仲間が増えました

エンヴィーを何とか退却させた後、行く宛もないキンブリーは俺達に付いて行きたいと申し出て来た。置いて貰っている立場として何も言えねえし、困惑しつつトベ先生の方を見れば、少し思案した後、ガクエンチョウに会わせてみようと言ってくれた。人を見る目が確かなガクエンチョウならば、キンブリーをちゃんと評価した上で決断してくれるだろうということらしい。
とりあえず共にガクエンに向かいながらそれぞれのことをぽつりぽつりと語る。キンブリーが意識を取り戻した時に側にいたのがエンヴィーだったらしく、それからは何となく一緒に居たらしい。貴女は?と聞かれたので天女の話をすればキンブリーはどんどん顔を顰めていきーー…


「外道じゃないですか」
「お前がそれを言うのか?」
「私はちゃんと人を見て殺ってますよ」
「今変換おかしくなかったか?気のせいだよな?」
「気のせいですよ」
「…気のせいではないと思うが…まあ、気にしない方が良いだろう。何かあればわたしとサラくんで止めれば良いだけだ」
「ん、トベ先生がそういうなら大丈夫だろう」
「…信用してるんですね。珍しいじゃないですか、貴女が笑みを浮かべているなんて。あの頃はピリピリしていましたのに」

「…ガクエンの人達に触れ合えば、お前もきっと分かるよ」


心底意外だと言った顔を隠さないキンブリーに苦笑いしながらそう答えれば、彼は愉快そうに笑みを零した。…あのガクエンは、不思議だ。荒んでいた心が落ち着いていくのを感じる。…あのガクエンこそ、俺が欲しかった楽園なのかも知れない。願わくば、キンブリーもそうだったら良いな、なんて思ったりもする。スカーのこともあるし、こいつがしたことを完全に受け入れは出来ねえが、悪い奴では、ないんだ。…多分。それを分かって貰えたら、良いんだけどな。
来た時と同じように休み休みガクエンへと向かっていく。此処の服を身に纏ったキンブリーはなかなかに似合っていたと此処に記しておこう。ーーああ、やっと見えて来た。


「ーーサラちゃん!」
「…ただいま、コマツダ」
「お帰りなさい!戸部先生、お疲れ様です」
「ああ、有り難う小松田くん」
「…サラさん、戸部先生!ご無事で良かった…!」
「お帰り。…見慣れない人が居るようだね?」
「リキチもショウセイさんもただいま。…あー、キンブリーだ」
「えっ!?」
「…もう大丈夫なのかい?」
「…多分、平気。ダメそうなら俺とトベ先生で何とかするし」
「ああ、心配は要らない。…何だか騒がしいようだな?」
「ユキちゃんとトモミちゃんとおシゲちゃんが野党に絡まれちゃったみたいなんだけど、そこを助けてくれた人が来てるんだよー。何かね、トモミちゃんがお熱なんだって!」

「へえ、トモミが?どれどれ、姉貴分としては顔を見とかないとなあ」


大切な、妹分だしな?コマツダの頭を軽くポンと叩いてから、俺達はガクエンチョウのいる庵の前に、その恩人が居るという食堂へと向かう。ガクエンチョウがその恩人に対して何もしない筈がない、というトベ先生の意見を参考にしているからだったりする。…まあ、確かにあの人が傍観なんてやる訳なさそうだな…トモミが夢中になってる相手も分かるし、ガクエンチョウに報告も出来るなんて一石二鳥だな、なんて思いながらひょいっと食堂の中を覗きーー…そこに居た人物に、俺とキンブリーはヒュッと息を呑むことになる。


「ーーアイザック?」
「…おやおや、これは困りましたねえ」
「…ん?あら、サラちゃん!お帰りなさい!心配してたのよ!」
「「サラさん、お帰りなさい!」」
「ーーサラ?サラじゃないか!おまっ、生きてたのか!」
「お、おう、ただいま。って待って待って、こっち来んなアイザック」
「何だ、随分ツレないじゃないか。同じ氷の名を持つ同僚だーー…キンブリー…?」
「…お久し振りです、アイザック」

「わーっ!!!待て待て、気持ちは分かるが落ち着けアイザック!!」


俺の姿を見てパッと表情を明るくさせながら近付いて来たアイザックだが、俺の後ろに隠れるようにしていたキンブリーに気付いた瞬間、鋭い殺気と共に氷柱が飛んで来たので、トベ先生に無効化して貰いつつ、アイザックの手を掴む。氷雪と氷結、似たような二つ名を貰った良しみから、アイザックには妹のように可愛いがられていたし、多分落ち着いてくれるだろう。…アイザックは、俺には絶対に手を挙げないからな。


「っ、離せサラ!!そいつがしたことを忘れた訳じゃねえだろ!?」
「その件については色々積もる話があるんだ、まずは話を聞いてくれ!!」
「あ、そっちなんです?脱獄のお誘いを断わったことかと思ってました」
「き、貴様…!サラの前で言う必要があったか!?」
「余計な火種を持ち込むんじゃねぇよ、キンブリー!!頼むから俺の話を聞いて!」
「ーーまずは落ち着いて貰おう。サラくん、君も少しは落ち着きなさい。頭に血が昇ってしまっては話も出来ない」
「、見えなかった、だと…!?」
「ん、ごめん。助かった」
「…素直で宜しい。わたしを頼ったのも良い判断だ。成長したな、サラくん」

「…どうも」


ぽんぽんと頭を撫でながら褒められる。アイコンタクトだったし、気付いて貰えないかと思っていたが、ばっちり伝わっていたらしくてホッとする。…トベ先生なら、何とかしてくれるって気になるの久し振りだな。安心して背中を預けられるのってやっぱり良いよなあ…俺はとりあえず後ろの方で興味深そうにこちらを見ていたガクエンチョウを呼び、アイザックとキンブリーの背中をポンと叩く。


「ただいま、ガクエンチョウ。サラ・クローズ、無事帰還した」
「同じく、戸部新左ヱ門。無事に帰還しました。…あの集落はやはり跡形もなくなっていました」
「うむ、お帰り!…そうか、残念じゃのう」
「で、ユキとトモミとシゲを助けたこの男は俺の兄貴分で俺と同じ氷の名を持つ国家錬金術師のアイザック」
「元、だけどな。俺はアイザック・マクドゥーガル。確か長い名前は呼びにくいんだったか?ならザックでも構わないぜ」
「で、こっちはその集落を木っ端微塵にした張本人のキンブリー。多分大丈夫だと思うから連れて来た」
「…何だかアイザックと比べて投げやりじゃないですか?ゾルフ・J・キンブリーです。呼びにくい…キンブリーが難しいならゾルフでも構いませんよ」
「…ほう?…サラくんの大丈夫という基準は何処からじゃ?」
「…キンブリーのやったことを全て受け入れることは出来ないけど、こいつは自分の信念を貫いてるだけだから、信じたいと思った。…それじゃあやっぱり弱いか?」
「…ふぅむ、戸部先生はどうじゃ?」
「…あの集落を更地にした現行犯は確かにゾルフですが、あの時一緒に居た男が1番の原因だとわたしは思います。その男を退ける際に共闘してやりやすいと感じたのは確かです。わたしが目を光らせておきましょう」
「…共に居た男とは?」
「…彼奴だけは、絶対に俺が仕留める。だから、信じて欲しい」
「…ふうむ、分かった!ゾルフ殿は戸部先生の監視下の元で良いのであれば滞在を許可してやろう!」
「おや、良いのですか?私、簡単に裏切りますけど」
「その辺についてはサラくんと戸部先生の見る目がなかったということになるかの」

「……それはそれで癪に触りますので大人しくしておきますよ」


意外と俺とトベ先生のことを気に入っているらしく、キンブリーは不快そうにしながらもそう言ってからガクエンチョウに向かって頭を下げる。…言い方があれだけど、意外と情に熱いし礼儀もそれなりにはあるんだよなあ、…やっぱり言い方が問題になるんだけどな。アイザックはアイザックで変わらずにキンブリーを冷たい目で見ている。…あれ、そういえばアイザック、俺に生きてたのか、って聞いたよな?暫く見ないとは思っていたが…まさか…


「アイザック、お前死んだのか?」
「…知らなかったのか?」
「おや、私も死んだんですよ。仲間ですね」
「お前と仲間なんてごめんだ!……そうか、流石に情が働いたのか」
「…お前、何を言ってーー…?」
「俺はキング・ブラッドレイに殺られた」
「ーー…は?」
「…アイザック、ラース……キング・ブラッドレイはサラに過保護なんですよ。尋常じゃないほどに、ね。ホムンクルスと鋼の錬金術師達との戦争にすら出させませんでしたから」
「そうなのか?…あー、余計なこと言ったかも知れんな。サラ、悪い」
「ん、ああ…へいき…」
「…サラちゃん、おいでっ!ぎゅーしようね!」

「ん、頼んだ」


腕を伸ばして来たコマツダにそのままぎゅーっと抱き締められる。ぽんぽんとトベ先生とショウセイさんに頭を撫でられ、リキチにそっと手を握られる。…頭が、回っていない。…親父が、俺が慕っていたアイザックを殺した?…可能性としては、ヒューズと一緒で真実に近付き過ぎた、とか?アイザックは聡いし可能性は十分にある。ぐるぐると思考が回る。…気持ち悪い。


「…キンブリー、お前の死因は?」
「私ですか?私は…セ、…プライドと共に心中したんですよ」
「お前が心中??珍しいこともあるじゃないか」
「…エドを庇ってだろ、知ってんぞ」
「…偶々ですよ。偶々そうなってしまっただけです」
「あと、俺に対して気を遣わなくて良い。…アイザック、親父…キング・ブラッドレイとセリム・ブラッドレイはホムンクルスだった」
「は!?…セリムってお前が可愛いがってた弟じゃないか!!」
「…気付かなくても無理はないです。サラの前では虫すら殺せない態度をしてましたからね。…貴女も無理をし過ぎですよ、エンヴィーのこともまだ吹っ切れていないのに」
「エンヴィーのことだけじゃねぇよ。俺は、親父と弟が敵だったことも、ヒューズが死んだことも、…俺の一族や親戚を殺したのがキング・ブラッドレイだったことも、…全部吹っ切れてなんかいない。だから、何も出来なかった」
「…サラくん、それは違う。君は、ちゃんと一矢報いていたじゃないか」
「1回だけだ。…機会は、沢山あった。それでも、照準が全然合わせられなかった。…仇なのに、何も出来なかった。…ガクエンの人達には偉そうなことばかり言ってたのに、…口だけだな、カッコ悪い…」
「…サラちゃん、それは違うよ。きっと、ヒューズさんが止めてたんだよ。だって、サラちゃんがずーっと好きな人なんだもん。ヒューズさん、サラちゃんの手を汚させたくなかったんだよ」
「小松田さんの言う通りですよ!サラさんが居なかったら男共はまだ引きこもってたし、私達ばかり任務回されてたんですから!」
「サラさんが居たから、久し振りに学園に笑顔が戻って来たんです!貴女はかっこいいんです!」
「お爺さまがシナ先生の忠告を無視したのに対して直談判したって、シナ先生が嬉しそうにしてたのを知らない筈がないでしゅ!」
「私はサラちゃんが口だけなんて思わないわ。貴女のおかげで、また肩を組んで笑っていられるのよ。他の誰でもない、サラ・クローズちゃんが来てくれたから、学園は元に戻ったの」
「…君が来てくれてから、金吾は毎日嬉しそうだ。七松と土井先生と、2つの悩みに苦労していた金吾を救ったのは、紛れもなくサラくん、君だよ」
「私はまだそんなにサラさんと共にしていないので分かったような口を言える立場ではないのですが…皆があんなに嬉しそうなのを久し振りに見ました。貴女が居ない間、寂しそうでしたから覚悟した方が良いですよ。…貴女は慕われているんですから」
「私もそれほどサラくんと時間を共にしていないが…君は真っ直ぐに人を見てくれる人だと若太夫が言っていた。…子供は宝、そんなことを言えるサラくんが子供の言うことを信じられない訳がないだろう?」
「皆に言われてしまったのう…サラくん、儂はサラくんが此処に居てくれて嬉しいぞ。サラくんが学園を立ち直してくれたんじゃ、今度は学園全員で君を手助けしよう。大切な仲間じゃからな」
「元々お前はなーんも悪くねえだろ。唆されて裏切ったキンブリーの方が最も悪い。…昔から考え過ぎなんだよ、少しは力抜いた方が良いぜ?」
「…まだ私のこと言います?…2回しか出会いませんでしたが、貴女と過ごした時間は忘れられないくらい楽しかったですよ。…少しは自分を甘やかしても良いんじゃないですか?」

「っ、やめろよ皆して…!泣きたく、なるだろ…っ!」


次々に贈られる俺を想っての心からの声に、枯れていた筈の俺の目から一筋の涙が出た。その感覚に目を見開けば、俺の正面に居たコマツダが驚いたように目を丸くした後、まるで自分のことのように笑いだすから本当に困ってしまう。俺以上に泣いてるのにな。一筋分しか泣けなかったけど、これも成長したのだとコマツダに褒められまくった。…反応に困るな…
あれからキンブリーはトベ先生の監視下で、アイザックはトモミと俺のメンタルケアの為にと、ガクエンに居ることが決まったらしい。…このまま燻ってはいられないな。
4/8
prev  next
戻る