月当たりの下で

宴会が終わり、ダイサンキョウエイマルさんを含むスイグンの皆や教師陣は見事に酔い潰れ、飲めない未成年達やセーブしていた6年生(こへともんじととめを除く)が力を合わせながら客間やら部屋へと連れて行くのを俺とルイは見送った。本当は手伝いたかったんだが、せっかく会えたんだからもう少し話したらどうだい?というヤマダ先生の言葉に甘えて、俺とルイはひたすら盃を交わしていた。互いにザルだからな、まだまだ飲める。おばちゃんが気を利かして美味い肴を出してくれるから余計に進むよなぁ。


「はい、お待ちどおさま。もやしとニラの炒め物よ、沢山あるから遠慮しないで食べて頂戴ね」
「これはこれは美味しそうですな!有り難く頂きますぞ!」
「悪いな、おばちゃんにばかり任せて。おばちゃんは飲まねぇのか?」
「ふふ、私はお酒があまり強くないのよ。それに、サラちゃんとルイくんの食べっぷりを見ていると気持ち良くてねえ、いっぱい作りたくなっちゃうわ」
「はは、俺達に合わせたら食材なくなっちまうぞ。俺もルイもザルだからな」
「吾輩よりサラ殿の方が強いでしょうな。サラ殿、そろそろ吸いたいのでは?」
「…ルイには敵わねえなあ。おばちゃん、窓開けてタバコ吸っても良いか?」
「別に構わないわよ。…サラちゃん、タバコも吸うのね。生徒達に遠慮してたのでしょう?辛くなかった?」

「はは、確かに俺は結構吸う方だけど我慢くらい出来るさ」


身体に悪いのは知ってるし、なんてことを言いながらタバコを咥えて火を付ける。久し振りに吸うタバコはめちゃくちゃうまい。…感情が落ち着いてるからかも知れねえな、向こうにいた時は苛々してる時に良く吸っていたし。そりゃあ、苛々してる時よりかは穏やかな気持ちでいる時の方がうまいよなあ…月明かりに照らされている外の景色を眺めていれば、すっと灰皿が差し出された。その人物に目を向けーー…俺は笑みを浮かべながら口を開く。


「…子供はもう寝る時間だぞ、さっさとおねんねしな」
「…子供扱いしないで下さい。私だって上級生の一員なんですから」
「そうだな。…お前は良く頑張ってるよ」
「、や、やめて下さい!貴女は褒め過ぎなんですよ!!私をどうしたいのですか!」
「頑張ってる子に優しくするのは大人として当然だろ。お前は黙って受け止めてりゃ良い。…素直に、な?」
「っ〜〜…貴女、産まれて来る性別を間違えていますよ…!!」

「ん?顔が赤いぜ、惚れたか?」


茶化すように言えば、顔を真っ赤にしたタキにポカポカと叩かれた。痛くはねぇんだよな、タキには悪いけど。タバコはまだ吸えるが、タキに悪影響を与えたくはないし灰皿を出してくれてるんだから消すか。俺は黙ってタバコを手に取り、灰皿にグリグリと押し付ける。そんな俺に対し、タキはポカンと困惑したような表情を浮かべている。…もしかしてタバコについて知ってるのか?まあ、この世界の成人は早いみてえだし、知っててもおかしくはねぇのか。


「…もう、宜しいのですか?まだ吸えますよね?」
「子供に悪影響しか与えねえからな。俺だけなら良いけど、お前を早死にさせたくねぇ」
「…私は忍です。そう長くは生きられませんよ」
「だとしても、だ。お前の命はタバコなんかで落として良い命じゃねえ。何かを守って、落とす命だ。そうだろ?」
「勝手に人の生き方を決め付けないで下さい。…まあ、そのつもりですけどね。…その何かが貴女かも知れない、とは思わないのですか?」

「…俺はお前に守られて命を落とされるようなら自ら舌を噛み切るさ。お前の命は俺に使って良いやつじゃねえ」


判断は間違えるな。そう言いながら腕を伸ばし、鼻についている土を払えば、むっすりとしたタキに優しく振り払われる。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。本音しか言ってないんだがなあ…苦笑しながらルイとおばちゃんの方を見れば、やれやれと言わんばかりに肩をすくめられていて思わずポカンとしてしまう。…え、何か対応間違えたか?間違えてないよな?解せぬ…


「…貴女は、本当に狡い人です。私に恩を返す機会を自ら奪おうとするなんて。私は、貴女の為なら命を捨てることくらい惜しくはないというのに」
「…そんなつもりで今まで接してた訳じゃねえよ。やめろ、俺の為にその身を犠牲にしようとするな」
「おや、貴女が言ったのですよ?私の命は何かを守って落とすのだと。…だとしたら、私は間違いなく貴女の為に落とすのだと思います。守りたい存在は沢山居ますが…その筆頭は再び学園に笑顔を取り戻してくれたサラさん、貴女なのですから」
「…俺は選択肢を間違えたらしいな。まさかそこまでタキに想われていると思っていなかった」
「でしょうね。…やり直しなんて聞きませんよ、此処は現実世界なのですから。それに、サラさんは何回でも選択肢を間違えると思いますよ。ーー私のこと、好きでしょう?」

「は〜〜…何がアイドル学年だ。悪魔の間違いじゃねえのか…?」


そっと腕を掴まれ、まるで愛しいものに触れるかのように優しく撫でられた後、するりと俺の手でタキの頬を撫で付けられた。それだけでも胸にクるものがあるのに、更に上目遣いというオプションまで付いて来た。これがアイドル?アイドルはこんなにギラついた目なんてしねぇよ。悪魔だ、小悪魔なんて可愛いもんじゃねえ。…一気に、オチそうになった。成程、かつての天女にタキに惚れ込んでた奴が居たらしいがーー…このギャップに、捕まえられたんだろうな。


「悪魔だなんて酷いですね、こんなに美しい私を捕まえておいて。本当に、貴女は狡い人だ」
「…狡いのはどっちだよ。捕まえられたのは、お前じゃねえ気がするけどな」
「…私に捕まって頂けるのですか?」
「…そうだなあ。まあ、お前がちゃあんと素面で来てくれるなら受け入れてやっても良いけどよ」
「ーーは?」
「前半はタキなら言いそうだとは思ったが…彼奴は俺を捕まえて自分の側に置こうとなんて思わねえよ。彼奴はそんな奴じゃねえ」
「…何を、言ってるのですか?」

「下手くそな茶番はやめろって言ってんだよ」


ハチヤ。
そう名前を呼べば、タキの綺麗な顔が歪む。ふうん、こんな風になるのか。やっぱり彼奴は笑顔で居て欲しいよなあ、なんて思っていれば観念したのかベリっと皮を剥いでフワの顔をしたハチヤが出て来る。チラッと木々の間に目を向ければ、傍観を決め込もうとしたであろうオハマも肩を落としながら姿を表す。俺を出し抜こうなんざ100年は早えよ。後ろでルイとおばちゃんが焦ったような気配を感じるが、俺はそれを制止してハチヤとオハマに視線を向ける。


「…で、わざわざタキの姿になってまで俺に会いに来た理由はなんだ?」
「…滝夜叉丸の姿なら、貴女は警戒しないと思っていたんですよ。まあ、先に喧嘩を吹っ掛けたのは我々ですから仕方ないとは思いますけどね」
「…俺達ね、天女サマのこと誤解してたってやっと理解したんだ。今更遅過ぎるとは分かってます。…それでも、貴女に許して欲しくて。本当は堂々と行きたかったんですけど…ほら、雷蔵やハチが貴女に近付かせてくれなくて」
「あー…確かにフワとタケヤはお前達に一等厳しいからな…」
「ちょーっとちょっかい出しただけなんですけどねえ、雷蔵もハチも大袈裟なんですよ。兵助は誘っても来ないし…」
「うん?ククチからなら既に謝罪は受けているが」
「「は!?」」

「お詫びに豆腐料理を馳走してくれるらしくてな、今から楽しみなんだ」


因みにあの部屋を壊す前に謝罪されたぞ。そう付け足せば、あの野郎抜け駆けしやがって!!と頭を抱えながら地団駄を踏むハチヤとオハマに本当に仲が良いんだなあと思いながらも夜中だから静かにしような、と声を掛ければ彼等はむっすりと不機嫌そうな表情を浮かべていた。この様子だと、きっとククチは誰にも相談しないで来たんだろうな。ククチはハチヤやオハマみたいに直接何かをした訳ではねえから監視の目も厳しくはなかったのだろうな。これはまた…どことなくあやみたいな気がするな。…周りの人間がかなり振り回されそうだ。そんなことを考えていれば、不機嫌そうにしていたハチヤの口が動きーー…


「…兵助の豆腐料理を食べるのですか?」
「ん?ああ、明後日の実習が終われば少し時間があるからその時で良ければ、と」
「…天女さま、お腹いっぱい減らしておいた方が良いですよ。その、量がやばいので…」
「そうなのか?…まあ、俺も食う方ではあるし平気だろ。ルイ、お前も良かったらどうだ?」
「吾輩も宜しいのですかな?」
「人を呼んでも構わんと言ってたし、ダイサンキョウエイマルさんから許可貰えたら来いよ。量がやばいならスイグンの人から何人か連れて来ても良いだろうしな」
「そうねえ…サラちゃんの食べっぷりでも久々知くんのお豆腐料理の種類は多いから…助っ人は居た方が良いかも知れないわね」
「…あの、お詫びになるかは分かりませんが…私達で良ければお手伝いします。戦力にはならないかも知れませんけど」
「…一緒に参加しても、良いですかね?」

「ーー…別に、構わねえよ」


不安そうにこちらを見て来るハチヤとオハマに、俺は苦笑いを浮かべながらそう答えれば、2人はホッとしたような表情を浮かべていた。…そんなに気にしなくても良いのによ。俺はハチヤとオハマの反応は正しいとさえ思ってる。不審者を警戒するのは当たり前のことだからな。ま、やり方が間違ってたのが運の尽きだったな。後は俺がフワとタケヤに出会って何故か気に入られていたこと、だな。


(若い内に沢山間違えてーー…成長していくもんなんだよなあ…)


まだ10代だもんな。大人であるドイやリキチが翻弄されていることも踏まえても、まだ子供であるこいつらが狂うのは全然おかしいことじゃねぇんだ。まあ、それを何度言っても受け入れてはくれないだろうけどな。変に頑固なんだよなあ、教育の賜物か?
…この経験が、良い方に活きてくれると良いよな…俺はただ、それを願ってこいつらに接するようにするかね…
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