全ては貴女のために

桜の掃除が終わり、私達が広間に行く頃には既に全振りが集まっていた。早いな、歌仙…涼しい顔でどうしたんだい?遅かったじゃないか、なんて言いながら私に手を差し伸べる歌仙に対し、俺もだがお前が舞わせた桜の花の掃除をしていたんだ、と歌仙の手を払い退け、私に主、上座にどうぞ、と眩しいくらいの笑顔を見せる長谷部。本当に対応が違い過ぎないか…?歌仙の眉間に皺が寄ってるんだが…歌仙、と名を呼べば、ハッとした歌仙は困ったような笑みを浮かべながら、私の左側に座り、こほん、と咳払いをしてから口を開く。


「皆に集まって来て貰ったのは出陣場所と内番が決まったからだ。今日から新たに料理と洗濯が内番に加わり、手合わせが2時間から3時間程度で主かその日の近侍に申請してくれ。申請がなければ使用禁止だからね。馬当番と畑当番は昼間から夕方まで。早朝と夜間は禁止だ。大丈夫だね?よし、主。出陣部隊に声を掛けてやってく…どうしたんだい?」
「…歌仙は本当に進行が上手いな、と感心していた。いやあ、見習わないといけないな」
「ふふ、僕で良かったらいつでも教えるよ」
「助かる。…えっと、1番隊隊長蛍丸、副隊長は愛染、明石、小夜、長曽袮、同田貫。この六振りで厚樫山に行って貰う。いけるか?」
「厚樫山だね、肩慣らしには丁度良いんじゃない?ね、国俊」
「おう!!主の初陣だしな、気合が入るぜ!」
「よりによって厚樫山…はあ、サボったらアカンやろうなあ…」
「姉様の采配に文句があるなら容赦しないよ…?」
「そうピリピリするな、小夜。明石はちゃんと分かってるから、な」
「主、刀を見付けたらどうすんだ?連れてくんのか?」
「…そう、だなぁ……保護して誰かに譲るのも手ではあるが…見て見ぬ振りをしてくれ。他の審神者と顔を合わせたくないのでな」
「りょーかい。ま、敵は叩っ斬るから安心しな!軽傷くらいなら進軍しても良いよな!?」
「本当は擦り傷さえして欲しくないんだが…まあ、それは蛍丸と愛染の指示に従ってくれ。二振りが冷静じゃなかったらーー明石、頼むぞ」
「え、自分ですか」
「来派の保護者なんだろう?」
「はー……まあ、適度に頑張りまひょ」
「あと、同田貫は暫く1軍固定な。疲労した瞬間休ませるが…隠そうなどとは考えるなよ?」
「…おう」
「蛍丸」
「はーい」
「愛染」
「おう!」
「明石」
「…はい」
「小夜」
「…うん」
「長曽袮」
「ああ」
「同田貫」
「おう」

「回りくどいことは言わん。私が命ずるのは1つだけーー折れるな。絶対に六振り皆で帰って来い。重症進軍は認めない。…今まで我慢してた分、暴れておいで」


私の言葉に、出陣する六振り全員が頭を下げる。…本来なら掠り傷を負った瞬間に帰って来いと言えたら良いんだが、皆は戦いたがってるからな。あまり縛り付けるのは良くないだろう。小夜が居るし、何とかなるはずだ、多分。こんなんで大丈夫だったかと歌仙に目配せすれば、歌仙はにっこり頷いてくれた。…成功だったようだな、良かった。長谷部は号泣してる、何故だ。


「出陣は午後だからそれぞれ準備をしておいてくれ。次、内番だね。主、名前を呼んでやってくれるかい?」
「ああ、有り難う。…一期一振、太郎太刀」
「はっ」
「はい」
「馬当番を頼む。蜻蛉切、獅子王」
「はっ」
「おう!」
「畑当番を頼む。手合わせは予約制だからな、誰か入りたいのはーー居ないようだな、次に料理と掃除なんだが…歌仙、光忠、堀川の三振りを主体に全員が同レベルになって欲しいと私は思っている。昼餉の担当を光忠、伽羅、鶴丸、貞宗。洗濯は堀川、和泉守、清光、安定。1日ずつ回すつもりだが、歌仙と光忠と堀川は暫く固定だから負担が多いかも知れん。無理そうなら言ってくれ」
「オーケー、任してくれ!かっこよく皆に教えるからね!」
「はいはーい、お任せ下さい!皆でやればへっちゃらですよ!」
「僕は負担なんて考えてないんだけどね……ああ、それと違うことで主から重大な話がある。心して聞いてくれ」
「重大…?問題でもあったんですか?」

「あー宗兄。結構重大なんだ、聞いてくれ」


この本丸に、まだ隠されている刀剣男士が居る。私の言葉に、空気が凍るのを感じた。今までにこにこ笑っていた鯰尾が一気に真剣な表情を浮かべるくらいには空気が変わった。辺りを見渡してから、妖力や霊力を無効化する細工を施されているようで場所までは分からない。が、以前の主が顕現したのは間違いない。私としては、助けたいとは思っている。そう伝えた瞬間、むす、とした表情を浮かべながら長谷部が口を開いた。


「嘘はいけませんよ、主」
「…助けたい、という気持ちはあるぞ」
「俺達が傷付くのが一番嫌なんでしょう?だから振り切れない、そうでしたよね?」
「…ああ、仲間に会わせてやりたい気持ちはあるんだ。…だが、奈落が何らかのことをしてないとは限らないーー否、何かしらしてなければおかしいのだ。…だから、私は君達の意見を聞きたい」
「僕と長谷部は同意見でね、主を敵と判断したり、主が要らないと言ったらーー斬り捨てる。仲間であろうと関係ないからね。僕と長谷部は今何よりーー主を失うのが一番怖い」
「恐らく隠されているだろう刀剣男士は、粟田口の短刀、細川派の脇差、貞宗派の脇差と打刀、村正派の打刀、源氏を含めた太刀、そして巴形薙刀だ」
「巴形が居るのか!?それは愉快な話だなあ!!」
「弟がまだ増えるかも知れないのですね…!」
「太刀かあ、もしかしたら数珠丸さん居たりしないかな、居てくれたら嬉しいんだけど」
「大包平は居るだろうか」
「貞宗派って俺の兄ちゃんじゃん!」
「村正が…顕現しているのですか」
「…大幅な戦力アップを狙える訳ですねえ、主様!!」
「ああ。…まあ、正常なら、の話だが。私が知っている奈落は人を人として扱わない。刀剣男士は人扱いしてはならないのは分かっているが…用心していて欲しい。彼奴は頭がキレるからな、どんな策を講じて来てもおかしくない」
「…あ、主様…質問、宜しいですか…?」
「ん、構わないよ、五虎退」
「…妖力や霊力を無効化する細工、ということは主様が力を無くすと言っていたーー朔の日が最大の好機、ってことですよね…?…だ、大丈夫でしょうか…?」
「…まあ、敵意を持っていたら危ないだろうな。…どういう訳か今回は何らかの支障が出るのが早い上に症状が重い。朔の日当日、目が見えないとかの影響が出ないとは限らんな」
「…おいおい、大将。そりゃあ博打過ぎないか…?いや何、別に兄弟が増えるのは嬉しいがーー大将を危険に晒してまで助けたいとは俺は思わない」
「薬研に同感だなぁ。朔の日は石切丸が着いているのは分かってはいるが…機動が追い付かない可能性も少なくはないだろう?別に無理に助けなくても良いんじゃないか?」
「で、でも…苦しんでる可能性だってあるんでしょう…?ボクは、兄弟が苦しんでるのは嫌だな…あるじさんを危険に晒すのは確かに嫌だけど…」
「そう、だね…俺も兄弟が検非違使に囚われていた時は気が気でなかったから…見て見ぬ振りは、出来ないかも知れない…」

「私のことは気にしないでくれ。石切丸も長谷部も居るし、青江と太郎太刀に左文字兄弟も目に見える範囲で居て貰うつもりだ。機動なら長谷部や小夜、青江が居るしな」


な、と視線を送ってみれば、各々が力強く頷く。小夜がキラキラと目を輝かせているのが可愛い。頼りにしているんだと伝わってるのであろうな、きっと。長谷部に関しては感極まってるって感じなんだが…まあ、触れないで置いておこう。触れない方が良いと、告げられた気がした。神のお告げと言うやつか?


「んー、取り敢えずは見付けて話してみなきゃ分からないんじゃないか?俺は刺すだけしか出来ないけど、敵意を感じたら刺せば良いんだしなあ」
「難しく考える必要ねえだろ。向かって来たら叩っ斬る。向かって来なかったら引き入れる。簡単じゃねえか」
「だよなあ。主は俺達を本当に大切にしてくれてんの分かるけど、仲間と斬り合うことなんて慣れてるから気にしなくても良いんだぜ!」
「…躊躇していたら演練すら出来ないからな」
「おんしゃあは堂々としておればええんじゃ!当日はちゃあんと守るぜよ!」
「…アンタは長谷部達の側から一歩も離れるな。刀剣男士の問題は刀剣男士で決着を付ける。アンタが気負いする必要は、ない」
「…だそうだ。やっぱり聞かなくても良かったね、同じ考えのようだ」
「どっちつかずな態度を示したら圧し切りますからね、主は何も考えずに居て下さい。…貴女を失うことになるのなら、仲間なんて要りません。新しく鍛刀なり拾ってくるなりすれば良いんですよ。ま、俺が居れば他の刀なんて要らないでしょう?」
「達、だよ。長谷部くん。僕達だって主のこと大好きなんだから。独り占めは良くないよ」
「刀集めなんてしたくなくなるくらいーー私達に夢中にさせてみたいですな」

「案ずるな。…私は既にお前達に夢中だよ」


大切な、家族だからな。くすりと笑みを浮かべながら言えば、ぶわっと部屋全体を桜の花が舞い散る。綺麗なのは変わりないんだが、広間は広いからな、掃除が大変そうだ。まあ、長谷部が居るから大丈夫だろう。テキパキしていたし、作業に無駄がない。私に出来ることは邪魔をしないように離れて居ることくらいか…我ながら情けない。少しは自分のことくらいやれるようになりたいものだが、長谷部にお世話係を自ら任命した以上、解任ですか…?なんて言われるのは目に見えてるから悩みどころだ。


「あるじさまー!!ぼくたちもあるじさまにむちゅうです!!」
「…主にこんなに愛されるとか俺ってすっげえ幸せ者じゃん、嬉しすぎる…」
「いやあ、アタシが嗾けたとは言え、家族認定して貰えて有り難いねえ!今日も酒が美味そうだ!」
「姐さんが大将に進言してくれたのか!姐さんさっすがー!!」
「…主の兄は私と宗三、弟は小夜だけですけどね…」
「…姉様の兄弟は僕達だけだし、譲るつもりはないよ…」
「そうですねえ。家族と言っても、精々親戚が良いんじゃないですか?主の兄も母も父も僕達左文字で間に合ってますから」
「宗兄…流石に言い過ぎじゃないか?」
「良いんですよ。…主の孤独に気付いたのは僕達が先でしょう。譲れる訳がないんですよ」
「宗三が此処まで執着するとは珍しいなあ…」
「そうですか?…まあ、主の泣き顔を他の誰にも見せたくないですからねえ」
「泣き顔…?貴様っ、主を泣かせたのか!?」

「宗兄、あまり言うな!!長谷部も本体しまえ!乱闘は許さんぞ!」


何かあれば申請して道場で竹刀でやれ!叩きつけるように言えば、長谷部はぐっと唇を噛み締め、宗三はむすーとしながらそっぽを向く。…後で機嫌を直さないといけないな、あれは。気を利かせたのか小声で歌仙が長谷部や蜂須賀に追われてたのを小夜達が匿っていた時の話かい?と耳打ちして来たので、私は頷いて見せると、歌仙は困ったような笑みを浮かべて首を横に振る。…そうだな、この話をしたら切腹だ折れだの言いかねん。話を逸らしてくれ、と歌仙に耳打ちすれば、彼はにっこり笑いながら任せてくれと言い、手をパンパン叩いてから、朔の日についての詳しい作戦を立てようじゃないか。と告げれば、各々が手を挙げる。あまりにも過保護な主張にひくりと私の頬が引き攣ったのを知っている刃はーー居ないだろうな。
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