心からのごめんなさい



ーーああ、本当に私は愚かで罪深い。

遂に短期遠征の日がやって来た。私と法正さんと星彩と関興、馬岱さんと若とくのいちと兼続殿と二組に分かれて妖魔達の動きを偵察するのが主な任務だ。最近様子がおかしいらしく、細心の注意を払って欲しいそうだ。…うん、私達は良いけど馬岱さんの所は明らかに人選ミスだね?若と兼続殿が隠密なんて出来る訳ないじゃん、寧ろ二人とも特攻隊じゃん…馬岱さんとくのいちの顔がかなり引き攣ってる…可哀想に。変わってはあげられないけど、ちょっと牽制しておこうかな…


「わーか、偵察なんですから見付からないようにして下さいね?」
「何を言う!向こうはこっちが潜入していることに気付いてないのだろう?だとしたら攻める機会ではないか!数は減らしておいた方が良い、そうだろう!?」
「ああ、馬超殿の言う通りだ!!野放しにしていて良いことがある訳がない!!」
「ダメだってば!!今回の遠征の目的はあくまでも偵察!攻撃しちゃダメなの!ああもう、何でこの人選なんだか…俺、諸葛亮殿が分からないよ…」
「明らかにおかしいですよねー。…珠華、何なら代わりますよ?馬岱さんと馬超さんもあっしよりも珠華の方が連携取りやすいでしょーし」
「それは困りますねえ…これは劉備殿から俺への詫びなので、珠華はやれません。それに、くのいち殿が馬岱殿と組んでみたいと言ったのですよね?兼続殿は馬超殿と組んでみたいと言っていましたし、こうなることは必然ですよ。…まあ、任務内容が間違ってるのは否定出来ませんけど」
「…何か考えがあるんだろう、多分。やるからには頑張ろう」
「ええ、関興。私も頑張るわ」
「そりゃああっしだって頑張りますけどにゃ、幸先不安なんですよー…どうにかなりませんかにゃ?」
「…うーん、諸葛亮殿の考えは分からないですけど、一応軍師な訳ですし龐統先生も何も言ってないんでとりあえずちゃんと偵察に徹して下さい」
「しかしだな!今この瞬間にも民が妖魔に…「だからこそ、ですよ」うむ?」
「もし特攻して取り逃した場合、妖魔は民を人質にすると思います。若や兼続殿が取り逃がすとは思えませんが、敵が伏兵を用意していたり気付かないふりをしてる可能性だって低くありません。無闇に特攻して失敗した場合、傷付くのは守りたい存在である民ですよ」
「「…む…」」
「義を重んじる若と兼続殿がやらかしたと聞いたら、劉備様悲しんじゃいますねー。恩を仇で返す、なんて最低じゃないですか。あと馬岱さん振り回さないで下さい、くのいちも」
「ちょい、珠華ちゃん!?俺は良いのよ!!」
「あっしはついでですかい!?」
「…一応軍師…本当に珠華は諸葛亮殿のことを良く思ってないんだな」
「良いじゃないですか。俺は珠華の諸葛亮殿への態度結構好きですよ」
「それは法正殿も諸葛亮殿のことを良く思っていないからでは…?ほら、珠華。時間が惜しいわ、行きましょう」
「はいはい。若、兼続殿。色々考えて下さいね」


くい、と私の服の裾を引っ張って来た星彩の頭を撫でてから、私は若と兼続殿にそう言い聞かせ気の進まない馬岱さんとくのいちに頑張って、と声を掛けていれば、法正さんに腕を引かれながら歩き出す。…法正さん、そんなに私のことが好きなんだろうか。思わずにやにやしていれば頭を叩かれた。相変わらず分かりやすい人である。くすくす笑っていれば、また叩こうとして来たので甘んじて受け入れる。法正さん、こんなに可愛いくて優しい素敵な人なのに、どうして皆は分かってくれないのかなあ…そんなことを考えながら歩いていれば遠征先に着いたので、私達は草や木に身を隠しながらひたすら前進する。確かこの辺に視察した時にこっちからは見えるのに向こうからは見えにくいって言う素晴らしい場所が……あった。そこに皆で移動し、崖下を覗き込む。


「…良かった、バレてはないみたいですね」
「驚きましたよ、まさかこんな場所があるなんて…」
「…もしかして珠華が龐統殿に聞いていたのって此処のことだったの?」
「…成程、下見か。確かにそれなら忍である珠華は向いている仕事だな」
「そういうことだよ、関興。私達に偵察任務が任されるだろうなってことは分かってたからねー。だから龐統先生に場所を聞いてどの道を通ればいかに見付からずに辿り着けるか調べてたんだ。幸いこの場所には何もないから向かって来る人も居ない上にちょっと危ない毒草も生えてるからねー、隠密には相応しい場所だよ」
「危ない毒草…?そんなのあったかし…まさか、珠華…?」
「触ってないよ!ちゃんと武器使って切って燃やしたよ!」
「…本当に?珠華はたまに無茶をするから私は心配だ。このことは劉備殿に知らせておこう、私はあくまで監視の役で来てるからな」
「そんな殺生な…!!」
「これに懲りたら無理しないで下さいね。…ひょっとすると龐統殿が言い出した監視は俺じゃなく珠華が目的だったような気がして来ましたね」
「「!確かに…!」」
「意義ありです!認めませんよ!星彩も関興も納得しないで!」


…まあ、龐統先生ならやりかねないかも、なんて思ってはいるけど…気の所為、だよね?あー、でも何か企んでるんじゃないかって疑われてたし、法正さんの監視っていうのは納得してなさそうな関羽殿と張飛殿を納得させる為に…ってのも辻褄が合うし私に対して過保護な龐統先生が私を心配して、みたいな気がして来た…あとで龐統先生に問い詰めないと。多分はぐらかされるだろうけど。内心溜息を零しつつ偵察していれば、不意に火薬のような匂いが鼻を掠める。…焚き火でもしようとしてるのかな?いや、でもこの辺じゃない。この匂いは風に乗って……風に?


「…やばい、図られたかも…!法正さん、多分此処は囮です。本命は馬岱さん達の方です」
「は、何ですって…?」
「火薬の匂いが馬岱さん達の向かった方角から漂って来ました、集落を襲うつもりかと」
「火薬…集落に火を付けて逃げ惑う民を手に掛けるというの…?何て卑劣な…!!」
「…幸いまだ気付かれてはない。このまますぐに向かうべきだ。道は分かってるんだろう?」
「匂いを辿れば何とか…前に下見に来た時に感じた違和感はこれか…!何で気付かなかったんだ…!」
「後悔は後でさせてあげますよ。…確かに此処の連中は攻撃するつもりないみたいですし、俺も諸葛亮殿も龐統殿も徐庶殿もまんまと一杯食わされましたね…援軍を頼みつつ急ぎ足で向かいましょう。珠華、援軍を馬岱殿の方に向かうように頼めますか?」
「…少し待ってて下さい。鳥を捕まえて劉備様…じゃない方が良いですね、龐統先生に手紙を送ります。それで良いですか?」
「ええ、上々です。時間が惜しいので話しながら向かいますよ。星彩殿、関興殿。俺と珠華は何回か任務を共にしたことがあるのでお互いの歩幅を理解してますが、あなた方とはまだ日が浅い…努力はしますが追い付けそうになかったらお二人のペースで追い掛けて来て下さい」
「…大丈夫、どんなに速くても付いていきます。民を死なせたりはしない…!」
「私達のことは気にしないで下さい。これでも関羽の息子と張飛の娘、そんじょそこらの若造ではないですから」
「…そうでしたね。無理はしないで下さいよ」
「法正さん、くのいちにも文を送りましたが急ぎましょう、嫌な予感がします」
「奇遇ですね、俺もです。…当たらないと良いんですが」


…当たる、だろうなあ。
それは法正さんもそう思っているんだろう、苦虫を噛み潰したような顔をしている。そんな考えを払拭するべく、私達は速足で歩いて行く。私が特攻した方が速いだろうけど、法正さん達はそれを認めてはくれないだろう。向かっている最中、鳥が二羽飛んで来て私の肩に止まる。龐統先生からは援軍に趙雲殿と姜維殿と風魔と何故か居合わせたらしい正則を行かせたって内容で、くのいちからは了解と気を付けてくれという内容だった。…完全に巻き込まれたっぽい正則、ごめんね。
ーー…匂いを感じた場所に着いた頃には、全て終わっていた。辺りの木々は真っ黒に染められ、辺りからは煤けた匂いが充満している。火は無事に消されているようだけど、あまりにも酷い現状に言葉を失っていれば、ポンと頭を撫でられた。この大きな手はーー…


「ーー正則、援軍有り難う」
「良いってことよ!珠華に用があって来たんだしなあ!…安心しろ、民は誰一人怪我してねぇよ。お前が迅速に援軍やらくのいちに知らせたお陰だ」
「…そっか、怪我してないのか…良かった…!」
「ーー…お前にしては珍しいな、珠華。下見をしたんだろう?囮だと気付かなかったのか?」
「そんな言い方は酷すぎますぜ、風魔の旦那。結果的に気付いて知らせてくれたからあっし達は間に合ったんです」
「…違和感は感じてた。でも、それを気の所為で済ませようとしたり、報告しなかったのは間違いなくーー…私の落ち度だ。…忍失格だ…!」
「珠華…そんなに自分を追い詰めないで。ちゃんと私達にすぐに知らせてくれたじゃない」
「そうだぞ、珠華。お前がそこまで思い詰める必要はない」
「…どちらかと言えば、こんな可能性があると気付かなかった我々軍師の責任でしょう、貴女だけじゃないですよ」
「風魔!!またお前は珠華を苛めているのか!大丈夫だぞ、珠華!お前の援軍と知らせのおかげで民は皆無事だし、我々も怪我をしていない!」
「兼続殿の言う通りだ、珠華!妖魔も倒し切って敵も少なくなった!全部珠華の采配のおかげだ!」
「…共に下見をした際、違和感を感じた珠華殿に気の所為じゃないのか、と言ったのはこの私だ。叱られるべきは私だろう、あまり気負うんじゃない」
「…私達もその軍議の時にその場に居たんです。敵が巧妙だったんですよ」
「珠華ちゃん」
「…馬岱さん…」
「色々言いたいことあるんだけどね、まずは言わせてね!援軍も情報を知らせてくれたのも感謝してるよ!有り難う!俺もくのいちも情報を貰ってから火薬の匂いに気付けたからねえ、本当に感謝してるんだよ!」
「…でも…村が…」
「確かに燃えちゃったけど、人は居るからねえ。また一から作りなおせば良いんだよ!俺達も手伝えば出来るのも早いじゃない?また龐統殿に連絡すれば人手も少しはくれるかも知れないし!」
「…そう、ですけど…」
「この一件は蜀全体の失敗だよ、君のせいだけじゃない。でも、皆生きてる。命さえあればまだまだやれるよ!それとも、珠華ちゃんはもう疲れちゃった?やめちゃう?」


心配するような優しい声色に、思わず泣きそうになる。確かに一人で偵察に行くのを良しとしてくれなかった龐統先生が捕まえたのが趙雲殿で、その趙雲殿に違和感を感じると言ったら流されてしまったんだっけ。…そうだとしても、やっぱり上には報告するべきだったよね…だとしても、此処でうだうだ言ってても何も変わらない、か。


「ーー…やめない、です。まだやれます…!」
「うんうん、だと思っていたよ!ほら、一緒に頑張ろう?」
「…馬岱さんに働かせる訳にはいきません。私が働きます!」
「ちょい!?一緒にって言ったばかりでしょーが!!」
「まあ、良いではないか岱。珠華らしいからな!よし、珠華!共に参ろ…「若もそこに居て下さいね!」俺もか!?」
「やれやれ…珠華、仕方ないから手伝ってあげますよ。馬岱殿、馬超殿ーー悪く思わないで下さいね?」
「珠華、私も手伝うわ」
「星彩まで……ええと、一応監視の役目で来てるので…すみません…」
「「…法正殿…?」」
「あれはあからさまに喧嘩売られましたねえ、いやあ珠華って愛されてますにゃ」
「む、馬超殿と馬岱殿は振られてしまったのか?法正殿は性格に難があるが、劉備殿に対する義は本物だ!それを珠華も感じ取っているかも知れんな!」
「…それは、ちょっと納得が行かない気もしますね」
「丞相にも義を持って接して頂ければ私は文句ないですけどね」
「…無理だろうな」
「あー、風魔に俺も同意だな。あの二人が諸葛亮と意気投合する時は劉備に対する時だけだと思うぜ。よっしゃ、珠華!俺も仲間に入れやがれ!」
「正則!手伝ってくれるの?有り難うー!」
「良いってことよ!!…ンな目で見てんじゃねーよ!」
「…珠華って福島の旦那とも仲良しですよねえ。あっしは珠華と一番仲良しなのは馬岱さんかなーって思ってたんですけど、これはこれで面白いですにゃ」
「面白い?」
「こっちの話ですぜ、趙雲の旦那!さあて、あっしも混ざりに行きますかねー!珠華ー、あっしもやりますよー!」
「くのいちも?有り難う!」


にこにこと笑いながら近付いてきたくのいちも一緒に村の復興に尽力する。結局見てるのは嫌だと言う馬岱さんと若にも本当に軽い仕事を任せることになったのが本当に解せない…座ってて欲しかったのになぁ…民の中に大工が居たのが大きく村の復興はあっという間に終わり、私達は民達と笑顔で別れを告げる。蜀に帰った私達を劉備様と劉禅様が迎えてくれて、龐統先生には撫で回された。心配掛けていたみたいだ。お帰り、と震える声色で言われたその言葉に、私達は笑顔でただいま!と応えたのであった。
…真面目な関興が劉備様に毒草の話を持ち出し、共に行っていた趙雲殿が毒草?そんなのあったのか!と驚いたせいで私が触って処理したのではないかと周りから一斉に叱られたのは本当に勘弁して欲しい…趙雲殿の裏切り者め…!と思っていたら法正さんが私が感じた違和感を趙雲殿が気の所為だと言ったそうです、と告げーー劉備様と劉禅様に軽く叱られたのは良い気味だと思ってます。やっぱり法正さんは最高だね!