貞宗兄弟との遭遇

堀川率いる三名槍の昼餉はザ、男の料理といった感じだった。切り方が雑だったのは御手杵と日本号だな。逆に綺麗だったのは堀川と蜻蛉切だろうなぁ、なんて思いながら肉じゃがに舌鼓を打つ。此処の料理は本当に美味い。以前のご馳走だった猪の丸焼きとかではもう満足出来んだろうな。夕餉はかれー、というものにするそうだ。以前の本丸では何かしらの記念日ではかれーを食していたらしい。楽しみだ。…まあ、記念日になるとは限らんがな。
本丸に居る全刀剣男士に見守られながら、簡易で張っていた結界を石切丸に解いて貰えば、感じるのは生暖かい風。内番を頼んである奴等と伊達組の他に、何かあったら困るということもあり、警備の為に姐さんと新撰組、畑当番の虎徹兄弟と馬当番の国広兄弟も待機組だったりする。まあ、全振りで乗り込むのも些か大袈裟な気がしないでもないし、な。それにしてもーー…心配症過ぎないか?


「良いかい?今の主は殆ど人間なんだから、あまり無理しちゃダメだよ。絶対に長谷部くんの側を離れちゃダメだからね!」
「ああ、やはり僕も着いて行ってはダメかな?洗濯をしてから着いて行っても遅くはないだろう?君に楯突く奴は斬り捨てると誓ったのだから、着いて行かせてくれないかな」
「薺。歌仙の言う通りだ、出発は少し待ってくれないか。内番はちゃんとこなす。干してから行くなら構わないだろう?」
「俺が居るから大丈夫だと言っているだろう!さっきから何回このやり取りをするつもりだ、貴様等!!」
「次郎、本当に貴方は行かないのですか?」
「アタシは良いって言ってるだろー?兄貴の方がそういうのに強いしね。薺を頼んだよ、兄貴」
「ーーええ、分かっています」
「…不穏な気配を感じますね…寒くは、ないですか?」
「寒いなら僕の羽織を貸しますからね」
「姉様、怖いなら手を繋いでも良いよ…之定は少し落ち着いて下さいね」
「うーん……やはり皆で行くのが良いんじゃないかい?」

「ダメだ。何があるのか分からないし、手薄にした瞬間襲撃される可能性もなきにしもあらず、だろう?警戒するに越したことはない」


私の刀なら分かってくれるだろう?くすりと笑みを零しながら言えば、心配症の光忠と歌仙と鶯丸は言葉を詰まらせる。大太刀兄弟のようなやり取りならいくらでも大歓迎なんだがな、可愛いらしいし。江雪の問い掛けを聞いた宗三から羽織を着せられた。…別に寒いなんて言ってないが、有り難く受け取っておこう。すぐにでもガルルと唸りそうなくらいな長谷部の肩を叩き、洞穴に一歩足を踏み入れた瞬間ーー…


「ーーお待ちしておりました、主様」


柔らかい声とは裏腹に力強く腕を引かれ、情けないことに私は抵抗すら出来ずに引っ張られる。咄嗟なことに反応出来たのは長谷部と小夜と青江の三振りだけだったらしい。私を追って三振りが洞穴に入った後、それ以上は不要だと言わんばかりに結界に弾かれる石切丸達の姿がそこにはあった。機動の差というものだろうか。結界に向かって本体を振り翳すものの、割れるどころかヒビすらも与えられない。青江も斬りかかるものの、結果は同じだった。それを見届けた後、私は視線を前に移せば、そこには真っ白の服に身を包んだ男が、にっこりと虫すら殺せぬような穏やかな笑顔を浮かべていた。


「…物吉貞宗か。成程、流石の隠蔽力だな。全く気付けなかった」
「お褒めに預かり光栄です、へし切長谷部さん。噂通りの機動力ですね!小夜左文字くんとにっかり青江さんの機動力もなかなか…もう少し遅ければ骨喰藤四郎と鯰尾藤四郎も入って来ていたかも知れませんね、流石は脇差です」
「褒めてくれて有り難う。でも、良い加減主から手を離してくれないかな」
「姉様、今助けるからね…」
「大丈夫だ、小夜。…物吉貞宗と言ったか、長谷部達を警戒するのは一向に構わないが、もう少し周りに対する注意力を持った方が良いんじゃないか?」
「?何を言っ…「ーーダメ刀だからってなめるな!」っ!!」

「ーー…私が何も考えずにのこのこ出向いたと思っていたのか?」


私から飛び出したのは不動行光。本体に戻って貰い、何かがあった時の為に持ち歩いていたのだ。短刀だし、あまり力が出せない主でも持ち歩きやすいだろうから連れて行けと、本刃から志願されたのは非常に驚いた。不動とはあまり話していなかったからな、だからこそ驚いたし嬉しかったんだ。自ら私に関わりに来てくれたことが。懐刀にぴったりだろ?なんて、ドヤ顔で言われた光景を思い出しながら、私を庇う不動の後ろ姿を見る。ああ、頼もしいな。


「不動…!?お前も来てたのか!」
「おやおや、主に帯刀されてるなんて羨ましいねえ」
「…貴方も来ていたの?」
「へっへーん、俺をダメ刀だと侮ったのが運の尽きだ!羨ましいだろ!」
「不動、助かった。タイミングばっちりだな」
「ま、へし切が居るなら大丈夫だと思ってたんだがなー。俺が主の世話役、引き受けても良いんだぜ?」
「なっ、…さっきは油断しただけだ。これからは貴様に遅れを取ったりなどしない」
「姉様、腕赤くなってる……復讐、するしかないよね」
「…女性の手を痕が付くほど強く握ってたのかい?随分と躾が悪いようだね」
「少し油断をしてしまいましたけど、もう油断はしませんよ。連れて来いとの命令を受けてますので、多少の荒技は致し方ないと思って貰いたいですね」
「命令…お前に主が居るようだが、私を主様と呼んだな?謀反でもするつもりなのか?」

「まさか。僕達は貴女に着いて行けと言われているだけですよ。ーー…ね、兄さん」


物吉が笑顔を崩さないままに背後に向かって声を掛ければ、キラリと光る刀が見え、長谷部がすぐに飛び掛かり、キンっ!と高めの金属音が聞こえた。長谷部と向き合っている男もまた、真っ白の服に身を包んでいた。打刀、だろうか。別に長谷部を信じていない訳ではないが、此処はそこそこに暗い。今の彼奴の目で、ちゃんと見えてると良いんだが。まあ、彼奴の白さは際立っているし、大丈夫だろう。…察しが良い青江辺りに気付かれなければ良いんだが。ちら、と長谷部と対峙している男に目線を向ければ、彼もまた私を見ていたらしく、ばっちり目が合う。彼は驚いたように目を見開いた後、にっこりと笑った。…ぞわり、と背筋が寒くなり、不動!小夜!と叫ぶように名を呼べば、彼等は私を守るように本体を構えた。ーー今のは、覚えがある…


「ーー…彼奴と…奈落と、関わりがあるのか?」
「「は!?」」
「…おやおや、道理で気配が変だと思ったよ。何かしらの細工をしてるんだね?」
「…へえ、やっぱり奈落の手に堕ちてるんだね。…姉様をどれだけ苦しめれば気が済むの?1度折れないと分からないのかな」
「小夜」
「…ごめんね、姉様。でも、宗三兄様も江雪兄様も居ない今ーー僕が、僕だけが貴女の姉弟であり弟だから。…貴女を、悲しませたくないんだ、分かって?」
「…あー…うん、分かった。有り難う、小夜」
「ふふっ、素晴らしい姉弟愛ですね!見ていて微笑ましいです」
「僕達もす…「あ、結構です」んんっ!相変わらずツレないねぇ…!!ああ、貴女の言う通り、僕達は奈落の手に一度は堕ちたよ。まあ、今は違うけどね」
「…戯れ言を。彼奴の呪縛がそうそう容易く解ける訳がないだろう。主、油断してはいけませんよ」
「戯れ言なんて酷いですねー…まあ、疑うのも無理ないですよね!うーん、でも主様なら分かりますよね?僕達の後ろに誰が居るのか」
「…分かる訳が……いや、そんな、まさか…」
「姉様?」
「おいおい、まさか分かるのかよ!?」
「…君は凄いねえ…はいすぺっく、という奴かな」
「流石はご主人様だ!!あの方が一目置いてるのも頷ける!!」

「ーー…本当に、私が知っている奴なんだな」


嘘だと、そんな訳ないと、信じられないと、そんな感情に押し潰されそうになる。思いきり掻き乱されたように気分が悪い。奈落だと思った。亀甲貞宗と名乗る奴から感じた妖気は奈落そのものだった。でも、少しだけ、ほんの少しだけ違う気がした。まあ、気のせいかも知れんが。否、気のせいだと思いたいのかも知れん。だって、


「ーー彼奴は、死んだ筈だろう?」
「「「「…え」」」」
「…会って見たら分かりますよ、主様。帰りますか?帰るなら結界を解きますよ」
「まさか、帰ったりしないだろう?ご主人様は可哀想な僕達を放っておけないもの。ねぇ?薺さん」
「!?亀甲、貴様…!!どこでその名を…!?」
「…主、帰るという選択肢は当然ないよね?のこのこ付いていくか、激しめに吐かせるか。どっちにする?」
「けっ、そんなの吐かせるに決まってんだろ!4対2だぜ?練度差だってある。奈落なんか怖くねえよ!」
「…姉様。姉様の思う通りにして良いよ。僕達はそれに従うから」
「ーー嗚呼。…不動」
「おう」
「…すまない、私は無意味な戦闘は避けたい派だ」
「…だろうな。甘ちゃん主らしいぜ」
「不動、貴様主に何て失礼な言い方を…!!」
「まあまあ、落ち着きなよ長谷部。…主、彼等を信用するのかい?」
「…信用する訳ではない。ただ、心残りは残したくない。それだけだ」
「そう。それなら僕も従うよ。でも、物吉と亀甲さんは先頭を歩いてね。主には指一本触れさせないよ、絶対にね」
「当然だろう。俺が主の前に立ち、貴様等の行動を逐一観察してやる。変な行動をしたら圧し切ってやる。…不動と小夜は主の左右を固めろ。良いか、虫1匹見逃すなよ」
「けっ、言われなくても分かってるっつーの!!俺は主の懐刀であり、信長様が愛した刀なんだからな!」
「…後半は関係ないんじゃないかな。姉様に近付く虫は駆除しろって言われてるから手加減はしないよ」
「…だ、そうだ。構わないだろう?」
「大丈夫ですよ。主様とお話出来ないのは寂しいですが、僕達の任務は貴女方をお連れすることですから」
「当初の予定はご主人様1人だけだったんだけどね…ふふ、まあ、焦らしプレイだと思えば悪くないし、これからゆっくりと親睦を深めようね、ご主人様?」

「…機会があれば、な」


ないことを祈るが。私の言葉に、亀甲は残念と楽しそうに呟く。…今まで私の周りに居なかったタイプだな、どこまでが本気なのか理解出来ん。そんなことを思っていれば、長谷部が私の正面に立ち、左に不動、右に小夜、そして青江が私の背後を取る。包囲網か、これは非常に頼もしいな。だが、私だって大妖怪と謳われているプライドがある。まあ、今は朔の日だから妖気は無に等しいが、少しくらい気を張り詰めておこう。足を引っ張ることにはならんはずだ。
ーーそれにしても、本当にこの奥に彼奴が居るんだろうか。彼奴は死んだと聞いていたのに…一体どんなカラクリなのだろうな。
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