幸せの重み



ーーまさかこうなるなんて思ってなかった。

劉備様の発言により、盛大な宴が開かれた。私の好きな料理やお酒がいっぱい…!ハメを外さないように気を付けつつ、料理やお酒に手を伸ばし舌鼓を打つ。んー、幸せ!もくもくと食べていれば、誰とも会話せずに一人で飲んでいる人の後ろ姿が見え、私はその人に向かって歩いて行く。馬岱さんは若がハメを外さないように気を配るらしいからねー、邪魔をしてはいけない。可愛いがられてると思うし、せっかくの宴なんだから楽しまなきゃダメだよね!と思いながら、私は後ろ姿に向かって口を開く。


「飲んでます?ほーせーさん」
「ん?何だ、珠華じゃないですか。ちゃんと飲んでますよ、珠華こそ飲んでますか?」
「ぼちぼちです。私が潰れる訳にはいきませんし。…若が既に出来上がってますからね〜、馬岱さんが潰れるのも時間の問題じゃないですかね」
「ほう…?そこまで分かっているのに止めないんですか?」
「馬岱さん嬉しそうですから。だから一人寂しい法正さんのお相手してあげようかなーって、要らないお世話でした?」
「フッ…いいや、それじゃあお相手して貰いましょうか。さあ、盃を下さい」
「お酌してくれるんです?わーい、お願いします!法正さんの方も貸して下さい、お酌します」
「ああ、お願いします。……ふむ、なかなか美味い。流石は劉備殿、珠華の好みを良くご存知のようですね」
「劉備様おっそろしいですよね、何かを隠しててもすぐにバレちゃいます。私、これが好きとか言ってないんですよ」
「…それは確かに少し怖いかも知れませんね、確か全部好きでしたよね?」
「そうなんですよー…後ですね、私が飲んでみたいなあと内心思っていたお酒があるんです。これ、えげつない値段するんですよ。だから誰にも言ってないのに…三本もあるんです」
「…劉備殿は珠華を良く見てるんですね」
「それで済ませて良いんですかねえ…」


そう呟きながら、呷るように酒を飲む。私が一度は飲んでみたいと願っていたあのお酒を飲んでいるというのに、どうも気が引ける。三本はちょっと多いような気がする…これは戦果をあげなきゃいけないですねえ、と呟けば良かったら俺がまた策を講じてみましょうか?と聞いて来た。…うーん、法正さんの策だと気が楽だからお願いしたいけど…


「多分ダメにしちゃいますよ、若が殺気立っちゃいます」
「馬超殿が?…確かに睨まれてますねえ…悪党が大事な忍の側に居るのが気が気じゃないご様子」
「違うと思いますよー。私が怪我したから無理しないか見てるんじゃないですかね」
「…怪我?珠華が?珍しいですね、貴女が無理をするなんて。手当てはちゃんと受けました?」
「受けましたよー。いやあ、若が突っ走って敵に背後取られてて間に入っちゃいました。若が怪我したら馬岱さん悲しんじゃいますし」
「…馬岱殿が羨ましいですね、此処まで慕われるとは」
「法正さんのことも本音話せる人として信頼してますし大好きですけど?」
「、それは光栄ですね」
「あー、嘘だって思ってます?本音ですよ、本音!」
「ちゃんと分かってますよ」


法正さんは困ったように笑うと、私の頭をポンポンと撫でる。…本当に分かってくれてるのかなぁ…謎ではあるけど、法正さんに撫でられるの好きだから黙っておこう、撫でられなくなったら困るし。互いにお酒を飲みながら他愛のない話をしていれば、不意にこの宴に相応しくない香りに気付き、私は周りを見渡す。三人、は居るみたい…狙いは劉備様か劉禅様か…誰の差し金だ?魏や孫呉とは同盟を組んでいたはず…ということは……いいや、まだ確証はないから黙っておこう。まずは防がなければ。


「法正さん、ちょっと耳貸してくれます?」
「ええ、構いませんけど…?」
「…三人ほど間者が潜入し、毒を盛ろうとしているみたいです。狙いは恐らく劉備様か劉禅様かと」
「!何ですって…!?…相変わらず珠華は鼻が効きますね、犬だったりしません?」
「人間です。…制圧したいので手伝って頂けますか?」
「当たり前ですよ。…ああ、丁度良いところに。徐庶殿、手が空いていたら手伝ってくれませんか?」
「え、っと…法正さんと珠華ちゃん、俺に出来ることなのかい?」
「毒を盛ろうとしてる間者を制圧します。手伝ってくれますよね?」
「何だって…!?分かった、任せてくれ」


私の言葉に徐庶殿は驚いたように目を丸くした後、力強く頷いてくれた。それに安堵しつつ、間者達の特徴を具体的に教えてからそれぞれ散らばる。一気にカタを付けたい。人数は三人でほぼほぼ決まりのようだ。それぞれが標的の背後に立ち、手を掴んだ時にはーー…きっと数さえあれば当たると思っていたのだろう、綺麗に集合していたから呆れてしまう。暗殺するつもりあったのかな。思わず法正さんと徐庶殿と顔を見合わせ、お互いに苦笑いを浮かべつつ口を開く。


「お兄さん、誰の差し金か分からないけどその手に持ってるもの、渡してくれます?というか、渡せ」
「珠華…?法正に徐庶も…一体どうしたというのだ?」
「こいつらに近寄らないで下さい、劉備殿。劉備殿と劉禅殿に毒を盛ろうと企てているそうです」
「何と!!それは誠でござるか!?兄者、劉禅殿、お下がり下され」
「毒、とな?それは恐ろしいなあ…」
「劉禅様、そんなこと言ってる場合ではありませんよ!」
「孔明、彼等の顔に見覚えはあるかい?」
「いいえ…ありません。龐統、貴方はどうですか?」
「あっしもないねえ…お前さん達、少し不用意過ぎたね、蜀ではあっしか諸葛亮に必ず顔合わせるのが義務付けられてるんだよ。知らなかっただろう?」
「ということは完全に間者だな!オラ、持ってるもん全部出しやがれ!身包み剥いでやらあ!!」
「ちょいと待って下さいよぉ、張飛殿!珠華ちゃんが居ないところで剥ぎましょう!珠華ちゃんに汚物見せちゃダメですって!」
「馬岱、なかなかに酷いことを言っているが…まあ、その通りだな。珠華、劉備殿と劉禅殿の側に居てくれ」
「え、私なら気にしませんけど?それよりーー…バレそうになったからって毒盛らないで下さい、指がピリピリします」
「……なんで……」
「何で死なないんだ、ですか?自分、忍ですから。毒には割りと耐性あるんです。…ざぁんねんでしたね」


にっこり笑いながら言えば、私達が捕まえた間者の3人はがっくりと肩を落とし、そのまま座り込んでしまう。その隙に法正さんと徐庶殿が男達から毒が入っているであろう瓶を取り上げ、趙雲殿と姜維殿が縛り上げる。私が捕まえていた人は私自身が縛り上げ、毒を浴びて少し変色している手を見つめる。うーん、このタイプなら一日安静にしてれば何とかなるかな。なんて思っていたら、


「失礼しますよ」
「月英殿?」
「こんなにも痛々しくなっているのにどうして声を上げないのです!可哀想に…気休めかも知れませんが薬を塗りましょう、何もしないよりはマシです」
「平気ですよ、月英殿。私が毒に強いの知ってるじゃな…「もー!本当に珠華は分かってない!」…鮑三娘?」
「強いとか弱いとかじゃないの!!ほら、貴女の大好きな馬岱さんの顔見てみなよ!」
「、馬岱さん?ーーどうして、泣きそうなんですか?誰を殺せば良いですか?誰が貴方を悲しませたのですか?」
「…君って本当に鈍いよね!びっくり通り越して呆れちゃうよ!」
「え」
「あのね、君が忍なのはみーんな知ってるけどね、君が一人で我慢するのは嫌なんだよ!俺達は仲間なんだからね、もう少し頼ってよ」
「…馬岱さん…」
「…ねえ、俺達はそんなに頼りないかい?珠華ちゃんの力にはなれないのかな?」
「そ、そんなことありません!」
「だったらちゃんと言っておくれよ、寂しいじゃないか。君が俺を大切にしてくれるように、俺だって君が大切なんだよ!」
「…良いんですか…?」
「当たり前だ!俺に対しては遠慮しないじゃないか!あれくらいで…いいや、もっとだ!張苞殿とイタズラする時くらい無邪気にしていれば良い!」
「そーそー、いつも気を張ってたら疲れちまうぜ?俺と居る時が素の珠華なんだろ?ちょっとずつでも素を出していこうぜ!」
「珠華、私は馬岱殿や劉備様への貴女の態度も嫌いではないけれど、兄上や私に対する態度の方が好ましく思えるわ。…もっと自分を大切にして、珠華が無理してるのは見たくないわ」
「…若…張苞…星彩…」


星彩にぎゅっと毒を浴びてない方の手を握られる。今にも泣きそうな表情をしていて、撫でてあげたいのに撫でられない。大丈夫、平気だよって言ってあげたいのに。いつの間にか毒を浴びている方の手を解毒剤やら塗り薬やらを塗られていた。月英殿手際早い…普段は面倒見良いのに、どうして練師殿や甄姫殿とは仲が悪いんだろう。あ、甄姫殿のことは翠青ちゃんも怖いって言ってたっけ。うーん、その辺のこと分からないなあ…私が諸葛亮殿に対して抱いてる感情みたいなものかな、だとしたらちょっとは分かるかも。…余計なことを考えているのが伝わったのか、姜維殿に頭を叩かれた。痛くないけど痛いぞ…!思わずむっとしていれば、よしよしと龐統先生に頭を撫でられた。


「諸葛亮、お前さんの弟子は手グセが悪いねえ。珠華、痛かっただろう?大丈夫かい?」
「…姜維」
「す、すみません丞相!しかし、丞相に対して何やら失礼なことを考えてるのが伝わって来たので、つい…」
「だからって女子の頭を叩いて良い理由にはならんだろう!それに、諸葛亮殿は珠華のことを良く叱りつけているからな、多少苦手意識を持っていてもおかしくはない!俺も好きではない!」
「なっ…!?孔明様に何てことを…!!」
「若ー!?ぶっちゃけ過ぎだって!諸葛亮殿が若や珠華ちゃんを叱るのはルール違反してるからでしょ!自業自得じゃないの!」
「民が襲われているのに黙って見過ごせと言うのか!?」
「そんなことは言ってないでしょ!策を講じて少しでも被害を抑えようとするのが軍師殿の仕事なんだから仕方ないでしょーが!」
「ちゃんと誰一人……違うな、今回は珠華が怪我をした。俺を庇って、だ。ーーだとしたらこの馬孟起、誰も怪我させることなく制圧してみせよう!」
「だーかーらー、ちゃんと策通りにやれば良いんだって!特攻仕掛けないでよ!」
「ま、まあまあ…二人とも落ち着い…「「徐庶殿は黙ってくれ/る!!」」は、はい…ごめん、珠華ちゃん…やっぱり俺には荷が重いよ…」
「あー…声掛けして下さっただけで感謝です。…劉備様、申し訳ありませんけど抜けて良いですか?」
「ああ、珠華の毒の方もあるし休んでくれて構わない。酒は後日届けよう」
「あ、有り難うございます…諸葛亮殿、その、若がすみません。お気にならず。ーー馬岱さーん、わーかー、疲れちゃったんで一緒に帰りましょー」
「ええ…いくらなんでも我失ってる二人がそんな声掛けで冷静になるなんて…「「帰る!」」え、戻んの!?」
「あのねえ、張苞。私はずうっと馬岱さんと若と一緒に居るんだよ?そんな私の意見を馬岱さんと若が無視する訳ないじゃない」


にいっと笑って見せれば、張苞は確かにそうだよな、と呆れたように笑う。対応が解せないけど、2人を知らないから仕方ないのかなあ…なんて思いつつ、私を挟みながら口論を続けている馬岱さんと若に何も言えずにいた。馬岱さんの味方したいけど、若と同じ行動してるからなあ…なかなかに難しい立ち位置だ。とりあえず今は思いきり甘えて機嫌を直しておこうかな。諸葛亮殿は…うん、月英殿と姜維殿が何とかしてくれるよね、きっと。そんなことを思いながら、私は二人の腕をぎゅっと掴みながら口を開く。


「馬岱さーん、若ー、眠いでーす」
「ーー…もう、珠華ちゃんは甘えたさんだね!手も腕も痛くない?大丈夫?」
「…右手が包帯だらけになってしまったな、すまない。俺がもっとしっかりしていれば…」
「痛くな……えっと、お二人が側に居て下されば早く治ると、思います」
「…珠華?」
「た、頼って、良いんですよね!」
「!!若ァ!初めて珠華ちゃんが頼ってくれたよぉ!!いやっほー!!」
「ああ、そうだな岱!!よしよし、今日は一緒に寝ような!右手が使えんと不便だろう、治るまでは世話してやろうな!」
「ゑ」
「うんうん、流石は若だね!!そうしようそうしよう!珠華ちゃんは俺と若の忍なんだから俺達が面倒見るのは当然だよね!」
「ああ、そうだとも!俺は川の字で寝てみたい!」
「良いねえっ、そうしよう!」
「…選択肢、間違えた…」


そうだ、酔っ払ってたんだよなあ…そのことを配慮するべきだった…馬岱さんの隣で寝るとか死ぬ…若のことだし、私を挟んで川の字で寝たいんだよね、きっと…はー、忍が主人と一緒に寝るとか有り得ないじゃん、風魔とかにからかわれる予感しかしない…けれども、嬉しそうな馬岱さんと若の顔を見るとそれも良いか、なんて思えてしまう。…少しは、頼ったり甘えられるようにしようかな。なんて思いながら、本気で若の部屋の寝台で寝ました…狭いし暑苦しいけど、これが幸せってモノなのかな…?後日、馬岱さんと若が今まで以上に過保護になったのは言うまでもない。だから!守るのは私の役目なんですけど!!