優しい騒がしさ

夕食の時間がやって来て、俺は4年生と一緒におばちゃんの手伝いをしていた。私の両隣を4年い組であるタキとあやがキープしておばちゃんの両隣をサイトウとタムラがキープしてハマが皿を用意したり受付してたりする訳だが…タムラからの視線をたまに感じる。チラチラと話すタイミングを見計らっているようだが、タキとあやがそれを許さない、みたいな感じか。俺がタムラを視界に入れることすら嫌らしいタキとあやはそれはもううっかり出くわしてしまったスカー並にねちっこい。


「サラさん、私が作ったスープを味見しては頂けませんか?」
「僕が揚げたじゃがいもも味見してー」
「分かった分かった。俺の口は1つしかないんだからそう急かさないでくれ」
「じゃ、僕が最初ね。サラさん、あーん」
「何故だアホハチロウ!!…ええと、此方をどうぞ」
「滝もスプーンであーん、すれば良いじゃない、変なの」
「五月蝿い!!あ、あーんなど恥ずかしくて出来る訳がないだろう!」
「サラ、塩加減どう?」
「聞け!!それにさんを付けろ!」

「落ち着けって、タキ。俺は気にしてねぇから。あや、もう少し塩を振っても大丈夫だと思うぞ」


俺の言葉に、あやははーい。と言いながら塩を振り、タキは貴女は甘過ぎます!とぷりぷり怒っていた。タキもあやに結構甘いような気がするんだがなあ…俺の気のせい、ではないだろうな。あやが少しでも困るような仕草をしていれば、さりげなく手伝っているし。勿論、それはあやだけじゃなくて他の人の場合も同様だ。タムラの手伝いだけはたまにしかやらないが、何だかんだ言って手伝っているし、おばちゃんやサイトウ、ハマの手伝いも進んでやっている。…何だかんだ言って周りを良く見ているし、面倒見良いんだよな。エド、みたいな感じか。これも天女に魅入られなかった要因の1つかもな。


「こらこら!遊んでないでサラさんの手伝いちゃんとしろよー!タカ丸さんと三木ヱ門はちゃんとおばちゃんの手伝いしてるぞー?」
「失敬な!私はちゃんとしているではないか!」
「僕もちゃんとしてるよ、守一郎」
「さっきまで遊んでたじゃないか!サラさん、何かあれば叱っても良いんですよー?タカ丸さんと三木ヱ門に代わって貰…「「それだけはダメ/だ」」…何でだよ?」
「えー?僕、サラちゃんに何もしてないよ〜?」
「…私だって何もしていないだろう」
「今は、の話だろう?」
「藤内から三木ヱ門に警戒してくれって言われてるんだよね〜、…あの子に何かしたの?」
「、何もしてない!」
「何もしてなくても、だ。サラさんに対する視線は普通じゃないからな。警戒するしかあるまい?」

「…タキ、仲間なんだからそこまで言ってやるんじゃねえ。あや、トウナイは他にも何か言ってたか?」


鋭い目を向けるタキの頭を軽く小突き、私は貴女の為に…!ときゃんきゃん吠えてくるタキの頭を撫でながらあやに問い掛ければ、あやは難しそうな表情を浮かべた後、照星さんもサラに興味持ってるみたいだから気を付けてくれって言ってましたよー。と教えてくれたものの、俺には何故警戒しなきゃいけないのかが分からないんだが…ふーん?と言いながらハンバーグを焼いていれば、さっきまで黙っていたおばちゃんがクスクス笑いながら口を開く。


「本当にサラちゃんは愛されてるわねえ、微笑ましいわあ」
「え」
「ふふ。藤内くんが田村くんと照星さんに気を付けて、っていうのは…サラちゃんが火器に興味を持ってるからじゃないかしら?田村くんも照星さんも火器に詳しいし、大好きなサラちゃんが自分達に構ってくれなくなるんじゃないかって不安なのよ」
「はー…マジか。え、トウナイ可愛いな…やきもち、妬いてたのか」
「ふふ、妬くのも分かるけどねえ。山田先生に火器について教わってるサラちゃんの目、キラキラしてるもの」
「…キラキラ…」
「あ、それ分かるかも〜。サラちゃん、ただでさえ綺麗な目が火器の話になるともっと綺麗だよね〜」
「…藤内達もすっかりサラさんに懐いてたし、もっと仲良くなりたいのに火器って強みがある三木ヱ門と照星さんに取られるって警戒してたのかもな。俺も作兵衛に頼まれたし」
「ハマも?それにしては露骨じゃなかったな」
「そりゃあ、サラさんが誰かを放ったらかしにするような人だと思ってませんからね!寧ろ、サラさんって全員平等に扱ってくれるじゃないですか。だからこそ、作兵衛には大丈夫だって言ったんです。いくら火器について知りたくても、ずっと三木ヱ門や照星さんの側に居たりしないって!」
「…あまり話してないのに、ハマは俺を美化し過ぎてないか?確かに誰かしらを特別扱いしたりはしないだろうけど…」
「だって、サラさんは子供なら誰にでも手を差し伸べますよね?俺達は宝、なんでしょ?そう言ってくれたサラさんが俺達を蔑ろにする訳ないじゃないですか」
「ふふ。そうねぇ、サラちゃんが誰かの悪口を言うなんて思えないわねえ。何を言われても、自分が不審者だから仕方ないって言ってたものね」

「…やめてくれ。俺は、ハマやおばちゃんにそう言って貰えるほど善人じゃねぇよ」


首を振りながら告げた言葉に、ハマとおばちゃんは互いの顔を見合わせた後、困ったように笑いながらす、と小さく指を指す。瞬きを繰り返した後、その指差された場所に目を向けても、そこには誰も居ないし何もない。ん?と思いつつハマとおばちゃんの方に目を向けようとした刹那ーー…弾丸のように俺に向かってくる存在に気付き、俺は慌てて腕を広げる。


「うおっ……トキトモ?」
「…サラさん、抱き止めてくれましたね」
「当たり前だろ?俺が受け止めなかったらお前が怪我してたじゃないか」
「えへへ〜。そう思ってくれる時点で、サラさんはとっても良い人、なんだな!」
「、あ…」
「その、…酷い態度ばかり取ってたのに、頭撫でてくれたりとか、優しくない人なら、しないと思いますし…」
「…先輩達をまた信じられるのも、サラさんのお陰なんですよ。…サラさんがちゃんと話を聞いてくれました、から…」
「…イケダ、ノセまで……カワニシ」
「……貴女は馬鹿ですか。貴女以上にお人好しな人を僕達は知りません。…貴女が毒を仕込むんじゃないかって食って掛かった僕に、貴女は自らが毒を受けることで何もしないって証明してくれた。…伊作先輩も、食満先輩も、サラさんが居なかったらまだ戻って来てくれてない筈じゃないですか…」
「…カワニシ…」
「…否定、しないで下さい。貴女の優しさに触れて、…僕達は、救われたんです。…ね、滝夜叉丸先輩」
「っ〜〜。…後輩に先に言われるとは、情けない。サラさん、私は誰よりも貴女に酷いことをしていると思います。何も分からない貴女を切り付けようとし、この世から消そうとした。…赦されるべきではないと、私が1番分かっています」
「…そんなことはねぇよ。タキの行動は当たり前のことじゃねぇか。先輩も級友も後輩も、皆を守ろうとしてたんだから」
「…そうやって貴女は、自分よりも他人の事情を理解し、気にしていないと言って下さる。…傷付かない訳、ないと私は知っているんですよ…!…私はそんなに子供ではありません。正直に傷付いた、と一言言われても仕方ないのに、貴女は私や他の皆を心配するーー…ねぇ、サラさん。貴女が善人じゃないとすれば、誰が善人になるんですか?私達はサラさんに救われました。そんな人が善人じゃないと言うんですか?」

「ーー…悪かったよ。そこまで、慕われてるなんて思ってなかったんだ。…力になれてたみたいで、良かった」


今度は、守れた。何一つ失敗していない。…心も、ちゃんと守れたんだと。そのことを実感し、思わず泣きそうになる。俺の言葉に、カワニシは仕方ない人だと言いたげな表情を浮かべた後、貴女に助けられた人は多いんですから胸張って下さいよ。と俺の服の裾を掴みながら呟く。…奪う立場が多かった俺が、まさか救う側になるなんてな。


(ーー…凄く、良い気分だ)


実に爽快だ。…俺の反応に、タキ達は安心したような表情で微笑んだ後、おばちゃんがカワニシ達にまだ早いから座って待っててね、と声を掛ける。カワニシ達は素直に…返事したのはトキトモだけだが、椅子に座って俺を見つめて来る。…そんなに心配されなくてももう平気なんだけどな。
ーー…本気でこの世界に残るのもアリかも知れない。そんなことを思いながら、俺は小さく笑みを浮かべた…

6/12
prev  next
戻る