嬉しい誤算
※他の夢主に対する恋心描写あり
ーーこんなにも、気分が爽快なのは久し振りな気がするだ。
珠華ちゃんと翠青ちゃんによる鍛錬の成果で、随分と動きが良くなった気がする。まだ止めはささせて貰えないけれど、以前よりもちょっぴり戦に着いて行かせてくれる回数が増えた。まあ、大喬様が居る場所にはどんな所でも着いていくけどね??
今は魯粛様と一緒に畑を耕していたりする。じゃがいもとにんじんを植えるんだよね、楽しみ…
「霞月殿、このくらいにしておこう。種が足りなくなってしまうからな」
「分かりました!…魯粛様、この畑はどうなってるんでしょうね…」
「…まあ、謎ではあるが…食糧には困らないし、恵みだと思って感謝してから頂くのが良いだろう」
「そうですよねー…私達の世界にも持っていけたら良いんですけど」
「…そう、だな。まあ、此処だけにしかないから良いんだと思うようにするのが1番だろうな」
「…はい、そうします」
私の返事に、魯粛様は優しく微笑んでから私の頭を撫でる。この世界の畑は、最初は普通のどこにでもある畑だったのだけど、大地の神様であるガイア様の不思議なパワーで季節だったり、作物の実る速さが異常だったりする。今の孫呉には春夏秋冬、それぞれの季節に設定してある畑が2つずつあったりする。土を耕したり水を撒いたりは勿論必要だけど、食糧には困らないからかなり重宝している。本当に便利だよなあ…
「トマトととうもろこしときゅうりとナスが収穫出来そうだな。スイカは……まだ無理そうか。3日くらいあれば食べ頃になりそうだ」
「え、見ただけで分かるんですか?」
「何回かスイカを育てたことがあるからな。霞月殿は育てたことが少ないのか?」
「…種、ちょっぴり高いですから」
「あー…霞月殿は村民出身だったな、迂闊だった」
「気にしてないですよ」
「…霞月殿は良い子だな。そんな良い子にはこれをやろう」
「!いちご…!」
赤く色付いたいちごを手渡され、私はお礼を言ってから口に入れる。ん〜〜、甘酸っぱくて美味し〜!!ジャムにしても良さそうだべ、なんて思いながら舌鼓を打っていれば、魯粛様は嬉しそうに微笑みながら自分もいちごを口に放り込み、幸せそうに破顔する。向こうで食べるやつより美味しく感じるのは、やはりガイア様の女神パワーの力なのかな…んー、不思議だ…もぐもぐと口を動かしながら、実ったいちごを見つめる。脳裏に浮かぶのは、好きな食べ物は何?と翠青ちゃんに聞かれ、肉や野菜、魚と言ったものではなくいちごだと答えた珠華ちゃんのあのキラキラとした顔。…うん、これは包むしかねぇだ。
「魯粛様、いちごを少し頂いても宜しいですか?」
「うん?ガイア殿のお陰ですぐに収穫出来るし別に構わないが…そんなに好きだったのか?」
「私じゃなくて珠華ちゃん……ええと、友達が好きなんです」
「…確か蜀の忍だったか。ほう、人は見掛けにはよらないのだな」
「珠華ちゃん、好きな食べ物は何?って翠青ちゃんに聞かれて即答でいちごって答えるくらい大好きなんですよー。キラキラした顔で頬張る珠華ちゃんは凄く可愛いんです!」
「ほう、そんなに……なら、美味しいいちごを贈らねばな。どれ……この辺りのはまだ酸味の方が多そうだ…あの辺りのが良いだろうな」
「見ただけで分かるの流石ですだ…あ!ジャムとかにするならどの辺りが良いですか?」
「ジャムならこの辺りだろうな。酸味が強い方も煮詰めれば甘くなるし、こっちが好きな人も居る。沢山獲っても食べ切れんくらいにある訳だ、多少多めに贈っても問題はあるまい」
ーーご相伴に預かれるかも知れんしな?
人当たりが良い魯粛様らしからぬ笑みを浮かべながら、いつの間にか抱えていた籠に潰さないようにいちごを大量に入れていく。無駄がない作業は見ていて惚れ惚れするだ…籠の中には仕切りが設置されており、そこにそれぞれの用途によって入れていく。そのまま食べるようや甘いジャム、甘酸っぱいジャム……私にはどれも美味しそうに見えるけど、魯粛様の目には違う風に見えているんだろうな。
「さて、こんなもので良いだろう。霞月殿、いつ渡しに行くんだ?」
「畑もひと段落しましたし、珠華ちゃん今日仕事で孫呉に来るって言ってたんですよー、何でも呂蒙様に呼ばれたとかで」
「呂蒙殿に?…ふむ、あの件かも知れんな」
「あの件、ですか?」
「霞月殿のもう1人の友人である翠青殿が研修の為に孫呉に来るのは知っているな?それに伴い、珠華殿も一緒に来れないかと検討しているのだ。…まあ、蜀からは大分嫌がられてはいるがな」
「…どうして、そんなことに?翠青ちゃんは向こうからの要請でしたけど、珠華ちゃんは関係ない、ですよね?」
「あー……あまり言いたくはなかったんだが、これは俺からの提案なんだ。まさか殿が二つ返事をくれるとは思っていなかったんだがな」
「魯粛様の…?」
「…霞月殿はあの二人を好いているからな」
「私…?」
「…最近、元気がないように思えたのでな」
困ったような笑みを浮かべた魯粛様は、ぽつぽつと経緯を話し始める。ーー何でも、まだ元の世界に居る時、たまに寂しそうな目で空を見ているのを魯粛様は気になっていたんだそうだ。大喬様や周瑜様が居れば笑顔になるものの、不意に寂しそうな表情になる理由が分からなかった魯粛様は、戦で私と敵対した時の珠華ちゃんと翠青ちゃんの表情から、私との関係性を見抜いて心を痛めていたんだそう。…確かに、驚いたように目を見開いたあの二人の表情を、私も忘れられないだろうな。…絶望、そんな言葉がしっくり来るくらいの表情だっただ。
「…此処だと、今は休戦ということで元の世界に戻るまでは争わずにすると決めているだろう?だから、正直翠青殿の話が来た時は好機だと思ったのだ」
「…魯粛様…」
「蜀からの怨みを買ってでも、翠青殿と共に珠華殿も欲しい、と進言したら殿もすぐに受け入れてくれてな、そこは俺も驚いたが…殿も俺と同じ意見だったらしい」
「…そう、だったんですか…えへへ、私って愛されてますね」
「何だ、今気付いたのか?お前を嫌っている奴なんて孫呉には誰一人としていないぞ?」
「え」
「戦いは不向きだし、大喬殿や周瑜殿に危険が迫るとどんな状況でも突っ走ってしまうのは良くないとは思っているが、それでも大切な人の為に頑張ろうとする一途な霞月殿を、嫌う奴なんて居る訳がないだろう?」
「…魯粛、様…!」
「霞月殿は良く頑張っている。それに応じた褒美を出すのも、上として当然だろう?」
お前の世話役も任されているしな、と優しく笑いながら付け足された言葉に、思わず涙腺が刺激される。…ずっと、見ていてくれていたのだと改めて実感した。思えばなかなか馴染めずに落ち込んでいた私の元に真っ先に来てくれたのは魯粛様だった。一緒に畑を耕さないかとか、一緒に買い物でも行かないかとか、馬に乗って遠乗りでもしないかとか…今までに色んなお誘いをされていたことを今になって思い出す。戦でも、常に私が見える範囲の場所に居たな…きっとさりげなく助けてくれてたりもしたんだろう。…必死過ぎて覚えていなかったりもするけど。…ああ、私って幸せ者だべ…
「…まあ、本音を言えば少しばかり下心がないとは言えんがな」
「え?下心、ですか?」
「…戦ですれ違った際、その…珠華殿の目に、惹かれてしまってな。陸遜殿も翠青殿に興味を示していたそうだし、そこに便乗したんだ」
「惹かれ……って、もしかしてっ!?」
「…皆まで言わないでくれよ?」
「〜〜赤飯!!赤飯を炊いて貰うべ!」
「待て待て、気が早いぞ」
「だって!!…こんな幸せなことがあって良いのか…分からないだ…大好きな人同士が好き合うことになるかも知れない…?一緒に過ごせる…?」
「(普段頑張って隠している言葉が出ているが…指摘はしないでおくか)…そうだな、上手くいけば一緒に過ごせるようになるやも知れんな」
「〜〜っ!!最高だべ…!私も!皆が幸せになるのを見ていたいだ!」
「そこに霞月殿の幸せは入っていないのか?確か……と、これは黙っておくか」
「え、何か知ってるんですか?」
「…癖は強いが、悪い奴ではないからな。誤解しないでやってくれよ?」
「…ひょっとして直江様ですか?あの人は私に恋心なんて抱いてないですよ、大喬様に対するこの気持ちを忠義だと思ってるらしくて…忠義の会に参加しないかって誘われてるんです…そんな会に参加する暇なんてないのに…」
「忠義の会…?そんな話は聞いたことないが…」
「何か勝手に直江様が命名して片っ端から声掛けてるみたいなんで、まだ会としては立ち上がってないんじゃないですかね?」
「…成程な」
正直、何回も断わっているんだから良い加減諦めて欲しいだ…そんな会に参加させられるくらいなら、凌統と甘寧と口喧嘩してる方がよっぽど有意義な時間だべ。まあ、大喬様と周瑜様を眺めてるのが一番有意義な時間の使い方だけどね??…でも、蜀と珠華ちゃんからの許可が降りれば、日中三人で過ごせるのかも知れないのか。それはかなり魅力的なのでは?…珠華ちゃん、意外とちょろいとこもあるし、このいちごでオトせたりしないかな?沢山のいちごあるし、好きなだけ食べれるよーでぐらついたりしないかな?流石にナメ過ぎ?そんなことを考えていれば、不意に私を呼ぶ大好きな声が聞こえて来た。この声は…
「珠華ちゃん!!」
「え」
「霞月ちゃんが此処に居るって聞いて呂蒙殿に案内して頂いてたの。魯粛殿、こんにちは。お邪魔でしたかね?」
「…いや、畑仕事はひと段落した所ですので問題はありませんよ。…呂蒙殿」
「そんな怖い顔をしなくても良いだろう?なあに、そろそろ会いたいのではないかと思っただけなのでな」
「〜〜呂蒙殿!!」
「うわ、びっくりした。やっぱりお邪魔だった…?出直す?」
「気にしないで大丈夫だべ!!珠華ちゃん、これ珠華ちゃんにあげようと魯粛様に選んで貰っただ!」
「…いちご。こんなに良いの?」
「勿論だべ!ね、魯粛様!」
「ゔっ!?…ああ、是非貰って下さい。上からそのまま食べるのが一番美味しい奴、真ん中がジャムにしたら甘くなる奴、下がジャムにしたら甘酸っぱくて癖になります。お口に合えば良いのですが…」
「霞月ちゃんから魯粛殿の腕前は聞いておりますから、期待してますね」
突然の好物に、普段の表情から考えられないくらいゆるっゆるとしたほわほわした笑みを浮かべた珠華ちゃんに、魯粛様は天を仰いでいたりしてる。うんうん、普段の凛々しい表情も可愛いくて素敵なんだけど、好物を前にした珠華ちゃんって本当に可愛いんだよね!私も翠青ちゃんもあの顔が見たくていっぱいあげちゃうもん、こんなに食べられないよーって幸せそうな表情で言うまでが貢げる量だったりする。私も翠青ちゃんもついついゆるゆるになってしまうもんね。そんな珠華ちゃんと魯粛様を眺めていれば、呂蒙様が私の隣に来てそっと口を開く。
「霞月、翠青殿の好きな食べ物とかも教えてくれないか?陸遜をけしかけてやろうと思ってな」
「翠青ちゃんですか?勿論、いつでも教えますよ!」
「助かる。彼奴、普段は賢い癖にこの手になると鈍くてな…困った奴だ」
「へえ…?あれ、でも翠青ちゃんは陸遜様と面識がないって言ってたような…?」
「顔を合わせたことがなくとも、同じ火計を使う人間だからな。興味を持って調べるだろう?まあ、郭嘉やら満寵やらに邪魔されて会えずにいたがな」
「翠青ちゃんの姫っぷりが凄いですねえ…」
「霞月も孫呉の姫だろう?」
「え?」
「以前、お前の悪口を言っていた兵士を見掛けた時の大喬殿や周瑜、魯粛の顔をお前に見せてやりたいくらいだ。安心しろ、お前は十分過ぎるくらい愛されているぞ。無論、俺も霞月を気に入っているしな」
「…呂蒙様」
「そんな霞月が好いている翠青殿と珠華殿を全力で引き入れようとするのは当然だからな。霞月、お前も手伝ってくれるだろう?」
「ーーはい、任せて下さい!!」
二人にとっては困っちゃうかも知れないけど、私だって二人と一緒に居れるならその方が良いし…何より、師匠である魯粛様やお兄ちゃんみがある陸遜様が幸せになるなら、その方が良いよね?さりげなく推していかないと…!!別に魏や蜀が嫌いな訳ではないけど、これは私の単なる我儘だ。この世界に居る間だけは、側に居たいなっていう我儘を、孫呉は後押ししてくれる。ーーああ、私。二人と敵対してでも孫呉に来て良かったな。
結局、珠華ちゃんは首を縦には振ってくれなかったけど、惜しいとこまではいけたのだと思って諦めずに突撃しようと思う。今は翠青ちゃんも味方してくれるだろうし、覚悟するだ!!
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