弟子が増えた
事務室での仕事を終え、俺はこへ達と鍛錬するべく裏裏山に向かう。実は仕事の合間に、此処の言語の発音を習っていたりする。まだまだ完璧ではないが、先生だけは完璧に言えるようになった。ゆっくりであれば発音は難しくないんだが、やはりこればかりは慣れだろうな。途中、寄り道をしたりしながら裏裏山に向かえば、そこにはこへの後ろ姿が見え、俺は歩みを早くしたと同時に、こへとケマ以外にも居ることに気付き、俺は瞬きを繰り返しながらも彼等に近付く。
「待たせたな。…何だ、随分と大人数だな?」
「教官!そんなに待っていないから気にしないでくれ!私もびっくりなんだが、やはり勘を早く取り戻したいみたいでな!」
「すみません、急に増えてしまって…大丈夫でしたか?」
「大丈夫だよ、ケマ。…ゼンポウジ以外の6年生全員とは驚いたがな」
「事前に許可を取らずにすみません。ーー改めて、立花仙蔵です。呼び難いと思いますので、セン、で大丈夫ですよ。作法委員会委員長を務めております。今日は宜しくお願いします」
「…潮江文次郎。好きに呼んでくれて構わない。会計委員会委員長を務めています。今日は宜しくお願いします」
「…中在家長次…好きに呼んでくれて構わない…図書委員会委員長を務めています…宜しく、お願いします…もそ」
「センにもんじにチョウ、と呼ばせて貰おうか。…ああ、お前もこれからはとめって呼ぶからそんな顔するな」
「え、あー…変な顔、してました?すみません、気を遣わせてしまって」
「いーよ、気にすんな。…ゼンポウジもいさく、って呼んだ方良いんだろうか」
「きっと喜ぶと思うぞ!いさっくんは教官が大好きみたいだからな!私も好きだが!」
「はいはい。それじゃ、鍛錬を始めようか」
いさっくん、って何か可愛いが、俺が呼ぶのは不釣り合いな気がするから…普通にいさく、と呼ばせて貰おう。そんなことを思いながら、まずは準備運動をしてくれ。と告げれば、彼等は素直に頷いてくれる。本来なら2人1組になってくれた方が幅が広がるんだが、余ってしまうからな…もっと腕を広げろ、腕を上げろなどを指摘しながらも準備運動を無事に終える。まずは何をする!?とキラキラ輝いているこへを宥めてから口を開く。
「まずはー…腕立て伏せ100回」
「心得た!「あー、待て待て」?どうした、教官」
「今回は人数が居るからな、前回とは違う風にしよう。こへ、まず腕立て伏せの姿勢になってくれ」
「おう!これで大丈夫か?」
「ああ、上出来だ。後はーー…チョウととめ」
「…?」
「はい、何ですか?」
「チョウはこへの背中に乗って、とめはこへの足を押さえてくれ」
「分かりました。小平太、足押さえるぞー」
「…もそ…」
「ああ!遠慮なく押さえてくれ!長次も体重掛けてくれて良いからな!」
「センはこへの左側、もんじは右側に立って、こへの膝や肘が地面に付いてないか見ていてくれ」
「分かりました」
「分かりました、…これはあれですか、地面に付いてたらやり直し、ですか?」
「「「「え」」」」
「正解だ、もんじ。そんな顔をするな、こへ。俺の一番弟子を名乗るならこれくらい楽勝だろう?たったの100回だ、精々頑張って足掻いてくれ」
腕を組みながらにっこり笑えば、チョウを背中に乗せたままひくりと頬を引き攣らせているこへ。辛いよなあ、分かる。俺の時は地面に付いたら勿論、膝や肘が曲がったらやり直しだったけどな、しかも200回4セット。あれは本当…逃げ出したいくらい嫌だった。それに比べれば多少は楽だろう?幸い、こへは体力有り余ってるみたいだしな。はい、スタート。と言いながら手を叩けば、こへは腕立て伏せを開始する。さあ、何回やり直しするかな…?
「へえ、それではサラさんはこれからもずっと此処に居る可能性もあるのですね?」
「あー…まあ、な。…絶対に残るつもりはないとは言わないけど、…迷ってる」
「しっかし、自分の過失を部下に押し付けるとか何ていう上司なんだろうな…ギンギンに許せん。…あ、小平太肘付いたから最初からな」
「ああ、文次郎と同じ考えなのは非常に納得いかないが、上司としては最悪なんじゃないんですか?あ、こら!足をばたつかせるんじゃねぇ、小平太!」
「…んー、どうなんだろうな。仕事面では確かに最低だが、人としての彼奴は出来た人間、なんじゃねぇかな。慕われてたし」
「…サラさんは、…どう、なんですか…?」
「あー…好き、だよ。同期だし、俺を良く思わねえ奴等から庇ってくれたりもした。女や仕事に対しての態度だけ目を瞑れば、自慢の友人だよ」
「上司、というわけではないんですね」
「そうだな、あくまでも友人としての評価だな。上司としてなら…もう少し頑張りましょう、だな」
「…だったらやっぱり此処に居た方が良いのでは?仙蔵も火器に詳しいですし、土井先生も三木ヱ門も詳しいですよ。山田先生は火縄銃の名手ですしね」
「え、やっぱり名手なのか…流石ヤマダ先生だな」
「ーーっ、わ、私も話に混ぜてくれ!!」
やり直しさせられっぱなしで鬱憤が溜まっていたのか、こへが思いっきり身体を伸ばして起き上がる。背中に乗っていたチョウは空中で一回転して体制を整え、足を押さえていたとめと左右に居たセンともんじはバックステップで回避する。うんうん、反射神経は合格点だな。流石最上級生。プンプンしながら突撃して来るこへの突進を甘んじて受け入れてやり、背中をポンポンと撫でればこへは嬉しそうに破顔する。
「教官は冷たいのに暖かい人だな」
「矛盾してないか、それ」
「だって、私の突進を躱すことだって教官にとっては朝飯前だろう?」
「そりゃな、キャリアが違う」
「きゃりあ、が、何なのかは知らんが…受け止めてくれた教官は暖かい人だと思ったんだ!氷雪なんてのは信じられないくらいにはな!」
「おっと、2つ名の否定をされるとは思わなんだ。はは、有り難うな。ー…まだ、頑張れそうか?交代するか?」
「嫌だ、私がやる。私は教官の一番弟子だからな!」
「…分かった、今度は根を上げるなよ?」
笑いながら言えば、こへは根を上げてなどいない!と叫んでから再び腕立て伏せの姿勢になり、チョウととめにお願いをする。チョウは頷いてからこへの背中に乗り、とめは呆れたような顔をしながらも、今度5回ミスしたら代われよ、なんて言いながら足を押さえる。その次は俺だ、ともんじが右側に立ち、次は私だな、とサラサラな髪を靡かせながら左側に立つ。最後はチョウで構わないか?と問い掛ければ、彼は若干不満そうにしながらも頷いた。じゃあ、始め。と声を掛けてから腕立て伏せをスタートし、60回で泣く泣くとめに代わったこへはあからさまに不満顔をしていた。
ーー…結果的に100回成功したのは居なかったが、一番惜しかったのは80回までいったもんじだった。俺が一番弟子に近いな、なんてドヤ顔を披露したもんじに、こへ達が自分の武器を取り出し、放つ前に体力切れで地面に倒れたのは…まあ、しょうがないと思いたい。…当分は体力を増やす方が良さそうだ、と思いながら未だにドヤ顔を披露するもんじの頭を小突き、口論するこへ達を宥めることに専念した。
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