感じる違和感
長谷部のお気に入りの場所も教えて貰い、蛍丸と愛染と明石が作った昼餉(牛丼だった)を食べ、宗三が子守唄を歌いに来てくれるまで自室でのんびりしていた。長谷部は側に控えている。暇じゃないのか?と問えば、長谷部はこれが近侍の仕事ですよ、なんて苦笑いを浮かべる。…なかなか退屈なんだな、なんて思いながら茶でも淹れてくれないか?と問えば、長谷部はぱあっと表情を明るくし、主命とあらば!とお茶の準備をする。やっぱり手持ち沙汰だったんだな、なんて苦笑いを零しながら刀帳を手に取り、ペラペラと捲りーー私は違和感を覚える。
(…結界が張られてるな)
薄い、けど強い結界だ。ページ毎、ではなく一部に、みたいだがーー…気持ち悪い。瘴気を感じる訳ではないが、何だかモヤモヤする。濃霧に包まれたような感じに近いかも知れん。意図的に何かを隠しているようなーーそんな感じ。妖力が失われてる今、感知出来たのにも関わらず、普段の私が感知出来なかったのが解せない。妖力無効化でもされているのか…?そうだとしたら、一体何を隠している…?
「主、お茶が入りました。…刀帳がどうかしましたか?」
「ああ、有り難うな。…結界が張られてるみたいだ」
「結界…!?刀帳にですか!?」
「その反応から察するに、長谷部は何も聞かされていないんだな。…空間に匿われていた連中も何も知らないだろうな。石切丸くらいなら知ってるかも知れないが…確率は低そうだな」
「そう、ですね…俺も主が操られてる時は石切丸と打ち合わせ等をしていましたが…そのようなことは何も聞いていないです」
「だよなあ…意図的に石切丸が話していないのも考えの1つだがーーそんなことしても石切丸が得するとは考えられない」
「…以前の主は石切丸を避けていましたし、可能性は低いかと」
「避けてた?」
「はい。主はその、…グータラ、というか、だらしない人だったので、説教してくるタイプは避けてたんです。俺も、あんまり好かれていませんでした」
「…人の子はよく分からんなあ。…でも、納得した」
「は…?」
「そんな人が自分を信じて助けを求めて来る…そりゃあ頑張っちゃうよな」
くす、と笑みを零しながら言えば、長谷部は少し頬を赤く染め、そっぽを向く。…石切丸もあの時、夕餉を自室で食べたのは体力的な問題があったのだろう。きっと、結界の効果を持続するのと同時に、奈落を打ち消そうとしてたんだろうな。何だ、私に勝ち目なんてないじゃないか。否、勝とうと思うこと自体が愚かだな。そう判断し、お茶を一口飲む。うん、美味い。
(しかし、何を隠しているんだろうなあ)
刀帳全部を隠す…のも意味が分からないが、一部だけ隠しているのも意味が分からない。うーむ、なんて思いながら慣れないパソコンとやらを操作していれば、間違って実績とやらを押してしまい、私は内心慌てる。うわ、やっちゃった。これは見ても大丈夫だったんだろうか。戻る為に操作しようとしてーー私は目を見開くことになる。
薙刀が、二振りと表記されていた。2/2と表記されているのはきっと、薙刀が二振りいるということだろう。でも、今剣は言っていた筈だ。岩融は唯一の薙刀なのだと。それを考えていた際、ふとこんのすけの言葉を思い出しーー私は違和感の正体を知ることとなる。
「長谷部」
「はい、何でしょう」
「…お前、私が審神者になる時のことを覚えているか?」
「え?はい、勿論です」
「こんのすけの言葉も?」
「こんのすけ、ですか?」
「ああ。…こんのすけは私にこの本丸は滅多に顕現されない刀が居て、レベルもカンストしてるからこの本丸を消すのは惜しいと言っていた」
「ええ、覚えています。……え、いや、まさか…」
「今剣を除く三条派に貞宗に日本号、鶴丸鶯丸一期江雪兄、不動がレアと言われる部類に入るのは知ってる。でも、それだけじゃ強みが足らないと思わないか?そして、極め付けはこれだ。此処には薙刀が二振り入手済みと書かれている。他の項目も私が把握してるのより多く記載されている」
「薙刀が二振り……恐らく巴ですね。何処かに隠されている、ということでしょうか」
「そう考えるのが妥当だろうな。…私は何回か刀帳を見ていたが、結界に気付いたのは今回が初めてだ。これから導き出されるのは、分かるな?」
「妖力や霊力に感知されない細工が施してある、ということですね?」
「ご名答」
つまり、私が完璧に妖力を失なうーー朔の日が最大の好機だということ。朔の日に捕らわれた仲間を救い出す…まあ、まだ私が主と認められた訳ではないから、仲間呼びは妥当ではないかも知れんな。今だけ妥協してくれ。
何振り合わないんだと数えてみて、短刀が五振り、脇差が二振り、打刀が二振り、太刀が六振り…そして薙刀が一振り。何処に隠されているのやら…
「なかなかに大所帯ですね。…捕らわれている刀剣達には察しがつきます。短刀は粟田口でしょう、脇差の一振りは細川派で、打刀の一振りは蜻蛉切と同じ刀派で、脇差と打刀のもう一振りは貞と同じ刀派ですね」
「あー、鍛刀チャレンジ、ってやつか?」
「恐らくは。他は大阪城といったイベントでしょうね。太刀は源氏、も含まれているでしょうね…鍛刀には失敗してた筈なんですがどうやって顕現したんでしょうか」
「…奈落が関係してるのは確かなんだがなあ…あー苛々する、何かがしっくりこない。何だ、何がおかしいんだ…」
「主、落ち着いて下さい。詳しい話は捕まえてから聞き出しましょう」
「…そうするしかないな。明日からちょっと散歩も取り入れるか。鼻が効かないのが惜しいな…」
「主。…あの、烏滸がましいとは思いますが、お願いが、あるのですが」
「願い?何だ、言ってみろ」
「あの、…巴、巴形薙刀は主に対して過保護だと言う情報が入っております。俺も実際に見た訳ではないのですがーーあまり、お側に置かないで頂けないでしょうか」
世話役を、近侍を彼奴に渡すのは嫌なんです。と長谷部は真剣な表情で言葉を吐き出した。…これは、自惚れても良いのだろうか。巴形薙刀をライバル視してるだけではないんだろうか、…どうしよう、すっごく嬉しいんだが。私が刀剣男士ならきっと、いや絶対に桜が舞っている気がする。だってしょうがないじゃないか、長谷部が何だかんだ言って前の主を気に掛けているのは間違いない。今でもきっと好きなんだろう。そんな長谷部が、まだ見ぬ巴形薙刀を私が近侍にするのを恐れている。これはーー嬉しくない、なんて思う方が無理だ。
「…なあ、長谷部。審神者ってのは色んなルールを決められるんだよな?」
「え、あ、はい。内番も増やすことが出来ます」
「近侍は1番隊隊長なんだよな?」
「そうです。本来なら俺ではなく蛍丸、ですね」
「よし、ちょっとルール変更。皆には夕餉の時に伝えよう。長谷部、お前は戦場や遠征に出なくても平気か?」
「はい、主命とあらば勿論です」
「んじゃ、長谷部は私の世話係とかは嫌?」
「は…?」
「私は生活能力がないし、整理整頓とかも出来ないから、長谷部がやってくれると助かるんだけど…今日もやりやすかったし。近侍は皆と仲良くなりたいから変えるけど、世話係は固定でって考えてんだが…どう?興味ない?」
「…俺で、良いのですか?左文字が黙っていないのでは…?」
「私は長谷部が良い。宗兄とかにはちゃんと話は通すよ。世話係は私の身の回りの世話を近侍には仕事関係で手伝って貰う。そうすれば仕事減るだろ?んで、1番隊隊長は別の奴に任せる。近侍が居ないのは困るからな」
「……とても、素晴らしい案だと思います…!!」
「そっか、有り難うな。まずは賛同者一振りゲットだ。んで、世話役は嫌?私の話し相手するだけのお仕事なんだけど」
「喜んで拝命させて頂きます…!」
ぶわっと桜が舞う。そこまで嬉しいか、私まで嬉しくなるな。考えていて良かった。まあ、近侍と1番隊隊長が兼任って聞いた時点でちょっとなって思ってたから私もスッキリだ。今は前例がないのかも知れないが、1番隊が居ない時に敵が来たりしたら、近侍が居ない訳だろ?それは流石にまずいだろ。だったら別にすれば良い。そうすれば近侍は近侍、1番隊隊長は1番隊隊長の仕事に集中出来るし、疲労も少ないだろう。世話係はまあ、考えてなかったけど。身の回りのことは自分でしようと思っていたからな。…今は出来ないが。
(長谷部が此処まで喜んでくれるなら、ちょっとだけ甘えちゃおうかな)
少しずつ、出来るようにしよう。長谷部の負担にならないように。仕事を押し付けたりなんて絶対にしないからな。これで長谷部の不安がなくなるなら有り難いんだが、まだ巴形薙刀に会ったことがないからな…上手くいくと良いんだが。審神者に就任したばかりだが、前途多難だな。長谷部達が私を受け入れてくれるのが恵まれているんだろうな、きっと。
ま、何はともあれーー早く、見付けないとな。受け入れて貰えるか拒まれるかはーー今は保留ってことで。
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