会いたかったけど会いたくなかった
リキチが学園を去ってから数日が経った。1年は組とコマツダ…もといシュウ(名前呼びして欲しいな、と請われた)の落ち込み具合は見てられなかったが、少しは立ち直って来てるようだ。ショウセイさんもリキチと一緒に去ろうと考えていたようだが、常にトラワカとミキが両隣に居る為になかなか難しいらしい。助けになりたいところだが、トラワカとミキに泣き付かれることになるのはなかなかに厄介だからと放置されていたりする。…俺がやっても良いんだがなあ…泣き付かれることには慣れているし。教えてくれたタキにそう零せば信じられない、と言いたげな表情を浮かべたタキに思わずすん、となった俺はおかしくないと思いたい。解せぬ、って顔すんな。それをしたいのは俺だ。大の男よりは可愛いモンだろ。
「ーードクタケ?」
「しー、サラさん声が大きいですっ!」
「あ、ああ…悪い」
「内緒に、してるんです。その、忍たまとドクたまは敵同士、なので…」
「…ほー。友達なのか」
「…はい。…1年は組の皆も何だかんだ言って仲良くしてるんで別に良いんですけど、先輩方がなかなか認めて下さらなくて…やっぱり、友達になるの、だめ、なんですかね…?」
「ーーキンゴはそいつと友達になって後悔してんのか?」
「してないです!」
「それじゃあ気にしないで良いだろ。お前の人生なんだ、キンゴが後悔しなきゃそれで良いさ」
「わっ。…えへへ、有り難うございます」
深刻そうな顔をしたキンゴに相談があると言われた時はびっくりしたが、まあ…嬉しそうに微笑んでいるから少しは力になれたか?大人には大人の事情があるんだろうが、人の交友関係に一々口出しするのは頂けねぇな。あからさまに危ない奴なら苦言くらい言っても良さそうではあるが、話を聞く分にはまだまだ問題はないだろう。ハッポウサイ?とか言う奴と友達だって言うなら止めたかも知れんが、歳が近い子供のようだし…まぁ、芽を摘んでおきたいって考えも理解出来ない訳ではないがな。…でも、これだけは聞いておかないとな。
「キンゴ、お前はその友達が敵になった場合ーー…殺れるか?」
「!…そうなって、欲しくないですけど…皆に、サラさんに害が及そうなら…が、頑張ります…!」
「…何で俺?」
「や、だって…!…僕、貴女のことが好きです、から…!」
「あ?あー…なる、ほど…?」
「…いぶ鬼のことは、好きです。でも、サラさんに手を出そうとしたら…容赦は、しないと思います」
「…そっか。…何か照れるな…」
「照れてるサラさん可愛いです」
「からかうな」
「本音ですよ?戸部先生と利吉さんに先を越されちゃいましたし、ま、負けたくないですから…!」
「リキチはともかくトベ先生は違うと思うんだがなあ…」
何故か誰よりもトベ先生をライバル視しているキンゴに苦笑しつつ、真っ直ぐな想いを伝えてくれたキンゴに少しばかり絆されている自分に少しだけびっくりしていたりする。リキチもキンゴも良い男なのに、どうして欠陥品である俺が好きなんだろうな。や、それはキリやトラワカ、ダンゾウにも言えることではあるんだが…まあ、こんなことを口に出したらどっかの誰かに説教されそうだから言わないけどな。
「今日、遊ぶ約束してるんです…いぶ鬼と。その、こんなこと頼みたくないんですけど…着いて来て、くれませんか?」
「ああ…監視?」
「…先輩達の気配に気付けなかったらいぶ鬼にも迷惑掛かりますから…」
「成程。確かにそれは俺が適任だな。仕事もないし別に構わないぜ」
「有り難うございます…!あの、これ少ないですけど…!」
「は?いやいやいや、金なんて要らないんだが?」
「依頼料、です…!こういうことはしっかりしないといけないって父上から言われてるので…!」
「あー…そっか、分かった。有り難く頂戴しよう」
本当は1円も貰いたくないが、父親からの教えなら仕方ない。素直に受け取ればキンゴはホッとしたように微笑む。本当に可愛いよなあ……この金でキンゴとイブキ?に団子とか買ったらまずいかな…俺が貰った金で何を買おうが勝手だ、って理論で何とか押し通せるか?キンゴは素直で可愛いし、押し通せて欲しいな…善は急げ、ということで俺とキンゴはシュウに外出届を出し、町へと繰り出す。待ち合わせ場所は町外れの森林らしい。成程、確かに密会には優れているな。
「ーー金吾!」
「いぶ鬼!お待たせっ」
「もー、遅かったじゃないか!来ないんじゃないかって心配したんだよっ」
「ご、ごめんごめん。七松先輩に捕まりそうになって…」
「え、…居るの?」
「居ない居ない。紹介するね、いぶ鬼。此方はサラさん。サラさんが七松先輩から助けてくれたんだよ!」
「そんな大したことしてないんだが…あー、初めまして?サラ・クローズ。気軽にサラで構わんさ」
「わっ、綺麗な人……あ、いぶ鬼です!此方こそ宜しくお願いします!」
「むう、サラさんは僕の想い人だからいぶ鬼は好きにならないでね!」
「えっ、そうなの!?」
「こらこら、今のはただの世辞だろ。気にすんなって」
俺の腕にしがみ付きながらがるる、と威嚇しているキンゴの頭を軽く小突く。ただの世辞を素直に受け止めてしまうこの素直さがかなり心配だな…誰かに騙されたりしないと良いが。だが、このやり取りはなかなかに癒される。やっぱり子供って良いよな…キンゴの反応にイブキが笑い、イブキの反応にキンゴが驚く。うん、実に可愛い。癒されていれば不意にこの場に近付いて来るような気配を感じ、キンゴとイブキを隠すように立ちーー…近付いて来た男に、俺は声を失うことになった。
「ーー…は?」
「…サラさん?」
「あっ、ヒューズさん!どうしました?」
「イブキ、ヤマブキちゃんが探してたぞー?何か約束でもしてたのか?」
「えっ、…何もしてない、筈だけどなあ…?急ぎっぽかったですか?」
「とりあえず見掛けたら声掛けてって言われただけだが…まあ、イブキに心当たりがないなら自分の用事に付き合わせたいのかもな」
「げ、…上手く言ってくれました?」
「今日を楽しみにしてたイブキの為だしな、ちゃーんとそれっぽく言ったから安心しとけ!」
「有り難うございます!やっぱりヒューズさんは頼りになるなあ…」
「…サラさん、大丈夫ですか?」
「、…だいじょうぶ」
嘘、本当は全然大丈夫じゃない。ヒューズが、本物のヒューズが俺の目の前に立ってる。イブキに、俺が好きな笑顔を浮かべながら優しく声を掛けている。…昔から、変わらねぇな…懐かしくも思いつつ、何でこのタイミングなのかと思ったりもする。会いたくなかった訳じゃ、なかった。寧ろ会いたくて仕方なかった筈なのに。何でこんなごちゃごちゃした感情しか、抱けないんだろうな?…あ、目が合ったーー…
「…サラ?」
「…ん」
「…本物?」
「、それは、俺の台詞だな。エンヴィー、じゃなさそうだし…やっぱり、本物なのか」
「エンヴィー…?」
「…グレイシアさんに化けた人、って言ったら分かるか?」
「は!?サラ、まさかお前も彼奴に…!怪我はないか!?」
「落ち着け落ち着け、俺は向こうじゃ彼奴と会ったことねぇよ。…気を付けろよ、ヒューズ。彼奴、この世界に居るぞ」
「何だと…!?…怪我はないんだな?」
「ん?ああ、ピンピンしてるよ」
「、そうか…良かった」
「ヒューズ?」
「…サラまで、死んだのかと思った…生きてて、良かった…!」
「、それは、狡いだろ…!」
何で、お前は死んでしまったんだよ…可愛い妻子を置いて…!そう口から出掛けた言葉を噛み殺す。これは、絶対にダメだ。だって、ヒューズ自身が1番そう思ってるに違いねぇからな。だから、責めるような発言は絶対にダメだ。俺が葛藤してることに気付いたんだろう、ヒューズは心底嬉しそうに笑った後ーー…ぽんぽん、と頭を撫でて来た。すき、だなあ…この手が、俺は好きで堪らなかったんだ…叶うことがないって、分かった今でも…俺はまだ、ヒューズを愛しているんだな…
「…サラさん、誰ですか?」
「ヒューズさん、知り合いなの?」
「ん?ああ、同僚だよ」
「同期だ。まあ、もう1人居るんだけどな」
「2人、だろ?」
「あ、ゾルフさんですね!」
「ーーは?キンブリーが居るのか!?サラ、あまり関わるなよ!無垢なお前に彼奴は毒だ!」
「ガキ扱いすんなよ。それに関わるなってのも無理な話だ、一緒の場所に居るんだし」
「は…!?」
「サラさん、言葉が足りない気がします…!寝てる場所はちゃんと違いますから!そうじゃないと困りますし!…僕としてはザックさんの方が気になりますけど…」
「ザック?アイザックも居るのか?」
「何ならルイも居る。アイザックは兄貴分なだけだし、彼奴はトモミに好意を寄せられてるんだから心配するだけ無駄だぞ、キンゴ」
「金吾は本当にサラさんが大好きなんだね!」
「おっ!坊主は見る目が優れてるなあ…!サラは美人だし優しいし料理も美味いからな!イイ女だろ!」
「、急に褒めんなよ」
「(サラさん…?)僕としては添い遂げたいと思ってます、から…!」
「おっ!良いじゃないか!サラが誰かと一緒にならないのはおかしいと常々思ってたんだ!可愛い妹分には幸せになって貰いたいからな」
「、…いもうと」
…分かって、居た筈だった。でも、それを想い人本人から言われるのはーー…なかなかに堪えるな。キンゴの言葉が嬉しくて恥ずかしくて堪らなかったのに、急に絶望に叩き付けられた感が否めない。…この場所に、居たくない…そんな俺の反応に俺の足元に居たキンゴは目を見開きーー…俺の手をそっと握る。聡いキンゴには、バレたんだろうな。俺の、ヒューズに対するこの想いを。
「…いぶ鬼、やまぶ鬼がいぶ鬼を探してるなら戻った方が良いんじゃないかな?ここがバレたら困るし」
「あっ、確かに!この場所が他の皆にバレたら会えなくなるもんね…!ヒューズさん、行こ!サラさん、失礼します!金吾またね!」
「ん、そうだな!じゃあな、キンゴくん。サラ、気を付けて帰れよ」
「、ああ…また…「行きますよ、サラさん!」…キンゴ」
「……もう大丈夫、ですかね?サラさん、大丈夫ですか?」
「…心配掛けたな」
「…お団子でも食べましょうか」
「…そうだな」
「…好き、なんですね」
「…不毛だと思うだろ。彼奴には妻子が居て、俺なんか眼中にないんだ。…妹分、だしな」
分かっていた筈なのに、改めて本人から言われたからかダメージがかなりでかい。俺を好いてくれているキンゴにこんなことを言うのはあまり良いことではないとは思っているが…はは、涙を既に枯らしておいて良かった、とすら思える。いい加減吹っ切れなきゃいけない、のは分かっているのにーー…初恋は叶わない、なんて知っていた筈なのにな。
「…そんなこと思いませんよ、サラさん。確かにサラさんに想い人が居たのはなかなか堪えましたけど……貴女が抱いた感情を、貴女自身が否定するのはやめて下さい」
「…キンゴ」
「恋って、キラキラしてて綺麗な感情だと思うんです。だから、否定しちゃダメですよ。それに、僕はサラさんがヒューズさんを想っている感情ごと…その、愛したい、と思います…」
「…顔が真っ赤だぞ、キンゴ。良いのか、それで。2番手ってことになるが…」
「か、からかわないで下さい…!良いんですよ。2番手だとしても、サラさんが選んでくれたということが嬉しいんですから」
「…そういうもんか」
「そういうもんです。…それに、ヒューズさん以上に惚れて貰えるように努力すれば良いだけですからね!」
「…先が見えないぞ?」
「僕を甘く見ないで下さい。そんなことで絶対にへこたれたりしませんから!…サラさんと添い遂げたいんです、貴女の全てを丸ごと愛する覚悟すらない男だと思わないで下さいね」
「…かっこいいな、キンゴは」
こんなにストレートな好意を伝えられたのは初めてじゃないだろうか。や、リキチからのラブレターもこんな感じでは合ったが…顔を見てからのこのラブコールはなかなかに胸にクる。お試しで良いんで付き合ってみます?という誘いには断わらせて貰ったが、視界が少しばかり明るく広くなった気がする。…俺がヒューズ以上に惹かれる男、なんて今の俺には考えすら付かないけれど。…じぶんのしあわせ、考えてみるかな。
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