再会と傷痕

カンカンカンと修理の音が聞こえる。俺はこの音が結構好きだったりする。…機械鎧、だからだろうか。壊さないようにと慎重に力加減をしているハマに教えているとめの姿を見ながら、サクに色々教わっているシン、キサンタ、ヘイタの姿に癒され、俺は修理に時間が掛かりすぎてしまうものや古くなったものを錬金術で直していく。流石に危ないから古くなったのは捨てようかととめの言った発言に、シン達が泣きそうな顔になったのは言うまでもない。愛着が湧いていたんだろうな、物を大事にするのは悪いことではない。寧ろ良いことだ。


(シンとキサンタとヘイタはイイ男になるだろうな)


物を大事に出来る素敵な男に、な。その成長を間近で見ていたいと思いはするが、俺の脳裏をよぎるのはヒューズの忘れ形見であるエリシアの存在だ。…あの子を頼むって言われたんだよな、ヒューズに。きっと彼奴は消される可能性も考えていたんだろう。だからこそ、比較的自由に動ける俺を頼った。ーー自分に何かあったらエリシアとグレイシアのことを頼む、と。…惚れた男の最期の頼みを叶えてやりたい、が…俺を慕ってくれているシン達を放っておけない。…悩ましいな。思わず溜息を付けば聞こえたのかサクが心配そうな表情を浮かべながら口を開く。


「…サラさん、疲れました?」
「何!?…おっと、確かに結構時間が経ってるな…一通り目処はついたし、一度休憩にするか」
「そうしましょうか。サラさん、大丈夫ですか?」
「あー…いや、大丈夫だ大丈夫。ちょっと考え事してただけだ、気を遣わせて悪いな」
「良いんですよ、しんべヱ達も疲れて来てますし、食堂に行ってお茶にしましょう」
「「休憩!!」」
「…サラさん、考え事って…向こうの世界のことですか…?」

「…ちょっとな、大丈夫だから心配すんなって」


休憩の言葉にキラキラと目を輝かせるシンとキサンタとは違い、ヘイタは小声で問い掛けて来た。周りに聞かれないようにする為の配慮なんだろうな、優しい奴だ。俺は笑みを零しながら、ヘイタの頭を撫で回す。…ガキに気を遣われるなんざ大人失格だな、気を付けねえと。俺の反応にヘイタは嬉しそうに笑う。…可愛いなあ、やっぱり。ほっこりと癒されながら俺達は休憩する為に食堂へと向かって行く。食堂に着けば、ドイとヤマダ先生とリキチとショウセイさんが居た。…珍しい組み合わせだな?ドイが俺に気付く前に、シンとキサンタがダッと走り出す。


「「土井先生ー!!」」
「うおっ、しんべヱに喜三太!?急に抱き付いて来るのは止めるように前々から言ってるだろう!」
「仕方ないだろう、半助。お前がこの子達に寂しい思いをさせていたんだからな。サラくん、休憩かい?」
「ああ、時間が経ってたからな。…ヤマダ先生、後でちょっと相談に乗ってくれないか?」
「サラくんが頼ってくれるんだから断わる訳ないだろう?私で良いなら構わないさ」
「有り難うな。…ヘイタ、これで安心出来そうか?抱え込んだりしてないぞ〜」
「…相談してくれるなら、良かったです…!」
「…サラさん、何かありました?すみません、気付けなくて…」
「良いんだよ、サク。ちゃんと相談するからな。リキチ達は…警備の話をしてたのか、邪魔したか?」
「大丈夫です、大体はまとまりましたから。サラさんは警備もしてるんですよね?ちゃんと休んでいますか?」
「サラさんが強いと言うのは伺ってはいますが、貴女は女性だ。あまり無理はしないで下さいね」
「警備もしてるんですか!?…すみません、俺達を鍛える仕事まで追加させてしまって…」
「…滝に言います?」

「ちゃんと休んでるから大丈夫だって。タキに言うのは勘弁してくれ」


彼奴は五月蝿い。そう付け足せば、ハマは楽しそうに笑いながらも、無理したらすぐに言いますからね。と付け足して来た。…彼奴に知られたら面倒になりそうだし、少しは休みも入れるか。そんなことを考えつつ、ドイの近くにある学園の地図に目を向ける。ほー、良い感じにまとまってはいるな。若干薄いところはあるが、これくらいなら形容範囲だろう。軍とは違い、此処は人が少ないからな。ただ気になるのはーー…


「…ここ、見張らなくて良いのか?古い倉庫があるみたいだが」
「大体は学園長目当てで来る敵が多いからな、此処は学園長の部屋から一番遠い上に見晴らしも良くはない。飛び道具も木々に阻まれて飛ばないからな。…気になるのか?」
「…ニンジャの考えは良くは分からんが俺が敵なら此処から潜入するけどな、古い倉庫や自然がいっぱいってことは燃やしたりしたら広がるのが早い。そっちに注意を惹き付けて動揺してる連中の背後をぐさり…有り得ない話ではないだろ?」
「…あえて違う場所に惹き付ける、か。確かに有り得ない話ではないな。流石はサラくんだ、作戦を考える方もしていたのかい?」
「いんや、俺はされた側」
「された側…!?」
「…酷い人が居たものですね…すぐに気付いたんですか?」
「ーあー…いや、気付くのに遅れて庇われたんだ。…そいつの背中に傷が残ってる。消すぞって言ってるのに、俺を守れた勲章だから気にするなって消させてくれないんだ。男ってそういうの……好きなんだな、とめ」
「す、すみません…!いやあ、しかしかっこいいですね!大切な人を守れた証…俺もきっと消したいとは思わないですね」
「俺もです!そりゃあ痛いでしょうけど…後悔は絶対しないですよ、サラさんが笑ってくれるなら安いもんです」
「…ハマもか。良く分からねぇなあ…まあ、そういう考えもあるってことで倉庫の方も見回りしといた方が良いんじゃないか?何なら俺が見るぜ、借りてる部屋から近いからな」
「…確かに近いが…サラ、大丈夫なのか?」
「へーきへーき、体力は無駄にあるんだ。俺が見回ってる場所を違う人…そうだな、とめ。お前なら出来ると思うがどうする?」
「え…お、俺ですか?」

「自分でも分かってるんだろ?お前が6年生の中で1番勘を取り戻したのが早いってな。お前なら任せられるんだが、どうだ?」


そう問い掛ければ、とめは少し悩んだような表情を浮かべつつも、力強く頷いた。下級生を大事にしているとめだからな、そりゃあ勘を取り戻すのは誰よりも早いだろう。守りたい存在がいるーーそれは強くなる為にもっとも必要なことだからな。頷いたとめにシン達が飛び付くのを見ながらドイに目を向ければ、ドイは嬉しそうに笑いながら頷く。うんうん、これで一件落着だな。
お茶を飲みながら談笑していれば、バタバタバタと廊下を走る慌ただしい音が聞こえて来て、さっきまで穏やかな顔をしていたドイがすん、と表情を消しーー廊下に向かって口を開く。


「こらー!!廊下を走るんじゃないー!」
「ど、土井先生!?す、すみません!後で聞きますのでサラさん居ますか!?」
「三郎次?お前が走るなんて珍しいな…サラなら此処に居るが…」
「本当ですか!!四郎兵衛、左近、久作!!サラさん、食堂に居るぞー!!」
「何だ何だ、騒がしいな。ダイサンキョウエイマルさんだったか?その人の方はもう済んだのか?」
「サラさん!えっへへー、きっとびっくりするんだな!」
「すぐに気付いた僕達に感謝して下さいね!」
「サラさん、あの人ーー砂浜に倒れてるところを保護されたらしいんです。…見覚えありますよね?」
「砂浜だぁ?一体誰だってーー…「サラ殿!!」…ルイ…?」

「ご無事だったのですな、サラ殿!!」


カワニシとノセに腕を引かれていたのは俺の一番弟子で、誰よりも軍人に向いていないと思っていた心優しいルイの姿だった。俺の姿を見たルイはカワニシとノセの手を振り解き、涙を浮かべながら抱き付いて来たので甘んじて受け入れてやる。ぎゅううううと力一杯抱き締められ、身体が宙に浮く。若干苦しいが、変わらないなあと懐かしくなりながら俺は腕を伸ばし、ルイの背中を撫でる。


「相変わらず泣き虫だなあ、お前は。どうして此処に?」
「…急に居なくなったと報告を受けて我輩達がどれほど心配したと思っているのですか…!!…サラ殿と吾輩とホークアイ中尉殿と共にクセルクセス遺跡に行った時のことを覚えていますか?そこに何かのヒントがあるのではないかと参った所…遺跡に吸い込まれましてな。目を覚ましたらヒョウゴスイグンの皆様に保護されていたのです」
「ヒョウゴスイグン?」
「お、良かったな!会いたい人に会えたのか!」
「ダイサンキョウエイマル殿、有り難うございます…!!」
「なーに、良いってことよ!!嬢ちゃんがサラちゃんか?ルイはずっと心配してたんだ、少しは許してやってくれよな!」
「貴方がダイサンキョウエイマルさんか…サラ・クローズ。ルイが世話になったようだな、色々と感謝する」
「良いってことよ!俺達もルイには助かったからな!」
「そうか。…優しい人に拾って貰えたんだな、ルイ」
「…はい。ヒョウゴスイグンの皆様にはお世話になりました。サラ殿もお元気そうで何よりです」
「まーな。…此処の人達も優しくてさ、毎日が楽しかったよ。ルイは?」
「…吾輩も楽しかったですぞ。船に乗って魚を釣りました、サラ殿にも見せたかったくらい立派な魚でしたぞ!」

「ほー、そいつは見たかったな」


ニコニコと笑いながら話してくれるルイの笑顔に癒されながらも、あえて気付かないフリなんてしてやらない。話を誤魔化したいんだろうが、そうはいかない。俺は相槌を打ちながらにっこり…にっこり?笑えば、ルイはひくりと頬を引き攣らせる。おうおう、察しが良いのは昔から変わらねえな。まあ、だからと言って加減するつもりはないが。バチンッと音が鳴るくらいにルイの背中を思い切り叩いてやれば、ルイは痛そうに顔を歪める。…やっぱり増えてるな。


「…また姉弟喧嘩か?傷が増えてるみたいだな。治療もロクに受けてないんだろ」
「っ、っ、…わ、分かってて叩いたのですか…!!」
「うるせえ、どうせダイサンキョウエイマルさん達に治療するって言われてもロクにさせなかったんだろ。脱げ、今すぐ脱げ。…脱がしてやっても良いがどうする?」
「っ〜〜…お願いします…」
「っ、こ、こいつはなかなか…」
「…あの背中の傷…」
「ああ、…さっきの話の人なんだろうな、きっと」
「じょ、嬢ちゃん…どうだい?その痣は消えそうかい?たまにルイの奴、痛みに魘されてるみたいでな…心配だったんだよ…」
「…これくらいなら消せるさ、大丈夫だ。なあ、彼奴と何があった?……まあ、大方予想は付くが、な」
「…サラ殿には関係ありません…」
「ほー?…それ、俺の目を見ながら言えるか、アレックス・ルイ・アームストロング少佐?」
「ず、狡いですぞ…!!」

「言ってろ言ってろ。…ルイ、俺を出し抜こうなんざ考えるんじゃねえぞ」


色んなことされてるんだ、お前みたいな優しい奴が考え付くような生温いことに騙されてやる訳ないだろ?
そんなことを囁いてから、俺は錬金術でルイの背中にある痣を消す。…本来ならこの俺を庇った傷も消したいが…まあ、男の勲章のようなものらしいから消さない方向で行くかな。その傷以外の痣や切り傷を消してダイサンキョウエイマルさんの方を見れば、ダイサンキョウエイマルさんは感激したように涙目になりながらルイの背中に抱き着き、俺に有り難う有り難うと言ってきた。この世界には優しい奴しか居ないのか?…それにしても、だ。


(…無数の切り傷に火傷の痕に内出血、ねえ…)


戦争が終わったこのタイミングでこんなに傷が出来るような戦いなんて早々ない。…拷問、だと考えるのが妥当だよなぁ…厳しいが八つ当たりなんかはしたりしないオリヴィエがこんなことをするとは思えん。上層部の奴等だろうなあ、間違いなく。…痛かっただろうに。俺が居なくなったタイミングでこの傷を与えられるってことは俺が絡んでいるんだろう。心優しいこいつが俺を悪く言うなんて天と地がひっくり返っても有り得ない。…口は割らせるが、色々と問題は山積みだなあと、様子を見に来たトキトモを俺は有無言わさずに抱えて抱き締めていたーー…。
8/12
prev  next
戻る