物騒な噂と初ラブレター

帰って来た俺に対して全力でタックルして来る生徒達を甘んじて受け入れ、新しい仲間であるアイザックとキンブリーを紹介すれば、彼等は俺を迎えてくれたあの時みたいに笑顔で受け入れる。素直じゃないキンブリーは、自分を信じ過ぎちゃダメだとか言ってたが、でもサラさんのお友達なんでしょ?という言葉に何も言えずに居たのはアイザックと一緒に笑ってしまった。そっか、俺はキンブリーと友達だと思ってたのになあ、と寂しそうに言えばかなり焦っていたキンブリーがこれまた滑稽だった。何処から話が漏れたのか、トベ先生と俺が夫婦設定だったのをキンゴに知られたらしく、何処となく冷たいキンゴにショックを受けているトベ先生には悪かったが思わず笑ってしまった。ちゃんとフォローはしたけどな。
アイザックにキンブリーという頼もしい戦力もガクエンの警備に当たり、リキチやショウセイさんがお役ごめんかも知れないなんて話しているのを止めていたりしている日々にーー再び、見過ごせない噂が入って来た。


「ーー隻眼の男?」
「ええ、気付いたら居て気付いたら居なくなってる神出鬼没の人物が居るらしいのですが……大総統ですかね」
「十中八九そうだろうな。…キンブリーとエンヴィーの次は親父かよ、勘弁してくれよ…」
「…アイザックはラースに殺されたんですよね、勝ち目とかあります?」
「…今のままじゃ無理だろうな、手も足も出させて貰えなかったし」
「…吾輩もただの噂だと思い過ごしたかったのですが……これは、他のホムンクルスも居ると考えた方が良いのでしょうか」
「…いや、それは些か早計な気がする。そうなったらまたどっかの集落が滅んでる筈だからな」
「…私を見ながら言わないで下さいよ、今は何もしてませんから」
「どーだかな。…サラは勝てる見込みあんのか?」

「ねえよ、一太刀すら掠っていないんだぜ?」


…いつかは、越えたいと思っていたけど。テーブルに突っ伏しながらそう告げれば、ルイ達からのため息が聞こえて来た。…まあ、付きたくもなるよな。ヒョウゴスイグンから魚を大量に持って来てくれたルイにキンブリーとアイザックを紹介すれば、一瞬だけ殺気を放ってはいたが…まあ、人が出来てるルイだからな。すぐに受け入れてくれたのをホッとしつつ、もう少し疑うべきだとした方が良いのかと迷ったりもする。俺が信頼してるから大丈夫、なんていうのは困るんだよなあ…


「まあまあ、1人でやる訳ではないんですから。化け物相手でも複数人で掛かればいけるかも知れませんよ」
「利吉、彼女の父親だと分かっているのか?すまないな、サラくん。利吉にはキツく言い聞かせておく」
「いーよ、ヤマダ先生。化け物なの事実だし。…エドが居てくれたらなあ」
「エドって…鋼の、子供か!?」
「おや、アイザックは知らないんですか?彼、なかなかやりますよ」
「はい、今では幼馴染みのウィンリィ殿と結婚しておりますよ。相変わらず頭が良く、頼りになる子供ですな」
「へえ、結婚ねえ……幸せになれてるなら、良かった。子供が錬金術師なんてやるもんじゃないよな」
「それを割りと子供な年齢からやってる俺等が言えるのか…?」
「我々とは時代が違いますからね。わざわざ自ら茨の道を進んだのが受け入れ難いんですよ、きっと…ね」
「…世知辛いですなあ…確か此処も結婚が早いのでしたな?」
「ええ。正直、女性はなかなか生き辛い世界なのではないかと思いますね。…父上もたまには顔を見せてあげて下さいね」
「分かった分かった、そんな顔をするな利吉。…利吉もそろそろお嫁さんを考えたらどうだ?サラくん、利吉みたいな男は好みじゃないかい?」
「父上!?」

「え、別に嫌いじゃねえけどリキチが可哀想だろ、俺は子供産めないし」


孫とか、抱きたいだろ?そう言いながら煎餅を齧る。んー、シンがくれた奴はやっぱり美味いな。甘じょっぱいというか、何というか。美味いぞーと言いながらルイの口に運べば、彼もまた嬉しそうに目を輝かせながら美味いですな!と笑ってくれる。うん、今日も弟子が可愛いくて俺は嬉しい。…は?キンブリーとアイザックに俺がする意味あるか?やだよ、面倒臭い。アイザックはトモミにでもやって貰え、あんなに好意アピールしてるのに可哀想だろ、少しは応えろよ。


「…私は、その、…子供とか、その、考えてない、訳ではないんですけど……貴女を、守れる漢に、なりたいと…思いますよ」
「…えっ、や、リキチには、助けて貰ってるぜ?センの爆弾が誤発した時とか、庇って貰えなかったら直撃だったし」
「…それだけではなく、他のことでも貴女の、サラさんのお役に立ちたいと私は思います。だからこそ、私はもっと強くならなくてはいけません」
「…学園を出るのか、利吉」
「はい、父上。学園長には既に話を通してあります。…強くなって帰って来た際に、もう一度サラさんに言わせて頂きますね」
「えっ、あっ、う、…んん。…その、何て言ったら正解なのか分からないけど……死なないで、な。隻眼の男には、気を付けてくれ」
「はい、それでは失礼しますね。…ああ、見送りは大丈夫です。貴女の顔を見たら、此処に居たくなってしまいますから。…それでは、また会う日まで」

「…おう。また、な」


リキチはそう告げた後、ヤマダ先生に頭を下げてから、学園を去って行った。…今まで予兆とかあったか?まさか過ぎる告白に体温がこれでもかってくらい上がってる気がする。愉快そうに笑っているアイザックとキンブリーに1発ずつ機械鎧でのキックを喰らわした後、にこにこと微笑ましそうに笑っているルイとヤマダ先生を一瞥し、湯呑みを口に付けようとして…中が空だったことに気付く。…動揺しまくりだな。


「…ヤマダ先生は良いの?俺みたいな欠陥品が嫁で」
「サラくん、そんな言い方はダメだと言っただろう?私は別に構わないよ、寧ろ嬉しい限りだ。妻もきっと君を気にいるさ」
「、そっか」
「サラ殿はモテモテですなあ…」
「此処の連中は見る目が確か、ということですね。…私はサラはトベと親密な仲だと思っていましたが」
「あれはただの演技だよ。…スパダリってああいうこと言うんだろうな、とは思ったが」
「向こうの連中はサラを邪な目で見る奴等ばかりだったからなあ…ルイとロイとマークが例外だった感じか」
「…それは将来の義父になるかも知れない私にとっては見過ごせんな、詳しく聞かせて貰っても良いかい?」
「ヤマダ先生!?何か変な風にアクセル踏んでないか!?」
「あくせる、が、何なのかは分からないが…息子が選択肢に入ったのなら全力で推していきたいのでね。…まあ、他に応援してる存在も居なくはないのだが…」
「おや、生徒さんですかな?小さい子に押されているサラ殿はなかなかに愛らしかったですなあ」
「…無碍には出来ないのが困りものですけどねえ…あんなキラキラした目で見られたら何も出来ませんとも」
「…だよなあ、何かする度にキラキラした目で見て来るし、俺が美味いって言ったら嬉しそうにするし……子供に対しては俺達は何も出来んな」
「子供は宝、だというサラくんの気持ちが共通だと言う証拠だね」

「ルイには言い聞かせてたけど、キンブリーやアイザックにはそんな話してないんだけどなあ…」


何処から漏れたんだ?と聞いてみれば、キンブリーとアイザックは互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべながら言葉を濁す。…んー?俺が知らない奴、ではなさそうな反応ではあるが…ちらりとルイの方を見てみれば、気まずそうな顔をしながら顔を逸らす。あっ、こいつか。ルイは人が良いし口が軽いからな……思わず溜息を零せば、ガタイの良いルイの身体が可哀想なくらいビクッと跳ねる。可愛い。俺の弟子可愛い過ぎやしないか…??まあ、どうせキンブリーかアイザックが可愛いくて優しいルイを脅すかなんかしたんだろ、そうに違いねえな。


「ルイ、…お前か?」
「う、…も、申し訳ありません…」
「良いよ、お前なら別に。今回の噂も持って来てくれたしな。お前は俺と離れた場所に居るんだし、海上に現れないとも限らねえ。エンヴィーだって居るし…あまり無理はすんなよ」
「…ええ、勿論ですとも。何より、サラ殿を悲しませたくありませんからな」
「私個人としてもルイくんや兵庫水軍の人を失うのは痛手だし、とても悲しいからなあ…護身用に何か持っていくかい?見繕うよ」
「投げたら作動する爆弾でも使いますか?小さくて持ち運びも便利ですし、威力も保証出来ます」
「用心に越したことはないからな…俺からは回数限定ではあるが結界が出来るお守りなんてどうだ?サラと錬金術してたら何か出来た」
「ああ、それか。それなら確かに量産出来るし…よし、人数分用意するか。アイザック、手伝ってくれ」
「任せろ、相棒」
「それじゃあ、ゾルフくんには私の手伝いをして貰おうかな。良い案を期待しているよ」
「ええ、お任せ下さい」
「な、そ、そんなことしないで下され…!吾輩もダイサンキョウエイマル殿方も自分の身は何とか守れますので…!」
「分かってるよ、でも心配なんだよ」
「…サラ殿」

「…本気じゃなかったかも知れねえけど、あの人の強さは知ってるから。だから、念には念を入れたいと思っているんだ」


この世に有り得ない、なんてことは有り得ない。セントラルから出られなくなる前に、置いてけぼりになった時に知り合った男に言われた言葉を思い出す。可愛い弟子だから、ってのも勿論あるが…俺はもう、誰も喪いたくない。奪われたくないんだ。だからこそ、自分に何か出来ることがあるのなら、それに縋りたいと思う。…好きな人の、最期の姿をもう見たくないんだ。だから、多少大袈裟でもやれることがあるならどんなに手間が掛かってもやる。俺達の説得にルイは嬉しそうにしながら受け入れてくれたことにホッとしつつ、俺はアイザックと共に自室に向かいーー…一枚の紙が襖の側に置いてあるのに気付いた。


「ラブレターか?モテる女はつらいな」
「抜かせ。ーー…ラブレターだった」
「おっ、リキチか?」
「よくお分かりで。……何か、好きになった経緯とかを赤裸々に書かれてるの、その、恥ずかしいな…」
「ほー?…良いじゃないか、好意は素直に受け取っとくべきだぜ。…ラブレターか、やっぱり貰って嬉しいもんか?」
「…人によるかも知れねえけど、俺は嬉しい。トモミに出すのか?」
「俺はまだそういう目で見てはないが…まあ、いつまでも相手にしないのは失礼だからな。デートの誘いでも書こうかと思ってな」
「…良いんじゃないか?あと、此処は逢引きって言うらしいぜ」
「へえ、そいつは初耳だ。…大切にしろよ、その手紙もその気持ちも。今はまだ考えられないかも知れんが…いつかは考えてやれ」

「心配しなくとも、忘れることなんて出来やしないさ」


こんな熱烈なラブコール貰ったの、キリ達以外には初めてなんだから仕方ないだろう?…ロイ?彼奴のあれは女相手なら誰にでもやってんだろ。前に女装してる野郎にも声掛けて撃沈してたぜ。そんなことを言いながら、何度も何度もリキチからのラブレターを読み返す。手紙と共に入っていた蝶の柄が入った簪を手に取る。派手過ぎない簪はなかなかに俺好みのデザインで、俺は適当に髪を結って付けてみる。


「…どう?」
「良いじゃないか、リキチはなかなかにセンスが良いな。今度会う時は付けて行ったらどうだ?きっと驚くぞ」
「…ん、考えとく」
「…サラは相変わらず難しく考えすぎなんだ。お前だけが幸せになっちゃいけねえなんてことは絶対にないぞ。ちょっとは自分に優しくしてやれ」
「…すぐには難しいけど、がんばる」
「それで良いんだ。さ、沢山作るぞ」

「おー、ありたっけ作ろうな」


どうせならガクエンの人数分作るか?良いね、やろうじゃないか。そんな軽い気持ちで作り始めたが…結果的にエネルギー切れになって2人してぶっ倒れてる所を、俺とアイザックの帰りが遅いのを心配したキンブリーとヤマダ先生とルイに見付かり、説教されたのはももう二度と味わいたくないな…テンションに任せたらダメだな、と俺とアイザックは心に誓ったのだったーー…



ーー親愛なる、サラさんへ

こんなこと書くのは初めてで慣れていないのですが、ケジメとして書かせて下さい。
急なことで驚かせてしまうかも知れませんが、私は貴女に、サラさんに心から惹かれています。
こんな気持ちになったのは初めてなのですが、しんべヱえおすすめのうどん屋でご一緒したあの時から、きっと私はサラさんを好きになっていたのだと思います。
集落の調査の時、本当はどうしても止めたかったし着いて行きたいと思いました。
しかし、私は警備の為に忍術学園に雇われた身ですから、勝手なことなんて出来ません。
そんな私自身に、何にも出来ない自分に嫌気がさしました。
一晩で集落を破壊してしまう人物が怖くて仕方なかったのです。
惚れてる人が行くのに、情けない話でしょう?
だから、私はもっと修行してサラさんの隣に立てる存在になりたいと思います。
照星さんや父上に勝てなければ、サラさんに相応しくないと思っているのでなかなかに道は険しいですが、精一杯頑張りたいと思います。
サラさんの隣に立てそうになったら、会いに行きます。
その時は町で見かけて似合いそうだと思わず買ったこの簪を付けていて下さったら、私は嬉しいです。
体調には気を付けていて下さいね、貴女は無茶をしてしまうから心配です。
また、会う日まで。

ーー利吉より
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