宴開始

あれからと言うもの、三日月から約束通りにおかずを貰い、五虎退や今剣と触れ合いながら昼餉を食べ、その足で部屋に戻らず、左文字の皆が居る部屋に向かい、談笑していた左文字に断わりを入れてから中に入り、近侍についての話をする。嫌な顔をしていたが、他の一振りとも交流したいし、大切なのは兄さん達だからと伝えれば、渋々とではあったが認めてくれた。助かった。殺気とは言わないが、なかなかに鋭い視線だった。面白くないのが本音なんだろうが…美人が凄むのは怖いとよく言ったものだな。無理し過ぎて桔梗や殺生丸に叱られたのを思い出した。殺生丸は手が出るからなぁ……
それからは自室に戻って、部屋の中を色々見てから昼寝しようと思って寝たんだが…ふかふかの布団は素晴らしいな。熟睡してたらしく、目覚めて外を見たら暗くなっていた。


「……寝過ごしたか…?」
「ギリギリセーフ、だな。良く眠れたか?」
「っ、鶴丸!?」
「よっ、俺が居て驚いたか?起こしに行ってくれって頼まれたんだが、気持ち良さそうに寝てたからな…少し眺めさせて貰った」
「…見物料取るぞ」
「おっ、こりゃ驚いた。可愛い寝顔だったんだがな」
「私が可愛いくない筈ないだろう?…にしても、気付かなかった。鼻が効かないのか…?」
「ん?そんな時があるのか?…体が弱っているのか?宴は違う日に延期しよう。きみに無理はさせたくないしな」
「あー、多分違う。…朔の日が近いんだろうな」
「朔の日?…ああ、月が出ない日だな。俺はあまり詳しくないが、三日月辺りなら詳しいんじゃないか?月見が好きだからな」

「へえ、聞いてみるとするかな。…私はこれから着替えるが、鶴丸はどうする?」


三日月なら好きそうだよな、なんて思いながら服に手を掛ければ、すぐに出る!と顔を仄かに赤く染めた鶴丸が部屋から飛び出る。意外と純情らしいな。白い肌に赤は良く映える。私と鶴丸は見た目も少し似ているし、ひょっとしたら左文字よりも兄妹に見えるかもな。まあ、私の兄弟は左文字だけだが。歌仙から貰った審神者の服に身を包み、小夜に桃のお酒をオレンジジュースで割り、柿をほんの少しだけ入れた酒と、江雪兄と宗兄に桃のお酒を烏龍茶で割った酒を用意する。グラスは前の審神者が趣味で集めてたらしいので、いくつか使わせて貰おう。なかなか美品だし。何もない部屋だと思っていたが、まさか隠し扉があるとは思わなかった。部屋から出れば、待機していた鶴丸に似合っていると笑顔で告げられる。私に着こなせない服がある訳ないだろ?としたり顔で言えば、楽しそうに笑いながら鶴丸は確かにと頷く。そんな鶴丸と他愛のない話をしながら、大宴会場に向かい、襖を開けて貰う。既に酒臭いなぁ、と思いながら辺りを見渡せば、左文字を見付けたので、鶴丸に断わりを入れてから左文字の方に向かう。私に気付いたのは小夜だった。



「姉様!!…凄いね、綺麗だ」
「有り難う、小夜。江雪兄、宗兄、どうだ?ま、私に着こなせない服がある訳ないだろうが一応な」
「凄く可愛いらしいですよ、主。…僕達以外が見てるのが本当に嫌なくらいです。可愛いし美しいだなんて主は罪深いですね」
「大変…美しいです。似合っていますよ、主。とても可愛いです」
「はは、有り難う。小夜、作ってみたんだけどどうだ?」
「!有り難う……ん、?…甘くて美味しいね…!!」

「そうか、良かった。江雪兄と宗兄にもあるからな」


嬉しそうに笑いながら飲む小夜の頭を撫でてから、江雪と宗三の為に作った酒も手渡しし、ある一振りの方に向かって歩き出す。近侍を頼みたい人、決まってたんだよな。私に気付き、可愛いや似合ってると言ってくれる短刀達にお礼を言いながら進み、目的地に近付けば、話していた方の一振りが気付き、口を開けた。


「主、似合っているね。凄く煌びやかだ」
「はは、有り難う光忠。長谷部、ゆっくり休めたか?」
「ーー主……大変、美しいです…!!あ、有り難うございます。お陰様でゆっくり休めました」
「ゆっくりねぇ、俺達は大変だったよなー、伽羅」
「…目を盗んでは部屋を抜けようとするからな。俺達三振りで見張っていた」
「…道理で昼餉に居ないと思った。長谷部、ゆっくり休めって言っただろ?必要な時は呼ぶから、身体は休めてくれ。分かったな?」
「は、はい……申し訳ありません。あの、俺に何か用でしたか?」
「ああ、明日なんだが…へし切長谷部、お前に近侍を頼みたい、受け入れてくれるか?」
「は!?」
「主!?どうしてよりによって長谷部なんですか!歌仙とか一期とかじゃないんですか!!」

「歌仙や一期にもその内頼むよ。長谷部にしたのは主に執務をしてたのは長谷部だって教えてくれただろう?色々教えを乞いたいと思ったらいけないか?」


それなら僕や兄上でも…とごねる宗三に、私に近侍や鍛刀を詳しく知る必要はないって言ったのは誰だ?必要なことは教えないつもりだろ。と言ってみれば、江雪と宗三は顔を見合わせ、不満気な表情を見せる。…やっぱりするつもりだったのか。審神者は刀を集めるのも仕事だと書いてあった。まあ、江雪と宗三は私が他の一振りに構いきりになるのが嫌なんだろうな。嬉しいことではあるが、仕事を疎かには出来ないからな…長谷部、どうだ?と問い掛ければ、綺麗な長谷部の瞳が揺れる。何か悩んでるようだな、そう思った私は屈んで長谷部と視線を合わし、クイっと顎を持ち上げる。あ、主!?と驚いたようにあふためく長谷部に向かって、私は口を開く。


「逃さない。何か言いたいことがあるならはっきり言え、へし切長谷部」
「っ、あ、主…!」
「目を見てちゃんと言え。何がそんなに気に掛かる?言うまでは離さんぞ。悪いが私は折れるつもりはないからな」
「……主……俺、に…近侍になる資格なんてありませんよ…俺は貴女の命に背きました…」
「命?なら、新たに命を下せば問題ないのか?」
「……え?」
「へし切長谷部。お前のその力、私の為に使ってくれ。誰だって間違いは起こす。繰り返さなければ良いんだ。…今度は一振りで抱え込むなよ」
「ーーっ……!!…有り難く、拝命致します…!!」

「良い子。近侍は1日か2日で変えるつもりだ。色んな一振りと交流したいのでな。嫌だったら言ってくれ、配慮する」


頷いてくれた長谷部の頭を撫でてから、辺りを見渡しながら言えば、どうやら私の近侍になるのが嫌な一振りに居ないらしい。左文字がガンを飛ばしてるからじゃないと良いんだが。長谷部に明日宜しくな、と告げてから今度は三条の方に向かう。あるじさま!と抱き付いてきた今剣を抱き止め、頭を撫でながら、私はとある一振りの隣に腰を降ろす。私に気付き、その一振りーー三日月ははて?と首を傾げた。


「俺に何か用か、主」
「鶴丸に月に詳しいと聞いてな。三日月、朔の日はいつだ?」
「朔の日……ふうむ、大体3日後辺りじゃないか。…ああ、もしかして異変があるのか?」
「…ジジイは見くびれないな。その通り、朔の日は妖力が薄れる。現に今、少しだが鼻が効かん。ただの人間のように成り下がるからな…それまでに色々準備をしなくてはならないんだ」
「それなら私も協力しよう。結界なら得意だよ。君の霊力は色んなものを惹きつけてしまうからね、その系統に強いものを何振りか待機させておいても良いんじゃないかな」
「…そうだな、人選は石切丸に任せよう。3日後の近侍は石切丸にお願いしても大丈夫か?」
「勿論。…小狐丸、そんな顔をしないでくれ。私は御神刀と呼ばれているんだから仕方ないだろう?」
「…ぬしさまの近侍になるのが羨ましいんだから仕方ないだろう」
「あるじさま!ぼくはいつですか?」
「ん?取り敢えず朔の日が終わってからになるな、岩融もだ。その時は任せたぞ」
「おお、任せろ。しかし、妖怪もなかなか難儀なんだな」

「私は大妖怪と言われる類だが…それでも朔の日には弱いんだ。他の大妖怪は平気なんだがな…元々体が弱いのも原因らしい。忌々しいことだ」


昔から朔の日は嫌いだし、来て欲しくないとさえ思う。特に私の場合、朔の日が近付いてくれば、何かしらの影響が出る。今回は鼻からだったな。小さく溜息を付き、心配そうに私を見つめる今剣をぎゅーっと抱き締めながら、ぐりぐりと今剣の小さな背中に頭を押し付けていれば、今剣ごと引き寄せられ、私はわっ、と小さく声を漏らす。


「はっはっは!!主は小さいな、今剣ごと抱き締めてもまだまだ余裕がある!!」
「岩融がでかいだけだろ…離せ」
「案ずることはないぞ、主。この本丸の刀剣は皆主に夢中だからな。主に手を出す輩を見逃す筈がないだろう?」
「…はは、頼もしいな。三条に言われると思わず敵に同情してしまいそうだ」
「おや、それは心外ですよ。ぬしさまに危害を加えるつもりだという罰当たりに相応の対処をしてるまでですよ」
「まだ私は優しい方だけどね」
「はっはっは、冗談がキツイぞ、石切丸。この本丸の中で一番打撃が強いじゃないか。俺は石切丸の拳骨だけは避けたいしなぁ」
「あるじさまにてをだすおろかものになさけなんかひつようないですよ?」
「…そいつは……恐ろしいなぁ」
「いざとなったら主を神隠しするしな」
「さらりと言うな、岩融。名を言ったらいけないとは知らなかったんだからしょうがないだろ」
「ぼくはあるじさまのなまえをしれてうれしかったですよ!左文字のみんなもしってるんですか?」

「ん、まあ、教えた。今剣達だけじゃ不公平だからな」


そう答えれば、小夜くんたちならゆるします。と今剣はにっこり笑いながら答える。…小夜達以外ならどうするんだ?と聞いてみれば、私とお揃いの赤い目を細め、しりたいですか?と愉快そうに笑う。…思わず、ぞくりと背中に悪寒が走った。ぎゅーっと前からも後ろからも抱き締められる力が強まり、上を見上げれば、岩融も心底楽しそうに嗤う。…どうやら私は知られてはいけない奴らに教えてしまったらしい。三条のみんなにならおしえてもいいですよ、なんて笑う今剣に、機会があればな、と笑みを張り付けながら答える。…鳥肌が立った…これからは迂闊に教えないようにしようと、改めて心に刻み付けた。


(愛されていると思うべきなんだとは思うが…)


依存、されているんだろうか。今剣のことも岩融のことも嫌いではない。寧ろ、好きな方だ。でも、神隠し等をさらりと言えてしまうのはどうなんだろうか。…私はまだ、消えるつもりはないんだがなぁ、此処で私が神隠しされてしまえば、この本丸は他の奴に渡ってしまうだろう。こんなに皆が優しく、過ごしやすい時間が流れているんだ。欲しがらない筈がない。人間は欲深いからな。…私も欲深いが。他の奴に渡るのだけは、避けたいよなぁ…そんなことを考えながら、三日月に注がれた酒を呷る。慣れるしか、ないんだよな…きっと…私はそう思いながら、小さく溜息を付いた。
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