お酒と服を手に入れて

本当に色んな場所を案内して貰った。屋根の上なんかは危ないから1人ではいけませんよ、と言いながらもこの小狐がお伴しますからね、なんて言って来る小狐丸の頭をくしゃくしゃしたり、秘密基地だと不思議な部屋を教えて貰ったりと、凄く充実した時間を過ごせた。小狐丸は案内が上手いな、と素直に口にすれば、小狐丸はまるで子供のように笑みを浮かべる。心底嬉しそうに笑う小狐丸は、本当に可愛い。
ふと、探していた匂いが移動したのに気付き、小狐丸の着物の裾を掴めば、小狐丸はキョトンと不思議そうな表情をしながら、口を開いた。


「ぬしさま、疲れましたか?お姫様抱っこを致しますか?それとも背中に乗りますか?」
「や、疲れてないから大丈夫。歌仙が移動してるみたいだ」
「歌仙が……恐らく厨でしょうな。今晩の宴の準備を手伝うと言っているのでしょう」
「あー、歌仙なら有り得そうだな。小狐丸、厨に向かって良いか?丁度用があったんだ」
「別に構いませぬが……お腹が空きましたか?そろそろ昼餉の時間ですし、連れ回して申し訳ないです…」
「連れ回されたなんか思ってないよ。全部素敵な場所だ。腹は少し空いたくらいか。いやあ、普段は食べなくても平気な筈なんだが、此処のご飯は食べないと落ち着かなくてなぁ、また小狐丸のいなり寿司が食べたいな、次はいつだ?」
「ぬしさま…!!ぬしさまが食べたいと申されるなら今すぐにでもお作りします。ぬしさまだけに…!」
「私が独占するのはちょっとな……まあ、楽しみにしていよう。今日は国広兄弟の料理と宴があるからな、いなり寿司は違う日にしよう。美味しいものは取っておきたいんだ」
「ぬしさま…!!分かりました!」

「はは、有り難う。期待してるよ」


くすくす笑いながら言えば、小狐丸はブンブン首を縦に降る。おお、桜が舞い散ってるな…いやあ、絶景絶景。これで酒があれば文句なしだな。…少し浮かれ過ぎかな。酒を飲むのは久し振りだから余計かも知れんな。私は小さく溜息を付いてから、小狐丸と共に厨に向かう。昼餉、何かしら摘み食いしたら怒るだろうか。厨に近付くにつれ、匂いが強くなる。…んん、お腹が空いてきたな。聞こえないと良いんだが。


「邪魔するぞ、歌仙は居るか?」
「おや、主。僕は此処に居るよ。何かあったかい?」
「審神者だけが着る着物の保管場所を知りたい。知らないか?」
「ああ、知ってるよ。用意しよう。ーーおや、可愛いらしい髪留めだね。似合っているよ。実に雅だ」
「有り難う、歌仙。山伏、切国、堀川。昼餉は何だ?少しお腹が空いてな、待ちきれなくて来てしまった」
「カッカッカ!!主は素直であるな、昼餉は中華料理と言うものである」
「…ちゅーか料理?」
「中華料理だ。結構辛いが、アンタは辛いの平気か?」
「苦手じゃないぞ。良く知ってるな、珍しいんじゃないか?」
「前の主さんが中華料理が大好きだったんですよ。僕達も好きですし、良かったらちょっとだけ味見します?」
「ほー、成程な。良いのか?是非食べてみたい」
「ぬしさま、私があーんしますね!」
「ん?ああ、有り難うな小狐丸。……んん、確かに辛いが…癖になるな」
「これは麻婆豆腐と言うんだ。白米と一緒に食べると止まらなくなるんだよ。きっと主も気に入るだろう」
「へえ、そいつは楽しみだ。ーーああ、忘れそうになった。果物とかって余ってないか?余ってたら貰いたいんだが」
「え、果物…ですか?今は桃と苺と……あ、柿もありますね」
「柿?今は春だろう?」
「お小夜が好きなんだよ。あの子の喜ぶ顔が見たくてねぇ、宗三と江雪さんと主に柿専用の畑を作りたいと願いに行ったんだよ」

「…そいつは良いことを聞いた。柿か…なかなか面白いな」


頭の中で色々思惑してみる。柿は良く食べていたし、酒にも混ぜていたが…甘くなるってことはあまりなかったな。ロックで飲んでいたからかも知れないが。堀川が良かったら見て見ます?と冷蔵庫を開けてくれたので、有り難うとお礼を言ってから覗き込む。へぇ、色んなものがあるな……なかなか想像が膨らむ。酒は何処に保管してある?と聞けば、歌仙が驚いたような顔をしながら、此処の床に床下保管庫があるんだ。色々あるよ、酒豪が多いからね、と言いながら開けてくれたので、冷蔵庫を閉めてから覗き込む。…お、桃の酒があるじゃないか。これをベースにするかな。


「宴の時、これを分けて貰っても良いか?」
「別に構わないよ。誰も飲まなくてね、寧ろ主にあげようか?」
「良いのか?美味いんだがなぁ…」
「拙僧達はやはり辛口の酒が好み故…なかなか進まんのだ」
「粟田口の短刀や脇差には一期が絶対に飲むなと言い聞かせているし、来派と小夜と今剣は喉が焼ける感じが好きじゃないって苦手意識を持っているな」
「此処はお酒が苦手か、辛口のお酒を好む一振りが多いですから…良かったら差し上げますよ」
「助かる。審神者の部屋に冷蔵庫とかあるか?」
「ありますよ。他に何か欲しいものはありませぬか?この小狐、ぬしさまの部屋にお持ちしましょう」
「そうか?悪いな、小狐丸。堀川、烏龍茶とオレンジジュース、あと果物を各種と違う酒もいくつか欲しいんだが構わないか?」
「大丈夫ですよ。今用意しますね!兄弟、果物をタッパーに詰めてくれる?山伏兄さんは麻婆豆腐をちょっと見てて」
「ああ、分かった。タッパーをいくつか使わせて貰う」
「あい、分かった」
「それにしても…不思議な組み合わせだね?何をするんだい?主は料理が苦手だと聞いていたけど…」

「なあに、ちょっとした魔法を使うだけだ。機会があれば振る舞うから楽しみにしてな」


機会があれば、のセリフに思う所があったらしく、歌仙は微笑ましそうに笑う。小狐丸も少し左文字が羨ましいです、と呟く。私は小狐丸達も小夜達と同じくらいに好きなんだがなぁ…どうしたら伝わるんだろうな。そう思っていれば、堀川と切国に頼んだものを渡される。有り難う、と受け取る前に小狐丸と歌仙に奪われた。びっくりしていれば、早く部屋に行きましょうと歩き出していく二振りに、私は慌てて昼餉を楽しみにしてる!と告げてから後を追った。聞けば私の腕が折れそうで心配だったらしい。言ってくれれば良かったんだがなぁ…
私の部屋に着き、冷蔵庫に貰ったものをしまう二振り。私は触らせても貰えなかった。少し過保護過ぎないか…?その足で、歌仙の部屋に向かう。歌仙はなかなか拘りがあるため、長谷部同様一人部屋何だそうだ。歌仙の部屋は綺麗に整頓されていた。…綺麗だなぁ…


「主、これが審神者専用の服だよ。ちゃんと女性用だから安心してくれ。着方は分かるかい?」
「有り難う、歌仙。着方は分かる、知人が着てたのに似てるからな。赤と白が基調とされてるとはな…私みたいだな」
「まさにぬしさまの為に作られたようなお召し物ですな!!宴が楽しみです」
「有り難う、小狐丸。私も楽しみだ。此処の本丸は私以外は男なんだろう?何故女性用もあるんだ?」
「他の本丸には女性審神者も居るからね、あまり少ないみたいだけど。だから全部の本丸に男女共に審神者専用の服が準備されてるんだよ」
「へぇ……詳しいんだなぁ」
「僕は前の主に選ばれた刀だからね。知識はそれなりに豊富だよ。文系だからね」
「私達も顕現されたからとらいえ、やはり初期刀には敵いませんから…ぬしさまもやはり顕現したいですか?」
「顕現ねぇ…鍛刀はする必要ないって言われたけどなぁ」
「…宗三しか居ないよね。まあ、仲間が増えるのは良いことだし、資材はあるだろう?試しに顕現してみるのはどうかな、落ち着いてからでも良いと思うし」
「ぬしさまなら素晴らしい仲間を呼べると思います。その時の近侍が私なら張り切りますよ」

「近侍…やっぱり必要なのか?」


私の問いに、歌仙と小狐丸は驚いたように目を見開き、小夜…左文字は何を言ったんだい?と震える声で問われ、僕達が教えるから良いって言われたと素直に言えば、独り占めするつもりですか…と小狐丸が素晴らしい笑顔でポツリと呟く。内心穏やかじゃなさそうだ。近侍は第一部隊部隊長のことで、側近のようなものだよ。今なら…蛍丸かな。と歌仙が教えてくれた。側近なら分かりやすいな。だから小夜が他の一振りと仲良くしたいなら、って言ったのか…可愛いらしいな。近侍については色々な一振りとも交流したいし、左文字には話を通しとくから、歌仙と小狐丸の時は宜しくな、と告げれば、二振りとも笑顔で頷いてくれた。…どうやって話を通すかな、私は小さく溜息を付きながら、頭を働かせていたーー…。
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