お節介には、ならないよな?
俺は存外にあの部屋を、というか部屋自体は好きではないんだが、居心地が良いと感じていたらしい。くノ一部屋で眠りに入ったのは良いが、目が覚めてしまった。ちら、と窓の方に目を向ければまん丸のお月様が見える。此処の月は綺麗だな、周りが木々で囲まれているから余計そう思うのかも知れん。空気そのものも違うんだろうな、此処には車がないらしいからな。…少し、散歩でもしてみるかな。屋根の上で月見も良いだろう。酒とか食堂にあっかな…無断で拝借したら怒られるし、散歩だけにしとくか。俺は判断し、羽織りを掛けて外に向かって歩き出した。
(ーー静か、だな)
セントラルに、こんな静かな場所があっただろうか。やっぱり環境が違うとこんなにも違いがあるんだな。整備された道を歩いていく。砂利を踏む感じがどことなく懐かしい。向こうはコンクリートが多いから余計だろうか。そんなことを思いながら歩いていると、不意に強い風が吹き、俺は咄嗟なことに顔を手で覆う。風が止んだのを感じながら手を降ろせば、不意にザッザッと何かを耕してる音が聞こえ、俺は不審に思いつつ音がする方に向かえば、そこには1つだけぽっかりと空いてる空間が。落とし穴か…?驚かせないように細心の注意を払いながらゆっくり近付けば、一心不乱に掘り進めている紫色が見える。紫…タキやハマと一緒だな。ジッと眺めていれば、彼の手から赤い液体が流れてるのに気付く。嗅ぎ慣れた戦場の匂いーー放っておくなんて、出来ない。
「おい、一度手を休ませろ」
「……?おやまあ、新しい天女様ですか。僕に何か?」
「手、気付いてないのか?血、出てるぞ」
「おやまあ、本当ですね。…いつからですかねー」
「そこまでは分からん。…そっち、行っても良いか?」
「ええ、大丈夫ですよ。迎えに「その必要はないぞ」…え?」
「俺から行くから離れてろよ」
数歩後ろに下がり、助走を付けてから走り出し、穴の中に飛び込む。無表情だった彼が驚いて目を見開く姿を見て、成功だったな、なんて思いながら地面に着地する。…綺麗な塹壕だ、所々荒いところもあるが、綺麗だと思う。ほう…と息を付いてから上を見れば、なかなかに深いことを感じると同時に、月が綺麗に見えることに気付く。これはまた…綺麗だな。
「…まさか天女様が飛び込んで来るとは思いませんでした。平和ボケしてるんじゃないんですか?」
「俺は平和な世界から来た訳じゃないからな。…なあ、この塹壕はお前が作ったのか?綺麗だな」
「塹壕じゃないです、ザンちゃん16号でーす。…きれい?」
「名前があったのか、それは悪かったな。ああ、綺麗だと思うぞ?誰かを落とすだけにするのは惜しいくらいにな」
「…滝も、僕に同じことを何回か言ってくれてました。こうやって掘ってたら、また探しに来てくれるんじゃないかって。…そんなこと、ある訳ないですよね。僕が、滝を先に裏切ったのに」
「ああ、やっぱりタキの同級生か、同じ紫だからそうじゃないかって思ってたんだ。裏切る、ねえ…天女に唆されただけだろ?彼奴はもう怒ってねぇよ」
「…でも、滝は来てくれない。いつものように、何やってるんだ、喜八郎って。…呆れたように、困ったように笑いながらも手を差し伸べて貰えるのが、僕は嬉しかったんです」
「そりゃあ、タキは来れないだろ。まだ医務室に居るだろうし」
「…医務室?」
「お前を嫌いになった訳じゃねぇよ」
ポン、と頭を撫でてから髪についてる泥を払ってやる。綺麗な髪なのに、勿体ない。滝、怪我したんですか?と震える声に、俺はこへと少しやりあってな、今は和解してるし、ゼンポウジも戻って来た。今日は会ってないから分からないが、ゼンポウジとニイノセンセが居て、ずっと休んでるほどタキは軟弱じゃないだろ?と問いかけてみれば、…静かなのはそのせいか、バカ滝。なんて嬉しそうにしながら悪態をつく。ずっと気にかけていたが、自分からタキの好意を無駄にしたのを気にして会いに行けず、いつかまた迎えに来てくれると思っていたのか。健気というか何というか。非常に可愛いらしいじゃないか。
「なあ、その手の怪我もあるし、一緒に医務室に行かないか?」
「…え、でも…」
「確か医務室には2つ布団が敷いてあったな、ついでに寝て来たらどうだ?」
「…手の怪我、だけで寝かせてくれますかね…」
「俺も頼んでやるよ、ゼンポウジなら俺に借りがあるし断わらねぇだろ。ニイノセンセなら…まあ、何とかなるだろ」
「おやまあ、行き当たりバッタリですか。…まあ、嫌いじゃないですよ。その考え方」
「はは、有り難うな。あ、俺はサラ・クローズ。サラが名前な、天女って名前じゃないから宜しく」
「嫌いじゃないって言っただけで、好きと言った訳じゃないです。綾部喜八郎です、滝とは同じクラスで同室なんですよー」
「アヤベか、うん、覚えた。此処の名前は覚え難いな、難しい」
「サラは南蛮の人なんですねえ、呼びやすいように呼んでも大丈夫ですよー」
「早速呼び捨てか。んー、じゃあ、アヤ、とかは女っぽいから嫌か?」
「僕も好きに呼びますから何でも良いですよ」
「そっか、有り難うな。んじゃ、医務室行こうか。きっと感激するんじゃねぇかな、タキ」
「…そうだと良いんですけどね…」
「大丈夫だって。ほら、早く行こうぜ」
ん、と手を差し伸べれば、アヤは驚いたような表情を浮かべたあと、恐る恐る手を差し出して来たので、俺は怪我してない方のアヤの手を握り、そっと自分の方に抱き寄せてからその場でジャンプして、ザンちゃん16号から抜け出す。少し崩したか、綺麗だったのに勿体ない。…冷たいですね、と気持ちよさそうに目を細めるアヤに、低体温だからな、と言いながら姫抱きする。え、と驚いたような顔のアヤに、医務室まで運んでやるからな、と告げてから歩き出す。それにしても軽いな…ちゃんと食べてるのか?
医務室に居たのはゼンポウジで、俺に抱えられてるアヤに血相を変えて近付いて来た。手が怪我してるのと疲労があるみたいでな、良かったら寝かせてやってくれ、と言ってからゼンポウジに引き渡し、タキと話せると良いな、とアヤに言ってから俺は医務室を後にする。
仲直り、出来たら良いんだけどなあ…
8/9
prev next 戻る