やっぱり孫呉が一番


ーーやっぱり私、誰よりも幸せ者だべ…!


大事な友人である翠青ちゃんが火計を学ぶという理由の為、期間は決まってはいないけれど孫呉にやってくることになった。日中だけという約束なのが少しばかり残念だけど、隈が出来るほど悩んでいたのを知っているから納得しておく。永住してくれないかなあ…
珠華ちゃんは首を縦には振ってくれなかったけれど、気になっている翠青ちゃんと妹だと思ってくれてる私の為に本気になった陸遜様が、珠華ちゃんが敬愛している馬岱様に交渉を始めたのが功を果たして、私と翠青ちゃんの気が済むまで居てくれるようになった。最高に幸せだ…


「霞月ちゃん、いつまでにこにこしてるの?そんなに嬉しい?」
「嬉しいに決まってるだー。私、大喬様と周瑜様と一緒に居るのも大好きだけど、珠華ちゃんと翠青ちゃんと一緒に居るのも大好きだべー」
「ふふっ、私も二人と一緒に入れて嬉しいし幸せだよー!珠華ちゃんは?幸せ?」
「…私だって二人と一緒は嬉しいし幸せだよ。大事な幼馴染みだからね」
「「珠華ちゃん!!」」
「わっ、もー…危ないでしょ」


嬉しくて翠青ちゃんと共に抱き付けば、鍛えられた筋肉に抱き止められる。正直、そんじょそこらの男性よりも立派な身体をしているであろう珠華ちゃんはとてつもなく同性、つまりは女性にモテる。更に性格だって優しいし!多少我儘を言っても、仕方ないなあと困ったように笑いながら頭を撫でて来る珠華ちゃんにオチない女性は居ないと思う。練師様と尚香様が恋する乙女みたいな目で見てたのは凄く理解出来るだ…!
翠青ちゃんは翠青ちゃんで、女性特有の柔らかさを全面的に押し出されているのが非常に魅力的だ。優しくて柔らかくて可愛いし、料理も裁縫も出来るし泳いでる姿はまるで人魚みたい…!…あの酒癖さえなければ完璧なんだけどね…絡み酒で笑顔で毒を吐く翠青ちゃんによって物理的にも精神的にも沈まされた人は少なくはない。孫権様とタッグを組んだらもう死しかない。…宴会は避けるべきだね、うん。


「霞月ちゃん?」
「どうしたの?疲れちゃった?」
「、んーん、何でもねぇだ!今日は一日やることないし、ずーっと一緒に居るだ!」
「ふふっ、私達は構わないけど大喬殿や周瑜殿は良いの?」
「大喬様は孫策様と、周瑜様は小喬様とのんびり過ごすみたいだから邪魔はしちゃいけねぇだ」
「成程、確かにそれは邪魔しちゃダメだね。…それにしても、穏やかで良いね。孫呉ってこんなに平和なんだね」
「私も思った!殿と郭嘉殿が仕事を放り出して夏侯惇殿や荀ケ殿が怒ったりする声が聞こえないのは静かで良いね」
「ね。若が意味もなく走り回ったり、関羽殿と張飛殿が劉備様を巡る戦いを止めなくて良いのは本当に有り難いね」
「…二人とも苦労し過ぎだべ…」


遠い目をしている二人の頭をポンポン撫でれば、もっと撫でてと言わんばかりに頭を押し付けてくる二人に思わず天を仰ぎたくなるのを我慢する。…これは何の拷問?普段こんなにも甘えて来ない二人を苦しめた魏と蜀を焼き討ちするべき?孫権様は良しとはしてくれないかもだけど、珠華ちゃんを気に入っている魯粛様と翠青ちゃんを気に入っている陸遜様が味方してくれない訳はないからね…私だけなら弱いけれど、魯粛様と陸遜様が居るんだからかなり心強い。やっても許されるのでは??


「ーーこら、霞月。あまりそんな顔をするんじゃない」
「良いじゃねぇか、おっさん。俺はそんな顔をする霞月だって悪くねえと思うぜ?」
「…それよりも呂蒙さん。女に此処まで疲弊させるのはあまり宜しくないんじゃないの?進言した方が良いんじゃない?」
「呂蒙さんだ!!…確かに、負担が些か大き過ぎるな。翠青殿の方は仕事を放り出して逃げるな、と曹操と郭嘉に言うことしか出来んが……珠華殿の関羽と張飛の件は何故そうなった?いや、意味もなく走り回る馬超も気になりはするのだが」
「…あの二人、劉備様の好きな所がお互いに違うらしくて度々ぶつかるんですよ。劉備様は劉備様で二人は仕方ないなあって感じだし、それぞれの子供も親の背中見て育ってますから…睨み合う星彩と銀屏はなかなか迫力がありますよ。若は人間じゃないのでお手上げです、どうして火がある場所で無闇に走り回っては火傷して大騒ぎするんですかねえ…」
「珠華ちゃん、大丈夫?いちご食べる?」
「たべる」
「もう疲れ切ってるねえ。よしよし、お疲れ様」


まるで聖母のように優しく笑いながら珠華ちゃんの頭を撫でる翠青ちゃん。こんなの陸遜様が見たら笑顔で気絶してしまうだろうなあ、なんて思いながらすっかり疲れ切ってる珠華ちゃんの口にせっせといちごを放り込む。何かを学ぶ訳ではないけれど、本が沢山あるしいつでもおいで、と言われた呂蒙様の部屋に訪れればそこに居たのは呂蒙様の弟子である凌統と甘寧で、まさか私が来ると思ってなかったのか驚きで湯呑みを自分の膝に落として熱がる甘寧はなかなか実物だった。…そう言えば孫呉での騒がしい出来事って私と凌統と甘寧による口喧嘩とかくらいしかないはず。…そりゃあ平和に決まってるだ。この場に元凶が揃っているんだし。


(一時休戦だからね?)
(分かってるっつーの)
(んあ?)


とりあえず翠青ちゃんと珠華ちゃんに気付かれないように目だけで合図すれば、頭はかなりキレる方の凌統はすぐに頷いてくれたけど、脳筋の甘寧は気付かなかったみたいで首を傾げていた。これだから筋肉達磨は困るだ…まあ、困ったように笑った呂蒙様が何とかしてくれると信じて、今はちゃぶ台に突っ伏している珠華ちゃんのことを考えるのが優先、かな?朝見た時も気付いたけど、最近あまり寝れてないのか隈があった。お化粧で隠してはいたけど、幼馴染みである私と翠青ちゃんの目は誤魔化されねぇだ。…まあ、翠青ちゃんも翠青ちゃんであまり寝れてないみたいだし…とりあえず、今日は寝かせるか。


「とりあえず珠華ちゃんと翠青ちゃんはお茶でも飲むと良いだ、今はゆっくりするのが一番だべ!」
「ん?おいおい、霞月。お前何し…「はいはい、黙ってろっつーの」ああ??」
「甘寧、今は黙っていろ。珠華殿、翠青殿、甘味は如何かな?これは新作らしくてな、試しに貰ったのは良いが試食係りが野郎だけというのも難儀でな、良ければ協力して貰えないだろうか」
「甘味、ですか?……団子、ですか?あまり嗅ぎ慣れない香りがしますね」
「すっごく美味しそう…え、これ貰っても良いんですか?」
「あくまでも試食品だからな、食べて貰えると助かる。…何だったか、おはぎ?というものらしい。米に餡子というなかなかに凄い組み合わせだが、なかなか美味いぞ」
「私も食べたけど、美味しかっただ!このお茶との相性も抜群だし、是非食べて欲しいんだけど…いや、かな?」
「…呂蒙殿からの申し入れを断われる訳ないし、何より霞月ちゃんが勧めてくれるなら食べるよ。ね?」
「うんうん!甘いお米なんて初めての出会いだなあ…頂きます!」
「頂きます」


珠華ちゃんと翠青ちゃんは少しばかり躊躇はしていたけど、意を決しておはぎを一口口に入れる。!、みたいな反応をした2人に笑いながら私が淹れた、睡眠効果がある薬をちょっとだけ混ぜたお茶を渡せば、翠青ちゃんは普通に飲んでくれた。珠華ちゃんは匂いで分かったのか、困ったように笑ってから飲んでくれる。自分でもちゃんと理解は出来てるようで良かっただ……うーん、それにしても匂い、もう少し何とかならないかな…今は珠華ちゃんが自分の現状を分かってるから飲んでくれたけど、理解していなければ突っぱねられることになるのは目に見えてる。…忍者相手を出し抜くなんて容易じゃねぇだ…


(即効性は抜群だし、効果は変えないようにしたいんだけどなあ…)


一口飲んだだけでくあ、と噛み殺すようなあくびをした珠華ちゃんと翠青ちゃんをただただ見つめる。ある程度の薬や毒に耐性がある珠華ちゃんには一口でこうなるってかなりやばくない?まあ、本人が疲れてたからってのもありそうではあるけどね…うつらうつら、と船を漕ぎ始めたのを見て、私と呂蒙様で毛布を掛けてあげれば、限界だったのかそのまま眠りの世界へと意識を手放す。倒れ掛かった二人を私の代わりに凌統と呂蒙様が支えてくれて、甘寧が敷いてくれていた布団の上に寝かせる。んー、改めて見ても隈が凄いだ。


「一口で熟睡とはなあ、確かにあの薬草の即効性は確かに高いが、まさか此処までとは…」
「…多分、あまり寝てないんだと思います。隈が凄いですし…化粧で誤魔化してはいましたけど、顔に疲れが出てましただ…」
「ふぅむ……これはなかなか難儀だな。これを劉備や曹操は知らんのだろうし、だからと言って進言するの彼女達は望みはせんだろう、注意を促すのは出来るが、果たして聞いて貰えるかが疑問ではあるが…」
「…無理だろうなあ。そんなに簡単に聞いてくれるような連中なら、こんなに苦労してねえだろ」
「…お前に同意なのは心底嫌だが、こればかりは仕方ないか。…霞月、どうするんだ?俺達からの進言ならあまり快くは思われないだろうけど、お前からならまだ何とかなるんじゃないか?」
「…ううん、私としてはこれを上手く使えないかなあ、とは思ってるんだけど…」
「ほう?」
「孫呉で甘やかしたり癒したりすれば、移籍してくれるんじゃないかなって…軽く考え過ぎ、ですかね?」


すやすやと寝息を立てている二人の髪をそっと撫でる。敵対するのは、異なる陣地を選んだのだから仕方ないとは思ってた。けど、此処まで疲弊させるような場所に優しい二人を置いておきたくないと思うのは本当。うーん、悩ましいだ…戦力として引き入れたいと思ってくれてる孫権様達は有り難いけど、私としては戦力云々ではなく、大切な友人として側に居たいし居させて欲しいと願っている。…戦力だけを目的にはしたくない。だって、珠華ちゃんも翠青ちゃんも今までたっくさん頑張ってただ。少しくらい、肩の荷を降ろしても許される筈だべ。他のとこは難しいかも知れないけど、孫呉なら可能だと思う。…まあ、周りの協力が必須にはなるけど…やっぱり、難しいかな…


「ーー良いんじゃないの?」
「え」
「だから、良いんじゃないの?見ていて思ったんだけど、珠華と翠青って甘やかされ慣れてないっしょ、それを突いていけば上手くいきそうじゃない?」
「確かに凌統の言う通りだな。この二人に今必要なのは心の休息だろう。些細なことでも褒めれば心が揺らぐかも知れん。褒められるのが嫌な人間はそうそう居ないしな」
「それによ、俺達の殿である孫権「様」…孫権サマは息をするように褒めてくるしな、話を通さなくてもいけそうじゃねえか?」
「、確かにやってくれそうではありますけど…負担になったりは、しませんかね?」
「んだよ、いつもの生意気なお前は何処に行ったんだ?大事なんだろ、珠華も翠青も。だったら諦めンじゃねーよ」
「元気じゃない霞月なんて霞月じゃないからなあ、仕方ないから協力してやるよっつーか、自分のお気に入り取られた曹操と劉備の顔見てみたいしな」
「孫呉としても戦術が増えるのは喜ばしいことであるし、魯粛や陸遜も喜ぶしな。たまにはこちらが勧誘してもおかしくはあるまい?」
「…はい、有り難う…ございます…!」


ああ、やっぱり孫呉はとても素敵な場所なんだと改めて理解した。まさか、此処まで私の味方をしてくれるなんて…有り難いし、嬉しいなあ…皆が味方してくれるなら、珠華ちゃんと翠青ちゃんをぐらつかせることが出来るかも知れない。だって我等にはちょっとしたことでも大袈裟に褒めてくれる孫権様が居るのだからね!…蜀も魏も二人にちょっと甘え過ぎなんだべ、二人を甘やかす人が龐統様と夏侯淵様だけなんて、信じられないだ。これからは、全力で奪いに行くだ…


「ねえ、孫権殿はどうなってるの!?大したことないのに凄い凄いって褒めてくるの……勘弁して欲しいわ…」
「…だからあの人は読めないんだ…あーもう、顔見せたくない…あつい…」


顔を真っ赤にしながら私に孫権様のことを愚痴って来る翠青ちゃんと珠華ちゃんを宥めつつ、計画を話した訳ではないのに褒め殺してくれてる孫権様ににんまりと思いながらも、これで二人が孫呉に来てくれるってことも視野に入れてくれたら良いなあ、と心の底から思う。

孫権様はまだまだ序の口、話を通した他の人達も二人を褒めちぎってくれる筈だから、覚悟してね?



前へ 戻る 次へ