛いんだが。
ーー俺は絶対に帰るからな!!
7/9
prev next 戻る