気持ちを曝け出す
あの後、学園長が煙玉?と呼ばれる道具を使いながら現れ、ヒョウゴスイグンとルイの面々が泊まることになった。船酔いならぬ陸酔いする海賊が居るのには驚いたが、まあ海賊なら仕方ねぇのか…?因みにダイサンキョウエイマルさんは船酔いするらしい、船長がそれで良いのか。少しばかり頼りなさを感じたものの、生徒達からの信頼は厚いようで泊まるということに歓声が起きていたりもした。陸酔いする海賊達には保健委員の面々が忙しなく世話を焼いている。俺はそんな光景を眺めつつ、奥の方でルイに酒を勧める。ま、なかなか口を割ってはくれねぇんだがな…
「ルイ、良い加減腹括れ」
「、いや、です…」
「はー……良いって、俺に気を遣わなくても。さっきの怪我をするような戦争はねぇはずだ、今はホムンクルスとの戦いのせいで戦争吹っ掛けるどころじゃねぇからな。…俺が原因で上層部に目を付けられたんだろ、オリヴィエが人質に取られでもしたか?」
「、…姉上は、サラ殿を守りたかっただけなのです…!」
「わーってるよ。…大方、俺に関する話を聞いてオリヴィエが上層部に抗議しようとしたらルイを人質にされて言うこと聞くしかなかった、って感じじゃねぇのか?」
「っ!?」
「その反応は当たりか……上層部は俺が嫌いだからなあ…大方、俺が身を消したのは何処かのスパイだったからとか言ってたんじゃねぇのか?…違うな、寧ろあれか。俺もホムンクルスだと思われてたか」
「!?な、そん、…そんなこと、ある訳ないではないですか…!!サラ殿は、優しい人です…!」
「ーー…親父も、セリムも優しかったよ」
俺にとっては、だけどな。そんなことを付け足しながら笑って見せれば、ルイはハッとしたような表情を浮かべた後、きゅっと唇を噛み締めていた。大方失言したと思ってるんだろうな、分かりやすい限りだ。ルイは口を開いては閉じるを繰り返しつつも、俺から目を逸らしはしない。…そんなとこも、こいつの良いとこだよなあ。…俺はそんなことを考えつつ、並々に注がれた酒を呷るように飲み干す。
「ーー…親父は、どうして俺を巻き込んでくれなかったんだろうな」
「…サラ殿…」
「…あの人の為なら、俺は命を捨てられるのに。あの人が俺を生かしたんだ、本来なら消えるべき命だったのに。気まぐれで、彼奴に頭を下げてまで俺だけは助けたいって。…なのに、最期は何も教えてくれないで消えちまった。勝手だよ、親父は。セリムだって、大事な姉だとか言ってくれてたのに…何で、連れてってくれなかったんだ…」
「…大総統も、セリム殿も、サラ殿を心の底から愛していました。だからこそ、貴女に知られたくなかったのだと思いますよ。…だから、貴女を気絶させて関わらせないようにした。吾輩はそう思っております」
「…勝手過ぎるよなぁ…禁忌を犯した俺をあの人達は受け入れてくれた。あの人達に返しても返し切れない恩がある…そんな人達を、嫌いになるなんて有り得ないだろ…!」
「…そうですなぁ。それには吾輩も同感です。けれど、まさかそれが裏目に出てしまうとは思っていなかったでしょうな。…あの戦に参戦していない=セントラルに忠誠を誓っていない、つまりはスパイだと貴女を疑ってる者が居るようです。誰かまでは分かりませんでしたが…」
「良い、分かってる。…このまま戻ったら俺も拷問かな。いや、闇討ちされるかも知れねえなあ……それについても話は出てるんだろ?」
「、それは…」
「ルイ」
「ーー…遺跡で何も掴めなかった暁には、サラ殿は“最初から居なかった”として記憶を操作するという話になっておりました。吾輩も消えてしまいましたし、そうなるでしょうな」
「ーーまあ、それが妥当な考えだろうな。…ロイは泣くかな」
「…恐らく」
「だよな。…彼奴だけは、もう泣かせたくなかったんだけどな」
上手くいかないもんだな、と零せばルイは困ったように笑いながら酒を勧めて来た。…そうだな、今はとりあえず酔いたい気分だ。有り難く頂戴しつつ互いに酌するものの、不思議と酔えない。いつもなら気持ち良く寝れるくらいな量を飲んでいるのにな。不思議だなあと思っていれば、ダダダダダ、と不意に此方に走って来る音が聞こえて来る。顔を上げたと同時にーーぎゅうううと抱き締められた。
「…コマツダ?」
「…サラちゃんが泣きたいんじゃないかなって思って来ちゃいました!」
「…そっか。お前には敵わねえなあ……最初から泣き過ぎなんだよ、お前は」
「…ごめんなさぁい…」
「良いよ、…有り難うな」
「…サラ殿、彼もニンジャなのですか?」
「いや、コマツダはニンジャ志望の事務員だ。…泣けない俺の為に泣いてくれるんだとよ」
「なんと…!そのような優しい心を持つ人がサラ殿の近くに居るとは吾輩も嬉しいですぞ!」
「お前だっているだろ?」
「え」
「ルイだって俺の為に心を痛めてくれる優しい奴じゃないか。…感謝してるよ、俺の涙は枯れちまったから」
…きっと誰よりも、親父とセリムのことを引き摺ってるのは俺だ。それにきっと、前に進めていないのも俺だけ。そのことに気付いてるのはルイとエドなんだろうな。ロイは多分、自分が吹っ切れることに意識が向いてるからなあ…気付いてない可能性がなきにしもあらず、だな。そんなことを思っていれば、ぶわっと凄い量の涙を流すルイとコマツダに苦笑いを浮かべつつ、心優しい彼等の背中を摩る。…本当、俺は恵まれてるよなあ…こんな優しい奴等に好いて貰えてるのだから。俺はその好意に応えられてるんだろうか。…応えられてたら、嬉しいんだがな。
「ーーサラくん、酒はもう良いのかい?」
「ん?ヤマダ先生からの酌なら断わる訳にはいかねえな」
「はは、それは嬉しい限りだな。ルイくんはどうだい?小松田くんはお茶の方が良いかな」
「なんと!有り難うございます!」
「山田先生有り難うございます〜!サラちゃんに何か用だったんですかー?」
「サラくんから相談したいことがあると言われていたからな。ルイくんはサラくんを良く知ってるみたいだし、小松田くんにサラくんは弱いから今なら隠し事なんて出来ないと思ってな」
「う、」
「流石は先生ですな!サラ殿のことを良く分かっておられる!!」
「相談……サラちゃん、何かありました?」
「あー……まあ、その前にだ。ルイ、俺はこのガクエンの人達から帰らないで欲しいって言われてるんだ」
「…それは吾輩も同感ですな。上層部の人達はサラ殿を排除しようとしております。…暗殺を企てている者も居るようです」
「あ、暗殺!?そんな、サラちゃんはちゃんとお仕事頑張ってるのに…!」
「…それはお前もだろ、ルイ。お前の美点である優しいって所をあの連中は煩わしく思ってる。…拷問だって、手酷くやられたんだろ」
「…サラ殿には敵いませんなあ…「何だって!?ルイは兵庫水軍の大事な仲間なんだからな!そんなお前を蔑ろにするような場所に戻る必要なんかないぞ!俺が一生面倒見てやるからな!」…ダイサンキョウエイマル殿…」
「…皮肉なモンだな。共に頑張って来た連中には毛嫌いされてんのに、ちょっとしか共に過ごしていない人達に好かれるとはな」
「…ええ、全くです」
「サラくんとルイくんが良い人だと知ってるからこそ、だな。君達の良さに気付かないなんてもったいないことだよ」
ヤマダ先生の言葉に、コマツダとダイサンキョウエイマルさんが力強く頷く。そんな反応に俺とルイは顔を見合わせ、くすりと笑みを零す。ーーああ、此処はこんなにも暖かい。このぬるま湯に一度でも浸かってしまったら、彼処には二度と戻れなくなる気がする。俺が耐えられそうにない。…別に全員が全員そうだとは思っていないが、大体は俺に対して僻んでいるからなあ…実力が足りないのなら鍛錬すれば良いのに、どうして初歩的な努力すらしようとしないのか。俺は座学ではカンニングとか賄賂とかだって疑われたり、上から潰されたりしたから実力だけを考えて努力した。…女が男より強いのは可愛いげがないと言われたりしたけどな。まあ、それについては同感だが。
「サラ殿は可愛いらしいですぞ!もう少し笑えば良いと言われたではないですか!!」
「あー…確かに親父にもエドにも言われたなあ…セリムには笑顔の安売りするなって言われたけど」
「サラちゃんの笑顔可愛いから弟さんの気持ちも分かるかも…とっても可愛いと思いますよ〜癒されちゃいます!」
「ほー、ルイから聞いていたがそんなになのか!いつかは見てみたいものだな!」
「確かに癒されるな。その笑顔を見る回数は子供達と接している時が多々あるけれど、サラくんは子供が好きなのかい?」
「好きだよ、俺が産めない身体だから余計かもな。…それに、俺は家族も親戚類も失ったから子供が大変そうなのは見ていて辛い。…無意識に重ねてるのかもな」
「…それは悪いことを聞いたね。子供を産めないというのは、何かの病なのかい?」
「悪いって言う割にはガンガン聞いて来るよな、ヤマダ先生って。ーー…違うよ、禁忌を犯した罪だ」
「…仕方がないのです。いくら大統領達が居ても、まだ幼いサラ殿にとっての家族は失ってしまった家族しか居ないのですから…」
「…まさか、禁忌って……いや、でも、そんなことが可能なのか…?」
「…可能じゃねえよ。材料は分かっていても成功例がねえんだ、そこで思い留まれれば良かったのにな。…俺は、皆にもう一度会いたいと願ってしまった」
その結果が、このザマだけどな。
そんなことを付け足しながら機械鎧とお腹の部分を叩いて見せれば、ヤマダ先生とダイサンキョウエイマルさんは顔を蒼白させヒュッと喉を鳴らし、コマツダは悲しそうに顔を歪める。その話を知っていたルイも悔しそうに拳を握り締めていた。…こんなの、目出度い筈の宴でやるべきじゃねぇよなあ。そんなことを思いつつ、俺はひたすら酒を呷る。…何が不味いな。俺はポケットの中から銀時計を取り出し、中を開いてから見えるように真ん中に置く。
「ーーその人達が俺の両親と親戚達。先祖が何かしらやらかしたらしくてな、小さい集落で生活してたんだ。…ルイにも見せたことなかったよな」
「…ええ、誰にも見せては貰えませんでしたからな。…お優しそうな人達ですな」
「…サラちゃんはお母さん似なんだね、目元はお父さん似かな?」
「サラちゃんも小さいけど、まだ幼い子供が沢山居たんだなあ…」
「…全員を、生き返らせようとしたのかい?この人数を…?」
「…12人か。材料は簡単に集められたけど、貧血起こしそうになったな。…正直、生きていたことすら奇跡だよ。命を持ってかれてもおかしくはなかった。…子供を産めなくなることで子孫を残せなくなったから満足したのかもな」
「、…それが、代償だと言うのかい…?家族に会いたかっただけじゃないか…」
「人体錬成は禁忌なんだよ、どんな事情があっても手を出しちゃいけねえ……手を出したけどな」
「…サラ殿は2回目もやりそうになりましたな。あれはマスタング大尉も考えていたようでしたが」
「…ああ、ヒューズの時か。あれはなあ…本当に目の前が真っ暗になったよ。どうして、としか言えなかった」
「…もしかして、サラちゃんその人のこと好きだったの?」
「…そんなに分かりやすいか?」
「目がね、いつもより優しいんだ。だから、好きだったのかなって。…サラちゃんが向こうに戻らなきゃって考えてるのもその人が関係してるんじゃない?」
「妙に聡いな……ああ、そうだよ。彼奴に、ヒューズに頼まれたんだ。自分に何かあった時、妻と娘を頼むって。…だから、戻らなきゃいけないと思ってたんだが……此処に来て、考えが揺らいだんだ。コマツダが、ヤマダ先生が、シナ先生が、キリが、カズマが、タキが、…俺を、必要としてくれてる。それがどうしても決断を鈍らせる…必要とされたことなんて、数回しかなかったからさ」
「…成程、それを私に相談したかったんだね?しかし、それはサラくんが決めることだよ。思いきり悩みなさい、後悔しない選択を見誤らないことだよ」
「…後悔、か」
「願いを叶えないと、なんてことを考えてはいけないよ。サラくんが幸せで居られる方を選びなさい。誰かに遠慮してしまってはいけないよ」
ヤマダ先生はそう言うと、優しく笑いながら俺の頭を優しく撫でる。後悔しないように、なんて絶対無理じゃないか。どちらを選んでも、きっと後悔してしまう。ただ、どっちの方が後悔しそうかって言われたらーー…明らかに、キリ達が居るこの世界を捨てることの方が後悔するだろうなって思ってしまう。…俺の中での答えは決まっているんだろうけど、ヒューズからの願いを半故にしたくないが為に口から出せないんだろうな。…惚れた弱みってやつはなかなかに面倒だな。俺はそんなことを考えつつ、豪快に泣いているコマツダとルイとダイサンキョウエイマルさんを宥めることに専念するのだったーー…
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