信じてくれ
翌朝。朝ですよ、起きて下さい。と長谷部の優しい声色で起こされる。おはよう、と欠伸を噛み殺しながら目を擦ろうとすれば、いけません。さ、タオルをどうぞ。と新品か、と言いたくなるくらい綺麗なタオルを渡される。歌仙と堀川と光忠が洗濯当番だとふわふわで真っ白なんだそうだ。何でも出来るんだな、あの三振り。そんな風に思っていれば、ぎゅーと抱き締められる。ああ、昨日は宗三の布団で一緒に寝たんだったな。
「すまない、起こしたか?」
「…いいえ、大丈夫です…長谷部、貴方早過ぎですよ。もっとゆっくり来て下さい。ちゃんと寝てます?」
「な、ちゃんと寝てるに決まってるだろ!…主、もう少しゆっくりの方が宜しいですか?」
「ん、私は別に……いや、やっぱり左文字派と一緒に寝てる時はゆっくりが良いな、長谷部も一緒に寝るか?」
「「な!?」」
「和睦ですね……良いんじゃないでしょうか。布団はもう一式敷ける広さはありますからね」
「…長谷部さんは寝相悪くないし、僕も大歓迎だよ。姉様が此処で寝る時は一緒に寝たら?」
「兄様にお小夜まで……主の為ですし、一緒に寝るくらいは許してあげますよ。特別に僕の布団貸しますんで二度寝しましょう」
「ちょ、宗三!?離せっ!危ないだろう!!」
「まだ早いですよ、寝ましょう。主、もう少し抱き締めて良いですか?」
「おー…んん、ねむい」
「!舌ったらずな姉様可愛い」
「長谷部、起こしてくれて有り難うございます…こんなに可愛い妹を拝むことが出来て幸せです…さあ、もう少しだけ寝ましょう。此方に来ますか?」
「…少しだけだからな。主に、免じてだからな!」
「江雪兄様は僕の方に来ても良いよ…長谷部さんは江雪兄様の布団使ったら…?いくら姉様と宗三兄様が細くても狭いと思うよ」
「小夜は頭良いな、そうするか」
まだ思考が止まってる状態だけど、かなり幸せな構図じゃないか?江雪は小夜の言葉に嬉しそうに微笑み、いそいそと布団の中に入り、小夜を抱き締める。宗三は私を抱き締めながら、長谷部に目だけで早くしろと言ってるような強い視線を向け、長谷部は溜息を付いてから江雪に礼を言ってから布団に入る。ーー結局、朝餉が出来たよ、と光忠が来るまで眠ってしまった。光忠は長谷部が寝てることに感激してたし、やっぱり無理矢理でも寝させようと思う。朝餉は青江と骨喰と鯰尾の三振りによる和食だった。美味だった。
「おはよう、主。今日は宜しく頼むよ」
「おはよう、歌仙。此方こそ宜しく。長谷部、行けるか?」
「大丈夫ですよ、主」
「ふふ、隈がない長谷部を見るのは実に久し振りな気がするな。主が皆をちゃんと見てくれる人で助かったよ」
「そう言って貰えると助かる。えーっと、まずは出陣部隊の出陣場所を決めるか」
「そうだねえ、僕達は全員カンストしているし、何処でも良いのが本音だが…主の初陣だしね、ちゃんと考えよう。僕は厚樫山を推すよ」
「厚樫山か…彼処は検非違使のレベルも高いんじゃないか?」
「だからこそ、だよ。戦好きの同田貫は力が有り余ってるからね、軽い所にして発散出来なくて暴れられたら困るだろ?」
「…有り得ない、と言い切れないのが怖いな。主、俺も歌仙の意見に賛成です」
「分かった、厚樫山だな。同田貫は暫く1番隊に固定しとくか…歌仙、伝えてくれ」
長谷部に教わりつつパソコンでそう入力すれば、歌仙は力強く頷いてくれた。やっぱり歌仙と長谷部のしっかり者コンビは話がすんなり決まるからやりやすいな、説明も分かりやすい。この二振りを頼りたくなる気持ちも分かる気がする。私も自立するまでは頼りっきりだろうな。
次に内番を、ということになったが、私は驚くことになる。24時間だと言うのだ、有り得ないだろう。政府は何を考えているんだ?
「…手合わせは2時間から3時間くらいを目安に自主性にしよう、申請しておく。畑当番と馬当番は昼間から夕方くらいまでで十分だろう」
「自主性か、それは良いね。主に申請すれば良いのかい?」
「ああ。私が居なければ近侍だな。長谷部は私の世話だけ焼けば良いから、仕事はするなよ」
「はっ、分かりました」
「よし。あとはー炊事洗濯も内番として加えたいと思っている。歌仙、光忠、堀川。この三振りに負担が掛かり過ぎているからな」
「そうかい?僕は気にしていなかったけどね…」
「…歌仙、お前は少し休んだ方が良いんじゃないか」
「…長谷部、君だけには言われたくないよ」
「はいはい、喧嘩はやめような。急に三振り外して回らなくなるのは困るから、昼餉に限定して、1日ごとに交代して歌仙達の技術を他の刃達に叩き込んで欲しい。洗濯も同時進行だな。近侍と1番隊隊長は加える気はないから歌仙は明日から参加で、昼餉の当番は光忠と他の二振りから三振り、洗濯は堀川と他の二振りくらいでどうだ?」
「素晴らしいと思います!」
「長谷部と近侍と1番隊隊長以外だね、分かった。燭台切は伊達組、堀川は長曽袮以外の新撰組メンバーで良いんじゃないかな、三振りになってしまうが最終的には全員覚えるんだろう?」
「そうだな、全員が出来るようになってくれると助かるな。…組み合わせは詳しい奴に任せるか。んー、どうするかな。炊事洗濯の人員を確保する当番も作るべきかな」
「主、主さえ良ければ俺にやらせては頂けませんか。関連性のある刃達を主に教えることも出来ますし、やり甲斐があると思うのですが」
「良いんじゃないかい?負担も普段の長谷部よりかは減るだろうからね」
「…んじゃ、長谷部に任せる。今日の炊事は伊達組、洗濯は長曽袮以外の新撰組で。明日以降は一緒に考えような」
そう伝えれば、長谷部は主命とあらば、と嬉しそうに微笑みながら桜を舞わせる。本当はあまり仕事させたくないんだが、本刃は仕事が好きみたいだし、宗三曰くしゃちく、って奴らしいからな。やっぱり何かしら仕事を与えた方が良いのかも知れない。そんなことを思いながら、すらすらと紙に記入していく歌仙を見つめる。なかなかに達筆だな…
「ーーなあ、歌仙」
「何だい、主。他に何か決定事項があったかい?」
「いや、それとは別なんだがーーちょっと相談があるんだ、聞いてくれないか」
「うん?構わないよ、長谷部は知ってるのかい?」
「ああ、知ってる。…実はな、この本丸に私達が知らない刀剣が隠されているかも知れない」
「ーー何だって?」
「やはりお前も知らないか。主が見付けたのだ、刀帳に張られた薄く強い結界と、細工が施されたであろう戦績に薙刀が二振りと記載されていた、恐らく巴形薙刀だろう」
「巴形薙刀だって?鍛刀は失敗したはずだ、札は紙屑同然だっただろう?僕や君が近侍として主の隣で見ていたじゃないか」
「信じられないのも無理はないが、これを見て欲しい。見た上で意見が欲しいんだ」
実績ではなく戦績ですよ、と以前修正された戦績の画面を開き、歌仙に見せると、歌仙は眉間に皺を寄せる。確かに薙刀が二振りになっている上に本丸に顕現してる数より多いね。と渋い顔で呟く。長谷部は相変わらず難しい顔をしている。私が何を言いたいか分かってるのかも知れんな。
私は刀帳の異変と戦績の変化に気付いたのは
昨日が初めてなんだ。つまり、妖力や霊力を無効化する細工がしてある。私が妖力を完璧に失なうーー明後日が見付ける最大のチャンスなんだ。
「…だが、少し迷っている。帰って来たばかりの一振りも居るからな、石切丸とか。今剣がずっと石切丸から離れないと岩融に言われたのもあってだな…今、救い出すのは最善か悩むんだ。積もる話もあるだろうからな」
「…ふむ、確かにそうだね。だが、こうしている内に仲間が傷付いてるのかも知れないのだろう?だとしたら放っておけないな、雅じゃない」
「主、俺も歌仙の意見に賛成です。…もしかしたら、俺の知り合いが居るかも知れないんです」
「何?それを先に言え、長谷部。…やはり救い出すべきか…余計な火種を作らなければ良いんだが…」
「同じ目的を持つ仲間なんだ。ウマが合わないのはあるかも知れないが、主の邪魔になるようなことはしないよ。約束しよう」
「邪魔だなんて思ってないし思うはずがない。…その、私は長谷部や歌仙達が傷付くのを見たくない、だけなんだ。…家族、なんだし」
「…あ、有り難き幸せ…!!」
「君は、本当に僕等を喜ばせるのが上手いね…」
「そんなことはない。…好きだと思ったら依存してしまうのは私の悪い癖だ。自覚してるのに治せない、困った癖だ」
もし、誰かしらが傷付いたら私は冷静ではいられん。黙って死なせてなんかやらない。死よりも苦しい思いをして貰おうとあらゆる手段に手を出すだろう。…もし、囚われてる他の刀剣男士に此処に居る誰かを傷付けられたらーー私はきっと許さない。仲間だろうと関係ない。私の家族に手を出すなと威嚇してしまうだろう。…ああ、そうか。
「…私は、自分が可愛いだけなんだな。この場所を取られたくないから、穢されたくないから救い出すと断言出来ないのだな。…審神者失格だな」
「そんなことはありません!!俺達は幸せ者ですよ!そんなに愛されて嬉しくない筈がないではないですか!!」
「大丈夫だよ、主。心配せずとも主を認めないと言った瞬間斬るからね」
「…え?」
「だってそうだろう?僕の主は君だけだよ。君を認めないって言うならーー斬り捨てるしかないだろう。仲間じゃないんだから」
「…歌仙の言う通りですよ、主。仲間を増やさなくても良いじゃないですか、俺達は強いですよ。今の本丸に顕現してる刀剣男士だけで戦えますよ」
「戦力は多いに越したことはないからね。声を掛けるだけ掛けてみたらどうかな。心配せずとも、君を認めない若しくは君が要らないと言ったら僕達は敵と見做して斬り捨てるよ。此処の決定権は君だけだ、主」
「…仲間なのに、斬り捨てるのか?私を取ってくれるのか?こんなに狡いのに?」
「狡いなんて思いませんよ主。貴女が狡いなら、此処に居る全振りが狡いことになります。…安心して下さいね、主。主に仇なす敵は誰であろうとも斬りますよ」
「君くらい雅な主なんてそう滅多に居る訳ないからね。…共依存で良いじゃないか、田舎刀、じゃなかった。大倶利伽羅も言っていただろう?君以外の主は認めないと。君が審神者を辞めるならーー僕達は次の主なんて要らない。君に折られるか君と共に死ぬことを望むよ」
「…責任重大だな、よく分かった」
私は存外に愛されていたらしい。私としては家族だと思えと言う言葉に甘えているだけなんだが…彼等もまた、家族だと認めてくれるというのか。失いたくないと、そう願ってくれるのか。人の子を憎み、人をあまり信用出来ないと、そう私に言った歌仙が必要としてくれる。共依存で良いと、認めてくれた。…嬉しくない筈がないな。
「…長谷部、お前は知り合いかも知れないのに斬り捨てられるのか?」
「勿論ですよ。主を認めないのであれば敵でしかありませんから。彼の兄である一期一振も斬り捨てられるんじゃないですかね、彼奴は主を気に入っていますから」
「…一期一振が?私を?秋田達の傷を癒したからか?」
「それだけじゃないよ、主。まあ、分からないなら無理に知る必要もないけどね。何なら一期一振を呼んでくるかい?1番隊と組み込まれてる彼等に内番を伝えてからになるけど」
「…いや、皆を広間に集めてくれないか。私が自分の口から伝える。…長谷部と歌仙は救い出すには救い出すが、返答次第では容赦しないって解釈で構わないか?」
「問題ありません」
「僕もないよ。じゃあ、先に広間に行っててくれるかい?僕が集めておこう」
「有り難うな、歌仙。…何か設置するか、わざわざ探すのも苦だしな」
昨日昼寝する前に来た乱と厚が教えてくれた花丸、という本丸みたいに鈴でも用意するか。今回は頼むな、歌仙。と告げれば、歌仙はふんわりと微笑みながら頷いてから部屋を出て行く。その後ろ姿を見送ってから、長谷部に掃除してから行こうか。と声を掛ける。私の部屋を埋め尽くすかのように春爛漫宜しく咲き乱れる桜の花弁に、長谷部はぎょっとしたような顔をしてから慌てて掃除を始める。…自覚とかやっぱりないもんなんだろうな…
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