しあわせを調べる

ヒューズと再会した、と言うのをルイとアイザックとキンブリーとシュウにすれば、彼等は驚いたように目を見開いた後、心配ですという表情を隠さずに俺を見つめる。吹っ切れてはいないが、一応は大丈夫だと言ったが…まあ、信じては貰えてねぇだろうな。解せぬ、と思わないでもないが…まあ、自業自得だと諦めることにしよう。敵対しているドクタケに居るみたいだ、と言えばシュウはあまりそれを公に言わない方が良いかもね、と悲しそうな顔を隠さずに言うから、俺はそうだろうな、と頷いてから頭をよしよしと撫で回した。…心配してくれてる人には、伝えたいよな。それはトベ先生やヤマダ先生も含まれるが…敵対しているのだし、言わない方が良いかもな。変に騒ぎになっても困る。


「ーーサラさん?どうかしました?」
「…ん?どうしてだ?」
「本を読む手が止まってましたから…お好みではなかったですか?」
「や、面白いから大丈夫。ノセが薦めてくれた奴はどれも面白いからついつい時間を忘れる」
「それなら、良いんですけど……心、此処にあらずみたいな表情、してますよ」
「…まじか」
「まじです。…おれだけで良かったですね、此処に居るの。きり丸が居たら五月蝿いですよ」
「あー、そんな気はする。…内密に、な?」
「当たり前です」

「助かるよ。ノセで本当に良かった」


有り難うな。改めてそう言えば、ノセは頬を赤く染めながら図書委員会ですから、当たり前です。と顔を背ける。耳まで赤くなっているのを指摘するのは野暮、だよな。からかうつもりはないし。そんなことを思いながらノセに薦められた本に視線を落とす。警察官になりたいという夢を追い掛ける男の子が、様々な出来事をきっかけにカウンセラーになるという物語。遺族や加害者の家族との触れ合いはなかなかにクるものがある。…そして、何度も本に登場する“しあわせ”


「ーーノセ、しあわせってどんなことだと思う?」


俺には、分からない。家族は一応居るけど、この本に書かれているような幸せな家庭ではなかった筈だ。俺が周りに疎まれていたから、俺を庇って周りにいつも怒鳴っていたし。ヒューズに幸せを願う、と言われたこともあってか最近幸せについてばかり考えている。俺の突然過ぎる質問に、ノセはきょとりと目を瞬いた後、不思議そうな顔をしながら口を開く。


「随分と急に壮大な質問をされますね。らしくない」
「あー…すまん、ちょっと気になってな」
「幸せは人によって変わると思いますが…おれは自分が薦めた本を相手に気に入って貰えた時、幸せだなって思いますよ」
「…成程」
「あとは……サラさんが作って下さったご飯を食べてる時、ですかね」
「俺が?おばちゃんじゃなくて?」
「勿論おばちゃんのご飯を食べてる時も幸せですけど、サラさんの作るご飯はおれ達を考えて作ってくれてるのが伝わって来るんです。だからいつも取り合いが発生するんですよ」
「…偶々好きな味だった、とかじゃないんだな」

「…サラさんってたまにポンコツになりますね。サラさんが作ってくれたご飯だから、に決まってるじゃないですか」


サラさんのご飯、先生達にも人気なんですよ。そんなことを言いながらそっとお茶を出してくれたノセに礼を言いつつ、本に栞を挟んでから有り難くお茶を飲む。うまい…お菓子なんかは置いてはいないが、本を汚さないというルールを設けて飲み物は許可しているそうだ。まあ、お菓子はかけらとかが本に混じって虫が湧いたら大変だもんな。大事な資料になるんだし。ノセが淹れてくれたお茶を飲みつつ、窓から見える青空に目を向ける。…澄んだ、あの青い空。


「…こういう天気が良い時は、鳥になれたら良いとは思わないか?」
「鳥、ですか?…まあ、綺麗な青空ですからね。気持ちは分かります。…サラさん、もしかして疲れてます?」
「…そうかも。らしくはないのは分かってるが……意識を変えるのが、難しくてな。行き詰まってる」
「…成程。まるでその本の主人公みたいですね」
「そう、だな。…悩んでいれば、答えは見付かるんだろうか」
「ーー絶対、見付かりますよ」
「…ノセ?」
「サラさんが諦めなければ、絶対見付かりますよ。サラさんの、幸せ。見付かったら、教えて下さいね?」

「ーー考えとく」


俺の言葉に、ノセは嬉しそうに微笑みながら自分の持っていた本に目線を落とす。深く聞いてこない、このノセの気持ちが本当に有り難い。これがキリだったらこうはならないだろうな、なんて考えながらノセの表情を盗み見る。キリッと整った顔は、さぞかしモテるだろうなあ、と思いながらーー…不意に、リキチとキンゴの顔が頭を過ぎる。…2人ともかなり整ってるよな?というか、そもそもこの世界に整ってない顔の奴、居なかったよな?これはなかなか…顔面偏差値が高いんだろうな。…そんな世界に、俺は生きてて良いのか?欠陥品なのに…


「…サラさん、また変なこと考えてませんか?」
「…そんなに分かりやすいか?」
「いつものサラさんでしたら多分気付けてないです。…何かありましたね?」
「…初恋相手に、会った」
「!…ルイさんやザックさん、ゾルフさん以外にもこの世界に居るんですか?」
「そうみたいだ。…敵対してる、ドクタケに身を置いてるらしい」
「それはまた…なかなか厄介ですね。…会いたくない、んですか?」
「…不毛な恋、だとは分かってるんだよ。そいつには妻子が居て、本人から妹分だって言われた。…なのに、どうしても諦めが付かない。…此処には、彼奴が愛した妻子は居ない、俺を見てくれるんじゃないか、ってそう願ってしまう俺自身が……許せねえ」
「…そういうものだとおれは思いますよ。好きな人なら仕方ないんです。それを誰かに当たり散らさないのは、良い子ですね」
「…ノセ」

「貴女は悪くないです、サラさん。…おれが貴女の立場なら、きっと周りに当たり散らしてますから」


良い子、良い子。と優しく頭を撫でられる。ほう、と溜息が零れ、さっきまでのもやもやが晴れていくような感覚に陥る。…俺は甘えたかっただけなのか?年下相手に?情けない、と自分を叱咤したいところだが…俺を見る、ノセの目が慈愛に溢れていて、…たまにはこんな日があっても良いんじゃないかって気になってしまう。こてり、とノセの方に頭を傾ければ、驚いたような息の吸い方をした後…更によしよし、と優しく撫でられる。…心地が、良いな…


「…ふふ、珍しく甘えたですね」
「…ノセの体温が、あったくてな」
「そうですか?…サラさんの役に立てて幸いです。疲れた時はまた頼って下さいね」
「また甘えさせてくれるのか?」
「勿論。…貴女を甘やかすのは、おれでありたいですから。覚悟しといて下さいね、サラさん」
「…覚悟?」
「おれなしじゃ居られないくらい、甘やかしますから。…第一、サラさんは頑張り過ぎなんですよ!いくら錬金術が使えるからってバンバン使ってたら疲れちゃいます!最近はサラさんの錬金術が見たいからってわざと壊してる連中だって居るんですから!貴女も甘やかし過ぎないで下さい!」
「…わざと壊してる奴が居るのか!?」
「流石に気付いて下さいよ……ああもう、本当にサラさんはおれ“達”が居ないとだめですね」
「……お前、何を言ってーー「頑張り過ぎやさんは誰だー!」うおっ、…トキトモ?」
「ーーぼく達も居ますよ」
「全く……本当に貴女は馬鹿な人だ。何回も言わないと分からないんですか?」
「…イケダにカワニシまで…どうして、此処に?」
「久作が教えてくれたんです、最近サラさんが図書室に来る頻度が増えたって。しかも、きり丸や不破先輩が居ない時を狙って…無意識でした?」
「あー……確かに、意識はしてなかったが……そんなに、分かりやすいか。参ったな…」
「…良いですか、サラさん。1つ…や、2つ約束して下さい。1つ、何かを頼まれた時はぼく達2年生の誰かを頼ること。2つ、疲れたなって思った時は何よりも優先的にぼく達を探して頼ること。…貴女は優しすぎるから、ぼく達はサラさんが心を落ち着かせて自然体で接しられる存在でありたい。…もう、休んで良いんですよ」
「…自然体、か」

「サラさんはぼく達の為にずーっとずーっと頑張ってくれてたんだな!だから、今度はぼく達の番。ーー…甘やかせて?」


俺に飛び付いて来たままそう囁いたトキトモの言葉が合図だったかのように、隣に座っていたノセが俺の膝の上に座り、入り口から中に入って来たイケダとカワニシがそれぞれ俺の手をそっと握る。ーーあったかいなあ… 子供体温、と言われている温もりに久し振りに触れ、思わず深い溜息が零れる。その溜息にトキトモ達は肩を跳ねさせていたが、俺の顔を見上げ後ーー…ホッとしたように慈愛に満ちた目をしながら更にぎゅっと俺に触れて来た。…いやされる、なあ……っ…


「…おれは、もうつかれた…」
「!…そうでしょうね、今まで忙しなかったですもんね」
「…おれ、…あいつのこと、ほんとうに……すき、だったんだ……あきらめ、られない…」
「…そんなの、見てたら分かりますよ。羨ましいですね、貴女からの愛をそんなに向けて貰えるなんて。それに気付かないことは…許せませんけど」
「…いままで、だれかのためにがむしゃらに…はしってきた、から…なにをしたらいいのか、わからねえんだ…」
「…そんなの、今からだっていくらでもお手伝いしますよ。ぼく達がずーっとサラさんに付いてますから」
「ーーおれは、…しあわせになって…いいのかなあ…」
「サラさんは幸せにならなきゃダメなんだな!!サラさんを幸せにしないような奴なんてぼく達が許さないんだな!!」
「良い拷問とか調べておこうかな…」
「海に沈めた方が早くないか?」
「毒について勉強するか…」
「やっぱり物理で攻めるのが1番じゃない?」

「ふっ…過激すぎるだろ」


あまりにも可愛い顔から繰り出される言葉とは思えないが、俺のことを想っての言葉だと分かるから、…嬉しいよなあ……枯れた筈の涙腺が刺激されるのを感じつつ、俺はそっと腕を伸ばせばーー…最初から抱き付いているトキトモが少し場所をずれ、それを見た3人もまた抱き付いて来たので俺は彼等を抱き締める。…この温もりを、失いたくない…そう思った刹那、脳裏に俺を寂しそうに見つめるロイの姿が蘇ったがーー…ごめんな、ロイ。俺にはもう…無理だ。もう…疲れたんだ。


「…キュウサク」
「!」
「サブロウジ」
「!」
「サコン」
「!」
「シロベエ」
「はーい!」
「俺はーー…お前達と、一緒に居たい。初めて、だったんだ。こんなに…俺を想って泣きながら怒って貰ったのは。…許して貰えるなら、お前達を俺の帰る場所にしたい。…ダメ、だろうか」
「ダメじゃない!!…やっと、言ってくれましたね…」
「…1年い組や1年ろ組もぼく達と同じ思考だったから焦ったけど……良かった…」
「貴女は誰彼構わず好かれすぎなんですよ!!ぼく達が1番好きですけどね!!」
「今日、ぼく達の部屋にお泊まりなんだな!これで寝不足も解消なんだなー!」
「…いつから気付いてた?化粧で隠してたつもりだが」
「そんなの…見たら分かりますよ。1年生は分かりませんけど、先輩達だって気付いてる筈ですよ」
「金吾ときり丸ぐらいは気付いてそうだけど、声を掛けなかった時点でダメダメなんだな!」
「サラさんは強引過ぎるくらいじゃないと振り向いてくれませんからね。サラさん、予定表あります?ぼく達で監修しますからね!」
「どれどれ……この6年生の鍛錬ってサラさんがやる必要あります?この時間はおれ達と昼寝しましょう」
「…全力で休ませるつもりか?流石に多少は動きたいんだが」
「…じゃあ、ぼく達とお出かけしましょう。最近出来た茶店に行きたかったんです。甘いの、お好きでしょう?」

「あー…もう、分かった分かった。任せるよ」


俺の渡したスケジュール帳を覗き込みながら、こうじゃないあれじゃない、と会議していく2年生の後ろ姿を眺めながめる。…俺の為に、と全力で取り組んでくれている彼等の好意が嬉しくて有り難くて堪らない。…エドとアルみたいな、唯一無二の兄弟に憧れてた。あの2人みたいな関係性に、なれるだろうか。なれたら…良いな。その場合は俺が姉でありたいが……妹でも、良いかもな。年齢的には無理なんだが。…あの4人相手になら、甘えられそうな気がする。そんなことを考えながら、騒ぐ2年生達の声を聞きながらそっと目を閉じる。

ーーパキン

と、俺の中の“何か”が壊れるような音を感じながらーー…
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