さて、お話しましょうか

俺とドイは長い廊下を歩いている。これからガクエンチョウの部屋に行くらしい。手錠は外されている。あくまでも客人扱いするらしいが、タイラのこともあるし、用心して欲しいと言われた。俺としては気を休めるつもりはないけどな。ああ、そうそう。俺とドイは同い年らしい。しかも、誕生日も近い。これには驚いた。同い年だし、誕生日も近い、加えての察しの良さ(自分で言うのも何だが)にドイは少し警戒を解いてくれた。別に警戒してくれてても良かったんだがな。
因みにさっきの話は内緒にして欲しいと頼まれた。言うつもりもなかったんだが、こいつはもう少し周りに頼ることも考えた方が良い気がする。いつか倒れそうだ。


「サラ?どうした?」
「え?」
「さっきから上の空だが……気分が悪いのか?多分、学園長の部屋に新野先生も居ると思うし、何なら診て貰うかい?」
「ああ、大丈夫大丈夫。考え事してただけだ。それに、医学の知識ならあるから自分で何とか出来る」
「……サラは何でも出来るんだな」
「……ま、伊達に生きてねぇからな」

「……それもそうだね。さ、此処が学園長の部屋だ。学園長、土井半助です。天女を連れて来ました、入ります」


名前で呼ばせているのは、ファミリーネームだと呼びにくそうにしていたからで、他意はない。あのままにしていたら多分舌を噛む、間違いなく。最初はさん付けにしていたが、鳥肌が経つので止めて貰った。最初に比べて、かなり俺に対して気を許してるので、そんなんで大丈夫なのか?とか言ったら、天女って感じがしないから大丈夫だと思うと笑顔で言われた。……ニンジャってそんなに簡単に絆されて良いのか。
声を掛けてから部屋の中に入るドイに続いて部屋の中に入れば、幾多の視線と殺気だったりと色んなものが集中する。小さく溜め息を付けば、ふとふわふわしたものが目に入った。


「……犬が二足歩行、だと……?」
「ヘムヘム!」
「見たことがないのか?ヘムヘムは忍犬なんだよ」
「ニンケン、ねぇ……初めて見た。結構可愛いんだな」
「へ、ヘム!?」
「へえ、言葉も分かるのか。頭良いんだな、コイツ」
「ヘムヘムはワシの可愛い相棒じゃ。将棋もなかなか強くてのぅ、なかなか勝てんのじゃ」
「へえ、将棋か。俺も少しは出来るから相手して貰おうかな」
「何と!今回の天女様は将棋も出来るのか!これは嬉しいのう……ワシはこの忍術学園の学園長、大川平次渦正じゃ」
「俺はクローズ・サラ。ファミリーネームは言いにくいだろうからサラで良い。言いにくいからガクエンチョウで良いか?」
「構わんよ、サラ」

「……あの、意気投合するのは全然構わないのですが、そろそろ本題に入っても良いでしょうか」


将棋好きなのがよっぽど嬉しかったのか、笑顔で俺に座るように促してくるガクエンチョウ。これから将棋をやり始めそうな雰囲気に、ドイが恐る恐る口を開く。アンタは正しいよ、ドイ。まさかガクエンチョウがこんなにフレンドリーとは思わなかったし。胃を抑えるような仕草をしているドイの背中を、ダンディな黒い服の人と白い服の人が擦っていた。……倒れんなよ、ドイ。
俺にお茶を出してくれたヘムヘムに有り難うと言いながら頭を撫でれば、ヘムヘムは嬉しそうに笑う。これまた可愛い。癒されていれば、わざとらしい咳払いが聞こえ、俺はガクエンチョウに視線を移した。


「サラ、お前はこの世界について知っているのか?」
「何も知らねぇよ。此処がニンジャを育てる学舎なのはドイから聞いたが、ニンジャすらよく分からねぇ」
「え、そこからなのか!?」
「知らねぇって。俺の居た世界には存在しねぇ筈だ。まあ、あまりそう言うのに興味がなかったからなのもあるとは思うけどな」
「ふむ……存在しない、と言うのはこれまでの天女と同じじゃのう」
「学園長、騙されてはいけません。これまでの天女にも、知っているのを隠していた人も居たではありませんか!」

「……別に信用しろとは言わねぇけど、一緒にされるのは心外だぞデコスケ。第一、ガキには興味ねぇ。……好きな奴はもう作らないと決めている」


俺の言葉(多分デコスケ呼び)に、驚いたように目を見開き、ワナワナと体を震わせるデコスケ。その反応を宥めながらも、俺しか見えないように親指を立てる綺麗な人に、俺は笑みを溢す。ドイも何処と無く嬉しそうにしているし、多分デコスケに色々言われてたんだろう。少しはすっきり出来ているのなら良かった。
後半はあまり聞かれたくないから声を落としたつもりだが、目の前のガクエンチョウには無駄だったらしい。興味津々の目を向けてくる。言うつもりはねぇぞ、と目だけで訴えればガクエンチョウは残念そうに肩を落とす。……色恋話が好きなんだな、俺の話はしたくねぇけど、ロイの話なら尽きないくらいあるから話してやろう。ネタには困らない。


「ーー質問、宜しいですかな?」
「宜しい。許可しよう、山田先生」
「有り難うございます、学園長。……サラさん、と言ったね?半助が君の持ち物から銃のようなものを見付けたんだが、これは玩具なのかい?」
「本物だ。俺専用に俺が造った奴でな、俺以外には扱えないように細工している。銃のような、ではなく正しく銃だ。この世界には銃はないのか?」
「あるにはあるが、こんなに小さくはない。火縄銃という銃だが、聞いたことはあるかい?」
「ヒナワジュウ……此処は思ったよりも昔なんだな。前に見たことがある、本だけどな」
「ふむ……分かった。有り難う」
「いんや、これくらいならお安いご用だ。……お姉さんも聞きたいなら聞いてくれて構わねぇよ?」

「!……あら、それなら聞かせて貰おうかしら。貴女の左足、機械に見えるのは気のせいかしら?」


ヒナワジュウは前に本で見て、シェスカに質問攻めしたんだよな、懐かしい。終いには自分で調べろ、ってパソコンの前まで連れて行かれたっけ。確かヤマダって言われたな、また後でヒナワジュウについて教えて貰おう。本物があれば見せて貰いたいものだ。
言い悩んでるようなお姉さんに声を掛ければ、お姉さんは言い難そうに顔を歪めながらも、はっきりと聞いてくる。俺はガクエンチョウに立つ許可を貰い、全員に見えるように軍服の裾を捲る。ハッと息を呑む音が聞こえた。


「正解。これは機械鎧と言って、これも俺が造った奴だ。生足、って言い方も変だが、悪く思わないでくれ。生足はねぇ。神経はこれを着ける時に繋げるからちゃんと動く。……めちゃくちゃ痛いけど」
「おーとめいる……どうしてそうなったのかは聞いても良いのかしら?」
「……左足を失って、不便だから造った。カミサマに近付き過ぎた結果だから、自業自得だけどな」
「……神様?近付き過ぎた?」

「人間は所詮人間ってことだ。……やってはいけないことに手を出した報いってやつだ」


俺達は所詮神を越える所か、肩を並べることすら出来やしねぇ。自嘲気味に笑みを浮かべれば、気を遣ったのか、お姉さんは目を逸らす。別に気にしねぇんだけどな。ただ、人体錬成について話すつもりはねぇ。気が進まないし。……興味本意ではなかった。ただ、もう一度会いたかっただけなんだ。あの優しい笑顔に。
……ああ、そう言えば此処には錬金術は存在しているんだろうか。ガクエンチョウに発言の許可を貰い、俺は口を開いた。


「錬金術、と言うのを聞いたことはないか?」
「錬金術、とな?……ワシは知らんのう。先生方はどうじゃ?」
「「「……………………」」」
「……知らねぇみたいだな。錬金術、と言うのは物質の構成や形を変えて別の物に作り変える技術だ、簡単に言えばな」
「ほう……別の物に作り替える、とな?」
「ああ。……まあ、錬金術は等価交換だからな。無から何かを作るのは出来ないし、性質が全く違う物を作るのは出来ない。錬金術は物質の構成や性質を理解し、それを分解して、再構築することで初めて完成する。間違っていれば自分に返って来るだけだし、分からない内は何もしないのが得策だな」
「……自分に返って来る?」

「尋常じゃない痛みに体を蝕まれる。そりゃもう、死んだ方がマシだって思うくらいにはな」


"リバウンド"あれには正直参ったし、痛みでどうにかなると思った。……失敗するとは思ってなかったから余計かも知れない。エドもアルも同じ気持ちだったんだろう。自分の目の前で弟が消えて行くのを見ていることしか出来ない気持ちは計り知れない。
"ただ、もう一度会いたかっただけなんだ"そんな甘い考えは錬金術の世界には存在しねぇ。ただ、その現実だけが重く、のし掛かった。
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