逢引きのお誘い
ハチヤとオハマの謝罪を受けた次の日、今日はその2人が居る5年生と一緒に食堂の手伝いだ。俺は酒の匂いが嫌いではないから別に構わないが、なかなかに酒臭い。おばちゃんが一生懸命に換気をしているが間に合ってはなさそうだ。…かなり飲んだからなあ。風を出せれば良いんだが、出せても吹雪になってしまうんだよなあ、食堂に雪を積もらせる訳にはいかねえし…氷雪の名が嫌になるな。コントロールは苦手なんだが…少しずつ、ならいけるか…?
(ーーイメージは、森の中で感じるような優しいそよ風)
掌に意識を集中させ、冷気を纏う風から冷気を取る作業から始めることにする。威力の調整はそう難しくはないが、俺の得意分野である氷を使った錬金術からその氷を抜いた錬金術を同じ威力でやるのはかなり難しい。…まあ、エドみたいな天才なら可能かも知れねえが。俺は細かいコントロールが苦手なんだよなあ…もっと学べば良かった…そんなことを思いながら錬金術を発動する。…匂いはしなくなったな、よし。雪も積もってないな…ああ、良かった。
「…今のサラちゃんがやったのかい?」
「ん?ああ、酒飲みまくったの俺とルイだからな。上手く出来て良かった」
「凄いねえ、気持ちが良い風だったわ。まるで森林浴をしているみたい」
「それをイメージしたからな。…ま、俺は細かいコントロールが得意じゃねぇから次にまたこれが出来るとは限らないけど」
「おや、そうなのかい?サラちゃんなら大丈夫だと思うけれどねえ…」
「?何でだ?」
「だってサラちゃん、記憶力とても良いじゃない?一度覚えてしまえばサラちゃんなら出来ると思うわ。サラちゃんは努力家だからね」
「ーーそっか」
心からの称賛に、少しばかり心が躍る。嬉しい、という気持ちが湧き出て来る。裏表がないおばちゃんから、ってのも嬉しい要因だとは思うがーー何より、認められたということが凄く嬉しい。…ちゃんと、努力してるんだって分かって貰えるってこんなにも嬉しいんだなあ…ついつい頬が緩んでしまうのを隠そうとすれば、それを察したのかおばちゃんはくすくすと笑う。指摘しないつもりでいてくれるのは有り難いが、微笑ましいような目で見られるのは少しばかり恥ずかしいな…
「おはようございます、サラさん!」
「おはようございます。今日は宜しくお願いしますね、サラさん」
「おはようございます、サラさん」
「タケヤにフワにククチか、おはよう」
「ーーおはようございます、サラさん。お酒強いんですね」
「おはよー、サラさん!二日酔いとかしないの?」
「ハチヤとオハマもおはよ、酒はザルなんでな。二日酔いはしたことねえな…介抱はしたことあるがな」
「こら、勘右衛門!?敬語使えよ敬語!」
「三郎?ちょっと気安過ぎない?前までの態度忘れたの?」
「…勘ちゃんも三郎もいつの間に仲直りしたのだ?」
「それへーすけには言われたくないんだけど!!?ハチは細か過ぎー、サラさん良いでしょ?」
「兵助だけには言われたくない台詞なんだが…?ちょ、ら、雷蔵…?目が笑ってないぞ…?」
「あー…はいはい、俺は気にしてねえから喧嘩すんなー。敬語も使わなくて大丈夫だよ」
気を遣ってくれて有り難うな、タケヤ。そう付け足してからポン、と撫で心地が良いとは言えない髪質の髪を撫でれば、タケヤはきょとりとした後嬉しそうにはにかむ。可愛いな??仕事が終わったら撫でさせて貰うか…そんなことを思いながら、未だにわんわん鳴いてる5年生の背中を叩き、朝ご飯の準備へとステップを踏む。今日は白米と卵焼きと味噌汁(あさりor油揚げ+大根)と豆腐(冷奴or湯豆腐)と鮭の照り焼きかホッケの塩焼きというラインナップ。俺はどっちにするかな…鮭もホッケも捨てがたい。…ルイが釣ったのはホッケだったか?ならホッケにするかな…豆腐にキラキラした目を向けているククチを横目見ながら味噌汁を掻き回す。味噌汁って酒飲んだ後に飲むと染みるんだよなあ、多めに作るか。
今日は俺の代わりにルイが6年生達と鍛錬をする為に裏裏山に行っていたりする。加減はするって言ってたが…鍛錬大好きっ子だからなあ、やり過ぎてないと良いが…
「ーーわっ、サラさんってばもう尾浜先輩と鉢屋先輩を攻略したんすか??もー、おれが知らない間に落とさないで下さいよ〜!」
「あれ、きり丸?珍しく早いじゃないか、怖い夢でも見たのかい?」
「子供扱いしないで下さいよ、不破先輩ー!おれはただ、サラさんが尾浜先輩と鉢屋先輩にいじめられてないから心配で来ただけなんで!」
「…ただ、ちょっと距離が近過ぎですね。もう少し離れて下さい」
「…庄ちゃんが冷静通り越して真顔なのかなり怖いんだけど…まあ、同意ですね!あんなに失礼なことしといて何で気にしてないんですかー?」
「だ、団蔵も庄左ヱ門もやめなよ…!!あ、えっと、おはようございます。サラさんが心配だったんで、早く来ちゃいました」
「おはよ。お前達は優しいなあ、でもいじめてやるなよ?この2人の反応は当然なんだからな」
「…相変わらず甘々っすね、こき使っても罰当たりませんよ?」
「俺は子供に八つ当たりするほど落ちぶれてないからな。…だから、フワとタケヤも許してやれよ?この2人はちゃんと俺に謝った。それだけで俺は十分だ」
「…もう、サラさんに感謝するんだよ!」
「はー…本人が言うなら仕方ないか…でもあまり調子に乗るなよな!兵助もだぞ!」
「えっ」
「何他人事みたいな顔してんの!?真っ先にあの天女は大丈夫なのかって疑ったのお前じゃん!!」
「そうだそうだ!!だから私達だって警戒を高めたのに…!!知らない間に謝罪して!」
「あー…はいはい、言いたいことは分かるけど今は手を動かそうなー…?暇ならキリ達もやるか?」
また喧嘩が始まりそうだったのでポンポンと背中を叩きながらキリ達を誘えば、彼等は満面の笑みを浮かべながら調理場に入って来る。…まあ、皆して俺の手伝いをしたいみたいなんだがな。沢山量を作った方が良いと思うぞ、と言えばキリが不思議そうに首を傾げていたから多分ルイがこへ達を振り回してるからなあ、と呟いてから味噌汁にネギを追加していく。あさりの味噌汁は砂抜きして茹でただけでも美味いけど、酒蒸しにしてからの方が旨い気がするんだよなあ。まあ、俺だけかも知れないけど。
「ルイさんってガタイ良かったですもんね。…サラさんとどっちが強いんですか?」
「んー…力勝負なら勝てねえな、彼奴は地面すら叩き割れるからな」
「え、…まじっすか?錬金術師って凄いっすねえ」
「全部を一括りにするんじゃねえよ。…彼奴の二つ名は剛腕、だからな。力を使った錬金術が得意なんだ」
「そうなんですか…昨日夜中に目が覚めて廁に行こうとしたらルイさんに会ったんですけど、急に声掛けたからびっくりされたみたいで飛び跳ねてました。面白い人ですよね」
「え、何それやってみたいなあ」
「…顔に似合わず小心者なんだよ、やめてやってくれ」
「…逆に何なら勝てるんですか?教官だったんですよね?」
「三郎、言い方」
「気にすんなって、フワ。…んー、脚は俺のほうが速い、かな。いつしか力で男に勝てなくなる日がなるのは分かってるからな、だとしたら捕まらないようにして粘るしかねえって思ってな」
「おほー…でも、それだとめちゃくちゃ疲れません?体力だって男には勝てなくなる時があるんじゃ……ああ、だから脚なんですね」
「?どういうことなのだ?」
「んー…?脚を鍛える、のは速さだけじゃないって意味かな?跳躍力なんかも含まれる?」
「タケヤもオハマも正解だ。ただただ逃げ回ってるだけじゃそのうち捕まるからな。時には逃げることも必要ってことだ、見極めは大切だからな」
命がなきゃ、何にもならないからな。最後にそう付け足してから俺は味噌汁を混ぜてから味見する。…んー、もう少し味噌を入れても良い気はするが、余熱で火が通るだろうからこのままにしておくか。しょっぱくなるのは困るしな。一応おばちゃんにも味見して貰ってOKを貰ってから俺はフワの作る卵焼きを眺める。甘めかあ、甘い卵焼きって美味いよなあ。手際も良いし、良い旦那になりそうだな。
「…サラさん、不破先輩ばかり見過ぎっすよー!ね、おれも見て?」
「…急に可愛いくおねだりしてくるじゃないか、そんなに見てたか?」
「見てましたね。…まあ、正確には不破先輩の作る卵焼きを、でしたけど。お腹空きましたか?」
「あ、そっちか。いやあなに、フワの作る卵焼きは甘めなんだなって思ってただけだ。…甘いのが好きだからな」
「あ、そうだったんですか?それなら良かったです。今回の献立が塩っけが多いんで甘い方が良いかなって思ったんですけど……サラさんが好きなら選んで良かったです」
「え、雷蔵…お前悩まなかったのか?気絶してないよな?あれ、私が気付いてないだけ…?」
「落ち着けって三郎。…気絶はしてない、筈だ」
「…確かにすんなり決まったかも。久作がサラさんは甘い方が好きみたいだって聞いてたからかな」
「…ノセが、か。確かに言った覚えがあるなあ」
「へえ……あ!だったら今度遠乗しません?美味しい和菓子の店があるんですよー、サラさんと逢引きしたいです」
「…ムードがねえなあ、こういうのは2人の時に誘うんだぜ?」
「思い付いたらすぐ行動したいんで!馬にも乗れますよー、興味ありましたよね?」
「…ダンゾウは恐ろしいなあ。よしよし、なら今度一緒に行こうな。エスコート、って言っても伝わらねぇか…案内、宜しく頼むぜ?」
「!はいっ!」
「団蔵ばかり狡い…あの、僕とも2人でお出掛けして欲しいです!」
「俺で良いならいつでも良いぜ、キンゴ。楽しみにしてる」
「!はいっ。…やったあ」
「当然僕とも行ってくれますよね?」
「おれを忘れちゃだめっすよー?」
「はいはい、ショウもキリもその時が来たら宜しくな」
「俺も甘いものと聞いたら黙っちゃいられないなあ、俺とも行きましょ?今まで失礼した分奢りますよ」
「…豆腐が美味しい店があるんですけど、良かったら2人でどうですか?」
「また豆腐かよ!?…あー、その…えっと、俺とも出掛けて欲しいな、と思ったり…」
「…もじもじしてるハチって結構気持ちわる「三郎?」何でもないぞ、雷蔵!!…えっと、私とも出掛けてくれません?」
「…美味しい紅茶を飲みながら本が読めるお気に入りの店があるんです、良かったらご一緒しませんか?」
「あらあら、サラちゃんモテモテねえ」
「…あー…うん、楽しみにしてる。何だか照れくさいな…2人きりって誘われるの、初めてかもな」
俺の言葉にダンゾウはぽかんとした後、嬉しそうにガッツポーズを取る。その横でキリとショウとキンゴががっくりと崩れ落ちるのを苦笑いしながら手を出して立たせてやる。…まあ、この4人とトラワカからは好意をはっきりを言われてたからこの反応は当たり前なのかもな。俺が彼等をそういう目で見るかとかは今はまだはっきり言えないけれど、歳とかで誤魔化すのは良くねえよな。…コイツらは、本気で俺を娶りたいって思ってくれてるみたいだし。だとしたら、俺はちゃんと考えてやらなきゃだめだよな。未だに悔しがってるキリ達に声を掛けようとしたその瞬間ーー…
「サラ殿、ただいま帰りました!いやあ、此処の山は良いですなあ。ついつい張り切ってしまいました」
「…きょーかん、みず、みずをくれ…」
「七松先輩!?」
「…ぎ、ギンギンに、つかれ、た…」
「潮江先輩!?」
「…こんなのって、ありなのか…」
「食満先輩!?」
「…もそ…」
「「中在家先輩!!」」
「…う、この人はどうなってるんだ…」
「立花先輩!」
「…ど、どうして僕まで…」
「善法寺先輩!?」
「あらあら…まぁ、泥だらけねえ」
「は〜〜…言いたいことは沢山あるが…ルイ」
「?はい」
「ーー…手加減するって言ったよなあ?」
「あ」
「言い訳は聞かん、そこに正座!!」
「は、はい!」
「おばちゃん、悪いけど抜けるな。キリ達は水用意してやってくれ」
俺はそう言ってから厨房を抜け出し、ルイの目の前に立つ。…まあ、こへ達は確かに逸材ではあると思う。鍛えていて楽しいのは間違いない。それでも、まだ鈍ってることに気付かないで無理強いさせるのは違うよなあ?あんなに疲弊させるとは思ってなかった。ルイに任すのはだめだったなあ、と頭を抱えたくなりながらも俺はダイサンキョウエイマルさんが見兼ねて間に入ってくるまでルイを責め立てていたーー…
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