和解からの約束
うどん屋の翌日にコマツダの実家である扇子屋にドイと一緒に行って、扇子を貰ったり、俺の胃袋を確実に掴んでくるおばちゃんと一緒に料理したり、と比較的のんびり過ごして来た数日。こんなに穏やかに1日が過ぎるのって何時振りだろうなぁ、なんて考えながら、俺用に用意してくれた教材を眺める。この世界の文字とか、通貨とかそんな感じの内容が分かりやすくまとめられていて読み応えがある。…ニンジャの方は無視だな、なるつもりないし。ひたすら読んでいれば、ふと気配に気付き、俺は苦笑いを浮かべながら振り向く。
「ー…何だジュンコ、また来たのか?イガサキにはちゃんと声掛けたのか?」
シャーと言いながら、俺の肩に乗って来る真っ赤な毒蛇であるジュンコを撫でながら問い掛ければ、彼女はシレッとした表情のまま、シャーと鳴く。…こいつはあれだな、また脱走…じゃなかった、散歩して来たんだな。仕方ない、イガサキに渡して来るか。俺は教科書を閉じ本棚に戻してから、ジュンコを落とさないようにしながら立ち上がり、戸を開ける。さて、イガサキは何処に居るのかねぇ…
「…騒ぐ声が聞こえてないってことは、まだジュンコが居ないのに気付いてないんだな」
あのジュンコガチ勢のイガサキが気付かないってことは…授業、ではないな。今は放課後だし。イインカイ、でもないだろう。…おばちゃんの手伝いか?まあ、1番怪しいのは食堂だし、行ってみるか。耳元でシャーシャー鳴くジュンコを撫でながら、途中で擦れ違うタキやこへ達に挨拶しながらひたすら歩いていく。タケヤに会った時は、土下座レベルで謝罪された後、代わりに連れて行くと言われたが、ジュンコが俺の肩から離れなかったので断念した。タケヤは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、イガサキは食堂に居ると教えてから、名残惜しそうに去って行く。ジュンコは気に入らない時があるとまた散歩しかねないらしいから、可能な限りジュンコの機嫌を損ねないようにしているらしい。まあ、それが良いだろうな。イガサキも心配だろうし。
食堂に入れば、せっせと働いている3年生。やはりというか何というか、俺に真っ先に気付いたのはカズマだった。
「サラさん!お腹空いたんですか?」
「違うよ。イガサキに届けもの」
「孫兵に、ですか?あ、ジュンコ!」
「ジュンコ!?ジュンコー!!何処に行ってたんだ、探したじゃないかー!!」
「俺の部屋に来てたよ。今は食堂の手伝いだろう?終わるまで預かっててやろうか?」
「そう、ですね……火を使いますし、ジュンコに怪我させたくないのでお願い出来ますか?」
「おー、任しとけ。ちゃんと預かっててやるよ。ほれ、イガサキは手先が器用なんだから手伝いに戻りな」
「は、はい!」
「…えっと…」
「カズマ、一仕事終えたのなら話し相手になってくれるか?」
「!はい、喜んで!!」
「居酒屋かよ…ほら、おいで」
椅子に座り隣を叩けば、カズマはぱあっと表情を明るくして近付いて来た。カズマ…だけではないんだが、ニイノ先生以外の保健イインはかなり不運らしく、食堂の手伝いの場合はキッチンから遠避けられるらしい。唯一の例外はカワニシだな。彼奴はまだ不運度?が薄いらしく、キッチンの手伝いを無事に遂行出来るが、他は何かしらやらかしてしまうらしい。こんなに良い子なのに勿体無いよなぁ…不安そうにチラチラ見てたトウナイ達にひらひら手を振りながら、俺はカズマの頭を片手で撫でる。ふわっふわだなぁ…
「サラさんって、ジュンコに懐かれてますよね!体温が低いからでしょうか?」
「あー…どうだろうなぁ。騒がないからじゃないか?ジュンコは騒がしいの好きじゃないみたいだしな」
「ジュンコの気持ちが分かるんですか?」
「ただの勘だよ、勘。…俺も動物とか生き物好きだし、ジュンコは頭良いから付き合うべき人間が分かるんだろうなあ」
「そうです、ジュンコは頭良いんです!!だから、ジュンコに懐かれるサラさんは良い人です!!」
「何だそのとんでもねぇ理論は!!孫兵、今は手を動かしやがれ!!」
「盛大に掌返ししたの孫兵が先だったよなー。ジュンコが好いてるなら良い人だって!」
「そうそう、譲らなかったよね」
「まあ、女性で蛇平気なのも珍しいっすよね、毒蛇だし」
「そう言えば確かに…サラさんは爬虫類好きなんですか?」
「動物とか生き物が好きなだけだな。此奴等は素直だろ。…人間みたいに嘘付いたりしねーからな、良い奴だよ」
なー、ジュンコ?そう言いながら撫でれば、ジュンコは返事をするようにシャーと鳴いてから、俺の膝の上に移動し丸くなる。どうやら眠くなったらしい。自由だなぁ、なんて思いながら撫でていれば、空いている手をぎゅっと握り締められる。カズマー?と声を掛ければ、カズマは今にも泣きそうな表情を浮かべながら、静かに口を開く。
「ーー…僕は、嘘付きませんから…!!」
「ん。ちゃあんと分かってるよ」
「ジュンコだけじゃ、ないですから…!!」
「…おー。信頼してるよ、カズマ」
「、はいっ…!!」
「…数馬だけじゃないですから。ジュンコが信頼してるのを除いても、貴女は他の天女とは違うって分かってますよ」
「…あれだけ失礼な態度取ってましたし、信じてくれって虫のいい話っすけど…その、信じて貰えたら、嬉しいです…」
「ええと、…色んな話、出来たらなあって思ってます」
「一緒に出掛けたいなーって思ってます!!」
「サラさんの言うことなら聞いてくれそうなんで、七松先輩を止めて欲しいなあって思ってます」
「…あれは別にお前等が悪い訳じゃないだろ、タイミングが悪かっただけだし気にしちゃいねぇよ。だから、お前等も気にすんな」
こへの話は詳しく聞かせてくれ。と付け足してからそう言えば、イガサキ達はホッとしたような表情を浮かべていた。カズマには土下座くらいさせても良いんですよ?とは言われるが、状況が状況だし仕方ないだろう。と納得させている。俺は本当に気にしてないしな。そんなやり取りを微笑ましそうに見ていたおばちゃんだが、何かに気付いたようにあら、と声を上げた。
「おばちゃん?」
「どうしようかしら…ちょっと足りない食材があるのよ…明日、お客さんが来るみたいだから私は出掛けられないし…」
「そうなのか?明日の朝とかは平気なのか?」
「ええ、生徒達のご飯はあるんだけど…メニュー変更しなきゃダメね…」
「俺、明日予定ないから買い出し行くぜ?誰かに声掛ければ一緒に行ってくれるかもだし」
「は、はい!!僕が行きます!明日、3年は自習ですから!」
「先生達が任務で出払っちゃいますからね…ジュンコと一緒に行っても良いですか?」
「ぼ、僕も自習は終わってるので一緒に行きたい、です…!」
「買い出しだー!!」
「俺と左門も行きますよ。道案内くらい出来ますし」
「左門と三之助は方向音痴を自覚しやがれ!!あ、俺も行って良いですか…?」
「構わねぇよー。おばちゃん、どう?」
「一瞬で決まっちゃったわね…ふふ、それじゃあお願いしようかしら」
「はは、任されました」
目利きなら任してくれよ、と付け足せば、おばちゃんは朗らかに笑いながら、頼りにしてるわぁ、と告げる。外出届貰わないと、と楽しそうに話しているカズマ達に、道案内宜しくな?と問えば、全員からはい!と元気良く返事が返って来た。…一気に懐かれたなぁ。まあ、ギスギスしてるよりは全然良いけどな。こんなことになるとは思わなんだなぁ…
3/12
prev next 戻る