プロ忍と見過ごせない噂
あの豆腐パーティーから数日が経った。4年生も5年生も今までの気まずさが何だったのかと思うくらい、仲良しで毎日楽しそうに過ごしている。それに俺が一枚噛んでると分かっているのか、彼等の関係者からの差し入れが凄い。中でもフワの先輩であるチョウからの本の差し入れがかなり有り難いな。俺がどんなジャンルに興味があるのか分からなかった筈なのに、どれも面白いから驚いてしまう。…まあ、忍者の基本的な内容が多いのには触れないでおこうか。お前まで俺を忍者にしたい訳じゃないよな…?次に有り難いのはアヤの先輩であるセンからの差し入れである香、だな。3種類貰ったんだがどの香りもキツ過ぎず良い香りだ、有り難いよな。
「ーー?火薬の匂い…?」
敵でも居るのか?警戒しつつ、匂いがする方に息を殺しながら向かっていく。いつでも撃てるように忍ばせている銃のトリガーに手を掛けながらそっと近付けば、そこは修練場のようだった。…修練場なら、敵じゃないのか?それに火薬ってことはもしかして…!少しばかりそわそわしながら向かえば、修練場に立っていたのは俺が思った通りの人で、心が躍る。ショウセイさんとリキチは何かを話しながらそれぞれヒナワジュウを構え、目の前のターゲットに向かって放つ。放たれたそれは狂うことなくターゲットに直撃する。お見事!
「ーーおや、可愛いお客様が来ていたようだね」
「へ?…ああ、サラさんじゃないですか!そんなところで隠れてないでこっちに来ても良いんですよ?」
「かわ…!?…んん、いや、その…邪魔したら悪いかなって思ってさ…」
「邪魔なんかとんでもない!ささ、こちらにどうぞ」
「火器に興味を示す女性は珍しいからね、私達は大丈夫だからいつでもおいで」
「あ、有り難う…そんなに女扱いしないでくれて良いんだぜ…?」
「?サラさんは女性ですからこれくらい当たり前ですよ。貴女は巻き込まれた側ですしね」
「確か慣れてないと言っていたね。その内慣れると思うから気にしないで良いと思うよ」
「その余裕が腹正しくなるな……」
俺の反応に、リキチは分かっていないのかきょとりとしており、ショウセイさんは分かった上でスルーしているのだと理解する。人が悪いな…2日だけの滞在だった筈のショウセイさんだが、トラワカとタムラによる熱烈な帰らないでコールに断りきれなかったのか、リキチと共に暫くの間雇われることになったらしい。ガクエンチョウの懐が少し心配になるが、あの人のことならこれも考慮された上での出来事なんだろうなあ、とも思う。食えない人だからな…
「サラさんは父上に火縄銃について教えて頂いてましたよね?どうですか、火縄銃は」
「んー、俺の知ってる世界の銃とは違うからやっぱり興味深いな。連射に時間が掛かるが、威力が大きいのと火薬の匂いが良いと思う」
「火薬の匂いが好きなのかい?」
「好き、だな。変わってるだろうけど」
「私のように火縄銃を扱っている人間からは嬉しい限りだよ。いつか若太夫…虎若くんの実家に行ってみてはどうだい?彼の父親は鉄砲隊の頭だからね」
「へえ、トラワカって凄いんだな……あー、でも実家に行くのは難しいかもな」
「おや、どうしてですか?外出届さえ出せば良いのでは…?」
「…トラワカにそういう意味で好かれてるんでな、ぬか喜びさせるようなことしちゃダメだろ」
気軽に遊びに行くのはあまり良くないよな、いくら火器目当てだとしても。トラワカは男だし、自意識過剰かも知れないけど良いとこ見せようとして怪我でもされたら嫌だし。そんなことを淡々と呟いていれば、ショウセイさんとリキチは顔を見合わせ、くすくすと笑みを零す。…そんなに笑えるようなこと言ったか?当たり前のことだと思うんだがな…俺がしっくり来てないのが分かったのか、リキチが困ったように笑いながら口を開く。
「サラさんは虎若くんをちゃんと分かってるんですねってことですよ。彼は以前、照星さんに良いところを見せようとして空回ったことがあったんですよ」
「まじか。…分かりやすいなあ、彼奴」
「そこが若太夫の良いところだと思うが、素直過ぎるのがたまにキズかも知れないな」
「へえ…まあ、ショウセイさんに認めて貰いたくて必死なんだろうな。憧れの人ってそんな感じだろ」
「サラさんにもそんな人が居たのかい?」
「…親父、かな。親父、片目を眼帯でずっと隠してるのに死角すら反応されてさ。1度も勝ったことなかったんだよな。あの人、銃弾すら剣で斬っちまうんだ」
「それは…凄い人、ですね。最早人と言って良いのか…?」
「利吉くん」
「あっ!?す、すみません」
「いーよいーよ、俺もバケモンだと思ってたし。…超えたかったなあ」
「(過去形、か…)…私も父上ですかね、あの人には勝てる気がしませんから」
「(…?あの顔を、何処かで見たことがあるような…?)私も父親、かな。やはり誰にとっても父とは偉大の存在のようだね」
「背中を見て育つもんな。…そういや、どうして急にヒナワジュウの練習を始めたんだ?タムラやトラワカに頼まれた訳でもなさそうだし…」
「ああ……実は、少し物騒な噂を耳にしたんですよ」
「物騒な噂?」
今の忍者学園にはあまり聞かせたくないような単語を聞き返せば、リキチとショウセイさんは小さく頷く。そして周りに誰か居ないのを確認した後、座って話をしようとなり、俺は2人にエスコートされながら木の椅子に座る。汚れないように下敷きにしてくれ、と差し出されたハンカチに一悶着があったりもしたが…まあ、その辺は置いておこう。両脇に美男を侍らせてるのってなかなかやべぇな…騒ぎ立てられそうだ…
「昨日、そこそこ大きい集落が一夜で滅んだらしいんですよ」
「ーーは?一夜で…?戦争でもしてたのか?」
「今は何処も戦争をしていない筈だ。だからこそ、周りの城はピリついているらしくてね」
「…出し抜かれる可能性があるし、そりゃあピリ付くか。忍者学園にも来そうなのか?」
「その集落の場所は此処から離れてはいますが…目的が分からない以上、来ないとは限りません」
「私と利吉くんは警備の為に雇われているからね。いざという時の為にも精度を高めておこうと思って練習していたんだよ」
「まあ、私が見てもらっていただけなんですけどね…」
「…成程な。何か目撃情報とかないのか?滅んだんなら分からねぇか…」
「…どうやら見掛けない人間が1人、その辺りを彷徨いていたらしい。集落が滅んでからは姿を消したらしいね」
「…そいつで決まりかもな。見た目とかは?」
「恐らく海を超えた先であろう見たことがない白い服に身を包んだ長髪の男らしいですよ」
「ーー白い服に長髪の男?」
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。…その男を、俺は知っているかも知れない。いや、でも彼奴は死んだ筈だよな…?他人の空似、だと思いたいが…俺みたいに異世界に飛ばされたのかも知れない。遺体は確認されて…なかった、筈だよな?セリム…プライドと共に消滅したって聞いた気がするんだが…もし、仮に彼奴だとしたら…ホムンクルスが、生きてるかも知れない…?それはすっ飛ばし過ぎか…?でも、有り得ない、なんてことは有り得ないよな……一夜で、滅んだって言ってたよな。
「…なあ、その滅んだって集落は跡形もなく消えてたのか?何か燃えたような感じだったのか?」
「へ?…ええと、確か家の破片すらなかった筈、ですよね?」
「ああ。あった筈の集落がまるで最初から存在していなかったような更地だったそうだよ。…サラさん?大丈夫かい?顔色が悪いようだが…」
「、ああ……うん、平気。なあ、その場所に行くことって可能か?」
「…気になるんですか?」
「…確証はねえ。でも、知ってる奴かも知れないんだ。…もし、仮にそいつだとしたら…まだまだ集落は滅びる」
「!?は!?」
「…名前を聞いても良いかい?」
「紅蓮の錬金術師ーーゾルフ・J・キンブリー。同期だったらしいが面識は2、3回程度だ。…人間で花火をするのが趣味なんだとさ」
「…悪趣味ですね」
「ああ、全くだね。…ふむ、私と利吉くんは難しいかも知れないが…確か、忍者学園から誰かを調査に出すと学園長先生から聞いているよ」
「!それに同行出来るかも知れねえな…」
「…サラさん、行く気ですか?危ないですよ!」
「仮に彼奴だった場合、野放しにしてる方が危ない!…教えてくれて有り難うな!」
俺を引き止めてくるリキチには申し訳なく思いつつ、俺は善は急げとばかりにガクエンチョウの庵に向かって走って行く。まだ誰も行ってないと良いんだが…!あまり面識はないが、やべぇ奴だって言うのは聞いてる。そんな奴に、このガクエンを関わらせたくない。戦ったことはないし、勝てるという保証はねぇけど…このままで居る訳にはいかねえ…!庵に着き、呼吸を落ち着かせることなく襖を思いきり開きーー…
「ガクエンチョウ、頼みがある!」
「…サラ?一体どうしたんじゃ、そんなに慌てて」
「集落が一夜で滅んだって奴、俺も調査に行かせて欲しい。知り合いかも知れねえんだ!かなりやばい方の!」
「!何と…!!…戸部先生」
「…わたしは構いませんが…何処でその話を?」
「ショウセイさんとリキチから聞いた!頼む、俺も連れてってくれ!無理はしない!」
「…落ち着きなさい。大丈夫、逃げたりしない」
「ヘム!」
「サラ、まずは座って深呼吸をするんじゃ」
「、悪い…」
トベ先生とヘムヘムとガクエンチョウに促され、俺は空いていた座布団の上に腰を下ろして深呼吸をする。…らしくなかったな、焦り過ぎた。だが、結果としては良かったんだろうな。トベ先生、もう出掛ける準備出来てるし。間に合って良かった…ホッと安堵の息を付きつつ、ヘムヘムから淹れて貰った茶を受け取る。はー、美味い…落ち着いた…そんな俺を心配そうに見てくれていたガクエンチョウは柔らかく笑ってから口を開く。
「落ち着いたようじゃな。して、サラよ。心当たりがあるとは誠か?」
「…確証はねぇけど、白い服に長髪の男ってのが気になるんだ。…他人の空似なら、良いけど仮に彼奴だとしたら被害はまだまだ増える。彼奴は人を殺すことを躊躇なんてしない」
「…ふぅむ。戸部先生1人では危険かも知れん。…よし、ならば戸部先生とサラはこれより夫婦としてその地に調査に向かうのじゃ!」
「「は!?」」
「ヘム!?」
「滅んでしまった集落はなかなか栄えていたらしいからの、新居探しとしてなら近付いてもおかしくはあるまい!いやあ、サラが来てくれて助かったの!」
「ち、ちょっと待ってくれ!?何でいきなりそうなんだよ!」
「せっかく男女で調査に行くのじゃし、それを利用しない手はないじゃろ?最初の設定の孤高の旅人よりは信用されそうじゃしの」
「…金吾に色々言われそうではあるが…怪しまれたら動き難い。…サラくん、嫌かも知れないが利用させては貰えないだろうか」
「は?いや、俺はトベ先生好きな方だし別に構わねぇけど…トベ先生は俺が隣に居たら困らねえ?」
「わたしには嫁も恋仲も気になっている人も今は居ないからな…サラくんさえ良いならわたしは構わない」
「…ふぅん?まあ、確かに怪しまれたら困るし…そうするか」
「そのまま付き合ってくれても良いんじゃがの」
「それとこれは話が別だろ。…少し待っててくれ、準備して来る」
「校門の前で待っていよう。…ついで、で良いんだが…サラくんのお握りがあれば、わたしは嬉しい」
「!…お安いご用だ」
可愛いらしいおねだりに思わず頬が緩む。俺は足早に部屋へと向かい、軽く荷物整理をする。…金と下着くらいで良いか?服は現地調達は無理でも何とかなるだろ、多分。あとは油差しと何となく錬成したら出来てしまった劇薬を持って行くか…何かに使えるかも知れないし。荷物整理を終え、俺はヨシノ先生に外出許可を得てから食堂に向かい、おばちゃんにトベ先生の任務に同行すると伝えてからお握りを何個か握る。…こんなもんかな。
「行ってらっしゃい、気を付けるんだよ」
「ん、行って来ます」
心配そうに見送ってくれたおばちゃんに力強く頷いてみせながら、俺は足早に校門へと向かって行く。今は授業中らしく、生徒は誰も居ない。そのことに少しばかりホッとしつつも、帰ったら叱られそうだな…と苦笑する。校門に着けば、そこにはトベ先生とショウセイさんとリキチが待っていてくれ、相変わらず無表情のショウセイさんと不安でいっぱいなリキチに見送られながら、俺とトベ先生は任務へと出掛けて行った。
…他人の空似なら、有り難いんだがなあ…
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