突撃の前に…

石切丸に抱っこされながら、自室に向かえば長谷部が居て、長谷部、と呼び掛ければ嬉しそうに振り向いた後、ピシリと固まる。…びっくりし過ぎたか。前に鶴丸が長谷部は驚かし甲斐があるとか言っていたが…こういうことか。どうする?と石切丸に聞いてみれば、石切丸は私に任せてくれと微笑んだ後、固まる長谷部に近付き、耳元で何かを囁く。聞こえないように徹底されてるなあ、と思っていれば、一瞬で視界が変わり、私は紫色に包まれて居た。おお、機動が早いってのは本当なんだな…


「おや、急に奪わなくても良いだろう?薺が怪我をしたらどうするんだい?」
「俺が主に怪我をさせる訳がないだろう。…主、いきなりの無礼をお許し下さい」
「ん?無礼だなんて思ってないさ。石切丸が何か煽ること言ったんだろ、私に聞こえないように配慮されてたからな、想像に容易い」
「おや、それは困ったね。まあ、いつまでも私が独占して居たら長谷部に斬られてしまうからね、体調はどうだい?」
「…そう言えば石切丸から離れてるのに悪くならないな、何故だ?」
「成功したようで良かったよ。薺の髪留めは小狐丸からの贈り物なんだろう?同じ三条派だからね、霊力が込めやすいんだよ」
「へえ…石切丸は本当に御神刀なんだな。有り難う、助かる。これなら歩けそうだ」
「…主、余計なお世話かも知れませんが、朝餉に行く前までは俺を使って下さい。体力的にも辛そうですし、本調子ではないのでしょう…?」
「そうだね、私も彼の意見に賛成かな。あの場所には簡単とはいえ、結界を張ったんだからそんなに心配せずとも誰かが先に入ったりなんてしないよ。今、君が考えるべきことは朝餉をちゃんと食べることだよ」

「あーー…うん、分かった。素直に聞いておこう」


有り難う、と笑えば長谷部はホッとしたように笑い、石切丸もふわりと微笑む。それじゃあ、大広間に向かおうか、と言う石切丸の言葉に頷いてから長谷部に視線を向ければ、長谷部も力強く頷いてから私を抱えたまま歩き出す。途中で出会した宗三や歌仙が長谷部に抜刀したのは…うん、これは、流石になあ…朔の日で動けないだけだから!と今日は後何回叫べば良いんだろうな…長谷部、色々と悪いな。
大広間に着けば、食事を並べていた伽羅が挨拶をしながら振り返って固まった後、動けないのか?と心底心配そうな声色で聞いて来た。まあな、と言えばあまり無理はするなよ、と視線を逸らしながら言われた。そういうのは顔を見て言って欲しいものだが…難しいだろうな。


「俺が居るんだから主に無理をさせる訳ないだろう」
「私も居るしね。まだ青江と太郎太刀には会っていないけど、彼等も加わるんだから大丈夫なんじゃないかな、良かったら君も加わるかい?大倶利伽羅」
「…遠慮しておこう。番犬に噛まれそうだ」
「番犬?…宗兄、長谷部。伽羅を睨むのはやめてやれ、可哀想だろ」
「…別に睨んでなんていませんよ。長谷部は早く兄上に薺を預けてくれます?灰になってしまいそうなので」
「睨んでなんていませんよ、主。江雪がどうし……本当に何があった!?」
「…この世は地獄です…」
「江雪!気を確かに持つんだ!!」
「…長谷部さん、兄様に姉様を渡してくれる…?多分、正気に戻るから」
「何だと?」
「だから最初から言ってるでしょう。早く兄上に薺を渡しなさい、駄犬」
「な…!?…っ、構いませんか、主」
「…宗兄がすまない、後でシメとく。江雪兄に寄って貰えるか?」
「拝命致しました。そら、江雪」
「江雪兄…?おはよう、だいじょ…うぐ!?」
「ーーああ、この世は幸せに満ちています…!」

「…薺不足だったんだね、悪いことをしてしまったかな」


桜を咲かせる江雪に頬擦りされる。嬉しいのは分かったから痛い痛い!桜から料理を守るのに忙しそうな伽羅と歌仙に配慮してやりたいが、ちょっと辛いから待ってくれ…!自分が一緒に寝たからだと沈んでいる石切丸には、宗三と小夜がそんなことないからと宥めていたり、自分が呼ばれたと勘違いした鶯丸に長谷部が説教していたりと何かとカオス、な状況。…使い方あってるかな。どうやって打開しようかな、と考えていれば、ガン!と大きな音が聞こえ、江雪兄の頭ががっくりと項垂れ……え?


「早く座ってくれるかな?」


にっこりと笑いながらも目は笑っていない上に拳を握る光忠の姿に、俺の孫はしっかりしてるが怖いなあ、と笑っている鶯丸以外の刃達から血の気が消える。ぞわってしたんだが、光忠が怖いんだが!?私に気付き、光忠はおはよう、主。今日は黒髪なんだね、お揃いだ。なんて言いながら私の頭を撫でる。普段なら手を出すなと怒るはずの長谷部も先程の光忠が忘れられないのか何も言わない。…それが正解だな、うん。殴られた江雪は痛いです、撫でて下さい。なんて可愛いらしいことを言って来た。言われた通りに撫でれば、羨ましかったのか小夜が頭を押し付けに来る。可愛いんだが…!思わずきゅんとしたぞ!さよかわだな、うん。
いつの間にか大広間には全振りが集まっていて、私は江雪兄に抱っこされながら座る。石切丸と長谷部は今日は左文字に譲ってくれるらしい。有り難いな。頂きます、と皆で言ってから食べ出す。やっぱり伊達組の料理は美味しいな。


「薺、あーん」
「あーん。…江雪兄もちゃんと食べろよ?さっきから私ばかりじゃないか」
「貴女の食べてる姿を見てるだけでお腹いっぱいになります…」
「だーめ。ほら、あーん?」
「!…この世は幸せに満ちています…!」
「ちょっと、兄上ばかり狡いですよ!薺、薺、僕にもあーんして下さい」
「…姉様、僕も」
「はいはい。そら、あーん」
「凄い桜の量だね。幸せそうで何より」
「…少し甘え過ぎな気もするがな」
「長谷部くん、嫉妬はかっこ悪いよ!うーん、でも、僕達も薺ちゃんとお話したいなあ」
「…俺を巻き込むな」
「そんなツレないこと言うなよ、伽羅坊!伽羅坊だって気に入ってるだろ?」
「なあなあ、薺!仲間を助けに行くんだろ!?俺も行って良い!?」
「伊達組と堀川と歌仙と鶯丸と平野と前田はダメだぞ?堀川が選んだ一緒に昼餉作る奴もな」
「え、僕もダメなんですか?…仕方ないですよね。それじゃあ、三名槍のお三方をお借りしますね!」
「え、俺かよーー…突入したかったなあ」
「我儘を言うな、御手杵。宜しく頼みます、堀川殿」
「ちぇー…まあ、今晩は宴になるかも知れないならやるしかねぇな」
「…僕も突入したかったけど、君からの命なら仕方ないな。お小夜が居るから大丈夫だろう」
「…俺も行きたい」
「鶯丸様!?いけませんよ!」
「僕達とお洗濯しましょう!」
「鶯丸、お前が自分から内番に志願したんだろう?今から取り下げるのか?…私は鶯丸が洗濯したふわふわの布団で寝たいんだが」
「喜んでやろう」

「ああ、楽しみにしてる」


ちょろい、ちょろ過ぎるぞ鶯丸…!こんなに扱い易くて良いのか…?思わずひくりと頬が引き攣りそうになったが、それを顔に出さなかった私を誰か褒めて……ああ、うん。有り難うな、江雪兄。ただな、そんなに頭を撫で回されると目が回るんだが??暫くは食べれない伊達組の料理が食べれなくなるんだが?諦めて、って…宗兄や小夜の方が江雪兄と長く付き合ってるだろ?何とかし……ああ!?嘘嘘!!迷惑なんかじゃないから!嬉しいから!うんうん、本当に嬉しいからな!…はあ、疲れた。


「おやおや、朝から熱烈だねえ。見ているこっちも熱くなってしまいそうだ。…スキ…「スキンシップのことだよな!余計なことに首突っ込むのやめような!」おや、ツレないねえ」
「ツレなくて良いから!主、青江のことは空気だと思って良いから!!主は今の主のままで居てくれ!毒だから!」
「…酷くないかい?」
「獅子王殿の言う通りですな。我が弟達にも言わないで頂きたいですがーー主殿は純粋ですからなあ、あまりスレスレな発言ばかり仰っているとーー何をするか分かりませんな」
「ちょ、一期さん?顔が怖いんだけど」
「自分ではよくわからんのです。自分が、今どんな顔をしているか…」
「真剣必殺はダメだぜ、いち兄。ま、そういうことだな、青江の旦那。あまり大将にスレスレな発言してると…柄まで通しちまうからな?」
「…石切丸、君は僕の味方だろう?僕のアイデンティティを奪ったりしないだろう?」
「うん?…介錯するなら任せてくれ」
「え……僕の味方は、居ないんだね」

「?良くは分からんが、私は此処に居る刀剣は折るつもりも誰かに譲るつもりもないから折れることは許さんぞ。私が青江が居なくなったら寂しい」


味方のつもりだぞ、と意味合いも込めて発言すれば、青江は驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうに破顔する。まだ僕を使ってくれるのかい?なんて言って来る青江に、まだ近侍をやって貰っていないし、青江だって私の家族だろう?仲間外れなんかにするつもりはないよ。そう言えば、青江は桜を咲かせる。正直、スレスレ発言?も良く分からないからな。だから獅子王も一期も薬研もそこまで青江をいじめないでやってくれ。長谷部も居るし、多分大丈夫だから。と言えば、貴女は甘過ぎますよ、と江雪に額を軽く小突かれた。……解せぬ。
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