プロ忍、2人目
あの買い物は無事に間に合い、おばちゃんは有り難うと告げ、俺とカズマ達の頭を撫でてから、楽しそうに料理に取り掛かる。…まあ、おばちゃんからみたら確かに俺はガキかも知れんが…今の撫で方は子供扱いじゃないか?流石にひくりと頬が引き攣る。…嬉しかったけどな。良く出来たわね、と言いたげな表情で慈愛に満ちた瞳に見つめられたら、…色々と思い出しそうで泣きそうになる。
(…おばちゃんって、親父に似てんだよな)
俺を見る、優しい瞳。きゅん、と胸が締め付けられる。口では厳しいことも言われたし、手や足も出た。それでも、俺を見る目はいつでも優しく、暖かくて。そんな親父を、嫌いになんてなれる訳ねぇんだ。例え、俺の両親や親戚類を殺った人だとしても、俺を生かして此処まで育ててくれたんだから、嫌いにならなくても良いだろ?
「おばちゃん、お客さんって誰が来るんですか?」
「照星さんよ。朝から三木ヱ門くんと虎若くんがそわそわしているでしょう?可愛いわよねえ」
「照星さんか!…田村三木ヱ門先輩、五月蝿いだろうなぁ…」
「虎若は可愛いがられているし、先輩が悔しがってる光景が目に浮かぶね…」
「仕方ないんじゃね?あの鉄砲隊の若旦那だし。見込みはありそうだろ」
「まあ、親父さんに良くして貰ってるみてぇだしな。恩義を感じててもおかしくはねぇな」
「…タムラやトラワカってことは火器に関する人か?」
「そうですよ!照星さんと言って、利吉さんと同じプロ忍で、火縄銃の名手なんです!」
「ほー、そいつはお目にかかってみたいもんだな。色々教わりたい」
リキチみたいに暫く泊まるのかね?と、情報に詳しそうなおばちゃんに聞いてみれば、おばちゃんは2、3日雇ったらしいわよ。と教えてくれた。…ふむ、リキチみたいに無期限ではないんだな。ガクエンチョウもお金があるんだな…それだけの金があれば、天女も何とか出来たような気がするが…まあ、気にしてもダメだな。どんなに過去を振り返っても、時間は戻ってはくれないんだから。
おばちゃんや3年生達と一緒に料理をしていれば、不意に廊下が騒がしくなる。タムラやトラワカの声が聞こえるところをみると、どうやら噂のショウセイさん、のようだな。ガクエンチョウへの挨拶帰りか。そんなことを思っていれば、ーー失礼。と良い声が聞こえて来てーー…
(肌しっろ!!美白にもほどがあるだろ!)
「3日ほどお世話になります、おばちゃん」
「あらあら、お久し振りね!ふふ、ゆっくりしていって下さいな。お食事はどうかしら?」
「ええ、頂きます。…そちらの方が新しい事務員さん、ですね。初めまして、照星です。以後お見知りおきを」
「、あ、えっと…サラ・クローズ。サラが名前、です。此方こそ、宜しく」
「サラさん!照星さんって凄いんですよー!一緒にお話聞きませんか!」
「照星さん。サラさんは火器に興味を持って下さっているんです。私のユリコやカノコを褒めて下さったり、山田先生から見込みがあると評価されているんです」
「ほう…山田先生から…」
「ダメだよ、虎若。サラさんは僕達と一緒におばちゃんの手伝いなんだから」
「まごへーの言う通り!田村先輩もサラさんに興味を持つような話題やめて下さいよー!」
「そうそう。ただでさえサラさん、色んな奴等に引っ張り凧なんだし」
「ま、頼りになる人だから仕方ねぇけどな」
「これが終わったら今度は4年生と、でしたっけ。…田村先輩、照星さんが居るからって変に気負ってサラさんの足を引っ張らないで下さいね…?」
「数馬、数馬、顔!!落ち着こ!?」
「なっ!私がする訳ないだろう!!寧ろ照星さんや火器についての話をだな…」
「田村くん、手伝いはちゃんと真面目にやりなさい。私語はあまり褒められたものではないな」
「はい、照星さん!」
「…田村先輩ちょっろ…」
「こーら、サモン。カズマも落ち着こうな?ほらほら、手を動かせ。昼食の時間が迫ってるぞー」
サモンの口元に、冷ましていた唐揚げを放り込み、カズマの背中を撫でながら言えば、サモンは美味い!と言いながら破顔し、カズマは不服そうながらも僕にも下さい、と言って来たので大きめのを放り込んでやれば、彼もまた嬉しそうに笑いながら美味しいです、と告げる。うんうん、美味いなら良かった。唐揚げはタルタルソースで食うのが好きなんだよな、自分用に作ろうかな。綺麗にカラッと揚がった唐揚げを冷ましながら、俺はタルタルソースを作る。それは?と聞いて来たおばちゃんに、唐揚げに少しタルタルソースを乗せてから味見してくれといえば、彼女もまた嬉しそうに笑う。
「…!美味しいわね!サラちゃんの世界だとこのソースは主流なのかしら?」
「んー。どうだろうな、俺は好きだけど。お袋はマヨネーズの方が好きだったし、親父は塩かけてたな。セリム…ああ、弟は何も付けずに食うのが好きだった。たまに俺からこのソース持ってったけどな」
「そうなの…私はこのソース好きだわぁ。優しい味がするわね」
「はは、有り難うな。これ、揚げ物なら基本何でも合うからレシピ書いとくな」
「ふふ、期待してるわね」
「サラさん、俺にもそのたるたるそーす?下さい」
「はいよ。ほれ、サンノスケ。口開けな」
「ん…うま…ゆで卵うま…」
「ふは、気に入ってくれたようで何よりだ。…ほら、トウナイ達にもやるからそう拗ねた顔するんじゃない。食べ過ぎるんじゃないぞ、今日のメインディッシュなんだからな」
晩飯はハンバーグである。ククチの為に豆腐ハンバーグも作るけどな。明日からの力をつけて欲しい、というおばちゃんと俺からの細やかな願いだ。…ショウセイさんも好きだと良いんだが。まあ、好みについてはおばちゃんが知ってるだろうし、何も言われていないってことは嫌いじゃないんだろう、きっと。まるで母親に餌を請う雛鳥みたいな3年生の相手をしていた俺は、見つめられていることには気付いてはいたが、
「先輩達良いなぁ…サラさんの作るご飯、何でも美味いのに…今度一緒になったら何か貰おう…」
「確かに美味しかったな…ふむ、僕も何かしらお願いしてみるべきか…サラさんに心を砕いている滝夜叉丸に良い刺激を…照星さん?どうかしましたか?」
「…いいや、彼女は素敵な人だね」
「!照星さんも分かります!?めっちゃ優しいんですよー!笑顔とかすっごく可愛いんです!きゅん、ってしますよ!」
「笑顔…くっ、まだ見たことない…!滝夜叉丸より早く見てやる…!」
「…いつかは、見てみたいものだね」
そんなやり取りが繰り広げられていたことを俺は、全くもって知らなかった。…途中でカズマ達の目付きが変わったのってこれか?地獄耳ってやつ?…教えてくれたって良かったんじゃねぇかな…少しは警戒…あー、無理だ。火器について教えてくれるって言われたらホイホイいくわ、俺。…ちょっとは自重しないとな。
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