胸に秘める熱意

突然だが、1番天女の被害を受けていたのは6年生だと聞いている。サイジョウキュウセイでありながら、天女に骨抜きになり、尻を追っかけ回してたことを悔いて、天女を憎んでいるのだと、だから用心しろと、ドイやシナセンセに口酸っぱく言われていた。そんな6年生が今、3人も俺の前に居る。こへの手刀から目覚めた3人が何をするかと言えば…まあ、憎たらしい奴の排除だよな。真っ先に目付きが悪い奴が飛び出し、それに続くように2人も飛び出してくるのを見てーー俺は静かに結界を張る。キンっ!と甲高い音を響き渡り、尻餅をつくように倒れ込む彼等に対し、俺は苦笑いを零す。


「あー…まあ、うん。気持ちは分からねぇ訳じゃないんだが、ちょっとは落ち着いてくれないか?」


可能な限り、穏やかに。敵意なんぞ更々ないし、ガキを手篭めにしようとも思う訳ないし、どうかしてやろうと思ってすらいねぇよ、みたいな意味合いを込めて言ったんだが、まあ、意味ないよなあ…ギラギラと光る目はまるで獲物に飢えた獣のようだ。スカーか、彼奴ほど手応えがあるなら全然良いけど、難しいだろうな…簡単な訳がないか。スカーは強いからな。
最初に向かって来た奴にこへが羽交い締めをし、ケマが髪が長い奴、ゼンポウジが頬に傷がある奴を取り押さえる。おお、反応が早いな。


「っ、小平太!!離しやがれ!!天女は殺さなきゃいけない、そうだろ!?」
「断わる!文次郎、いい加減私達は腹を括るべきだ!」
「っ、留三郎。離してくれないか」
「悪いな、仙蔵。そいつは出来ない相談だ。サラさんに危害を加えられる訳にはいかないからな」
「…もそ…」
「ごめんね、長次。離すことは出来ないんだ。僕達は前を向かなきゃいけない、罪を償わなきゃ」
「…罪だなんて、伊作先輩…」
「良いんだよ、数馬。…僕達は、恨む対象を間違えちゃいけないんだ。自分達を信じて待ってくれてる後輩を、いつまでも苦しめちゃいけない。そうだろう?」
「謝って許される問題じゃないことも分かってるさ。でも、いつまでも燻ってる訳にはいかないだろう」
「私達は最上級生だ!後輩を守らなければならない立場だ!…いつまでも、捕らわれてはいけないんだ。まあ、私も気付いたのは教官に出会ってからだがな!」

「急な方向転換だな??ま、俺からは何も言わねーよ、当事者ではないけど立場的には似たようなもん…そんな顔すんなって。…ま、高い授業料だと思えば良いんじゃないか?」


後は溝を少しずつでも埋めていくだけだ。皆は待ってるぜ?そう伝えてから、手伝うよ、とおばちゃんに向かって声を掛けながら厨房に向かう。後は、俺の管轄外だ。彼奴等の方はゼンポウジや、3年生が何とかしてくれるだろう。おばちゃんの隣に行けば、久し振りに皆の顔が見れて嬉しいと朗らかに笑う。後は2人だけね、と呟いたおばちゃんに2人?と聞けば、4年生の子が2人居るのよ。と言いながらフライパンを操る。4年生、ねえ…


(タムラミキエモンとサイトウタカマルだよな、多分)


個人的に、タムラには接触したいと思ってる。火縄銃について知りたい、火器全般好きな俺に、タムラは神みたいな存在だ。早く会ってみたいな、火器について講義して貰いたいくらいだ。サイトウはあれか、髪結いだよな?毟るんだっけか。少しは髪を綺麗にしないとな。
6年生の為の飯と3年生の為のデザートを作り終える頃には話はまとまっていたらしい。空気はまだギスギスしているが、顔見て話せるようになっているようだ。うんうん、溝が埋まるのも近いかもな。飯だぞー、と声を掛けながら、こへはキラキラと目を輝かせた。


「待っていた!!教官、今日は鍛錬しないのか?」
「あー…事務の仕事が終わったら時間空くし、相手してやるよ。ゼンポウジ、タキとあやはどう?」
「滝夜叉丸の具合は回復してますよ、大丈夫です。あや、は綾部で合ってます?綾部も落ち着いてます。…サラさん、綾部と何か話しました?雰囲気が変わってるみたいなんで気になりまして…」
「あ?…別に、そんな大したこと話してねぇよ。気にすんな」
「サラさん、時間があればで良いのですが、俺にも稽古をして頂けないでしょうか」
「別に構わねぇけど、手加減なしだぜ?」
「ついていきますよ、小平太に負けてられませんから」
「お、何だ何だ留三郎!!教官の一番弟子は譲らないぞ!」
「はっ、調子に乗ってられんのも今のうちだぞ、小平太!すぐに塗り替えてやるからな!」
「もー…怪我とかしたらすぐに来るんだよ?隠したらダメだからね!勿論、サラさんもですよ!」
「無理したら下級生送り込みますからね。サラさん、僕達下級生には強く当たれないですもんね?」

「…カズマ、それは流石に狡いぞ…!」


俺の言葉に、カズマはにっこりと笑う。おい、自分の所の後輩を何とかしろとゼンポウジに向かって言えば、ランとフシキゾウとカワニシを連れて来れば良いですか?なんて朗らかに笑いながら聞いてきた。…おい、ヒェッてなったんだけど。ゼンポウジって温厚派だろ?真っ黒じゃないだろ?ケマ、お前同室なんだろ、何とかしろよ。後輩は可愛いよな、じゃねえから。こへはそもそも分かってないよな?お前は黙って食ってろ。


(ーー…小さい奴に、負担なんて掛けたくないだろうが)


ま、地雷だろうから言ってやらねぇけど。自分の過去が過去だから、なんて理由も実はあるんだろうなあ、なんて思ってたりもする。子供は宝だ、大人が守ってやらなくてどうする。悲しませるなんて、やっちゃいけないだろ?甘いって言いたい奴には言わせとけ、実際に甘いと思うし。でも、あんな風に笑顔で近寄って来られたら、慕われたら、守ってやりたいと思うだろう?彼奴らを守れるなら、…プライドなんて捨ててやるよ、俺はな。
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