1人になんてさせない
ーー明日、先輩達とダイサンキョウエイマルさんのところに行くんですよ!
嬉しそうにトキトモに言われた言葉に、ダイサンキョウエイマル?と聞き返せば、トキトモの口の周りについたソースを拭いていたタキに海賊だと教えられた。この世界に海賊も居るのか!?思わずそう聞き返せば、凄く優しい海賊が居ますよ!と教えて貰った。忍者だけじゃなくて海賊も居るのか…いつかは会ってみたいものだな。一緒に行きますか?と聞いて来たノセの頭を撫でながら、俺は口を開く。…行きたいのは山々なんだけどなあ…
「明日は1日用具委員会の手伝いなんだ。倉庫の物が壊れてたり、こへが暴れるからか穴が多いらしくてな…そうだろ、ハマ」
「そうなんですよ。ごめんな、サラさん借りるな」
「、それなら仕方ないですね。足を引っ張っちゃダメですからね」
「お土産いっっぱい持って来るんだな!」
「…まあ、来なくて正解なんじゃないですかね。一緒に行くの5年生ですし…」
「…鉢屋先輩と尾浜先輩、まだサラさんとあまり接触しませんもんね。不破先輩がプンスカしてました」
「ああ…あの2人は、なあ…天女に1番心奪われてた方々だから仕方ないかも知れん」
「サラはなーにも悪くないんだから気にしないでね」
「そうですとも!…鉢屋先輩と尾浜先輩も悪い人ではないんです」
「ごめんね、サラさん。まあ、懐かれたら懐かれたで騒がしいと思うよ〜」
「俺は気にしてないが…懐かれたら騒がしいのか?」
「ふふ。鉢屋くんと尾浜くんのことなら庄左ヱ門くんと彦四郎くんに聞けば分かりやすいかも知れないわね。あの2人に猫可愛がりされてるからね」
「ほー?…なかなかイメージが湧かないな」
無事に全員分の配膳が終わり、のんびりとお茶を啜りながら思い出すのは俺を睨んではフワとタケヤに頭を叩かれているハチヤとオハマの姿。ククチはフワとタケヤ並ではないが、そこそこ俺に気を許してくれてるようだ。そろそろと近寄って来ては、豆腐ハンバーグが美味しかったと呟いて足早に去って行くククチは何だかとても可愛いらしいと思う。見た目もかなり綺麗だよな、肌が白いし。豆腐が大好きで自ら豆腐を作ったりもするらしいし、今度彼奴の豆腐をリクエストしてみるかな…食ってみたいし、料理に使ってみたい。こだわってるだろうし、そんじょそこらの豆腐より美味いんだろうな。
実は俺を警戒してるのはハチヤとオハマくらいだったりする。俺に対するあの2人の態度に笑顔でキレるフワやタケヤ、カズマを宥めるのはなかなかに骨が折れる。当たり前の行為だと思うんだがなあ…
「サラさんは海、好きですか?」
「…実は俺の故郷、海が綺麗な所だったんだ。だから好きだよ」
「じゃあ、潜れたりします?俺、漁師の息子なんで海には詳しいですよ」
「ほう、イケダは漁師の息子なのか。まあ、今の体じゃそこまでは潜れないけど昔は良く潜っては貝殻を拾ってたりしたよ」
「機械鎧、でしたっけ。これって壊れたりするんですか?」
「そりゃあ機械だから多少は、な。…修理に関しては1人でやってたから心配はしてないが…やっぱり多少は大人の力が必要なんだよなあ…」
「大人、ですか?」
「無理矢理神経を繋げる訳だからな。痛いから動かないように固定しなきゃならねぇし、この機械鎧を足に嵌め込まなきゃならん。…此処の人達にやらせたくねぇんだがな」
「…向こうでは誰にやって貰っていたの?」
「親父と信頼出来る弟子、だな。壊さないようには努力はするが…難しいだろうな」
「そうなんだ〜…やっぱり先生達が良いのかな…」
「…いくらサラさんが女性とは言え、まだまだ私達では力不足でしょうね。七松先輩くらいなら大丈夫かも知れませんが…あの人だと加減が出来ない可能性が高いのが難点です」
「食満先輩は逆に優し過ぎるからなぁ…」
「…潮江先輩はそもそも触れられないだろうな。あの人は女性に免疫がない。…堅実なお方だからな」
「立花先輩や善法寺先輩はそもそも力がないから無理だろうねえ。中在家先輩も優しい人だからどうなるかな…サラ、大丈夫?」
「…先行きは不安だが、何とかするしかないだろ」
第一候補としてはキノシタ先生かアツギ先生だが…キノシタ先生は5年生の担当だし、ハチヤとオハマが俺の頼みを受け入れるとは思わねえ。アツギ先生なら何とか手伝ってくれそうではあるが、どうだろうな。1年生達が全力で止めそうな気がしないでもない。…いいや、寧ろするだろうなあ。コマツダが忍者になるとしたら1年何組に入りたい?とか言い出した時軽く大変だったからな…俺が何したって言うんだ。コマツダは人気者だねえ、とか笑っていたし…あの時はヤマダ先生に止めに入って貰ったんだったな…ヤマダ先生もありかも知れねぇな。…けど、
「…親父かルイが居たらなあ…」
「ルイ?」
「俺の弟子だ、一時的だがな。彼奴は力があるし知識も申し分ないんだが…優し過ぎる。彼奴には姉や妹が居るんだが、姉は軍の中でも厳しい人だからな。姉弟喧嘩、というか一方的にルイが叱られては泣き付いて来たよ。彼奴は泣き虫だったからなあ」
「…サラさん以外に優しい軍人って居るんですね!どんな人だったんですか?」
「ルイは…そうだなあ、とにかく優しい奴だよ。彼奴は上から疎まれてる俺をいつも心配してくれてなあ、聞こえないようにする為か耳を塞いで来たりすることもあった。俺が気にしてねえよって言えば、彼奴はまるで自分のことのように顔を歪める…誰よりも優しい奴だ」
「…サラさんにとって、大事な人なんですね」
「そうだな、かなり大事な人だな。ムキムキででかい上に強面だから、なかなか誤解されやすい奴だが…甘い物が好物でな。あのだらしない顔を見たくて何度も甘い物を差し入れしたさ」
「おやまあ、サラの手料理を何度も食べれるなんて羨ましい…僕が授業頑張ったら僕にもくれる?」
「授業を頑張るのは当たり前な上、図々しいぞ、アホハチロウ!!それにさんを付けろと何回も言って…「ご褒美か?別に良いけど」サラさん!?貴女って人は!!」
「そんなにカリカリすんなよ、タキ。誰だってご褒美があればやる気になんだろ。やる気を出すのはタキにとっても悪い話じゃない、だろ?」
「…それは、そうですけど…」
「真面目に考え過ぎなんだよ、お前は。少しくらい息抜きしないと、身が持たないぞ。…トキトモ」
「はぁい!滝夜叉丸先輩ー!」
「うわ!?き、急に飛び付いて来るんじゃない!!」
「俺もだがタキは後輩に甘いからなあ、無垢には出来んだろ?」
「なっ!?ず、狡いですよ!」
「はっはっは、使えるもんは何でも使う主義なんでな。何とでも言え」
ーー後輩の中でも、トキトモには何故かより一層甘くなるだろ?
そう付け足せば、タキはまるで魚のように口をパクパクさせながら何かを紡ごうとしているが、言葉が見付からないらしい。可愛いなあ、本当に。すりすりと頬擦りしてくるトキトモに、タキは表情をコロコロ変えながらも、最終的には優しい顔をしながらトキトモの頭を撫でていた。うんうん、やっぱりそうするしかないよな。これで少しはタキも気が休まるよな。ちら、と見てみればあやは真顔でピースサインを送って来ていて思わず溜息。どことなく憎めないよなあ…
「そう言えば…サラちゃんのいた世界だと何だったかしら、く、くるま?が主な移動方法なのよね。サラちゃんも乗っていたの?」
「車?そうだな、俺は乗ってたし自分専用の車もあった。…急にどうしたんだ?」
「ごめんなさいねえ、前に聞こうと思ってたのだけどタイミングが掴めなくて。此処だと移動は馬が主だからかも知れないわねぇ、どんな時に使っていたの?」
「俺としては馬の方が気になるがな…遠出する時は勿論、買い出しの時も車に乗ってたな。あとはーー…1人になりたい時とか遠くまでドライブしたもんだ」
「どら焼き?」
「どら焼き美味しいよね〜」
「どらいぶ、ですよ!…どらいぶ、とはどんなものなのですか?」
「あー…そうだなあ、車を運転して適当に遊びに行くようなもんだな」
「…適当、ですか?目的もなく?」
「ねぇな。気の向くままって感じだ」
「…1人で、ですか?」
「1人で、だな。悩み事とかあったりすると、無性に1人になりたくなるだろ?そんな時に誰も俺を知らない場所に行きたくて車を飛ばしては山の中やら海やら行ってたよ」
「…サラさんと一緒なら、そんな途方のない旅も楽しそうですね。海のことなら俺が詳しいですし」
「三郎次!?お、俺も山のことには詳しいですよ!本で色んな知識ありますし!」
「…貴女は僕が見てないと無茶しますからね!仕方ないから付いて行きますよ!」
「僕は何も出来ないですけど、サラさんの話を聞くぐらいなら出来るんだな!」
「…おいおい、俺の話を聞いてたか?俺は1人になりたい時、って言ったんだぜ?」
「貴女を1人にさせない、ってことですよ。いやあ、愛されてますね、サラさん!ま、俺も貴女を1人にするつもりはないですよ。車もないですしね」
「僕達が居れば、サラは寂しくないでしょー?」
「…強引だなあ、お前等は」
溜息交じりの言葉に、ハマ達は楽しそうに笑う。どうやらとことん俺を1人にするつもりはないらしい。…たまに夜中に1人で出歩いてるの知られたら部屋に泊まりに来そうだな。ほとぼりが冷めるまで控えるべきか…?そんなことを考えているのが伝わったのか、カワニシに時間が経ったら1人になっても良いとか有り得ないですからね!と叱られてしまった。忍者ってのは心が読めるのか?…そんな訳ないか、流石に。
(…俺を1人にしたら向こうに還ってしまいそうで怖いのかも知れないな)
あまり懐いたりしないというカワニシが俺の服の裾やら何やらに触れているのも引っくるめて、そんな感じなんだろうな。最近、イケダやノセも自分をアピールして来るし。…トキトモは最初から自分をアピールしてたから例外だな、うん。俺がもしーー…向こうに還らない。と伝えたら、カワニシ達は喜んでくれるんだろうか?…喜んでくれそうだな。でも、ぬか喜びはさせたくねぇから、俺が向こうを捨てる覚悟が出来るまでは待っててくれな。
(…ロイには泣かれそうだな)
でも、ごめんな。今までは国の為に、ヒューズの願いであるロイのサポートをする為に頑張って来たつもりだが、此処に来て…俺の、俺自身の幸せが揺らいでしまったんだ。向こうに還るにせよ、此処に残るにせよ…もう少しだけ、時間をくれ。中途半端な態度はどっちにも悪いだろ、俺も気に入らねぇし。だから、もう少しだけ向こうで頑張ってくれな。
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