兄妹になりましょう

長谷部と蜂須賀との鬼ごっこから逃げまくる。この本丸が広いことは重々に理解していたが、初めて広いことに感謝する…!!機動が早いのは伊達じゃないのは長谷部だ。さっきから何回か危うい。何とか撒いているが、このままでは時間の無駄だろう。蜂須賀も蜂須賀で策を使って来る。頭が良い方だと言っていたが、悪知恵が働くの間違いじゃないか…!?どちらにせよ、このまま走り回るのは得策ではない。避難しなければ…そんなことを考えていれば、ふと嗅ぎ慣れた匂いを感じる。…あまり仲良くはないが、嫌われてはいないはずだ…!助けて貰おう、と私は襖を勢いよく開け、驚いたような少年に、匿ってくれ!と叫ぶ。少年は大きく瞬きをした後、こっち、と押入れに手招きしてくれたので礼を言ってから押入れに入る。
ーーそれからほんの数秒後、長谷部と蜂須賀の声が聞こえたと思っていると、聞き慣れない声が長谷部達を追い返す。助かった…!


「ーー…もう大丈夫だと思う。何かあったの?」
「…急に押し掛けてすまない。いやぁ、考えの相違という奴かな。本当に助かった」
「長谷部も話が通じなくなる時がありますからね、女神様もお疲れ様です」
「お茶でも…いかがですか?」
「あ、有り難う……ん、新茶か?」
「歌仙から貰ったんだ、良く分かったね」
「鼻が効くからな。ぬるいのは…私の為か?」
「小夜から女神様は熱いものが苦手だと聞いていますから。これくらいで大丈夫ですか?」
「お饅頭もありますよ」
「ちょっと、兄上!?」

「ーーはは、有り難うな。お茶の温度は丁度いいよ。饅頭か、くれるなら貰いたいな」


くすりと笑みを浮かべながら言えば、少年達は嬉しそうに微笑む。少年達は小夜左文字、宗三左文字、江雪左文字と言うらしい。やはり兄弟か、どことなく似ている気がする。ぬるいお茶を啜り、江雪から差し出された饅頭を粗食する。一口齧れば程よく広がる甘味に思わず頬が綻ぶ。こしあんか、なかなか良い味をしているな。まだまだ沢山ありますよ、と差し出された饅頭に手を出そうとした瞬間ーー再び感じた悪寒に私は床を蹴って再び押入れに隠れる。湯呑みは何かを察知してくれたらしい小夜が隠してくれた。再び部屋に来たのは長谷部だった。が、宗三に絶対零度のように冷たい声色で追い出されていたので、暫くは来ないだろう。もう大丈夫ですよ、と江雪が言ってくれるので、私はそっと押入れから出る。心臓が止まる…!


「大丈夫?はい、お茶。おかわり淹れたから。熱かったら言って」
「…ああ、有り難うな。うん、大丈夫。美味いよ。…はー…何で居候で良いからって言ってのに審神者にしたがるんだろうな」
「おや、長谷部と蜂須賀は貴女を審神者にしたいんですか?まあ、人選では不満はありませんけど、無理強いは良くないですね」
「…何か、ありましたか?」
「は?」
「江雪兄様…?」
「ーー心が泣いています。何か嫌なことを誰かが言ったのですか?貴女は恩人です。争いは嫌いですが、再び小夜に逢わせてくれた恩人を傷付けるなら…容赦する必要はありません」
「…へえ、そういう状況なら手伝いますよ。誰が言ったんです?長谷部ですか?長谷部ですよね?斬りましょうか」
「宗三兄様落ち着いて……女神様、何があったの?僕達で良かったら話してみて。きっと力になれるから…」

「…あー…その、まあ、何だ……つまりだな…」


奈落のこと、鬼蜘蛛のこと、桔梗のこと、犬夜叉のこと、私のことーー今での出来事を掻い摘みながら話す。時折、意識していないのに声が震える。情けない、どうして震えるんだ。私はどちらかと言えば加害者だろう。私が奈落に気付かなければ、治療をしようと桔梗に言わなければーー小夜達は審神者と過ごせた筈なのに。優しくて頼りになる人だった筈だ。そんな人を変えさせた奈落が憎い。…でも、それ以上に奈落を野放しにした自分が憎い。殺せたじゃないか、犬夜叉達に任せなくても自分の手で。私はーー何もせずに生きていただけだ。…愚かだな…
ふ、と頭を撫でられる。顔を上げれば、ぎゅっと抱き締められる。驚いていれば右手を宗三、左手を小夜に握られていた。


「ーーもう良いのです。女神様、貴女は頑張りました。情があったのでしょう、だから手が下せなかった…それだけです」
「奈落?が何をしようとそれはそいつの責任ですよ。貴女は奈落の何なんです?親でも家族でもないんでしょう?そこまで責任持つ必要なんてありませんよ」
「…あまり自分を責めないで。僕達は大丈夫だから。えっと…笑ってよ、女神様の可愛い顔が台無しだよ、?」
「……はは、自分で言って照れるなよ、小夜。…あの時のお返しかな?」
「…それもあるけど、笑っていて欲しいから。でも、今は泣いて良いよ。一度泣いたらスッキリするんじゃないかな」
「それもそうですね……ほら、こうしたら誰にも見えないでしょう?」
「兄上流石。僕達は何も見ていませんよ。ねえ、小夜」
「はい、何も見えないです」
「何も見えないのは問題だろ…江雪、このままだと着物、濡らしちゃうぞ…」
「構いません。これが和睦というもの…貴女は少し肩の荷を降ろすべきです」

「…優し、過ぎるな…っ」


我慢が、出来なくなった。静かに流れた涙を拭おうとすれば、宗三と小夜に掴まれた手に力が入り、拭うことが出来ない。顔を上げようとすれば、江雪にぎゅっと更に強く抱き締められる。…泣く権利なんて、私にある筈がないのに。泣いて良いのは江雪達だろう。私じゃない。そう分かっているのにーー涙が、止まらない。涙腺が緩んでいるのか、また鍛えなくてはいけないな、なんてどっかで考えながら江雪に甘える。ポンポンと撫でられるリズムが心地良くて、更に涙が零れそうになるのを我慢していれば、それに気付いたのか宗三に我慢しなくて良いんですよ、貴女は長谷部並に頑固ですねぇ、なんて言いながら頬を突かれる。…ふと、兄弟というのはこういうものなのかと思った。ーーああ、兄弟というのは凄く暖かいんだな…


「…江雪、もう大丈夫だ。有り難うな」
「もう宜しいのですか…?まだ全然スッキリしていなさそうですが…」
「あ、もしかして僕達が居るから泣けないですか?小夜、ちょっと出掛けましょうか。久し振りに甘味処にでも行きましょう。お土産も忘れずに、ね?」
「甘味処…!!…僕は行きたい訳じゃないけど、宗三兄様がどうしてもって言うなら付き添ってあげても良いよ」
「ふふ、有り難うございます。女神様、好きな甘味はあります?買って来ますよ」
「え?あー…草餅、とか、あったりするか…?」
「あ、江雪兄様と一緒……うん、あるから買って来る。行こう、宗三兄様」
「ええ。兄上、女神様をお願いしますね」
「勿論です、行ってらっしゃい」
「あー、行ってらっしゃい、?」
「「行って来ます」」
「ーー良い兄弟だな」
「自慢の弟達ですから……貴女も妹のようなものです」
「…私は年上だぞ?…でも、兄弟って暖かいんだな、初めて知った」
「…初めて……決めました」
「うん?」
「女神様、貴女は私達左文字の家族です。私達が貴女を守り、愛しましょう」
「…は…?」
「私達では……ご不満ですか?」

「ーー寧ろ有り難た過ぎてまた泣きそうだよ。どうしてくれるんだ」


私の言葉に、江雪はくすくすと笑みを零してから好都合ですよ、なんて言いながら私を再び自分の胸に押し付ける。…あったかい…今まで感じたことのなかった温もりに、再び涙が込み上げて来る。こんなに涙脆かったか、と思わず引いてしまうが、江雪は今まで我慢して来たと言うことです。ほら、我慢しないで泣きなさい。と優しく諭して来るからついつい甘えてしまう。…家族というのもありかも知れないな…
暫く江雪にぎゅっとされていると、控え目に襖が開き、宗三と小夜がひょっこり顔を出す。そんな二振りに江雪は私の頭を撫でながら、今日から女神様は私達の妹です。と告げる。了承した覚えはない、と抗議しようとしてーータックルされた。


「ぐっ……!?さ、小夜…?」
「…僕、女神様なら大歓迎だよ…!」
「ふふ、勿論僕が兄ですよね?歳では女神様が上でも、お姉さんって感じがしないですから」
「失礼ですよ、宗三。…まあ、私、宗三、女神様、小夜…の順番ですかね」
「いや、だから了承した覚えはないぞ…」
「…嫌なの?僕がお兄ちゃんでも良いよ?」
「「(小夜、可愛い…)」」
「…此処に居る間だけになるぞ?」
「最初からそのつもりだけど……女神様は僕達が嫌い…?家族に、なりたくない…?」
「っ〜〜!!その聞き方は卑怯だろ…!!でも、小夜は弟が良い、かな。一応年上だからな」
「うん、分かった。…姉様」
「…え、あ、うん……なかなか新鮮だな」
「ふふ、顔が真っ赤ですよ」
「これが…和睦です…」

「…不束者だが、宜しく頼む。それとーー私は薺、だ。流石に女神って呼ばれるのはむず痒い、家族…なんだし」


こんな気持ちは初めてだ。頬を掻きながら視線を逸らして言えば、三方向からタックルされた。ぐえ、となりながら抗議しようとすれば、部屋全体に桜が舞い散っていて思わずポカンとする。え、この桜は何処から入って来たんだ…?何故かどんどん増えている気がする。このままでは窒息する…!と思った時に、夕餉が出来たよーと呼びに来た黒髪の男ーー加州清光と大和守安定によって救出された。刀剣達は嬉しいことがあると桜の雨を降らせることがあるらしい。…そんなに嬉しかったのか。思わず頬が緩んだのは私だけの秘密だ。
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