穏やかな時間

あれから宗三が来て、長谷部を追い出そうとしたが、私のお世話係だから一緒に居なきゃダメと言ったら、僕じゃダメなんですか!?と発狂されたが、宗兄はお兄ちゃんだからお世話係は頼みたくないと言ったら機嫌が直った。チョロすぎてびっくりなんだが、そんなんで大丈夫か?え、私だけ?それなら大丈夫……だよな?長谷部は呆れつつも嬉しそうだったから安心だな、うん。
宗三の子守唄を聞きながら昼寝をして、夕餉のちょっと前に起きる。起きたら宗三と長谷部の整った顔が目の前にあってびっくりした。心臓に悪い。広間に向かえば、美味しそうな鍋料理があった。すき焼きというそうだ、三条派が作ったらしい。今剣がこれはぼくがきったんですよー!と主張してくるのが可愛い。


「主、何が食べたいですか?よそいますよ」
「あー、白菜かな。あと椎茸も欲しい」
「分かりました。肉も入れておきますね」
「分かってると思いますけど多めですよ、長谷部。主はこんなに細いんですから」
「お前に言われなくても分かっている。宗三、お前も細いんだからたっぷり肉を食え」
「え」
「左文字派は細いな…よし、小夜と江雪の分も肉を多めによそってやる、主!こんな感じで大丈夫ですか?」
「「え」」

「あー、うん。大丈夫だ、有り難うな」


長谷部に任せて良かった気がする。宗三達には悪いが。巻き込んだ感ハンパないな。まあ、宗三は勿論のこと、江雪も小夜も細いからな…長谷部は面倒見良さそうな気もするし、私が兄や弟のように慕っているから左文字派のお世話もする気なのかもな。仕事を増やすつもりはないし、私だけで構わないんだがな。そんなことを思いながら長谷部によそって貰ったすき焼きを卵液に浸して食べていると、肩をツンツンと叩かれる。ん?と振り向けば、そこには不服そうな表情を浮かべた鶯丸。私が言葉を発する前に目敏く反応したのは言うまでもない、私のお世話係だ。


「主は食事中だ。要件があるなら俺に言え、鶯丸」
「…長谷部、お前はそんなに過保護だったか?何故そんなに主の世話を焼いている、俺も焼きたい」
「え、鶯丸は世話を焼かれたいんじゃないのか?三日月と鶯丸は世話を焼かれたい側だと思って居たんだが」
「世話を焼かれるのは嫌いじゃないが、君の世話は焼きたい。側に居れるからな」
「鶯丸の言う通りだ。ジジイでも主の世話を焼くくらいなら出来るぞ?」
「はっ、残念だったな。これは俺だけの特権、主のお世話係は俺だけ!俺だけしかやれない!!そうですよね、主!!」
「あー、うん。鶯丸と三日月には悪いが、私の世話焼きは長谷部に一任しようと思ってる」
「え、それじゃあ長谷部さんは姉様の近侍固定なの?」
「そんな!!ぼくはまだきんじやっていませんよ、あるじさま!!」
「ぼ、僕も近侍やりたいです…!」
「いや、近侍は交代するぞ?近侍と世話焼きは別の扱いにするつもりだ」
「別、ですか?…主は何か考えがあるのですね」

「そうだ、江雪兄。皆も食べながらで良いから聞いてくれ、質問は終わったら受け付ける」


そう言ってから、私は1番隊隊長と近侍の兼任という体制を変えたいと話してから、1番隊隊長には1番隊隊長の仕事、近侍には仕事に関することに専念…まあ、内番の発表や出陣部隊への伝達、書類整理やらだな。んで、長谷部にはそれ以外の仕事…まあ、私の身の回りの世話を任せようと思ってる。近侍や1番隊隊長は平等に回していくつもりだが、世話焼きは長谷部のみに任せるつもりだ。此処までで何か質問はあるか?…ん、何だ、乱。


「あるじさんの考えは分かったけど…長谷部さんばかり狡くない?ボクだってあるじさんのお世話ぐらい出来るよ!」
「ずっと本丸に固定だぞ?戦場には行けないし遠征や演練、内番も行けない。乱はそれでも平気か?」
「…う、…」
「難しいだろう?長谷部はそれでも良いと言ってくれた。だから任せた。…ん、江雪兄。何だ?」
「主。私は戦いに出たくありませんし、お世話係でも可能ではないでしょうか…」
「宗兄にも言ったが、私は左文字派とは妹や姉として慕いたいし慕われたいんだ。戦いに出たくないなら遠征はどうだ?土産話でも聞かせてくれ。内番だってある。…私は、甘えたい時に甘えられる存在があった方が嬉しい。本来なら遠征すら行かせたくないくらいだ」
「ん゛っ…!!…私は遠征に行かなくても構いません。主、貴女の側に居ましょう」
「僕も遠征も戦場も行かなくて良いです。主が言うなら内番だって真面目にやりますよ」
「…姉様…僕は、戦場に行きたい…」
「縛り付ける気はないよ、小夜。行きたいなら部隊に組み込むから言ってくれ。遠征とかも任せて良いか?」
「うん…綺麗なものとか見付けたら持って来る…」
「ああ、有り難うな。楽しみにしてる。…あと、明日の近侍は歌仙、1番隊隊長は蛍丸で変わらず、…二振りは何か問題はあるか?」
「ないよ、君の采配なら何でも従おう」
「俺もないよー!あ、国俊と国明も連れてって良い?」
「有り難う、歌仙。勿論構わないよ、蛍丸。他の三振りは私が決めて良いのか?」
「うん、誰でも良いよ!あ、小夜は決定だよね?」
「ああ、そのつもりだ。早速は嫌か?」
「ううん、大丈夫、いけるよ」
「よし、なら小夜は決定。他はー同田貫と長曽袮、どうだ?」
「お、分かってるじゃねーか。勿論行くぜ、刀は戦いに出てこそだからな」
「俺も行って良いのか…有り難いな」
「私はまだ此処の戦い方を知らない上に全てのマップに検非違使が居るからまずは様子見ってことで明日は第1部隊だけ出陣予定だ。内番はーー歌仙、協力願えるか?」
「勿論。全力で知恵を貸すよ」

「助かる。遠征や演練は明日はしない。他の刃達はゆっくり体を休めてくれ。…休め過ぎてるかも知れないが我慢してくれると助かる」


早めに慣れるから、少し辛抱してくれと告げれば、相変わらず私を膝に乗せている江雪にぎゅーっと抱き締められた。江雪兄?と呼び掛ければ、江雪は貴女はバカですか。と言われた、え、喧嘩売られてる?ポカンとしていれば、ガハハと豪快な笑い声が聞こえた。岩融?と声を掛ければ、岩融はニィッと笑ってから口を開く。


「主、お前は色々と考え過ぎだ!慣れようと努力してるのは誰もが分かっている!気にする必要はないぞ!誰かが折れるかも知れないと思わなくて良いのは素晴らしいな!これなら待つのも苦ではないわ!!」
「ふふ、そうだね。主が一生懸命に審神者をやろうとしてくれてるのは助かっているけど、無理はさせたくないからあまり無理はしないでくれると助かるかな」
「ぬしさまの存在に私達は安らぎを得ております。大丈夫です、ぬしさまは焦らずともご立派な審神者ですよ」
「ふむ、まあ、なんだ。主は俺達に指示だけを出していれば良いんだ。気を遣う必要なんてないぞ?女神が主と言うことで俺達は絶対的な信頼をしておるからな」
「そうですよ、あるじさま!!むずかしいことをかんがえるのはきんじか長谷部にまかせればいいんです!ぼくたちはぜったいにさからいませんし、あるじさまをないがしろにはしませんから!」
「おお…なんか、三条派に言われると凄いな…」
「…馴れ合うつもりはない。…が、主はお前以外認めない。考えがあるなら自分の思うままにすれば良い。俺達は付いてくだけだ」
「伽羅ちゃんがデレた…!!…えっと、僕も主くんは女神様じゃなきゃ嫌だし、美味しい料理食べて欲しいから、今はもう少し太ることだけ考えてね!」
「光坊、他に言い方なかったのか?ま、俺も君以外の人の子を受け入れるつもりはないからな、焦らずゆっくりで良いんだ」
「俺、そんなに顕現してから日が経ってないからさー、一緒に頑張ろうな、主!」

「はは、有り難うな。そうだな、貞宗。一緒に頑張ろうな」


三条派に伊達組の言葉に、肩の荷が降りた気がする。存外、私は気負っていたらしい。貞宗の笑顔に、思わず頬が緩む。そうか、貞宗はまだ顕現されて日が経ってないのか。それでもカンストしてるってことはーーかなり無理を強いられたようだな。私ならそんなに無理なんてさせない。彼等は神様なんだから、蔑ろに出来る筈がないではないか。随分と偉ぶっていたんだな、奈落が取り憑いていた前の主は。…まあ、奈落だから無理もないか。


「おまんはちぃーっと頭が硬いのう。適当で良いんじゃ適当で!長谷部みたいじゃ!」
「言い得て妙だね。主も長谷部も休む時は休んでくれよ?」
「本当本当ー、主が体壊したらめっちゃ困るけど、長谷部だって倒れたら困るんだからなー!」
「なっ、お、俺は関係ないだろ!主、戯言をお気になさらずに!」
「長谷部、お世話係の仕事一個追加。私と昼寝、主命な。狸寝入りは許さないぞ」
「な、う、…しゅ、主命とあらば…」
「主に一本取られたなあ、長谷部。主、こいつは無理ばかりするから見ててやってくれ」
「お安いご用だ、日本号」
「主殿も体が丈夫ではないのですから無理はダメですよ」
「う」
「あの時は肝が冷えるかと思いましたぞ」
「わ、悪かったよ蜻蛉切…」
「何だ何だ、知らない内に何かあったのか?」
「御手杵には悪いがこれは私と主殿と石切丸殿の秘密だからな」
「え、石切丸も関わってるのかい?それは意味深だねぇ」
「青江じゃないんだから疑わないでくれるかい?…顔が怖いよ、小狐丸」
「何故…何故お主ばかり役得なんじゃ…!!」
「役得、俺も役得だな。主は暖かいし気持ち良かった。最初は鶴丸に抱き付いてるのかと思って肝が冷えたが主で良かった」
「ん!?おい、鶯丸!!それは俺に失礼じゃないか!?」

「…賑やかだな」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す周りに思わず笑みが零れる。私の呟きが聞こえたのか、長谷部が止めますか?と聞いて来たが、私は構わないよと制止する。何で残念そうなんだ、長谷部。寄り掛かるように力を抜けば、江雪の疲れましたか?と優しい声。甘えたくなった、と笑えば江雪は優しく微笑む。…何か江雪の方が女神に見えた。私も美しいとは思うが。
兄様ばかり狡いと言いたげな顔をしている宗三と小夜にそれぞれちょっかい出してから長谷部が次々によそる食べ物を食べる。うん、何回食べても美味い。


(困ったな、帰りたくなくなる)


彼等が可愛いくて仕方ないんだ。もし、この穏やかな時間を奪おうとするなら、私は全力で潰そう。お前が入る場所はないと、叩き出してやろう。…もし、何処かに隠されている刀剣達が洗脳されていて、長谷部達が刃を重ねることになったらーー傷付いてしまうかも知れない。それだけは、嫌だな…だとしたら、救わない方が良いのか?今まで離れ離れになっていたんだ、積もる話もあるだろう。…難しいな。明日の朝、長谷部と歌仙に話してから決めるとするかな。
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