プレゼントと突き付けられる現実
6年生達との鍛錬を無事に終え、俺達は学園へと戻って来る。ちら、と前方を向けば3年生達がタオルやら湯呑みやらを持って待ち受けていて、俺達が驚いている内に彼等はバッと近寄って来る。センにウラカゼが、もんじにカンザキが、こへにツギヤ、チョウにイガサキ、とめにトマツ、俺にカズマがそれぞれタオルやら湯呑みやらを渡してくれた。有り難うな、と受け取ってから頭を撫でれば、カズマは嬉しそうに破顔する。そんなカズマに癒されていると、奥からひょっこりゼンポウジ…じゃなかった、いさくが現れる。俺達に気付いたいさくは朗らかに笑いながら、お帰りと告げる。彼等は感極まったような表情を浮かべながら、ただいま、と告げた。…うんうん、感動的だな。
「サラさん、お疲れ様です。山はどうですか?怪我はしてませんか?」
「大丈夫だよ、カズマ。山は楽しいな、此処は向こうに比べて空気が美味い。向こうは排気ガスやら何やらで空気が美味くないんだ、星も見えないし」
「そうなんですか?それは…寂しいですね。星が見えないのは僕なら耐えられません」
「…こっちに来てから色んな経験ばかりだよ。星があんなに綺麗だなんて思わなかったしな。月見酒でも洒落込みたいものだな」
「お、教官は酒が好きなのか?私の部屋に秘蔵の酒があるんだが、良かったら飲まないか?」
「お、良いのか?こへが良いなら喜んで」
「勿論だ!!仙蔵達も来るだろう?三之助達はどうする?」
「勝手に決めるな。…まあ、ご相伴にあずかろう、とは思うがな」
「えっと…俺達はまだ飲めないですし、それに……嫌な態度、取っちゃいましたし…」
「俺のことなら気にすんな、もんじ達なんて攻撃仕掛けて来てるんだぜ?睨まれるくらいでキレるほど大人気なくないさ」
「…サラさんって本当にお人好しというか何というか…僕も最初は疑ってましたから何とも言えませんけど、少しは怒っても良いんじゃないですか…?」
「ーー…こんな程度でキレてたらキリがねぇよ、理不尽なのは慣れてる。ま、ガキは何も気にする必要なんかねぇよ」
ぽん、と声を掛けて来たいさくの頭を撫で、酒盛りする時は声掛けてくれよ、とかこへに言ってから、俺は先に行くぞー、と言いながら中に入って行く。…別にキレてなかった訳ではねぇんだけどな、もう少し露わにした方が良いのかね?…コマツダが俺の代わりに泣いてくれるなら、俺の代わりに怒ってくれる人が居てもおかしくないような……やめておくか、人任せは良くない。泥や汗を落とそうと着替えを取りに部屋に向かえば、すれ違うユキ達にご飯美味しかったです!と嬉しそうに笑いながら言われる。彼女達はまた任務らしい。休んでんのか?と聞けば、彼女達は眉をハの字にしながら、今は自分達が頑張るしかないのだと告げる。…さっさと6年生を鍛えないとな。このままじゃユキ達が潰れちまう。それだけは、避けないとな。
「ん…?何だこれ、朝あったか…?」
自室の前に、明らかに手作りであろう花束が置いてあった。ユキ達か?いや、彼女達ならすれ違った時に言う筈だしな…シナ先生は2、3日任務で帰って来れないとか言ってたから違うだろうし…誰なんだ?そっと花束を持ち上げてみる。確かこの花はエゾキク、だったか。全体的な花言葉は…変化、追憶、同感、信じる恋。厳選されている白と青の花言葉はーー…
「白が“私を信じて下さい”で、青が“信頼”と“あなたを信じてるけど心配”だったか。…随分と熱烈だな?」
一体誰だろう、こんなに粋な計らいをしてくれたのは。花束をそっと抱き締めてみる。…落ち着く。…お袋は花を育てるのが好きだって言ってたっけ。セリムも良く摘んだバラを俺に渡したりしてたな、大好きな姉さんにって跪きながら。何処の王子様だよ、って突っ込んだのはずっと忘れられないだろう。嬉しかったんだ、本当に。
「ーー…会い、たいなあ…」
親父も、セリムも、敵だった。父さんと母さん、親戚、…ヒューズ、を殺した連中が近くに居たのに、俺は気付きもしなかった。親父もセリムも、俺を最終決戦の場に立たせてすらくれなかった。暗闇での闇討ちーー…油断してた訳じゃねえ。けど、…泣きそうな顔で俺に向かって手を振り下ろした親父を、セリムを、…避けるなんて、したくなかったんだ。敵なのは分かってる。本当はラースやプライドって名前なのも。けど、俺にとっては大好きな家族だった訳で。…俺の家族は、キング・ブラッドレイと、セリム・ブラッドレイなんだ。…ラースなんて、プライドなんて呼んで堪るか。
「…生けとこうかな、綺麗だし」
氷の錬金術が使えて良かった。花瓶を錬成し、氷を少しいじって水にし、エゾキクを生ける。見れば見るほど美しいな、やっぱり花は良い。らしくないって言われかねないが、花は好きだ。何処で摘んだんだろうな、場所を聞いてみたいものだ。俺にくれた人も気になるが、な。まあ、見たところあまり慣れていないようだし、所々処理に歪な部分があるから下級生だろう、多分。
「枯らさないように気を付けないとな」
枯れそうになったら完璧に凍らせて氷花にでもするかな。捨てる?んなことはしねぇよ。誰からのプレゼントかは知らないが、俺の為に摘んできてくれたんだろう。絶対に枯れさせないし、捨てない。そっと花瓶を机の上に置く。…うん、模様替えが必要だな。周りを見渡してから、俺はパン!と両手を合わせ、錬金術を発動する。…うん、やっぱり白と青のエゾキクを貰ったんだから、寒暖色の方が絵になるよな。
「これから宜しく頼むぜ、同室さん」
実は密かに憧れてたんだ、同室って羨ましいよな。わいわいして内緒話とかして。彼奴が気にいらねぇとか、彼奴が成長したとか話すんだろ?はーー…一度はやってみたい行動だな。…向こうに戻っても、今は色々と忙しいし、あまり好かれてないからそんな体験出来ないよな。キリみたいに無条件で懐ついてくれる子が居る訳じゃないし。…お袋も、最近は小さくなって戻って来たセリムに構いっぱなしだし。…あれ?
「ーー…俺が居なくても、平気じゃね?」
ガツンと背後から叩かれたような衝撃に襲われる。嘘だ、と思わず零れ落ちた言葉に、目を見開く。…いつからだ、いつから俺は…居なくても良かった…?あの戦争が終わってから?ーー…ちがう、俺は、俺は…最初から、い ら な か っ た ?
「、はは、かっこわり…」
偉そうなこと言っておいて、このザマだ。情けないとしか言いようがない。元の世界に、俺の居場所なんてないんじゃないのか。ロイにはリザが居るし、エドもアルも本来の肉体を取り戻した。ウィンリィもメイも想いを素直に打ち明けたし、アームストロング家も和解したし、ハボックも復帰したし…本当に必要ないな、俺。…ふとコマツダが恋しくなった俺は弾けるように部屋を飛び出し、廊下を走り出す。
「コラ!!廊下を走るんじゃ…!…サラ…?」
「サラさん…?」
そんな俺を、心配そうに見ていた2つの視線に気付くことなくー…俺はただひたすらに、あの優しい温もりを求めて一直線に走る。あの笑顔に会いたいと、あの笑顔が恋しいと思ってしまった。…ヒューズ、お前が居てくれたらどんなに良いか、なんて今思ったなんて言ったら、お前はどんな顔するんだろうな?俺には、何も分からねぇよ…
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