話が知らない内に進んでいく


ーー本人の意思を聞いて下さい!

翌朝、小鳥の囀りで目を覚ます。ひえ、凌統さんの寝顔が近い…やっぱりいけめんですね?刀剣男士にも劣らないんじゃ…みっちゃんと同等くらいに見える…あの刃も私を抱っこしては寝てましたからね、うんと疲れた時限定でしたけど。いけめんの寝顔には耐性付いてますとも、ええ。眼福には違いないですけどね。睫毛長いなあとか他人事のように思いながら緩い拘束から抜け出す。…苦しくないようにとの配慮かな?優しいなあ。


(とりあえず朝ご飯の用意しなきゃ……焼き魚だけじゃ栄養足りないよね、見たところかなり若いし。木の実じゃお腹膨れないだろうし…やっぱりお肉かな)


お米は用意出来ないけど、猪肉なら用意出来るかも。たまに猪の鳴き声聞こえていたし…伏兄と曽祢さんから猪の捌き方教えて貰っておいて良かった。ん、でも朝からお肉は重いかな?昨日の夜のうちに狩れば良かったかも。んー、でも今日には凌統さんお家に帰るだろうし、体力は付けた方が良いし頑張って食べて貰おうかな、凌統さんはまだまだ若いだろうしイケるイケる。そうと決まればまだ寝ている凌統さんを起こさないように狩りに行かないとね。待っててね、凌統さん。


「…う、重い…体格差考えてなかった…」


洞窟から出て少し歩いた場所に居た猪を狩れたのは良いけど、身長のこと忘れてたわ…重いよー、ふらふらする…ちゃんとごめんなさいしてから狩ったけど、引きずるのはおーばーきるだよね…ごめんね、猪さん。残さず美味しく食べるから許してね。刀剣女士じゃなかったら終わってたなあ、なんて考えながらひたすら洞窟に向かってふらふらと歩いていけば、ふと重さがなくなった。不思議に思って顔を上げればそこに居たのは岩融さんを少し小さくしたような豪快そうな男の人。目立つのは赤、かな…もしかして凌統さんの知り合いだったりしないかなあ…


「猪に襲われてるのかと思ったぜ、嬢ちゃん。こんなデカいの仕留めたのか?小さいのにやるじゃねぇか!」
「知り合いに詳しい人が居るんです。お兄さん、今暇でしたらあの洞窟まで運ぶの手伝って下さりませんか?」
「暇じゃなくても運ぶに決まってんだろ!お前の体じゃこいつは厳しいだろうしな!…親は何してんだ?病か?」
「私、絶賛迷子中なんですよー。まあ、もう1人お仲間さんから逸れた凌統さんって言う人も居るんですけどもしかして知り合いだったりしません?」
「凌統だって!?嬢ちゃん、そいつは上の命令に背いて突っ走って逸れた奴なんだ、面倒見てくれたんだな。有り難うよ、嬢ちゃん」
「やっぱりお仲間さんなんですね、見付かって良かったです。あと、私は鈴です。お兄さんのお名前をお伺いしても?」
「甘寧だ、宜しくな鈴!」


甘寧さんはニカッと笑ってから私の頭をガシガシと撫でる。ち、力強い…!!思わずよろめけば、甘寧さんが慌てたように支えてくれた。猪を片手で持てる甘寧さん凄過ぎだし、更に私まで片手で支えられるなんてなあ……この人、本当に人間?刀剣男士だったりしない?十分通用しそうなんだけどなあ…岩融さんや伏兄、曽祢さんとかなり仲良くなりそうな気がする。刀種は……太刀とかかな?凌統さんもそんな感じかな。支えてくれたことにお礼を言えば、甘寧さんは気にすることはないと優しく笑いながら言ってくれた。そして危ないからと肩に乗せてくれた…た、高いけど楽しい!!岩融さんに肩車された時みたいだなあ、すぐに降ろされちゃったけどこんな感じだったんだね。


(…こいつ、軽いな。手足に包帯もあるし、ちゃんと食ってるのか?迷子ってのも怪しい気がして来たぜ…凌統の野郎にも聞いてみるか)
「甘寧さん?やっぱり重いんじゃ…」
「いやいや、鈴は軽過ぎるからな!ちゃんと捕まってろよ!」
「わ、は、はーい!」


そんなに軽いかなあ。そんなことを思いつつ、甘寧さんの肩の上でばらんすをとる。まさか甘寧さんがあんなことを考えてるなんて思わなかった…これは仕様なんだけどなあ、小夜兄だって包帯巻いてるもの。…でも、知らなかったらやっぱりびっくりするよね。私も初めて小夜兄の本霊に会った時、取り乱した覚えがある。…逐一で訂正した方が良いのかも知れない。ま、この時の私は気付いてすらいないんだけどね!
洞穴に入れば、起きたらしい凌統さんが居ない私を探しに行こうとしていたらしく、危うく甘寧さんとぶつかりそうになった。凌統さんは甘寧さんを見て目を見開いていたけど、肩に乗る私に気付いてホッとしたように息を零した後ーー…掻っ攫うかのような勢いで私を凌統さんの腕の中に閉じ込める。…あれ、お仲間さんだったのでは?


「り、凌統さん?おはようございます…?」
「…獣に喰われたんじゃないかって心配したじゃないか、外に出る時は書き置き……いや、起こしてくれ」
「え、だって凄く気持ち良さそうに寝てましたよ」
「確かに久し振りに良く寝れた気がしないでもないけど、起きたら鈴ちゃんが何処にも居ないのは肝が冷える。あんたはまだ子供なんだし、無理はしないでくれ」
「(中身は成人済みなんだけどなあ)わ、分かりました、気を付けます」
「よし。…んで、お前に見付かるとは思わなかったぜ、甘寧。鈴ちゃんに変なことしてないだろうな?」
「は、俺だってまさか見付けるとは思ってなかったぜ。殿かおっさん辺りが見付けると思ってたんだがなあ。何だ、随分と気に入ってるんだな」
「お前みたいな野蛮人に感化されたらたまったもんじゃないからな、当然だろ」
「は、お前みたいに軟派な野郎に感化される方が大変だろ、鈴をこっちに寄越せ。お前が鈴の仕留めた猪を食うのは相応しくねえ」
「は、誰がお前なんかに渡すかよ。…猪?鈴ちゃん、あんなでかいのを仕留めたのかい?あの短刀で?」
「(機械とらぶるで)住んでた場所から弾き出されたり(親にさばいばるしてみよっか!なんて気軽な提案で)崖から落とされたり(模擬練習でもしようやないかって素敵な笑顔で)一人対数十人で戦わされたりしましたし、猪くらい余裕ですよ!」
「ちょっと待って、鈴ちゃん。そんな話は聞いてない」
「おいおいおい、なかなか過激過ぎじゃねぇか?逆に良く生きてたな」
「何だかんだ言って優しい人達ばかりでしたからねー、やばそうだなって思ったら手を貸してくれるんで生きて来れました!」
「「(それは優しいとは言わないんじゃ…)」」


色々思い出しながらにっこり笑えば、凌統さんと甘寧さんは揃って何とも言えない表情を浮かべる。何だっけ、ち、ちべ……ちべすな、顔だっけ?良く鯰尾兄が見せてくれた気がするけど自信ないかも…変なこと教えるんじゃない、なんていち兄に頭を叩かれてたのが印象強過ぎて…あれは良い音鳴ったなあ。凄く痛そうだった…過去に想いを馳せていた私は、凌統さんと甘寧さんがお互いにあいこんたくとをしてることにやっぱり気付かなかった。戦での索敵はぴかいちなのに他のことになるとだめだね、と呆れたように小夜兄に言われたことを思い出す。小夜兄本当にへるぷぅうう…

猪は三人(私も人でかうんとして良いのかな、二人と一振りの方が良いかな)でちゃんと食べたよ。かなり揉めたけど、早く食べようよー、と急かすことで何とか解決した。小夜兄の見た目で良かった!いよいよ帰るって話になったんだけど、凌統さんと甘寧さんは私を連れて行きたいんだそうだ。放っておいてくれても良いんだけどなあ…


「私なら大丈夫ですって!ほら、猪とかも仕留められますしそう簡単には死にませんよ!」
「いやいや、こんな深い森の洞窟に鈴ちゃんみたいな子供を置いて帰るなんて俺には出来ない。だったら俺は帰らないで此処に残る」
「俺は凌統を連れ戻せって命を受けて此処に居るからなあ、帰らねえっつーなら俺だって戻れねえよ」
「ほら、凌統さん。甘寧さんが困っちゃいますから帰りましょ?」
「鈴ちゃんも一緒に行くだろう?此処は危ないんだ、妖魔っていう敵が居る。そいつに見付かったら鈴ちゃんの短刀じゃ太刀打ち出来ない筈だ」
「皆でけえし、ぐり……ぐりふぃん、だっけか。そいつみたいに飛ぶもんすたーも居る。どうせ鈴も迷子なんだろ?情報ならいくらでも入って来るし、殿への説得なら俺や凌統がやるから気にすんな。行く、って言えば解決するんだぜ?」
「う、で、でも…そんな、会ったばかりですよ…?」
「気にすんなって。鈴ちゃんだって急に現れた俺に食料や暖を与えてくれただろ?恩返しくらいさせてくれよ」
「あ、もしかして男だらけだったらとか思ってるか?姫様とかも居るから心配しなくて大丈夫だぜ!」
「ひ、姫様ですか!?もしかしてガラシャ様だったり…?」
「ん?何だ、鈴ちゃん。あのお嬢ちゃんの知り合いなのか?だとしたら話は早いじゃないか、あのお嬢ちゃんは蜀っつー場所に居るけど、すぐに会えるぜ」
「話は決まりだな!因みに俺が言う姫様は孫尚香っていってな、蜀の長である劉備と好い仲なんだ。ま、茶化すなって叱られるんだけどな!」
「…孫、ってことは三国志、かな。え、や、が、ガラシャ様とは知り合いじゃないですから!一方的に知ってるというか何というか…!」
「噂を聞いたってことかい?まあ、あのお嬢ちゃんなかなかのじゃじゃ馬だったからなあ、明智も大変そうだったし」
「まあ、実際に会ってみたら良いじゃねぇか!鈴だって女の知り合いが増えるのは悪いことじゃねぇだろ?」
「それはそうですけど…男所帯の中に今まで居ましたし、あまり気にしてないというか…」
「…そいつはいけないな。鈴ちゃんみたいな年齢なら同年代と遊んでもおかしくはない筈だ。やっぱり連れて行くぜ、甘寧」
「お前と同意見なのは癪に触るが仕方ねえな。鈴は俺が運ぶから荷物を頼むぜ」
「は?鈴ちゃんは俺が連れてくからお前が荷物持ちに決まってるっつーの」
「「ああ!?」」
「わ、え、け、喧嘩はやめて下さいー!」


何でこの人達はすぐに喧嘩しようとするんだ…!清光さんも安定さんもたまーに喧嘩はしてたけど、こんなに頻繁じゃなかったぞ…!陸奥さんや曽祢さんみたいなぎすぎすした空気感もないし、多分お互いに気に入らないのかなあとは思うんだけど、呉って荷物の何処かに書いてあるし、仲間なのは分かるんだけどなあ……もしかして長義さんと切国兄、南泉さんみたいに素直になれないだけみたいな…?見つめ合うと素直にお喋り出来ないだけ?だとしたらちょっとは可愛いかも…?あ、や、武器の持ち込みはご遠慮下さいー!身内同士での戦いは見たくないでーす!!…本当なら行きたくないけど、これは私が行かなきゃ進まない気がする。小夜兄ぃいい…


「わ、分かりましたから!行きますから!ね、喧嘩はやめましょう!」
「…本当かい?それじゃあ鈴ちゃん、誰に抱っこされたい?勿論俺だよな?」
「なんでだよ!!勿論俺だよなー?肩車した時嬉しそうだったもんなー?」
「は?俺が抱っこした時すぐに寝たくらいなんだから俺の方が安心出来るんだろ」
「ただ単に疲れてただけなんじゃねえのか?」
「は、自分じゃ出来ないからって僻むんじゃねえよ」
「あんだと…?」
「じ、自分で歩きますから!!ね、道案内して下さい!」


無限るーぷって怖くね?なんていうふれーずが頭をよぎり、思わず凌統さんと甘寧さんの間に割って入り、それぞれの右手を掴みながら言えば、凌統さんと甘寧さんはきょとんとした後、仕方ねえなあと言いたげに優しい表情を浮かべる。…こういう時は息ぴったりなのに、どうしてすぐに喧嘩しちゃうんだろ。やっぱり清光さんと安定さんみたいな関係性なのかな。凌統さんと甘寧さんはたまに口喧嘩しつつ、私を真ん中にして山を降って行く。この山にはもう来ないかも知れないなあ、もう少し散策したかったかも。
腹が減ったという甘寧さんがご飯を探しに行ってる際、どうして凌統さんはこんなにも優しいのに甘寧さんには冷たいんです?と聞けば、困ったように笑いながらこっそりと凌統さんがお父さんを敵だった甘寧さんに殺されたのだと教えてくれた。…酷いことを言わせてしまった。思わず謝れば凌統さんは気にするな、と私の頭を撫でてくれた。どうしてこんなに優しいんだろう……とりあえず、甘寧さんに軽ーい復讐しときますね!