天然たらしというもの
その後も色々案内して貰っていたが、江雪は一期に呼ばれ、小夜は短刀達に鬼ごっこに誘われていて、そわそわしながらも行きたそうにしていたので背中を押してやり、宗三と2人きりになった。江雪はかなり不機嫌そうにしてたが、一期が何かを囁いたらすぐに一期と一緒に歩いて行った。一体何なんだろうな?江雪に限って弱みとかではないと思うけど……まあ、宗三も不思議そうにはしているが、気にしてなさそうだし気にしないようにするかな。
「宗兄は誰かに呼ばれてたりしないのか?」
「呼ばれてないですよ。…呼ばれてて欲しいですか?」
「いんや、誰も居なくなるのは寂しいからな…宗兄まで取られなくて良か……んん、忘れてくれ」
「…ふふ、取られたと思ったんですか?独占欲が強いんですね」
「…悪いかよ。初めての家族なんだ、加減が分からない」
「いいえ?悪いなんてことはないですよ。嬉しいです。兄上と小夜にも聞かせてあげて下さいね」
「…努力はする」
「可愛いらしいですね…薺、甘えてくれて良いんですからね。今まで寂しかったでしょう。うんと甘えて下さい」
「……宗兄達が居ないとダメになりそうだ」
「あら、それは好都合ですね。神隠しする手間が省けます。……冗談ですよ」
「その間が気になるが……宗兄達になら神隠しされても悪くない、なんて思えるのは何でだろうな…」
私の言葉に、宗三はびっくりしたように目を見開いた後、嬉しそうに笑いながら抱き付いて来た。本当にしちゃいますよ、とか言われたが、短刀達が泣いちゃうからやめてくれよ?と笑いながら言えば、それは困りますねぇ、なんて心底残念そうに呟く。…神隠ししたいのって冗談なんだよな?
暫く縁側でのんびり談笑しながらまったりしていれば、嗅いたことのある匂いが鼻を掠める。確かこの匂いはーー……
「…加州?」
「あ、主!良かった、こんな所に居たんだー。あれ、宗三も一緒?」
「兄が妹と居たらいけませんか?」
「そんなこと言ってないだろー。主、これ、良かったら使ってくれない?」
「髪留め……随分と可愛いらしいな。私が使って良いのか?」
「前の主から貰ったんだけど、俺の趣味じゃなくてさ…しまっておいたんだけど、主を見たら似合うんじゃないかなーって思って、探してたんだよね。良かったら貰ってくれない?」
「…私に似合うか?こんなに可愛いピンク色…」
「僕は良いと思いますよ。僕が付けてあげますね。主、僕に背中を預けて…もふもふですね」
「あ、宗兄は知らなかったか。存分にもふって良いからな。無論、加州も」
「え、俺も…?」
「当たり前だろ?そら、おいで」
「〜〜っ!!主大好き…もふもふも幸せ…イケメン過ぎ…抱いて」
「…貴方、主に何を言ってるのか分かってます?」
「ん?私も加州が好きだよ、可愛いし綺麗だからな。抱く……これで良いか?」
ぎゅっと抱き締めれば、加州は顔を真っ赤に染める。あわあわしている加州に、くすくす笑いながら手をそっと握れば、加州の顔は更に赤みを増し、耳まで真っ赤になる。私と同じ紅だな、お揃いだな。何て言って空いた方の手で頬を撫でれば、加州は沸騰しそうなくらい真っ赤になった。…からかい過ぎたか。少し反省してれば、拗ねたような声色の宗三に貴女も物好きですねぇ、なんて言うので、宗兄の髪も好きだよ。この髪留めと同じ色だし、宗兄が側にいるみたいで嬉しいから早く付けてよ、とおねだりしてみれば、宗三ははあーと長く深い溜息を付きながら、私の背中にぐりぐりと顔を押し付け、髪を結い始める。はは、可愛い反応だな。美人過ぎるのも些か問題かもな……終わりましたよ、と宗三に言われ、常に持ち歩いてるらしい加州に手鏡を貸してもらう。有り難う、と二振りにお礼を言ってから手鏡を覗き込みーー絶句する。
「…私が私じゃないみたいだ。凄く美しいな」
「自分で言うんですか……まあ、同感ですけどね。似合いますよ、主。白い髪にピンクがよく映えますね。ピンクも濃いピンクだから似合うんでしょうね」
「うわー……やっぱり主、似合うね!俺の目が狂う訳ないけどね!」
「加州はセンスが良いんだな、有り難う」
「…え、や、これは貰い物だし……趣味じゃないからしまってたものだし……そんなに喜んで貰えるなんて思ってなかった…」
「そんなのは関係ない。私は加州の気持ちが嬉しいよ。こんなに汗だくになるまで私を探してくれたんだろう?本当に有り難う。部屋に戻ったら体を拭くのを忘れるな。風邪を引いてしまわれたら困るからね。可愛いくて綺麗な加州が苦しむのは見たくない」
「…主…!!うん、ちゃんと拭くし着替えるからね!!」
「…主、何で貴女はそんなセリフがすらすらと言えるんですかねぇ…いけない子です」
「いた……宗兄、デコピンはやめてくれ…!」
「知りません。貴女が悪いんでしょう?ああ、誤解するのが居たらどうするんですか、男は皆狼なんですよ?」
「…宗兄からそんなセリフが聞けるとは思ってなかった。まあ、私をそんな対象で見るやつなんざ居ないから平気だと思うのだがなぁ…」
そう言えば、宗三は深い溜息を付いてから、私の頭を叩……痛い!?本気でやったのか、これ…!!思わず耳と尻尾がピーンとなる。頭を抑えて宗三を見遣れば、軽く涙目だったらしく、あ、貴女が悪いんですよ、そんなに痛かったですか…?と狼狽えていた。加州に飛び付けば、来ると思っていなかったのか若干バランスを崩すが、流石は刀剣男士。すぐに体勢を立ち直していた。痛い…と呟けば、今のは痛いよね、凄い音してたし。でも、主も悪いんだよ、なんて言いながら私の頭を撫でてくれた。…そんなに悪いことか?
「…良いですか、主。僕達は付喪神です。そして貴女は神の使い…白虎なんですよね?貴女の霊力は凄く高くーー心地良いものなんです」
「…霊力…?私が持っているのは妖気しかない筈だが…?」
「此処では妖気が霊力扱いになってるんじゃない?分からないけどねー。ま、俺達は不幸にも情事の仕方を知ってしまってるからね。主を自分のモノにしたがる一振りだって居るかも知れないしさ。用心しといた方が良いよ」
「…神様と神の使いが結ばれるとでも…?まあ、私は人の子と違ってそう簡単には年を取らないが…それも関係してるのか?」
「僕達も折れない限りは死にませんからねぇ…関係してないとは言えないですね」
「…ふぅん。そいつは困ったな、私はまだ男を知らないんだがなぁ」
「「っ!?」」
「命以外を狙われるのは久しいな。まあ、逃げるから安心しな」
くすくすと笑いながら言う私に対し、ふるふる体を震わす宗三と加州。宗兄?加州?と呼び掛けてみれば、宗兄には頭を叩かれ、加州にはガシッと体を掴まれ、もう少し周りに気を遣ってくれない?!主は女の子なんだよ!?と必死な形相で言われる。…ふむ。難しいなぁ、と小さく呟けば、宗兄にぎゅーと抱き締められた。
「宗兄?」
「此処に貴女を売り飛ばそうとする輩は居ません。命は平気ですがーー貴女の霊力は欲しくなってしまうんです。身体を狙わない輩が居ないとは限らないんですよ。…前の主のせいで、情事に進んで参加してるのも居ましたからね」
「あー、居たねぇ。近寄らせないようにはするけど、今日の宴は酒が絡むからね、間違いなく。…ひょっとしたら、気付けなくなるかも知れない」
「…酒は人を変えるからな、悪い方にも良い方にも」
「…ええ。やっぱり男と女では力の差は歴然ですし、警戒することに越したことはないんですよ」
「あー…それは何となく分かる、気がする……用心はするよ。取り敢えず、ナニを蹴っ飛ばせば……そんな反応しないでくれないか」
「っ、ごめん主…!!想像したら痛くなっちゃって…!」
「…主…もう少し表現方法に気を遣って下さい…僕達も男ですから」
「あー…悪い。…二振りとも美人だからたまに忘れそうになるな、気を付ける」
初めて見た時ーーこんなに綺麗な男が居るのかと驚いた。江雪も蜂須賀も三日月も美人だよな…何でこんなにも美人なのか。霞むとは思っていないがーー隣に立つのが申し訳ないと思う時が多々ある。…これが、神の魅力って奴か。敵わないな…所詮、私は神の使いだからな…白虎の姿の方が見劣りしないかも知れないな。それが口から出ていたのか、宗三が呆れたような笑いを零し、加州が困ったように笑いながら口を開いた。
「それはこっちのセリフ。主、神々し過ぎて気軽に触れて良いのか悩んじゃうもん」
「白虎の姿になられたら、ますます恐縮しちゃいますよ…主は主のままで良いんです。変なことしないで下さいね」
「…そんなに…?」
「そうだよー、主って肌も綺麗だし、全体的に細いし…ちょっと触れたら折れちゃいそう」
「僕も兄上も小夜もーー貴女に触れる時は気を遣ってるんですよ。貴女は儚過ぎます。…気付いたら、手の届かない所にいってしまいそうでーー離したくなくなりますねぇ」
「…宗兄の方が儚げだけどなぁ。岩融や三日月に抱き上げられるのも手の届かない所にいきそうだとか思ってるからなのかな」
「さー?三条派は変わってるからね。ずうっと年上だし、おじいちゃん達の考えは分からないなぁ」
「…加州…貴方、容赦ないですね」
「俺は主に可愛いがって貰えれば良いし、他はどうでも良いかなー。主に邪な感情を抱いてる輩は斬り捨てるから、俺のことうんと可愛いがって愛してよね!」
「…はは、可愛いがるのは任せてくれ。可愛いくて美しいのを侍らすのは嫌いじゃないからな」
寧ろ好きだよ、と言いながら加州の頬を撫でれば、加州は嬉しそうにはにかむ。可愛いなぁと思っていれば、拗ねたのか宗三に額を小突かれたので、空いてる方の手で宗三の髪を梳き、そっと額に口付けを落とす。え?と驚いたような宗三に、意味は自分で考えてな、宗兄と笑顔で言えば、貴女はちゃんと話を聞いていなかったんですか…?とわなわな震えだす。…これはダメだったか。
加州、逃げようか。って小さく囁けば、加州はぱちくりと瞬きした後、くすりと笑って長谷部じゃないけど、主命なら聞くしかないよねって言われ、抵抗するまでもなく抱き上げられ、驚いている私と宗三を尻目に、加州は楽しそうに笑いながら、庭へと駆け出した。加州が私を抱き上げたのは倒れないように、って言う配慮らしい。軽過ぎる!ちゃんと食べて!って怒られたのは言うまでもない、かな。
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