巻き込まないでくれ

どうやら此処はニンジュツガクエンと言うらしい。ニンジャになる為に子供を育てている学舎らしく、今はムロマチと言う時代らしい。……ムロマチって何だよ、知らねぇよ。
紫……タイラタキヤシャマルが言っていた"天女"と言うのは、突然空から降って来た女らしく、先輩や級友を惑わし、狂わした挙げ句に大切な後輩を傷付けたらしい。俺はその天女の10人目なんだそうだ。



(面倒くさいことに巻き込まれたな……)



空から降って来た所を黒い服……ドイハンスケに受け止めて貰ったらしい。ドイは俺を医務室に連れて行きたかったらしいが、過剰な反応を示す上級生に見られたらしく、以前の天女が過ごしていた此処に監禁することにしたそうだ。これはガクエンチョウの命令らしい。よくは分からないが、一番偉い人のようだ。大総統みたいなもんかな、多分。


「いきなり手荒な真似をして済まなかったね。滝夜叉丸、少し頭を冷やして来なさい」
「し、しかし……」
「滝夜叉丸」
「……分かりました」

「……薬指、ちゃんと手当しとけよ」


ドイに言われ、不服そうにしながらも従うタイラにしか聞こえないように言えば、タイラは驚いたように目を見開いてから、複雑そうな顔をしながら部屋から出て行った。……さっき、掴まれた時に真新しい傷を見付けたからな。俺が治療しても良いが、今は警戒されてるし余計なことはしない方が利口だろう。
タイラを追い出した、と言うことはこいつ個人に話があるんだろう。恐らく、プライベート的な意味合いの。チラリと目線を移せば、同じようにしていたのか、目が合った。


「……で?アンタは俺に何の用だ。わざわざアイツを追い出す必要がある話なんだろ」
「……今回の天女様は随分と物分かりが良いんだな。君は、平成から来たんじゃないのかい?」
「ヘイセイ……知らねぇな。さっき聞いたムロマチもよく分からねぇ」
「未来は平和だと聞いている。君の世界は平和ではないのかい?」
「ーー……ああ、俺の銃を預かってんのはアンタか。俺の居た場所は争いが多いぜ。テロなんかもある」
「……てろ?」
「あー……何だろうな、説明が難しい。一気に大勢の命を奪う手段だな。無差別に行われることが多い」
「……無差別……」

「戦える奴は女だろうが男だろうが自分で自分を守るしかねえ。戦えない奴は逃げるしかねぇな、命が惜しいなら。……安易に考えていれば待ってるのは死しかねぇ」


敵を前にして逃げるのは恥ずかしくはない。立派な判断だ。自分の命を最優先に考えろ。他者は二の次だ。自分が生きるためにどうしたら良いかを考えることに集中しろ。……かつて、父が言っていた言葉を思い出す。誰かを助ける為に自らが犠牲になったら意味がないとも言っていたな。まあ、イシュヴァールの時も思ったが、甘えや優しさは戦場には必要ない。必要なのは瞬時の判断力と時には仲間を見捨てる覚悟だ。……難しいけどな。


「……君は、私達のことを知っているかい?」
「知らねぇな。そんなに有名人なのか?」
「らしいね。前の天女様達は知っていた。知らない振りをしている人も居たくらいだ」
「……知らない振りを?」
「記憶がない振りをして、自分が好きな人達にちやほやされたかったらしい。……本当、浅はかな考えだ」
「……吐き気がする考え方だな。殺したくなる」
「……っ!」

「アンタも一緒だろ?血の匂いがするぜ」


口元に笑みを浮かべながら言えば、ドイは驚いたように目を見開く。さっきから気付いていたが、ドイには血の匂いが染み付いている。よっぽどのことがない限り気付かれない程度には薄まってはいるが、鼻が良いやつにはバレバレだろう。戦いに慣れてる奴とかもな。タイラには少ししかしなかったし、あまり慣れていないんだろう。
……俺にはずっと気になっていたことがある。それは、俺の前の天女達のことだ。ドイは気付いているんだろうか、天女と言う度に目が暗くなっていることに。


「殺したのか、天女達を」
「……………………」
「俺も殺すのか?今なら逃げられねぇしな」
「……何が、言いたいんだ?」
「アンタもタイラと一緒だろ、ってことだ。いや、ある意味タイラよりもお子様かもな。アンタ、天女に惑わされて大切な存在を傷付けたんだろ」
「……っ……」

「後悔すんのは勝手だが、関係ない俺にそれを向けないでくれるか?何も知らない奴を巻き込むんじゃねえよ、迷惑だ」


はっきりと言えば、ドイは整った顔を歪める。カマを掛けただけのつもりだったんだが、どうやら当たりだったようだ。ドイは困ったように溜め息を付き、壁に寄り掛かる。この人は優しすぎるんだろう、きっと。だからこそ、自分が不甲斐なくて情けなくて、ずっとピリピリと気を張っていた。表向きは優しい笑顔を張り付けながら、虎視眈々と隙を狙っていたんだろう。
ガクエンチョウの命令が下るまでは大人しくしてるつもりなんだろうけどな。


「……そこまで分かったのか。そんなに分かりやすかったかな?」
「いんや、偶々だろ。どうやら俺は察しが良いらしい。たまに言われたよ、エスパーかって」
「えすぱー……?」
「……面倒だな。相手の言いたいことをズバリと的中させたり、思考に近い行動をするとかだな。俺としてはそんな意図はねえけど。偶然一致するんだ、何回でもな」
「……それは、凄いね。私にも似たような力があれば、あの子達を傷付けなくて済んだのだけど……」
「仕方ないんじゃないか?天女の持つ力がどんなもんか知らねぇけど、ほとんどの奴を惑わせることが出来るんだろ?惑わされてもしょうがねぇだろ」

「はは、君は優しいね。……それでも、私が自分が許せないんだ。最初、女神だと思っていた。優しくて、知的で、美しくて……恥ずかしながら私はまだ独身でね、こんな人が妻なら良いと思って……夢中になってしまった。正気に戻った時、生徒達の私を見る目が忘れられないんだ……」


流石にどんな表情かまでは予測が付かないが、きっと精神的にダメージを喰らったんだろう。自分への不甲斐なさも一緒に。……ダブルパンチって奴か、厄介だな。恋は盲目、と言う言葉を聞いたことがある。恥ずかしながら俺もそんな時期だった時がある、少しだけどな。きっと、引き戻そうとする奴等をあしらったんだろう。それもてっぴどく。そして今も溝があるんだろう。まあ、ドイが気にしすぎてる感はあるけどな。今は互いが互いに気を遣い過ぎてるだけなんだろう。
まあ、正直俺には一切非がないし、関係もないからどうでも良いが、殺されるのは困る。殺されるつもりはねぇけど。あまり後味も良くはないし、やっぱり面倒だと俺は溜め息を付いた。
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